43.アリアンの選抜試験準備
いらっしゃいませ!
では、ごゆっくりどうぞ
エレメンタル研究所についたアリアン達は受付を済ませ、研究セクションへと進む。そこにはあらゆる機材やエレメンタルクリスタルが並べられていた。更に何台ものベッドが並べられ、腹部を切り開かれ、チューブを繋がれた人間が寝かされていた。
「相変わらず酷い場所……」幾度も出入りしているカーラは身震いする様に口にし、実験台から目を背ける。
研究セクションの奥には極秘研究室があり、そこには大型のカプセルが置かれていた。中には何が入っているのか常に稲光が跳ね回っていた。アリアンは小さな窓の中を覗き込む。
「調子はどうかしら?」
すると背後から白衣を着た男が現れる。彼はこの研究所の責任者であるアルバス博士であった。
「前から目を付けていた通り、彼は素晴らしいよ。数値も問題なく、不安定になる様子もない」彼は楽し気に笑いながら口にし、コンソールパネルを軽く叩く。
「彼? 中には人が?」カーラはまた呆れた様に顔を押さえる。
「誰でもボタンひとつでクラス4の属性使いに慣れたら素晴らしいと思わんかね? 今、ここではそういう研究をしているのだ」
アルバスは誇らしげに口にし、カプセルの中を覗き込む。時折中から籠った悲鳴が響いた。
「彼ならまだ耐えられる」
「身体の方は順調のようだけど、頭の方はどうなの?」アリアンは小首をかしげて問う。
「記憶を消す方だと事故が起こりやすい。感情を取り去る方にするつもりだ。これが上手くいけば、彼は初のクラス4強化人間となる。そして彼の魔力循環と新型ブースターを参考にして、安定したエレメンタルブースターを作れるのだ。それでクラス4属性使い部隊を編成できる」
「それは……凄いわね。ここに来るまでのアレは?」アリアンが問うと、アルバスは嬉しそうに口を開く。
「魔力循環とは人の数だけあるが、特徴は何種類かに分けられる。その循環路の研究だ。それを元にブースターを何種類か作る。そして……」
「また実験体を使うの? 仕事とはいえ最低ね」カーラは吐き気を催しながら悪態をつき、部屋から出たそうにドアの近くまで後退る。
「最低で結構だ。人類の飛躍の為だよ。私はヴァイリー博士とは違ったアプローチで進化を促すのだ。そういえばカーラ君、新しい頭痛薬は効いているかね?」
それを聞きカーラは頭を掻きながら懐から薬瓶を取り出す。
「そういえば、この研究所で作っているんだっけ? 効いているけど、切れた時の痛みも酷くなっている気がするわ……」
「もっと長持ちする薬を調合しよう」
その後、アリアン達は彼から報告書を受け取り、研究所を後にした。
「相変わらず最低な場所ね……」カーラは唾を吐き捨てる様な気持ちで口にし、研究所に一瞥をくれる。
「ここにはよく来ていたの?」
「……えぇ……一時期ね……いたっ」と、また頭を押さえ、薬を一錠飲み下す。
2人の飛行中、森林の中から黒い煙が上がっているのを目撃する。そこは小さな村であり、強盗団の襲撃の真っ最中であった。
「ありゃ、どうします? 憲兵隊を送りますか?」カーラが口にする間もなく、アリアンは高速で村の方へと向かい、眩い光と共に降り立つ。「はやっ」
アリアンは降り立つまでに村の立地や村人の数、襲撃者の数などを一瞬で把握し、一瞬で光の呪術を襲撃者全員の眼球へ張り付ける。
「大丈夫ですか? この村を守る者はどちらに?」アリアンは冷静に村の住人に話しかけ、落ち着くように別の光魔法を村上空に浮かべ、暖かな光で全員の精神を安定させる。
村長が言うには強盗団は守り手の留守を狙ってやってきたと説明し、アリアンに礼を言った。
彼女は村に魔王軍の助けを送ると約束し、次に襲撃者たちを光の幻術で巧みに操り村の外へ一列に並べた。そこへカーラが顔を出し、首を傾げる。
