33.スティーブの物語 Year Four 復活のスティーブ
いらっしゃいませ!
では、ごゆっくりどうぞ
パルトゥーの治療が始まる頃、スティーブの肉体と魂がやっと繋がり始め、彼の脳内で夢と言う名の幻が流れる。それは彼の人生が始まる最初の街、サンシャインシティまで遡っていた。
「……なんだ? ここは……?」肉体は痩せていたあの頃に戻っていた。懐かしい街の裏路地で起き上り、見回すとそこには死んだはずの仲間らが駄弁っていた。彼と目が合うと、これまた懐かしい笑顔と共に手を振る。スティーブは首を傾げながら歩み寄ると、突如として一人ずつ爆ぜる。
「え……な、なんで……?」目を丸くして近づくと、またひとりと爆裂する。それを見て彼はエレメンタルブースターによる事件を思い出す。無力な自分に無慈悲な暴力、容赦のない社会を感じ手が震えて吐き気がこみ上げる。
すると、目の前に自分の人生を変えたエレメンタルブースターが転がってくる。スティーブはそれを躊躇なく拾い上げ、胸に突き刺した。次の瞬間、全身に魔力が駆け巡って筋肉が膨張し、眼前が稲妻色に染まる。彼は身体が動くままに街中を駆け巡り、裏路地から大通りへと飛び出る、全てを薙ぎ払い、吹き飛ばし、立ち塞がる壁を突き破る。
次の瞬間、チョスコの酒場の席で突っ伏していた。
「んあ? ゆ、夢か?」涎を拭い、頭を振って見回す。そこにはまた懐かしの仕事仲間や酒場のロクデナシ、そしてマーヴがいた。
「どうした、相棒。寝ぼけたか? 呑み足りないか? それとも暴れ足りないか?」次の瞬間、場所がグルグルと回転し、酒場から荒野、廃墟へと移る。次の瞬間、高速回転する場が止まり、目の前にソフィーが現れる。ボロボロのローブを纏った小柄な少女は涙ながらに助けを訴えた。
「ソフィー! もちろん助けるさ!! この国から逃がしてやる!!」脳裏に思い出される出来事のままに彼は口にし、彼女をおぶって駆け出す。一閃の稲妻となって港町まで駆けたが、次の瞬間、今度は彼女を乗せる筈だった船が爆散する。彼は膝から崩れ落ち、再び敗北感を味わった。
今度は黒勇隊情報部の施設前に移り、眼前に黒勇隊隊長スティングが現れる。
「お前は貴重な捕獲対象だ」腕に焔を纏い、襲い来る。
「なぁにが捕獲対象だ! 冗談じゃない!」スティーブは全力で迎え撃ったが、手も足も出ずに殴り飛ばされる。明らかな力量と技量の差を叩きつけられ、彼は挫折の念に襲われた。
が、そこへ光を纏った者が現れ、スティングを一撃の元打倒し、スティーブを救い出した。
「ア、リアンさん……」血達磨になった顔で彼女を見上げる。アリアンもといアリシアは微笑を蓄え、彼を抱き起した。
その瞬間、再び舞台が変わり組み立て工場に移る。眼前ではモリーとガロンが殴り合っていた。スティーブもそこへ参加するが、2人揃って叩きのめされる。再び自分の無力さを痛感していると、目の前でモリーが微笑む。
「あとは頼んだよ」そう言い残すと彼女は眩い光と共に弾け飛んだ。
「モリーさん!!」片手を伸ばして叫ぶが、目の前に現れたのはソフィーだった。彼女は涙を浮かべて彼を見つめ、神に祈る様に手を合わせていた。
「ソフィー? どうしたんだよ……」
「助けて……お願い……」彼女は目を瞑ったまま呟き続けていた。
「もちろん、助ける、さ……」スティーブは自分の言葉に自信が持てない様に躊躇しながらも口にする。「助ける!! 俺が絶対に! だから安心してくれ!!」
「お願いだから死なないで、スティーブ」ソフィーのセリフが耳に届いた瞬間、彼の眼前が光に包まれる。
「ん……ぅ?」涙と共にスティーブがやっと目を覚ます。その瞬間、術者のパルトゥーを押しのけてソフィーが彼に抱き付く。
