38.脱出キャノン!
いらっしゃいませ!
では、ごゆっくりどうぞ
スティーブはコンテナの扉を愛おしそうに撫で、その場でしゃがみ込む。この中にソフィーがいる、と感じ取り安堵する様に笑む。
「今度は守れたな……」満足げに口にし、マリーに合図を送る。
「……あんたは乗らないの? もう1人ぐらい乗れそうだけど?」マリーは気を遣う様に口にし、最後の発射スイッチを見る。
「……この傷じゃ足手まといになるし、お前を残して行けない」
「あら? あたしの心配をしてくれるなんて嬉しねぇ」
「当たり前だろ。マリーも大事な仲間だ。俺が守る……」
「しょうがない。じゃあ、あたしがこれからもあんたの面倒を見てやるよ!」マリーは嬉しそうに口にし、発射スイッチを押す。
すると、ソフィー達を乗せたコンテナが警告音と共に施設の奥へと送られ、アンチエレメンタルショットキャノンへと装填される。あらゆる場所から蒸気の上がる音と金属の擦れる音が鳴り響き、更に魔力が充填される轟音が施設中に響く。
「今更だが、大丈夫だよな?」ぼんやりとした口調でスティーブが零す。
「コレの為に戦ったんだから、最後は信じなきゃね」
次の瞬間、アンチエレメンタルショットキャノンの発射口から膨大かつ収束された無属性エネルギーが発射される。それは完全に制御されており、1ミリも計算の狂いも無く目的座標の方角へ一直線に放出された。そして装填されたコンテナが無属性の奔流へと押し出され、高速で射出される。
コンテナ内では凄まじい力が働き、2人は目を回していた。シートベルトで固定され、衝撃緩和用のエレメンタルウォーターで満たされていたが、それでも2人を押さえつける力が凄まじく、鼻血が出る勢いだった。
そんなコンテナは計算座標上空近くに着た瞬間、無属性の奔流から出る様にジェットが噴射される。そのまま地面へと落下し、大地すれすれで再びジェットが噴き、見事に目的地に到着する。しばらくするとコンテナの扉が開き、衝撃緩和用の魔法水が排出される。その中では目を回した2人が到着にも気付かぬまま気絶していた。
アンチエレメンタルショットキャノンの砲撃を目にし、アリアンは目を丸くした。ケビンの大剣の一撃を忘れそうになり、慌てた様に距離を取って頭に手を置く。
「うーわ……ガロンのヤツ、しくじったな!!」ここに来て初めてイラついた様な表情を見せ、忌々しそうにケビンを睨み付ける。
「残念だったな。あいつらにどれだけの価値があったかは知らないが、言わせて貰おう。ざまぁみろ」ケビンは赤くなった目を元の色に戻し、殺気を収める。
「全く……怒られるのは私だって言うのに……で、まだ邪魔するの?」アリアンは激しく彼を睨み付け、不機嫌なため息を漏らした。
「……複雑だな。アリシアさんだけは敵に回したくないと思っていた……それに殺したくもない。精々、とんぼ返りして魔王に怒られるんだな!」ケビンも苦し気なため息を我慢しながら口にし、大剣を背に収めて回れ右する。
「そうするわ。あんたも不毛な長い人生を過ごすのね」
「……アリシア、あんたにはガッカリだ」ケビンは去り際に我慢できずにため息の正体を吐き捨て、その場を後にした。
「……別にあんたからはどう思われてもいいわ。さて、仕事に戻らなきゃ」と、アリアンは全身に光を纏い、発射施設へと飛んで行った。
アンチエレメンタルショットキャノン砲が無属性エネルギーを吐き終わり、排熱口から凄まじい熱気を放ち、冷却装置が作動する。発射後にも魔力の巡りは収まらず、相変わらず施設中が轟音を響かせていた。
「行っちゃったね……さ、あたし達も逃げようか。魔王軍の応援が来るわ」マリーはスティーブに歩み寄り、彼を抱き起そうとする。
