37.サンゴイズ港の戦い 決着編
いらっしゃいませ!
では、ごゆっくりどうぞ
ルーイがコンテナ内のコンソールを叩き始める頃、施設全体が揺れ動き、アンチエレメンタルショットキャノンへの魔力供給が終わりに近づく。一発撃つだけでクラス4の使い手100人分の魔力を使用する為、時間がかかった。
「まだなの?」マリーは急かす様に口にしながらもグレネードガンを構える。彼女の眼の先からは重たい足音が脅す様に響き、確実に近づいていた。
「焦らすなよ。コイツが終われば、後はコンテナを閉じて、そこのレバーを引いてボタンを押すだけだ」ルーイは冷静にコンソールを操作し続けた。
「スティーブ……」ソフィーはコンテナ内で座りながら拳を握り、小刻みに揺らした。彼女は彼がどうなったのかを悟り、今にも泣き出しそうになっていたが、首を振って涙を払う。
「ソフィー、安心しな。絶対にこの国から出してあげるから!」マリーは彼女を安心させるように肩を叩く。
「みんなと一緒じゃなきゃ意味ないよ……」
「えぇ、そこは同感よ」マリーはガロンの影を目にし、大きく息を吐いて気合を入れる。
「よし! 終わったぞ!!」
ルーイの言葉を聞いた瞬間、マリーは勢いよくコンテナの扉を閉じる。
「え?! マリー! なんで?」ソフィーは事前に聞いていなかった彼女の行動に狼狽する。
「言ったろ? 残ってボタンを押す奴が必要なんだ。当初は俺がやる予定だったが……2人が俺に任せるってさ」ルーイは申し訳なさそうに口にして俯く。
「そんな……みんなで一緒に逃げるって言ったのに!!」ソフィーは扉を何度も叩き、涙をポロポロと零す。
コンテナ内の声は聞こえていなかったが、マリーは彼女の叫びを感じ取り、一筋の涙を流す。
「スティーブの望みでもあるし、あたしの望みでもある。あんたは外の世界で強くなって、新しい仲間と一緒に戦いに戻ってきな! その時を楽しみにしているわ」マリーはコンテナの扉を軽く叩き、グレネードガンの銃口を影へ向けた。
真っ黒な意識の中でスパークが散る。最初はチラリとだけだったが、時間が経つに連れて幾度も火花が迸り、やがて稲妻になる。稲光が激しくなり、今迄バラバラだった物がひとつに集まり、真っ黒だった意識がぼんやりと戻る。視界はハッキリせず、全身は砂袋の様に重く、指先の感覚も無かったが、心音の代りに稲妻が全身を駆け巡り、滅びかけた肉体がビクンと痙攣する。砕けた骨は繋がり、スティーブの魂が暗黒の意識に降り立った途端、唯一無事だった心臓が力強く動き、手足に力が満ちる。
「う゛……あ゛……」生まれたての動物の様にヨタヨタと壁を頼りに立ち上がる。右手に握った新型エレメンタルブースターをもう一度胸に刺し、スイッチを入れる。するとまた体内の魔石が心臓の鼓動の様に反応し、全身から稲妻が溢れ出る。彼の肉体を内側から引き裂かんばかりに迸ったが、彼はそれを押さえつけ、ついには放電を利用してふわりと浮き上がり、周囲に電流を撒き散らした。
「ぐっ! うぉあぁぁぁぁぁ!!!」咆哮と同時に魔力を放出させ、雷魔法が収束し、ついにスティーブが意識をハッキリさせて地面に足を踏みしめる。彼の肉体は崩壊していたはずだが、クラス4の雷魔法によって繋ぎ止められていた。
「絶対に、守る!!」血走った片目を発射装置方面へ向けた。
ガロンの姿が見えた瞬間、マリーは引き金に指を置いて殺気立たせる。目を鋭くさせ、怒り顔を露わにする。手にするグレネードガンには新しく仕入れた熱貫通弾が入っていた。更に左手に持ったエレメンタルガンは対魔障壁用弾を放つことが出来た。故に、彼女はガロンに自分の攻撃が届くと確信していた。
「動くな! こいつは今迄のエレメンタル武器とは違う!」
「そうか。それは楽しみだ。撃ってみろ」ガロンはニヤリと笑いながら足を踏みしめ、静かに構える。彼は正面から相手の技や武器を受け止めるのが趣味であり、打ち破る度に自分の力を確信していた。
