34.サンゴイズ港の戦い 前篇
いらっしゃいませ!
では、ごゆっくりどうぞ
ところ戻って、サンゴイズ港。たった今、ここではスティーブ達がケビンと共に警備兵や属性使い達を正面から千切っては投げと暴れ進んでいた。スティーブとマリーは勿論だったが、何よりケビンの勢いは2人より頭ふたつもみっつも上の実力で全身力が半端ではなく、大剣の一振りで数十人の警備兵を薙ぎ払った。
スティーブはスタミナ温存の為、まだエレメンタルブースターは使わず生身で戦っていた。マリーもグレネードガンは使わず、両手のエレメンタルガンを的確に命中させながら彼に合せる。ソフィーはこの数年で得た水糸と微力ながら一般兵になら通用する肉体の水分を操る術で翻弄し、なんとかこの戦いの中で無傷で進んでいく。そしてルーイはこの戦いの中で地図と実際の立地を照らし合わせ、目当てである巨大大砲へ向かう道を探る。
「おいおい、手あたり次第に暴れるなよ! 目的はあの建物だ!」ルーイはため息を吐きながら西の巨大大砲を指す。
「邪魔者は少ない方がいいだろ?」スティーブはひとりに掴みかかり、もうひとりに投げつける。
「えぇ、どうせあと少ししたら本隊が来るんだからね!」マリーも賛成と言わんばかりにエレメンタルガンを腰に仕舞い、グレネードガンで正面の警備隊に向かって数発撃ち込み、爆裂させる。
するとケビンが2人の前に立ち、大剣で遮る。
「だったら、ここは俺に任せろ。背後からくる連中は誰だろうと通さない。その為の俺だ」
「頼もしいね! ここは彼に任せよう!」ソフィーが口にすると、スティーブとマリーは顔を合わせて頷き、彼女を抱えてルーイが示す建物へと向かった。
サンゴイズ港より500メートル手前の上空。アリアンは飛空艇で近場の町からガロンを拾い、この空で待機していた。
「何故、まだ突入しない? 連中はもう来て暴れているみたいだぞ?」と、黒煙立ち上る港を指さすガロン。
そんな彼を無表情、サングラス越しに睨みながら彼女はため息を吐く。
「今、あそこにはスティーブ一味だけでなく、貴方が手も足も出なかった吸血鬼も暴れているの。ひとりで全員相手できる?」アリアンは淡々と口にしながら神弓を用意し、矢先に光の魔力を込める。
「お前が加勢してくれるんだろ?」
「えぇ、あの吸血鬼を足止めしてあげる。だから合図するまでじっとしてなさい」彼女はピシャリと口にすると、パイロットにこのまま合図するまで待機する様に命じる。すると、彼女は弓を片手に外へ足を踏み出し、風の中を光に乗って飛んで行った。
アリアンはしばらく高速飛行し、サンゴイズ港を見下ろせる山の上に着地する。風向きを確認し、脚を踏みしめながらサングラスを取り、神弓を構える。この弓は引く者に神通力が如く力を与え、矢は邪悪を簡単に貫く代物であった。彼女は何の躊躇もなく矢を番え、自信満々に引く。はるか先には大剣一本を軽々と振り回し暴れるケビンがいた。
「さ、話し合いましょうか、ケビン」
アリアンが呟いた瞬間、手元が光り遅れて風が木々を薙いだ。
次の瞬間、不思議な光を纏った矢がケビンの胸目掛けて飛来するも、彼はギリギリでそれを掴む。
「な、なんだぁ?! バカに早い矢だな、おい?!」ケビンは普段なら突き刺さるままに矢を喰らっては引き抜いていたが今回は違った。その矢は絶対に喰らってはいけない代物だと本能で感じ取り、頭で判断する間も目で追う間もなく光の矢を掴んでいた。更に何か罠を嗅ぎつけ、掴んだ矢を上空へと投げる。すると、矢は眩くも激しい光が炸裂し、まるでもうひとつの太陽が昇った様に港を照らす。
「こんな矢を……こんな光魔法を使えるのは1人しかいない……う、嘘だろ? まさかそんな……」ケビンは狼狽する様に瞳を揺らし、眼前の邪魔者を粗方片付けた後、港を見下ろす山へ向かって跳躍した。
アンチエレメンタルショットキャノン砲発射施設の扉を蹴破ったスティーブ達は、ルーイの案内の通りに奥へと進んでいく。施設内は入り組んでおり、魔力を送り出すチューブと剥き出しの鉄骨、更にあちこちにコンソールが置かれていた。これらの全ては巨大大砲を撃ち出す為にあった。
