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ゴッドレス・ワールズ・ファンタジア  作者: 眞三
第5章 バルバロンの闇と英雄の卵たち
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35.サンゴイズ港の戦い 中編

いらっしゃいませ!


では、ごゆっくりどうぞ

 アリアンは不敵に笑い、ナイフを片手に襲い掛かる。魔力を込めると刀身が光り輝き、ケビンの目を眩ます。が、彼は一切瞬きをせず、彼女を視界に捕えながら間合いを詰め、大剣を振り下ろす。アリアンは寸でのところで回避し、前髪が数ミリだけ切れる。


「容赦しないってのは、本気みたいね?」


「俺たちの女神だと思ったが……シルベウスも期待していたが……お前も違ったようだな!」ケビンは怒りの表情で吠え、容赦なく大剣を振るった。彼はこの数百年の間、旅をしたが、救いの救世主だと思える者を見つけては裏切られたり、その死を看取ったりを繰り返していた。アリシアこそ本物の女神だと彼は確信していたが、今回もまた違ったと失望した。しかし、それでも彼の中にはアリシアに対して未だに一縷の望みが光っていた。その光が刃を鈍らせた。


 アリアンはその鈍りを見抜き、攻撃の合間を縫って彼の瞳に光礫を飛ばす。が、ケビンはそれを受けずに身体を翻して避け、カウンターに蹴りを放つ。その一撃が彼女の頬にめり込み、一気に間合いを離す様に吹き飛ばす。彼女は衝撃を受け流しながら後方へ身を委ね、木に激突する前に受け身を取る。


「ぺっ! 流石にやるね」血唾を吐いて蹴られた頬を摩り、一瞬で回復させる。


「短い期間だが一緒に旅をしたからな。動きは覚えている」ケビンはすっかり敵を見る目で彼女を睨み、次の一撃に備える。


「互いにここで釘付けね」


「……スティーブ達ならやってくれるか……会ったばかりだが、お前らを信じるぞ」ケビンはもうひとつの迷いを断ち切り、背中から立ち上る殺気を一層に色濃くさせ、大剣を構えた。すると周囲の森を騒めき、木々が震えて葉が音を鳴らす。彼の犬歯が牙として伸び、目が赤々と輝いた。


「おぉっと……これは遊んではいられなさそうね」アリアンは冷や汗を掻きながらも未だに余裕の笑みを絶やさず、ナイフを構えながら神弓を右手に持つ。



「前からの望み通り、解呪して死を贈りましょうか」



 次の瞬間、光の魔力と呪いの殺気が激しく衝突し、山の標高を縮めかねない衝撃波が周囲に激震した。




 スティーブ達は巨大砲台の発射コンテナまで到着し、発射準備を進めていた。まず発射コンソールをルーイが操作し、目的場所へ向けての角度を計算する。その間にコンテナ内のコンソールに落下地点の計算をする。この内部は積み荷を安全に運搬出来る様に緩衝材の代りにゼリー状のエレメントウォーターで満たされる様になっており、人間を運搬する事も計算上は可能であった。が、まだ実用試験はまだであるため、安全の保障は無かった。計算を終えるとルーイは送魔制御装置の方へと素早く向かう。


「よし、この中に入ってくれ。気付いたら、この国から出ている」スティーブはソフィーをコンテナ内へ案内し、突貫で備え付けられた椅子に座らせる。


「……みんなで脱出するんだよね? そうだよね?」彼女は涙を我慢する様に腕を振るわせて問う。


「あぁ、上手く行くさ」安心させるべく彼女の手を握り、精一杯に笑いかけるスティーブ。


「スティーブ、ちょっといい?」エレメンタルガンの調整をしながらマリーが手招きする。彼は彼女の手を離し、背を向けた。ソフィーは何かをぼそりと呟いて口を結び、涙をぽろりと零す。


「もしもの時は、あんたは本当にいいの?」マリーは何かを言いたげに口を濁す。


「あぁ。もう決めた事だ。それに、考え直してももう遅い」彼が口にした途端、遠くの方で轟音が鳴り響く。これはガロンが分厚い鉄扉を殴りつけている音であった。


「ケビンは止められなかったのかな?」マリーは淡々とグレネードガンの弾をチェックし、ホルダーへ仕舞う。


「あの数に増援、そしてガロン。俺たちでどれかは相手をしなきゃな」


「手がふたつなだけ、増援とかよりはましね。あたしたちでどれだけ無茶できるか」


「……マリー、死ぬなよ」


「あんたもね」2人は拳を合わせると、彼は踵を返して轟音の響いた方へと向かった。




「うーわ、早く終わらせないとな」ルーイは冷や汗を掻きながらコンソールを慣れた手つきで操作し、送魔制御装置のランプを青く灯す。これによりアンチエレメンタルショットキャノンへ魔力をバランスよく送る事が可能であった。これにより魔力暴走が起こることなく安全に世界の果てまで砲撃を可能とした。これはバルバロンでしか出来ない筈の技術であったが、どういうわけか世界王クリスの手により技術を盗み出されていた。


