46.アリアンの選抜サバイバル Part3
いらっしゃいませ!
では、ごゆっくりどうぞ
「いや、ちょっとマジ勘弁してよぉぉぉぉぉ!!」カーラは鼻水を垂らしながらも射線を切りながら逃げ回り、殺意の籠った矢を避ける。その攻撃も敵の意図と考え、先手を打つような脚運びで逃げる。
しかし相手は狩人のペアであり、走り回る限りカーラの痕跡はばら撒かれ、絶対に彼らを撒く事は出来なかった。2人は黙々と弓を引き、目配せだけで連携して彼女を追い詰めて行く。
「くそ……このままじゃじり貧だなぁ……」木の影に隠れ、息を整える。周囲の気配を探るが他の参加者はいなかった。他の者が乱入してこないかワザと音と声を上げたが、期待の漁夫の利を得ようとする者は現れなかった。
「しょうがない……片方を潰せば」右方向から忍び寄る殺気に集中し、木製ナイフを片手に覚悟を決める。
次の瞬間、真上から投網が覆いかぶさる。彼女は一瞬で自由を奪われ、慌ててナイフで網を切断しようとする。投網は金属製であり、木製ナイフでは歯が立たず、もがいても余計に絡まるだけであった。
「くっそ! 油断した! 誰かぁ!!」堪らず大声で助けを呼ぶと、同時に狩人ペアが目の前に降り立つ。
「大した事の無い奴だ。だが、時間をかけ過ぎたな」
「これでバッヂがひとつ……気長にやろう。あわよくば、アリアンのバッヂも……」と、ひとりがナイフを片手に歩み寄り、カーラのトドメをさそうと屈む。
すると、その狩人の横っ面を何者かが強かに殴りつける。同時にもう1人の狩人の腹部を蹴って吹き飛ばす。2人はそれぞれの木に叩き付けられ、目を回しながらも体勢を整える。
乱入者は2人へ追撃はせず、その場で仁王立ちして見せた。
「不意打ちは好きじゃないんだけど、危なかったんでね」
「別の参加者か」
「戦士か? なら狩り方は決まっている」
2人は目を合わせて合図をし、乱入者を挟み撃ちする様な脚運びをしてみせ、弓を構える。
「ペアの狩人か……やり辛いなぁ」と、装備したバックラーのベルトを締め直し、右腕のガントレットを握り込む。
次の瞬間、狩人は彼の足元に煙球を投げ、その中に矢を数発放つ。狩人は音で矢の命中を確認し、ゴーグルを掛けながらナイフを抜いて襲い掛かる。もうもうと上がる煙の中で格闘戦が繰り広げられ、鈍い音、骨の砕ける音、金属の砕ける音が響く。
煙が晴れると、そこには目を回して昏倒する狩人ペアと無傷の乱入者が立っていた。彼は右腕を振るい、首の骨を鳴らしながらため息を吐く。
「視界不良の中での戦闘訓練をやっておいてよかった。あと、お前ら油断し過ぎ」乱入者はそう口にすると、未だに投網に巻かれて倒れているカーラに歩み寄り、慣れた手つきで網の拘束を解く。カーラは警戒する様に後退るが、乱入者の優し気な笑顔に安堵し、その場に腰を下ろした。
「大丈夫ですか? 助けを求める声が聞こえたので、つい。邪魔でしたか?」
「いえいえ、ありがとうございます……あの、お礼にこれを」と、バッヂを差し出す。
「いや、俺はこれの為に参加したわけじゃないんで」彼はカーラに歩み寄り、治療を施し、更に水や食料を分け与えた。
「あの、では何のためにこんなサバイバルに参加を?」水を飲んで一息つき、疑問を投げかける。
「ある人に会う為です。では、俺はこれで」と、彼は彼女に背を向けた。
「あなた、何者です?」
「エル・スラストっていいます」彼は微笑みを浮かべ、彼女の前から姿を消した。
「あ、あの!! ……一緒に行動したかった……ちぇっ」カーラはしぶしぶと立ち上がり、頭の押さえながらヨロヨロと宛の無いサバイバルを再開した。「一応、こいつらのバッヂをいただいておくか……」