「何を始めるんです? 魔王軍に引き渡すんじゃ?」
「ちょっとね」アリアンは邪悪な笑みを浮かべると、襲撃者のリーダーの呪術を解き、顔を近づけて凄む。彼女は昔の自分の生まれ故郷の事を思い出し、次に家族同然の村人たちや幼馴染らの事を思い出す。更に自分が強盗団に何をされたのかを光の幻術を通して相手の頭へ流し込む。そして彼女は襲撃者を1人ずつ、光魔法を使って腹部からじわじわと焼き、悲鳴を上げさせる。全員骨も残さず焼いて溶かしてしまう。
「うわ……えぐぅ……」カーラはまた目を背け、吐き気を我慢する様に口を押さえる。
「こんな奴ら、生かしておいても同じことを繰り返すだけよ……」手に付着した燃えカスを払いながら忌々しそうに口にし、彼女はしばらく村の被害者、怪我人ひとりひとりから事情聴取や被害状況を聞き取った。それはカーラも手を貸し、1時間ほどで終わる。
バルバロン城に戻る頃には夜中になっており、街の灯は消えていた。アリアンは自分のデスクに着くと報告書の作成を始め、更に次の日の仕事の準備も進める。
「いつ寝ているんですか?」呆れた様に彼女の仕事ぶりを観察するカーラ。
「3、4日寝なくても平気なように訓練しているから。それに光の回復魔法をブレンドしたお茶を飲んでいるから週1日、2時間程度の睡眠で大丈夫なの」ペンを走らせながら淡々と口にする。
「うわぁ……凄ぉ……私には真似できませんよ」と、明日の予定表を読み、目を丸くする。そこには普段の数倍の仕事量が書かれていた。それに自分が参加すると思うと身震いが起きる。
「貴女はマイペースでいいわよ」彼女の震えを感じ取り、気を遣うアリアン。
「いえ……しかし、何故こんなに仕事を詰め込むんですか? 死にますよ?」
「1週間後に私の私兵を募るキャンプを催すのよ。3日間ね。その為に今の内に終わる仕事を片付けておきたいのよ」
「成る程……私兵ってどんな? 黒勇隊の様な感じですか?」
「いえ。私の手足に見合うほどの狩人たちよ」
「狩人?」
アリアンは1か月前、バルバロン全土の街や村にとある張り紙をして回った。そこには『新たな魔王軍精鋭隊を編成する為、腕に覚えのある強者』を募集とあった。選抜キャンプの内容は『ダークビルの森で3日間、手段を問わず生き延びる』とだけあった。
その張り紙を見たハンターや腕自慢、魔王軍に黒勇隊隊員までが腕試し程度に参加しようとダークビルの森のある地方へ足を向けた。
その選抜キャンプの準備としてアリアンはバルバロン全土の封魔師数十人に声をかけ、森の周囲に配置した。これにより森に足を踏み入れた属性使いは魔力を封じ込まれる事になった。
更にある物を工場に発注し、全て森の外にある広場へと集めさせた。そこに飛空艇や医療テント、物資などを山と集めた。
「キャンプの日が楽しみね」アリアンは仕事中にも選抜キャンプの日を思い浮かべ、ほくそ笑んだ。そんな彼女の横顔を見てカーラは複雑そうに笑う。
「その……選抜内容ってどんなものですか? 森でキャンプするだけじゃないですよね?」
「そうよ。今日までで数百人は集まっているわ。その中から優秀な狩人を選ぶんだからねぇ……」
「どうやって選ぶんですか?」
「サバイバル、ハンティング、スカウトなど様々な技術……厳しい森の中で魔法も使わず3日間。その中で協力し合い、戦い合い、獲物を追う……どれだけハードなキャンプになるのやら……」アリアンはクスクスと笑う。
「戦い? 誰と戦わせるんです? 森の動物とか?」
「参加者同士よ。それと私……本当に楽しみよ」
「ワタシ……え、アリアンさんも参加するのぉ?!」カーラは仰天し、嫌な予感が頭を過った。「マジかぁ……」
如何でしたか?
次回もお楽しみに