「……さっきの話から悪いんだが、1人で逃げてくれ……俺は動けそうもない」彼は苦悶する様な表情を隠し、咳混じりに告げた。
「何を馬鹿な事を言っているの! 生きてまたソフィー達に会うんでしょ? あんたをおぶってでも脱出するからね!」と、マリーは彼に肩を貸そうと腕に力を入れる。すると手に不気味な手応えを感じ取る。このまま持ち上げたら彼が崩れ落ちる様な不吉な予感が頭を過り、表情を青くする。
「マリー……俺を置いていけ……」それを知ってか、自嘲気味に笑いながら彼女を力なく小突く。
「……ソフィーに会ったら、どんな顔をすればいいんだよ……」
「俺はいつでもそばにいるとか、それらしい事を伝えてくれ」
「そんな臭い台詞は言いたくないなぁ……もっとマシなのを考えてよ」マリーはポリポロと涙しながら笑う。
「兎に角、早く行け……連中は俺にも興味があるみたいだからな、こんな俺でもまだ時間は稼げるかもな……」
「わかった……さようならは、ナシ……」と、スティーブの手を力強く握り、笑顔で最後の挨拶を交わす。
「全く……侮らなきゃ簡単に終わる仕事だったのに……」
彼らの目の届く場で黒スーツの女性がため息を吐く。彼女はガロンだった肉片を摘み上げて首を傾げ、鼻をひくひくと動かした。
「魔力暴走による爆死かな……一体なぜ? っと、あんた達2人が残ったのね。仲間想いな事で」肉片を捨て、彼ら2人を見据えながら一歩一歩近づく。
「……ん? どこかで見た様な顔……だけど気配が違う」マリーは何かに気付いて思い出し、彼女の正体に勘付く。
「その声……アリアンさん?」彼女よりも色濃く覚えていたスティーブは声で思い出し、足音の方向へ顔を向ける。
「スティーブにマリーね。ソフィーを脱出させたって訳ね……なぜ彼女だけ? まぁ、こちらとしては都合がいいけど。大人しく捕まってくれる?」
「どういう事? まさか、噂の魔王の矢って、あんただったの?!」マリーはすぐさま片手にグレネードガンを構え、引き金に指をかける。
「あんた達もガッカリした? ま、誰にどう思われても、私の信念は変わらないけどね」銃口を向けられても彼女は一切表情も態度も崩さず、ゆっくりと余裕な足取りで2人に近づく。
「動くな!! 一歩でも動いたら、たとえあんたでも容赦しないよ!!」マリーは殺気と共に指に力を入れ、いつでも撃てるように集中する。
「もうひとつ教訓が出来たわ。重要な仕事は、」と、口にした瞬間、閃光と共にその場から消え、一瞬でマリーの間合いに入り込む。同時に彼女の右腕はグレネードガンと共に宙を舞い、地面にボトリと落ちた。傷口は光熱で焼けて血は一滴も出なかったが、遅れて焦げた血がドロリと溢れ出た。マリーは脅し文句よりも激痛の悲鳴を唸り散らし、その場に崩れ落ちる。
「自分でやらなきゃね。さて、一緒に来てもらおうかな」アリアンは冷たい笑みを見せ、光を帯びた手刀を払った。
東大陸、フラッダ国。コンテナ内でソフィーはルーイに頬を叩かれながら目を覚ました。自分とルーイが怪我無く生きていて、うまく国外逃亡で来た事を確信し、喜びの声が出そうになる。が、同時にスティーブとマリーがいない現実を知り、また涙を流す。2人が一緒じゃないと意味がない、と言わんばかりに泣き崩れる。
「ソフィー、早くここから離れよう。駆けつけた連中に質問攻めされたくないしな」
「うん……そうだね。で、ここはどこ?」
「フラッダ国だ。予定ではここから更に東の地、オレンシアへと入り、そこから船に乗ってある場所へ向かう」
「ある場所?」
「ワルベルトさんが作った、別の討魔団基地だ。そこで俺たちは再スタートする」
「再スタート?」
「そう。力を蓄え、技を磨き……魔王討伐の為にな」ルーイは得意げに笑いながら彼女の手を引いてその場を離れた。
如何でしたか?
次回もお楽しみに




