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ゴッドレス・ワールズ・ファンタジア  作者: 眞三
第5章 バルバロンの闇と英雄の卵たち
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49.アリアンの選抜サバイバル Part6

いらっしゃいませ!


では、ごゆっくりどうぞ

 カーラはあらゆる体勢から必殺級の蹴りを回転しながら次々に放ち、大木を薙ぎ払いながらトニーに襲い掛かる。彼は隙を見つけても殴り返しはせず、首を狙った一撃を受け止める。


「この蹴りっ! やっぱりお前だな、カーラ!! 風が乗っていたら、もっと凄いんだよな!」彼は喜び震えながら目の前の女が旧友であると確信する。


 彼女は冷めた視線を彼に送り、息も乱さず襲い掛かる。彼女の蹴りは体重と速度、身体の捻り、全ての機を合わせて放たれる為、威力が鋭かった。


 トニーは彼女の蹴りを両腕で防ぎ、脚を踏ん張ったまま大地を抉って後退する。


「うん、カーラ本人ってのはわかったが……魂が籠っていないな。洗脳されているのか?」


「…………」彼女は黙りこくり、冷めた目のまま軸足で大地を蹴って追撃をする。が、トニーはそれを冷静に受け流す。


 そこから彼女は彼の二の腕に狙いを絞って幾度も蹴りを放つ。トニーの両腕は何度も彼女の豪速の蹴りを受け続け、骨に皹が入る。


「ちっ、良い分析だ。そろそろ終わらせるか!」気合を入れ直す様に腕を震わせ、自分から間合いを詰めに行く。彼女の蹴りの間合いの内へ入り込み、軽快なフットワークを駆使して彼女の身体の回転圏内を見切り、背後へ回り込んで首に腕を回す。


「悪いな」と、腕に力を入れて頸動脈を締め上げる。彼女の意識は溶けていき、身体から力が抜け、白目を剥き、やがて気絶する。


「魔力が封じられていて良かったぜ……素のお前だったら勝ち目はなかったな」トニーは安心し、気絶した彼女を寝袋に押し込む。一旦、瞳孔と脈を調べ、問題ないと判断してそのまま軽々と肩に担ぐ。


「さて、この森から出るかな」




 その頃、エルを取り逃がしたアリアンは気を取り直して森の中を歩み、周囲の気配を確認する。サバイバルは2日目に突入し、生半可な参加者は逃げ出すか狩られるかされ、人数は減っていた。昨日は周囲から常に殺気が漂っていたが、今では自然な物音しかしなかった。


 静寂と動植物の音のみが心地よく鳴り響き、アリアンはそれを楽しむ様に眼を閉じて聞き入っていた。


 するとそこへ矢が飛来し、地面に何本も突き刺さる。アリアンはそれを軽やかに避け、地面に刺さった一本を弓に番えて放つ。が、それは空と葉のみを切り裂くだけだった。


「ん~ん、いいねぇ。無駄のない殺気に正確な狙い。枝の軋む音さえ鳴らさなければ、私でも危なかったかも……」と、呟いた瞬間、その場を跳躍し、慣れた様に木を登り、枝から枝へ階段を駆け上がる様に飛び映り、あっという間に刺客に追いつく。相手は無言でナイフを抜き、アリアンの腕に向かって振る。


「うん、相手の手足を斬り付け、戦力を削ぐ。いい判断ね。でも、ナマクラを使っちゃダメよ」彼女は刺客の腕を掴み、ナイフの刃をまじまじと観察する。相手の次の動きを制限する様にもう片手で握ったナイフで刺客の首に添え、相手の装備を観察する。


「いい腕だけど、装備はまぁまぁね。村から出て来たの?」


「……はい」刺客は小さく返事をし、身体から力を抜く。


「そう。私が誰か知って狙った?」


「はい」刺客は決意の宿った目を輝かせる。


「……残念だけど、私に成り替わる程の腕はないわね。でも、買ってあげる。あと1日、この森で生き延びる事が出来たら、貴方を魔王の矢にしてあげる」と、アリアンは微笑みだけを残してその場から去った。


「……アリアン・ブラックアロー……」刺客は敗北感を噛みしめながらも油断せずに周囲の気配を探りながら、狩りを再開した。




 ダークビルの森に2度目の夜が来る。昨夜よりも森は静けさに包まれており、火を焚いてキャンプをする者はひとりも現れなかった。


そんな中、トニーはうんざりした様な顔で真っ暗な森の中を歩いていた。


「くそ……迷ったか……コンパスを落としたのは痛かったな」と、近くの大木に背中を預ける。寝袋の中のカーラを確認する。彼女は頭痛に苦しむ様な表情を浮かべていたが、目を覚ます様な気配は無かった。


