45.アリアンの選抜サバイバル Part2
いらっしゃいませ!
では、ごゆっくりどうぞ
選抜サバイバルが始まって1時間。早速、ダークビルの森の動物たちが騒ぎ出し、各地で血煙が臭い立つほどの殺し合いが始まった。参加者は腕の立つ傭兵、賞金稼ぎ、現役魔王軍兵に黒勇隊士、職業不明の者までいた。中には集団で参加し、数にモノを言わせてバッヂを狩ろうとする者もいた。が、そういった集団ほど猛者に大量に狩らた。3日ある選抜期間の初日の2時間足らずで参加者の半数が狩られた。
そんな物騒な音が鳴り響く森の中でアリアンは静かにほくそ笑む。彼女は森の中心に在る巨木に登り、耳を澄ませていた。
「あらあら、エレメンタルガンは使えないのに必死になっちゃって……ふふ、傭兵崩れの強盗団は朝飯前に片付けられたわね。それから無駄に動かない者もいる……楽しくなりそうね」と、巨木から滑り降り、手を払う。彼女は3日後には数千いた参加者は20人以下に減っていると予想した。
「それから目的が『私』って気配が数人……本当に楽しみね」アリアンはそう口にすると、戦闘音の激しい方へと身体を向け、跳躍した。
「はぁっ! はぁっ! はぁっ! ……ったく、ふざけやがって!!」カーラは顎から垂れる汗を拭いながら肩で呼吸を繰り返す。足元には石で顔面を砕かれたナイフ使いの狩人が転がっていた。彼女は幾度も自分を狩るメリットは無いと説明したが、相手は効く耳持たずに襲い掛かってきたので、やむなく手頃な石で撲殺したのだった。
彼女はその場で膝をつき、死体からバッヂを奪い取る。これは次に襲ってきた者にこれを投げ渡して無益な殺し合いを防ぐためであった。ついでに相手の装備や持ち物を奪い取り、水筒の水を飲み下す。
「ぷはっ……ったく、初日からハードね……ってか、仕事はアリアンの監視なんだから、まずは彼女をみつけないと」と、独り言を漏らしていると足元に矢が刺さる。飛んできた先には2人ペアで矢を構えた者が立っていた。
「おっと……バッヂは渡すから見逃してくれない?」早速、カーラはバッヂを片手に両手を上げる。
「バッヂは2つ必要なんだ」相手はそう言うと弓を引き、目をギラつかせる。
「おぉっと……1個しかないんだよね……」相手の殺気を察知し、カーラはすぐさま回れ右をして駆け出す。両脇から矢が風を射抜く音が響いた。「やっぱりこんなサバイバルに参加するんじゃなかったぁぁぁぁ!!!」
ダークビルの森上空では遊覧飛行船がゆっくりと旋回していた。目下では森林で見え隠れはしていたが、熱や生体反応を感知する装置で観察する事が可能であった。コロシアム程ではないが、参加者らの殺し合いを観察するには十分であった。それを、スネイクスを始めとしたこの地域の有力者らが酒を片手に眺めていた。が、これを見て楽しんでいるのはごく少数であり、殆どは有力者同士で交流を深めていた。
スネイクスは交流を早々に終わらせ、目下の殺し合いを楽しそうに眺めていた。
「魔力を封じられ、皆よくやるわね……弓やナイフを片手に必死だ事……でも、こう言った事が重要なのでしょうね。私も参加するべきだったかしら?」彼女は冗談の様に独り言を口にし、自嘲気味に笑う。彼女の脳裏には圧倒的な実力差で手も足も出させてくれなかった驚異の剣士ロザリアの姿があった。彼女ならこのサバイバルでどう戦うか、と考えながら目下の戦いを眺め、手の中のグラスに皹を入れる。
「ここでこんな事をしている場合じゃないのかもね……私たち六魔道団は……」
選抜サバイバル開始から半日が経過する頃、森が静かになる。死体が転がり、死肉を野性生物が啄み始める。参加者らは戦利品やバッヂの数を数え、次の戦いの準備をしながらも遅めの昼食を始めていた。が、その隙を突いて襲い掛かる者や安全地帯を見つける者、また罠を張り巡らせる者もいた。
そんな中、アリアンは戦闘の終わった後を観察し、どんな参加者が勝ち残ったのかを予想していた。
「やはり勝ち残るのは手練れね……心臓を一刺し、短時間で終わらせている」と、戦闘現場を舐める様に観察し、更に向かった先まで予想する。