 次の瞬間、施錠された鉄扉が吹き飛び、ガロンが姿を現す。


「やっと開いたか……さて、やっと連中を殺せるな」腕を唸らせ、ワザとらしく足音を立てる。


 すると、彼の眼前に髪を逆立ててやる気満々のスティーブが現れる。


「待っていたぜ、ガロン。あの時は相手できなかったが、今度こそ遊んでやるよ」と、手の中でいつも使っているエレメンタルブースターを回す。


「そんな借りものの力でどこまで出来るかな? あの女も大したことが無かったが、お前はそれ以下だ」


「モリーさんの仇だ。これ以上無駄な口を叩けない様にしてやる!!」一瞬でエレメンタルブースターを胸に押し当て、一気に限界まで魔力循環を引き出し、高速の稲妻となって襲い掛かる。間合いを詰める瞬間にスティーブの肉体は一回り大きくなり、ガロンに体格負けしない程の勢いを見せ、拳を振るった。


 ガロンはその拳を避ける素振りも見せずに顔面で受け止める。衝撃が室内で反響し、強風がルーイのいる場まで届く。



「……以前よりはいい拳になったが、俺には届かんな」



 ガロンはため息交じりにスティーブの腕を掴み、勢いよく振り回して壁へ叩き付ける。


「ぐぁっ!! こいつぁ!!」スティーブも負けじとガロンの身体を力任せにふりまわそうとする。が、彼は地に根を張る大木の様に揺らがなかった。「なに?!」


「俺はボルカディ(大地の格闘技)に人生を捧げているのだ。お前如きに振り回されるモノか!」と、彼はスティーブを人形の様に振り回し、鉄床や壁、機材などに叩き付ける。彼の肉体は魔力循環により頑丈になっていたが、それでも無傷では済まず、肉が裂けて骨に皹が入り、吐血した。


「ぐぁ……くそ……」掴まれた左腕はポッキリと折れ、皮膚一枚で繋がっていた。


「所詮こんなモノか」容赦なく彼の腹に蹴りを入れ、左腕を完全に引き千切り、捨てる。


 壁に叩き付けられたスティーブはそのまま腰を下ろし、内臓の破片を吐き出して目を回す。頭が働く前に足がモゾモゾと動くが、立ち上がる事は出来ずにその場で項垂れた。そのまま彼の魔力循環は止まる。


「期待外れだな。ま、自爆されなかっただけマシか」ガロンは彼に背を向け、巨大大砲の発射装置方面へと足を向ける。


 すると、スティーブは目をカッと開き、再びエレメンタルブースターを胸に押し当てる。魔力が身体を巡る前に足元に転がる鉄パイプを拾い、ガロンの脳天を直撃した。


 ガロンは身じろぎもせず、呆れた様にため息を吐いた。


「まったく、あのまま転がっていれば生け捕りにしてやったものを……いや、どちらにしろと生け捕り命令だったか? まぁどちらでもいいだろう」と、首を鳴らしてスティーブに顔を向ける。


「死んでも、奥には行かせないぞ! このデカブツが!!」折れ曲った鉄パイプを投げ捨て、廃材を拾って投げつける。


「じゃあ死んでもらうか!」ガロンは廃材を避け、拳を握り込んで腰を深く落として構え、一瞬で間合いを潰して殴りつける。再びスティーブは壁にめり込む勢いですっ飛び、叩き付けられる。が、倒れ込むことは無く、ただ眼前の敵を睨み続けた。


「さて、何発耐えられるかな?」拳を唸らせて飛び上がり、巨拳を数発突き入れる。その全てがスティーブの胸板と腹筋にめり込み、当たった個所の骨が全て砕ける。激しく吐血し、上体を丸めるが、それでも彼は倒れず、力を失いつつある拳を握り直して殴りかかった。


「誰が倒れるか!! お前だけは絶対に通さない!! 絶対に皆を守る!!」スティーブは血唾を飛ばしながらガロンの間合いに入り込み、決して通さない覚悟を見せた。


 しかしガロンは嘲笑しながら巨拳で迎え撃ち、彼の顔面を打ち抜いた。


「吠えるだけならタダだな」


如何でしたか?


次回もお楽しみに

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