フラットマンから渡された書類を片手にルーイが案内しながら口を開く。
「いいか? 俺はまずお前らを最深部の発射装置のある部屋へ案内する。そこで大砲の座標計算、そしてコンテナ内の落下位置計算を行う。で、エネルギーチャージの間に俺はこの施設中にある送魔制御装置のコンソールを使って発射準備を整える。その間にガロンや本隊の連中が入って来たら迎え撃って時間を稼いでくれ」
「あぁ……わかった」と、スティーブは懐からエレメンタルブースターを取り出し確認する。それは今まで使っていた物ではなく、フラットマンから渡された新型のブースターであった。これを使うのはまさに自殺行為であったが、成功すれば安定してクラス4の力を使える属性使いに成れた。
「スティーブ!! ダメだよ……」ソフィーは彼の腕を掴む。
するとマリーが安心する様に彼女の肩を叩く。
「大丈夫、彼はそこまで馬鹿じゃないよ」彼女が口にすると、スティーブは珍しく笑顔を向けた。
「いいや、馬鹿だ。馬鹿だから俺たちはここまで来たんだ。だってよ、あんなでっかい大砲に入って遥か彼方まで飛んで逃げようっていうんだぜ? バカ意外に誰がやるって言うんだ?」
「そうだね、みんな馬鹿だね~」ソフィーもつられて笑い、マリーも肩を揺らす。が、こっそりソフィーはスティーブに触れ、彼の思考を瞬時に読み取った。「ほんとう馬鹿だよ……」彼女は手の震えを我慢し、涙を堪えて彼らの調子に合わせて笑った。
ケビンは標高600メートル程の山をほんの数瞬で駆けのぼり、臭覚を頼りにアリアンのいる場所までやってくる。
「早かったわね。流石、ケビン」アリアンは弓を置き、サングラスをかけながら口にした。
「アリシアさん……酷い挨拶じゃないか」ケビンは心を掻き乱され、穏やかではなかった。
「悪いわね。貴方と2人きりで話すにはこれが一番だと思って……」
「あれに当たっていたら話すどころではなかったけどな」彼に放たれた矢は彼自身の不死の呪いでも簡単には復帰できない程に強力な解呪の光が込められていた。
「で、聞いて欲しいんだけど」そこでアリアンは静かに語り始めた。
自分は魔王側に着き、世界をより良い方向へ導く事を恐れなく告げる。その上でケビンだけでなく、ラスティー率いる討魔団とも立ち塞がれば敵対する旨も明かす。
「さぁ、ケビン。どうする?」アリアンは腕を広げて挑発する様に不敵に笑う。
「……それがアリシアさんの選んだ道なら、俺は止めない」
ケビンは歯を食いしばりながら口にし、彼女を激しく睨み付ける。
「止めないの? だったら、あそこにいるスティーブ一味をどうにかしてもいいわね?」
「それは俺が許さない……っ! アリシア、俺と戦いたいのか?!」ケビンは大剣を掴み、顔を歪め、辛そうに訴えた。
「そう……だったら、仕方ないわね?」次の瞬間、アリアンは光と共に一瞬で掻き消える。同時にケビンは後ろ回し蹴りを放つ。彼女はバク宙をしながらそれを避け、ナイフを片手に間合いを詰める。刃には光が込められ、一振りごとに眩い閃光が奔る。ケビンはそれを大剣で防ぐ。
「くそ! やめろ、アリシアさん!!」
「あら、覚悟は出来ているみたいな言い方だったけど? 200年以上生きている割には優柔不断ね!」打って変わって彼女は喜々として襲い掛かった。
「ちっ! 俺はここでモタモタしている暇はないんだ!!」
「そう? 私は計画通りでいいけど?」と、アリアンは容赦なく飛空艇への合図を送る。すると今度はガロンが待ちわびたと言わんばかりに飛び出し、港へと向かった。
「くそ!!」ケビンはガロンを止めるべく跳躍しようと構えたが、正面にアリアンが回り込む。
「だめ、貴方は私と踊るのよ!!」
「だったら、もう容赦はしないぞ! アリシア!!」ケビンは覚悟を決め、大剣を殺気と共に抜刀した。
如何でしたか?
次回もお楽しみに