すると、周囲の空気が変わった事に気が付く。空気が冷たくなり、動物たちが気配を殺してその場を離れる事に気が付く。
「この殺気、吸血鬼?」と、振り返る間もなく身を翻す。
「アリアァァァァァァァン!!!」
その者は爪を鋭く伸ばし、木の幹を切り裂く勢いで手刀を振り抜いていた。目を赤く染めて犬歯を牙に変え、髪を殺気で揺らめかせながらアリアンに襲い掛かる。
彼女はマリーであった。
「あら貴女……生きていたの? その様子だと、ケビンに吸血鬼に変えて貰ったのかしら?」と、お返しにと3発ほど彼女の手足を射抜く。
「えぇ、アンタのお陰でね!!」矢を抜くまでもなくそのまま突撃し、彼女の胸倉を掴もうと腕を振り回す。
「殺すつもりは無かったんだけど……治療する前に逃げるんだもん……ごめんね?」と、口にしながらも片目を射抜く。
「ぐぁっ!! くっ……目を抜かれると熱いなぁ……」体中に刺さった矢を抜き、瞬時に傷を回復させる。矢ごと抜かれた目玉も即座に生え変わり、再び真っ赤に染まる。
「その感じ、心臓操作術をまぁまぁ使っているのね。短期間でよく使えるようになったわね」ワザとらしく拍手をするアリアン。この技は吸血鬼独自の技であった。
本来、吸血鬼の心臓は止まっていたが、それを敢えて動かす事により血流促進し、化け物じみた身体能力を更に強化する事が出来た。戦闘を得意とする吸血鬼が使う技術であり、もちろんケビンも使いこなせた。そこから更に心臓を潰す事によって吸血鬼本来の力を引き出す事も可能であったが、それを彼女はまだ使えなかった。
「教師が優秀だからね!」と、両手の爪を振り回す。彼女は本来、エレメンタルグレネードガンなどのエレメンタル武器を使っていたが、この森では使用できない為、素手で殴り込んでいた。彼女は既に参加者を数名屠っていたが、バッヂは捨てていた。
「その教師も参加しているのかしら?」マリーの攻撃をひょいひょいと避けながら問う。
「これ以上、アンタとは戦いたくないってさ!!」
「あっそ、まぁ今の私じゃあ手に余るか」今のアリアンも例外なく魔力は使えなかった。
しばらくマリーは爪と蹴り、飛びかかりなどで彼女に獣が如く襲い掛かったが、その攻撃の全てを避けられていた。そのお返しに手足の筋を切り裂かれ、更には動脈を撫で斬られ、血みどろになっていた。
「く、くそぉ……魔力を使えない今のお前なら殺せるのに……」
「あら浅はかな考え。ケビンの様に戦闘技術を磨かないと、私に指一本触れる事はできないわよ? 今の貴女はただの吸血鬼。私から見れば1匹の飢えた獣に過ぎない」
「ふざけんなぁ!!」血を失い過ぎたマリーは意識を混濁させたが、それでも復讐心で煮え滾らせ、襲い掛かった。
「幾らケビンの呪いを受けた吸血鬼とはいえ、この出血……動けなくなるはずだけど?」と、首を傾げる。
するとマリーは腹の底で抑えていた物を解放する様に大地を蹴り、ようやくアリアンの胸倉を掴み、大木に叩き付ける。
「スティーブを、どうしたぁ!!!」
涙を堪えながら血唾を飛ばし、アリアンの口から答えを聞こうとする。既に彼は死んでいる事は予想ついていたが、それでもどうなったか知りたかった。
「彼? ……今の貴方と似た境遇と言ったトコロね」
「どういう意味?」
「生きても死んでもいないってトコとよ。まぁ、我々の手の中とだけ……」
「な……に……」マリーの瞳の奥が揺れ、瞬時に残った血液が頭に登り、アリアンの頭をカチ割ろうと拳を握る。が、掴んでいた左腕から力が抜け、アリアンがすり抜ける。また器用に神経を断ち切られ、身体の半分が効いていなかった。
「な……?」マリーはその場に崩れ落ち、そのまま木にもたれ掛る。
「と、いう事で……もう無駄な戦いはよしなさい。このまま森を出るなら、勘弁してあげるけど?」
その言葉を聞き、マリーは身体が動く程度に再生させ、彼女に向き直る。
「まだまだ、よ!!」
「バカね……ケビンの手を煩わせる気?」と、アリアンはここで初めて殺気を滲ませて目の前の吸血鬼を睨んだ。
如何でしたか?
次回もお楽しみに