その頃、アリアンとマリーは他の参加者が近づかない程に物々しい殺気を放ち、戦いを演じていた。マリーの必殺の一撃をアリアンは余裕を持って避け、隙に矢をねじ込む。マリーはハリネズミの様になったが、気合の声を上げると突き刺さった矢を全て吹き飛ばした。抜ける傍から傷の再生が始まり、浅い傷は一息吐く間に感知する。
「あんた1人に時間はかけたくないんだけど」と、眉間を狙って矢を放つ。マリーはそれを見切り、懐に潜り込んでボディブローを放つ。アリアンはそれを余裕で避け、距離を取る。
「ケビンは不可能だとか言っていたけど……あたしはあんたを殺す……容赦なく!」
「彼の意見は正しいわね」
「そういえば彼から聞いたわ。あんたの本名……アリシアだっけ? アリシア・エヴァーブルー」
「その名で呼ぶな!」
「おっと、やっと仮面が剥がれて来たみたいね、アリシア!!」ニタリと笑い、マリーはその隙を狙って間合いを詰める。
アリアンは冷静な脚運びで距離を取り、足元に転がる太めの枝を拾う。手の中でナイフ片手に躍らせると、数瞬でそれが杭の様に鋭く尖る。
「つけ上がるな、新米吸血鬼が」
アリアンの瞳がキラリと光ると、初めて彼女は間合いを詰め、殺意の爪攻撃を掻い潜って杭を彼女の胸に突き立てる。
「ぐぬっ!!」マリーはすぐに後退ろうとしたが、その前にアリアンの回し蹴りが炸裂し、杭が深々と突き刺さる。胸骨を砕き、心臓を貫き、背中から突き出る。そのまま背後の大木に打ち付けられる。
「ここでしばらく頭を冷やしな!!」
「あが……ぐっ……ぅ……」マリーは必死になって杭を抜こうとするが、心臓を貫かれた事により手足からは力が抜け、鉛の様に重くなっていた。意識は朦朧とし、視界が霞み、闇へ引き摺り込まれる感覚に陥る。
「……ったく、久々に頭に来たな……グレイスタンの時のローズもこんな気分だったのかな?」と、自嘲気味に笑いながら彼女に背を向ける。再び木を削って数瞬で矢を削り出す。
「ア……リ……シア」木に打ち付けられたマリーはまだ気を失わず、アリアンを睨み付け続けていた。血唾を垂らしながらもしつこくアリアンの本名を呟き、ニタニタと笑う。
「早く気絶しない? 普通の吸血鬼なら灰になっている筈なんだけどな……」
「……こ……ろして、やる……」マリーは執念の身で片腕を伸ばす。
「あぁ……ったく」アリアンはうんざりした様に弓を引き、彼女の眉間を矢で貫いた。
「ぐがっ! スティーブ……」マリーの意識は強制的に消し飛び、力なく項垂れる。
「はぁ……これで死なないんだから驚きだよ」
カーラは敗れたジャケットを腰に巻き、ワイシャツの袖を捲って髪を縛って上げる。やっとサバイバルを真面目にやると腹をくくり、両頬を叩いて気合を入れる。
「よし、わかったぞ……こんなにヤバいサバイバルだもんね、アリアンも余裕はないはず。つまり企みや暗躍をする余裕はないって事よ。ってことで、私が見張る必要もない! わけないよなぁ……どうしよ」いまいち自分がやる事の整理がつかないのか半ば混乱していた。兎に角、自分の頭の中を整理する様に鞄の中身を検める。すると頭がチリチリと痛み始め、反射的に懐を弄り、ジャケットを腰に巻いているのを思い出す。何か嫌な予感が過り、慌てた様にポケットに手を突っ込む。
「うっそぉ……」ポケットには穴が空いており、いつもの薬の小瓶は何処にもなかった。
「まずい、まずいまずいまずい!!」カーラは慌てて来た道を戻り、目を更にして地面を睨み付ける。徐々に頭痛の痛みが無視できなくなり、頭を両手で抑える。
「あぁくそ!! あの薬がないと3日も持たない! サバイバルに集中できないじゃない!!」カーラは苛立ちながら頭痛を紛らわす様に木に頭を打ちつける。そんな彼女の背後からまた何者かが忍び寄っていた。
そんな気配には全く気付かず、彼女は頭を押さえながらフラフラと来た道を戻り、薬の小瓶を探した。「どこよぉ~!!」
如何でしたか?
次回もお楽しみに