「スティーブ! スティーブ! よかった! 本当によかった……!」彼女は興奮と安堵で落ち着きなく抱きしめる。
「ソフィー……」スティーブは今迄見ていた夢は雨幻の様に消えて行ったが、過去の傷痕の痛みだけが色濃く残り、彼の中で決意が固まり、抱き締め返す。
それを見てパルトゥーは満足げに小さく頷き踵を返した。
「俺に出来るのはここまでだ。あとは本人次第。また無茶をして繰り返すか、大人しく生きるか……はたまた、精進して真の使い手となるか」教官らしい事を口にしながら彼はこの隠れ家を出ようとする。
するとそれを見ていたフラットマンが彼に駆け寄る。
「なんでこんなに大人しく力を貸してくれたんですか? ただの正義感で反乱軍を助けないでしょう?」
「……彼女の記憶を見た時、協力者の娘がいたんだ。彼女が力を貸すなら、俺もそうする」
「協力者の娘? あぁ……本当に顔が広いな、あの人」フラットマンは納得した様に口にし、去りゆく彼の背を見送った。
スティーブが目を覚ました後、マリーもやっと落ち着いて怪我の治療に専念する。彼はヨロヨロと起き上って現在の状況をフラットマンから聞く。
「ぶっちゃけ、ここにいる仲間以外の他の連中は信用しない方が良いぞ。それとこの地域の街や村に身を寄せるのもやめた方が良い。新聞で書かれたい放題だ」と、今迄の新聞束を彼に渡す。
「モリーさんは……本当に」
「あぁ、残念だが。で、お前はどうする?」フラットマンは彼の目を見ながら問う。
「どうするって?」するとフラットマンは彼を木陰へと誘い、小声で語り掛けた。
「正直、この反乱軍は下火どころじゃない。多少使える兵隊も逃げるか裏切るか。残ったのは本当にお前らだけだ。それでも反乱軍を続けるのか?」
「当たり前だろ」
スティーブは当然の様に即答し、フラットマンを睨んだ。
「そうか。だったら、俺もそのように動こう。取り敢えず、お前らはここに潜伏しろ。以前、魔王軍と最後の勇者たちが激突した廃砦だ。そこで連絡を待っていてくれ」
「わかった……なぁ、俺からも頼みがあるんだがいいか?」
「なんだ?」するとスティーブは懐から古くなったエレメンタルブースターを取り出した。
「こいつより強力なブースターを用意できるか?」
「……今、作り始めている所だ。で……」急にフラットマンの口が重くなり、一文字に結ぶ。
「また実験の為にばら撒くのか? そんな事をせずに俺に直接持ってこい」
「いや、あ……その……今度こそ死ぬぞ?」フラットマンは今度こそ彼の身を本気で心配した。
「構わない。ソフィー達を守れるなら……」拳をギュッと握り、震わせる。
「明日を見ない者は安い盾にしかならないぞ。皆の未来までは守れない」
「それでも……俺はこの方法しか知らないんだ」と、2人は約束を交わし、フラットマンはこのキャンプを挨拶なく去った。
その後、スティーブ達は潜伏場所を転々としながら移動した。フラットマンの言う通り、魔王軍の包囲は厳しく、追手も容赦なかった。が、こういった追撃には慣れており、スティーブ、マリー、ソフィー、ルーイの4人はフラットマンの案内した廃砦へ辿り着き、やっと落ち着いた。
それと同時に魔王軍の追撃がピタリと止む。デストロイヤーゴーレムが本格的に動き出し、神器争奪戦争が始まったのであった。そのお陰で彼らにしばしの安息が訪れたのであった。
その間もスティーブは幾度となく、ソフィーの制止も聞かずにブースターを使った無茶な戦いを繰り広げ、力を蓄えていったのであった。
そしてある日、フラットマンから手紙が届く。そこには討魔軍からの援軍がくるという内容が書き記され、バルバロン脱出計画が書かれていた。それを目にした4人は……。
如何でしたか?
次回もお楽しみに