「あんた、結構油断するタイプみたいね!」彼女が合図をした瞬間、ガロンの左右からネット弾が放たれる。彼女が用意した罠のひとつであった。
「小癪な!」ネットをもろに被り、構えが崩れる。このネットは身体に纏わりつくと自由を奪う様に電流が奔り、獲物を麻痺させた。ガロンに電流は効かなかったが、一瞬怯ませるには十分であった。
マリーは容赦なくグレネードガンを発射し、そのままエレメンタルガンで追撃する。熱貫通弾はガロンの胸に命中し、真っ黒に焼け焦げ、更に勢いよく火柱が立つ。更に彼の丸太の様な腕に次々と穴を開けた。
彼女は自分の攻撃に手応えを感じ、次々に攻撃を浴びせながらグレネードガンの次弾を装填する。
「こいつ、調子に乗るな!!」ネットを強引に破き、距離を詰めようとする。が、脚の重さに違和感を覚え、ネットに細かな針がついている事に気がつく。それには麻痺毒が塗られており、大型獣を仕留める時に使われていた。
「あたしはスティーブとは違う。どんな手を使ってでも、お前を殺す事だけを考えてきた! モリーさんの仇だ!!」と、もう一発の熱貫通弾を放つ。
が、それをガロンは受け流す要領で弾き、重そうな足取りで一歩一歩と距離を詰める。
「麻痺毒に対魔障壁弾……魔王軍に身を置く俺からすれば体験済みだ!」ガロンは大地の回復魔法で胸にあいた傷を回復させる。同時に麻痺毒も解毒させつつあり、手足を蝕む毒は抜けつつあった。
「ちっ……まだ発射できないの?」コンソールを目にすると、未だ魔力充填率は90パーセントであった。
その隙にガロンは彼女の間合いに入り込み、巨拳を握り込んでいた。
「終わりだ。実に降らん連中だった」
「ちっ……」マリーは観念した様に眼を瞑り、俯く。
すると、彼らの背後から稲妻の嵐の様な烈風が吹き荒れた。稲妻が壁や機材を炙る。
「手ぇ出すな……」
片目片腕のスティーブが一切の弱みも見せずに凄み、ガロンに向かって殺気を飛ばしていた。
「何者だ? お前は、別人か?」彼の変わり様に狼狽し、飛んでくる殺気の凄まじさに身じろぐ。
「スティーブ、なの?」マリーも彼の変化に仰天し、表情を強張らせる。が、その隙を逃さず彼女は彼の間合いから離れ、コンソールへ近づく。いつでもアンチエレメンタルショットキャノンを打てるように準備した。
「う゛ぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」彼が吠えた瞬間、稲妻が奔り、凄まじい勢いでガロンに襲い掛かる。彼の拳がガロンの鉄壁とも呼べる筋肉にめり込み、膝蹴りが腹筋を抉り、肘内が鉄骨の様な骨に皹を入れる。今迄一切通用しなかった彼の肉弾攻撃がガロンの芯にまで届き、明らかに怯ませていた。
「バカな……ブースターは壊した筈……何故だ?」傷を押さえながら吐血し、疑問に頭を悩ませる。
「そのままやっちまえ!!」マリーの言葉に応える様にスティーブは攻撃を止めず、反撃を許さないまま数瞬で数十発の攻撃をめり込ませた。
「がはっ!! この雑魚如きにぃ!!!」ガロンは怒り心頭で拳を握り、カウンターを狙う様に稲光へ向けて拳を向ける。が、その稲妻は不規則起動を描き、背後へと回り込む。
「お前も味わってみろ!!」
スティーブの手には新型ブースターが握られており、それをガロンの首に突き刺してボタンを押した。すると、ガロンの体内で魔力暴走が引き起こり激しく筋肉が隆起し痙攣する。
「う、ぉあ!! こ、この力は……あ、溢れる!! た、たすけてくれ!!!」目を剥き、泡を吹き、膝をつくガロン。次の瞬間、命乞いと共に爆散し魔力と共に肉片が飛び散った。
「……ズルい手を使って悪いな」スティーブは大きく深呼吸をしたままブースターを落とし、ゆっくりと扉の閉じられたコンテナへ歩み寄った。
如何でしたか?
次回もお楽しみに