「……さっきから不気味な気配がしやがる……暗殺者みたいな気持ち悪い気配だな……」トニーは気配や殺気の読み取りに長けており、周囲の刺客の気配を察知していた。時折そこへ向かって殺気を送り込み、簡単に襲い掛かれない様に威嚇する。


「今日はここで休憩だ」彼は腕を組み、警戒しながらも携帯食を食べ始める。


 すると近くから悪臭が漂い彼の鼻を擽った。匂いの元へ顔を向けると、そこには枝で串刺しになった女性の死体が項垂れていた。その死体は不思議と蟲が集っておらず、鳥に啄まれた痕も無かった。それはマリーであった。


「あ~あ、可哀想に……そのままにするのは可哀想だな」と、彼は死体から枝を抜き取り、地面に寝かせる。頭には矢が刺さっていた為、それも抜き取る。


「可愛い顔しているのに……」トニーはため息交じりに近場の地面を抉る様に殴りつけ、1発で大穴を開ける。そこに彼女を横たえ、飛び散った土を被せる。手の汚れを払い、一仕事終えた様な息を吐き、水筒の中身を飲み下す。



「っぶほぉう!!!」



 今しがた埋葬した死体が土の中から蘇る。トニーは思わず口の中の水を吐き出し、目を丸くした。


「なんだなんだ? 生きていたのか、あれ?! え? あり得ないだろ??」トニーは何かの呪いか化け物でも見る様に、胸に大穴の開いた元死体を凝視する。


「あばbbbbbが……アリsい……あ……」口内から血の混じった土を吐き出し、頭を叩く。不自然な方へ目が向いていたが、やがて焦点が合いトニーの方を見る。その目は真っ赤に染まっており、犬歯は牙に変わっていた。


「吸血鬼だったのか……って、え? 頭と心臓を破壊されたら死ぬんじゃなかったっけ?」更に芽生えた疑問を胸に、一応臨戦態勢をとる。


「ち……血が足りない……」と、首を振って鼻をヒクヒクさせる。すると、周囲に何か気配を察知したのか、トニーとは反対方向へと駆け出した。しばらくすると一角鹿の鳴き声が響き、血の弾ける音が響いた。


「な、何だ?」トニーは首を傾げ、その場に膝を付き、いつ襲われてもカーラだけは庇えるように体勢を整える。


 しばらくすると口元を真っ赤に染めたマリーが宵闇から現れ、彼の目の前で制止する。


「なんだ? やんのか?」彼はいつでも喧嘩を買える様に拳を構える。


「……ありがとうございます……この御恩は一生忘れません……」マリーは深々とお辞儀をした。口からは未だに血が滴り落ち、腹は鹿肉を頬張ったのかポッコリと膨らんでいた。


「恩? あぁ……どういたしまして……てか、吸血鬼だよな?」


「ん……あぁ、吸血鬼だけど……色々と事情があるんだよね。げふっ」血生臭いゲップを吐き、土塗れの髪をボリボリと掻く。


「あんた、吸血鬼なら方向感覚とか嗅覚とか鋭いよな?」


「自慢じゃないけど」


「今夜中にこの森から出られないか?」


「……それで恩を返せるなら」と、マリーは身体から土を払う。彼女は匂いと風向きを知覚し、一番近くの森の出入り口を目指した。


「こりゃラッキー……明日までこのサバイバルに付き合いたくないんでな」彼はカーラを担ぎながら数人の参加者を打倒し、手傷を負っていた。マリーの後を追うと、近くで食い散らかされた一角鹿の死体を目にし、血の気が引く。「うーわっ」


「行儀よく食べる余裕が無かったもんで……」マリーは恥ずかしそうに頭を掻いた。


「いや……吸血鬼って怖いなって」トニーは寝袋を担ぎながら彼女の隣を歩く。


「その寝袋の中身は?」


「俺の大事な人だ。やっと探し出したんだ。あんたにはやらないよ?」


「へぇ……羨ましい。あたしは力不足で探し人に手が届かなかったよ」と、マリーは血塗れになった手を眺め、拳を握り込む。


「手が届かなかった、か……俺は今迄3年ぐらいその気持ちを味わったよ」トニーは自嘲気味に笑った。


如何でしたか?


次回もお楽しみに

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