47.アリアンの選抜サバイバル Part4
いらっしゃいませ!
では、ごゆっくりどうぞ
ダークビルの森に選抜サバイバル1日目の夜がやってくる。日が落ちると騒がしかった森は嘘の様に静まり返り、各地で焚き火の明かりと煙が立ち上る。厳しいサバイバルの中でようやく休息の時が与えられたと安堵する参加者たちは戦利品を数えながら食事の用意を始める者もいた。
しかし、この時間こそが一番の隙でありチャンスであった。悠長に焚き火をする者の背後を刈り取る者、また焚き火で誘い罠にかける者。結局は心の平穏は何者にも訪れず、ここからが真のサバイバルの始まりであった。
その中、アリアンは背の高い木の頂上付近の枝に座り込み、耳を澄ませながら鼻をひくひくと動かしていた。
「ん~、1日目だもんね。油断して休憩する人もいるよねぇ~ ここから楽しいんだよねぇ~ んふふふふ」と、楽し気に懐から木の実を取り出して頬張る。
すると数十本もの矢が彼女へ向けて飛んで来る。アリアンは木から滑り降りながら避け、射手の方へと矢を射る。
彼女へ向けて矢を放った者の肩に命中し、その場に崩れ落ちる。
「ぐっ……いつから気付いていた?」
「私と知って付けてくる技術はまぁまぁだけど、気付かれちゃお仕舞よね? 不意打ちも不意打ちにならない。それと」と、背後にいたもう1人の膝を打ち抜く。
「なに?!」ナイフを片手に忍び寄っていた者は崩れ落ち、悔し気に表情を歪める。
「匂いと殺気が強いわね。プロを仕留めるなら色々と殺さないとね」と、アリアンは余裕の表情で2人の前から去る。その後、2人の襲撃者は他の参加者の餌食となった。
そんな漆黒の闇の森の中、カーラは頭痛に悩まされながら歩き続けていた。足取りは不安定で、即席で作った杖に体重を預ける。途中で調達した保存食を乱暴に齧り、不機嫌そうに頭を押さえる。
「あぁ、くそ……だんだん酷くなってきた……どこよ! もう!!」彼女は何処に落としたのかもわからない薬瓶を探す為、来た道を戻っていた。が、コンパスを頼ってはいるものの、来た道とは明らかに反対へ向かっていた。歩く先には焚き火があり、肉の焼ける匂いが漂っていた。
「……さっきの人かな?」昼に彼女を助けたエルである事を祈り、茂みから顔を出す。
そこには明らかに蛮族の様な者らが肉を噛み、斧を研ぎ、目をギラつかせていた。焚き火には皮を剥がれたホーンボアが串刺しになって掲げられていた。更に奥には素っ裸にされた参加者の死体が山と積まれていた。
「あ……ごゆっくりどうぞ」カーラは冷や汗を引っ込め、目を合わせながらも後退りしてきた道を戻ろうとした。
が、そんな彼女の背後にもう1人の巨漢蛮族が立ち塞がり、頭をむんずと掴んだ。
「ひっ!!」
「デザートには丁度良さそうだ」蛮族のひとりが笑いながら近づく。
「デザートってどういう意味ですか?!」カーラは頭痛を堪えながらジタバタし、相手の下卑た笑みを瞳に映しながら悲鳴を上げる。
すると、眼前の蛮族の顔面に何者かの拳がめり込む。
「どっちでもいいや! 目の前の女性は助けなきゃな!」
割って入った乱入者は挨拶も無しに蛮族をひとりまたひとりと拳で叩きのめしていく。1人の拳を正面から砕き、斧の刃を叩き割り、巨漢の上半身に拳痕を刻み込み、あっという間にその場にいた蛮族をノックアウトさせる。
「ふぅ……おやつにもならねぇな」蒸気を上げる両腕を震わせ、拳骨を唸らせる。
「きょ、今日で2人目です、私を助けてくださる人は……ありがとうございます。お礼にこのバッヂを……」と、念の為に用意しておいたバッヂを差し出す。
「礼が欲しくて助けたんじゃない。お前、カーラか?」乱入者の青年は彼女の鼻先まで近づき、顔をまじまじと見る。
「はい、カーラです、けど……どなた?」
「……顔はカーラだ。名前もカーラ……だが、雰囲気が違う。俺の事も覚えていないのか?……俺はトニーだ。トニー・バックマン。お前はカーラ・スプリングス」
