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ゴッドレス・ワールズ・ファンタジア  作者: 眞三
第5章 バルバロンの闇と英雄の卵たち
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48.アリアンの選抜サバイバル Part5

いらっしゃいませ!


では、ごゆっくりどうぞ

 時同じくしてカーラの眠る小さなキャンプ地。焚き火はすっかり消え、カーラは頭を押さえながら目を覚ます。


「うぁ……最悪の目覚め……頭いたい……」この世の終わりの様な顔でムクリと起き上り、頭を掻き毟る。傍らを見ると、そこにはトニーが座り込み、じっと彼女を眺めていた。


「……ずっと起きていたの?」不思議そうに訊ねると、彼は静かに頷く。


「2人とも寝ちまったら、いつ外敵に襲われるかわからないからな。ほら」と、水筒を寄越す。


彼女はそれを静かに注意深く飲み下す。彼はその表情をじっと眺めていた。


「なんですか?」


「……寝顔は、俺の知っている顔だ。水を飲むその顔も……カーラだ。だが、君は俺の事を覚えていないんだな?」


「一晩中見ていたの?!」カーラは目の前の男を恩人と見ながらも気持ち悪がり、目を逸らす。が、相手の只ならぬ雰囲気に押され、しぶしぶ目を戻す。


「逆に君自身の覚えている事は無いのか? 子供の頃や故郷、家族、4年以上前の事。何か話してくれないか?」トニーは一歩だけ近づき、彼女の目を真剣に見る。


「……そんな、私の生まれは……生まれ? 故郷は……バルバロン……」


「バルバロンのどこだ?」


「どこ……え、どこ?」カーラは初めて問われたのか、首を傾げ真剣に思い出そうとする。まるで生まれて初めて自分の過去を思い出すかの様に頭を捻り、難しそうに唸る。彼女の脳裏には何もなく、思い出す様な情景や人間は何も無く、代りに頭痛が奥底から響くだけだった。


「うっ……つぅ……痛い……頭が……」


「思い出してくれよ! 君はカーラ・スプリングスだ! 俺とは同じキャラバン隊で一緒だった! 君は優秀な風使いで俺は用心棒! 3年前まで一緒に行動を共にしていた!」彼はまた一歩近づき、彼女の肩を掴んで揺さぶる。


「ちょっと、離してよ!」カーラは彼を鬱陶しがって離れ、頭を押さえる。頭痛がだんだん酷くなり、痛みが表情に現れる。


「思い出してくれ! それから、君はあの子供たちと関わってこんな事になったんじゃないのか? 自称魔王の息子のスワートとトレイ、それから……」



「スワート……」



 その名を聞いた途端、カーラは目を血走らせて頭を掻き毟り、唸り始める。その声は腹の底から響かせるような悍ましいモノであり、彼女は人が変わった様に叫んだ。


「おい、どうしたんだ! 大丈夫か?」トニーは心配する様に彼女を揺さぶる。


「あ……あたまが割れる……ぅ」脂汗を垂らしながら目を瞑り、小刻みに痙攣する。


「薬か? くそ、何処に落としたんだ? それがあればいいのか?!」トニーは困り果てた様に問いかける。


 すると突如、カーラは嘘のように静止する。まるで嘘のように表情は冷徹の仮面に変わりギョロリと目をトニーの方へ向ける。


「ん? なんだ?」彼は異様な気配に気が付き、一歩後方へ下がる。その瞬間、彼の鼻先を鋭い蹴りが掠める。「ぬっ?」


 カーラは物言わぬままに低姿勢で熱い息を吐き、カモシカの様な脚を唸らせていた。表情は相変わらず冷徹仮面であったが、瞳には殺気が宿っていた。


「別人か? 一体何なんださっきから……?」彼は鼻を擦り、戦闘態勢をとる。


 カーラは身体を捻り、竜巻の様に回転しながら連続で回し蹴りを放った。トニーはステップで距離を取り、木の陰に隠れる。すると、最後の一発が木に命中して薙ぎ倒してしまう。先ほどの彼女とは身体の作りが違うのか、まるで蹴りの達人であった。