「スプリングス? 私は……んぐっ!」カーラは両手で頭を押さえ、唸り散らす。
「おい、大丈夫か?」トニーと名乗った者は彼女の肩に手を置き、揺さぶる。
「あ、だまが……割れるぅ……く、くすり……」白目を剥き、小刻みに震える。トニーは彼女を落ち着かせるように抱きかかえ、焚き火の近くに寝かせ、水を飲ませる。
「……本人かは怪しいが、一応保護しておくか……魔王軍に潜入して探す予定だったが、近道になるか遠回りになるか……」と、トニーはため息交じりに彼女の傍らに座り、片手でホーンボアの串焼きを掴み上げ、齧りついた。
夜が明け、アリアンは背の高い木から降りる。昨日の襲撃者から奪った飲み水で顔を洗って水分補給をし、保存食で軽い朝食を摂る。周囲では只ならぬ気配がちらちらとしていたが、おいそれと彼女に襲い掛かる者はいなかった。それだけ1日で浅はかな参加者が減っていた。
「ん~、いい感じに洗練されてきたわねぇ」アリアンは数十メートル先の小競り合いを聞き、満足そうな声を漏らす。
すると、彼女の正面に何者かが立ちはだかる。その者はエルであった。
「あんたは……」
「お久しぶりですね、アリシアさん。いや、今はアリアン・ブラックアローでしたか」エルは彼女の顔や姿を見ても取り乱さずにバックラーのベルトを締め直して落ち着いた眼差しを向ける。
「何故あんたがここに? 私の部下になりにきたわけじゃないよね?」
「冗談でしょ。仕事のついでに顔を見に来ただけです。成る程、聞いた通りだ」
「仕事のついで……? あぁ」何か思い当たるのか、アリアンは納得した様に頷く。彼は戦闘態勢をとるように構えたが、彼女はナイフすら取らずにただ彼を睨んでいるだけだった。
「今の貴女がどんなモノかだけ、試させてください」
エルはバックラーを正面に構えて軽くステップを踏む。その構えはかつての彼の様な弱気な気配はなく、自信に溢れていた。
「試す? 下手をすれば、ここで終わるわよ?」
「侮るな、ってのが貴女の最初の教えでしたよね?」エルはそう言うと瞬時に彼女の間合いの内に入り、拳を振るった。今の彼は光魔法の使えない、普通の戦士の様相であったが、何処か狩人の様な強かさがあり、更に普段から魔法に甘えていない隙の無さもあった。
アリアンもそこは同じであり、彼よりも数回りも自信も実力も上回っており、悪魔的な殺気を内包していた。
そんな彼女に恐れなく間合いを詰め、次々に攻撃を振るうエル。アリアンは踊る様にそれを避け、受け流し、片目を奪うつもりでナイフを振るう。が、彼はそれをバックラーで防ぎ、回し蹴りを放って距離を空ける。
「怖いなぁ、急に目を狙いますか?」
「成る程、甘さが抜けたわね」
「教わった相手が多いもんでね。キャメロンさんにヴレイズさん、ロザリアさんにアリシアさん。教師に恵まれた結果ですよ」と、再び間合いを潰す。
そこからエルはバックラーを片手にアリアンに挑む様に殴りかかる。彼の右手にはガントレットが嵌っていたが、まるで剣か槍が握られているような勢いと鋭さがあった。アリアンの鋭い殺気の籠った一撃たちをバックラーで受け止め、一方的に間合いを詰めて前進し、拳を振るう。最初は空を切っていたが、徐々に彼女の身体を掠める様になり、ついに彼女が手を出して受け流し始める。
「この……」アリアンの目に余裕がなくなっていき、徐々に苛立つ様な目付きになる。
「なるほど、動きがわかってきた!」と、また大胆に前進し、不意にバックラーで裏拳をかます。その攻撃がアリアンの顔面に命中し、血唾が周囲に散る。
「っぐ……油断したか」アリアンは顔を押さえながら後退するが、エルは逃がさない様に前進し、容赦なく拳とバックラー、そして蹴りも交えて攻め立てる。
「俺はまだまだ強くならなきゃいけないんだ! それをあんたで試す!!」エルは温まったのか身体から蒸気を上げ、更に速度を増して殴りかかった。
「こいつ……調子に乗るなよ!!」
如何でしたか?
次回もお楽しみに