「俺の拳に匹敵する程だな……やり合う気はなかったが、面白いな」トニーは拳骨を鳴らし、頬を緩める。


「ソルツ様……命令を全うします……」カーラは無表情のままポツリと口にし、蒸気揺らめく片脚を上げ、相手の首に狙いを定めた。




 エルは拳を唸らせ、遠慮なくアリアンに殴りかかる。彼女は不意に一発攻撃を頬に喰らったが、それ以降は一触れも許さずにひらりひらりと避けていた。


「ちっ、当たらなくなったな……調子に乗り過ぎたか」エルは反省する様に息を吐いて気合を入れ直し、その場でステップする。


「お礼はしなきゃね」アリアンは殴られた頬を摩り、その痛みを返すつもりか、今度は目にも止まらぬ速さで接近し、一瞬で彼の上体を数発殴りつける。その拳には全て体重が乗っており、重たく速く鋭い一撃であった。そんな拳がエルの腹や胸、脇腹、更には鳩尾に深く突き刺さる。


「ぐはっ!! く、そぉ!」堪らず離れるが、アリアンは踊る様に彼のステップに合わせて脚を動かして間合いを離さず、殴るのを止めなかった。更に必殺の回し蹴りを放ち、ついにエルを地面へ転がした。


「うぐぁ!!」


「少し本気を出すと大したことないわね……万全だったら5秒も持たないわよ?」


「ほ、本気で殺しに来ないのを見るに……まだ心が残っている様だな……」エルは血を吐きながらもゆっくりと起き上る。が、アリアンはそこへ容赦なく蹴りを放ち、再び彼を倒す。


「お前はキャメロンの傭兵団に所属し、元討魔団に所属。更に元黒勇隊隊員でもある。上空を旋回する飛空艇を呼んで捕縛してもいいのよ?」


「そうか……なら、必死でやらなきゃな……」エルは気合を入れ直す様に息を吐き、一瞬で間合いを取る。バックラーを構えて戦闘態勢をとり、正面からの攻撃を受け止める様に腰を落とす。


 次の瞬間、エルの構えていたバックラーがスッパリと真っ二つに分かれ、腕が薄皮一枚切れて出血する。


「うわっと!!」眼前のアリアンの手には黒金のナイフが握られていた。


「そろそろ本気でやらせて貰うよ」アリアンの眼光には容赦のない殺気が噴き出していた。


「くっ、現地調達のバックラーだとこの程度か」エルは観念した様に口にし、少しずつ後退る。


「おっと、逃がさないよ。この森で、私から逃げられると思うの?」


「それも含めて試そうと思ったが……参った、降参だ」エルは笑いながらワザとらしく手を上げる。


「何を笑っているの? 貴方は魔王軍に捕まるのよ」不思議そうに彼を見ていると、背後から小さな光の塊が近寄り、彼女の顔に張り付く。「んぬ!?」


「じゃ、また会おう、アリアン。次に会う時は互いに本気でやり合うかもな」と、エルは回れ右をして全力で森の中を駆けた。


 アリアンの顔面には眩い光が張り付き、目、耳、鼻を塞いで前後左右の感覚も遮断していた。アリアンは魔封じのせいで己の光魔法で打ち払う事が出来ず、目を瞑り、手足で状況を確認する事しか出来なかった。


「この光は!! まさかあいつと接触していたのか!!」状況を察したのか、木を背にしてナイフを構え、別の乱入者が来ても対応できるように集中する。しばらくすると顔面に張り付いた光が消え去った。


「……今はこの程度か……だが魔封じの呪術を物ともしないか」アリアンは首を振って視力を取り戻し、彼の去った後を見て自嘲気味に笑った。




 エルは別の参加者の攻撃を掻い潜りながらアリアンから必死に遠ざかる。ノンストップで数キロ走り抜け、やがてダークビルの森を抜ける。冷や汗塗れになって息を切らせる。


「はぁ、はぁ、はぁ……俺もまだまだってトコロか……だが、生きて出られた」安心した様に微笑み、その場にしゃがみ込んで水筒に口をつける。


 すると、森の中から先ほどの眩い光が現れ、彼の周囲を怒った様に飛び回る。


「油断はしていませんって! あの人、敵に回ったらあそこまで怖いなんて思ってなかったですよ! 助かりましたよ……本当に」エルは光に向かって感謝を述べる。光は彼の頭を小突き回す様に飛び回った後、懐へ入り込む。


「さて、キャメロンさんの元へ戻るか。本番はこれからってね」エルは早速立ち上がると、コンパスを片手にまた駆け出した。


如何でしたか?


次回もお楽しみに

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