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ゴッドレス・ワールズ・ファンタジア  作者: 眞三
第5章 バルバロンの闇と英雄の卵たち
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31.スティーブの物語 Year Four 魔石交渉

いらっしゃいませ!


では、ごゆっくりどうぞ

 ルーイはフラットマンから言われた通り、エレメンタル武器開発所へ早々に向かった。辿り着いたのは深夜で、開発所は灯りが消え、人気も無かった。彼は開発所へ忍び込み、グルゴという男がまだいるか探す。フラットマンの情報では、グルゴは夜中まで残業しながら倉庫から武器や素材をくすね、自分の荷物入れへ隠して裏ルートに流していた。


「誰もいないか?」彼は交渉用の封筒を鞄へ戻し、付近で潜伏できる場所を探す様に地図を確認する。


 すると彼の背後に背の曲がったブ男が肩を叩いた。


「お前がフラットマンの使いか? ここ最近、家にも帰らず待っていたんだぜ」ルーイが頷くと彼は安堵のため息を漏らす。


「あんたがグルゴか」


「おたくらやワルベルト連中が目立つ動きをするから、俺までにらまれる様になっちまった……早く例の物を見せろ」グルゴが急かすと、ルーイは封筒から5万ゼルの束をチラリと見せる。


「満足か?」


「そっちじゃない! 金は二の次だ! 例の紹介状だ!」


「こいつか」ルーイはもう一方の封を取り出して彼に見せる。それはバルバロンから国外へ出る船へ、正面から乗船できるワルベルトの紹介状であった。グルゴはすでに数か月前から逃亡資金を蓄え、いつでも逃げられる準備を進めていた。だが卑しい性格である為、宝の山であるエレメンタル武器開発所に居座り、倉庫からばれない程度の物資を盗み取り、横流しを繰り返した。その結果、ストルー反乱軍の活躍もあってか管理が厳しくなり、グルゴにとって潮時となっていた。


「そうそれだ!」彼はルーイの手から招待状を取ろうとするが、彼はひょいと躱し、もう一方の手を急かす様に動かす。


「そっちの例の物は?」彼が口にすると、グルゴは複雑そうな顔を浮かべながら布袋を取り出し、中から水晶大の魔石を取り出した。


 その石は闇夜の中だというのに神秘的な光を淡く放っていた。


「バルバロンの魔鉱山地帯の奥で採れた天然ものだ。体内から奪い取る魔石とは輝き方が違う。5万ゼルじゃ安い方だが、乗車券代わりのそいつと合わせれば安いもんだ」


「……よく手に入ったな」


「こいつの為に俺はここに長居できないでいるんだ! 今夜来てくれて助かったよ」と、取引をスムーズに終わらせる。


「助かったよ」ルーイは鞄の中へ魔石を仕舞う。


「こっちのセリフだ。運が良かったら、また会おうぜ。これからのお前らに餞別だ」と、グルゴは書類を取り出して彼に渡す。


「これは?」


「魔王軍の反乱軍やゲリラの探索ルートだ。ここに来た魔王軍兵の話を盗み聞きして文章に起こしたんだ」


「気が利くな」


「フラットマンやワルベルトには少しでも貸しを作っておきたいんでね。あっちでもいい取引相手であって欲しいしな」グルゴは既に逃亡先での立ち回りを計画しており、そこでも裏ルートで物資を捌く予定だった。


「そうか。じゃあ、俺からも」と、ルーイは懐から別の封筒を取り出す。そこにはバルバロンから逃げ出そうとする犯罪者の逃亡ルートに待ち構える警備隊の配置が書かれていた。


「俺を舐めるなよ。既に情報は買ってあ……ん?」と、自分でも知らない待ち伏せポイントが掛かれており、冷や汗を掻く。「あ、ありがとよ」


「どういたしまして」と、ルーイは足早にその場を離れた。




 同じ頃、スティーブらが潜伏する森の中に大柄な人影が茂みを掻き分ける。その男はマーヴであった。鳴り子や罠を慣れた様に避け、灯りの消えたキャンプに入る。


 すると同時に彼の頬を火炎弾が掠める。


「何し来た……」マリーが重そうに上体を起こし、激しく睨み付けていた。


「話をしにな」マーヴは頬を擦りながら近くの切り株にドカリと座る。


「お前のせいで……モリーさんがどうなったか知っているのか?! 前々から動きが怪しいと思っていたけど、ここまで墜ちるとはね……」彼女は怒りを眼に宿し、引き金に指をかける。


「元々、俺は反乱軍に興味がなかった。ただ……スティーブと面白おかしく人生を謳歌したかっただけだ。だから売ったんだ」このセリフに激昂しマリーは何発も火炎弾を放ったが、一発も当たらなかった。射撃の反動で腕と頭痛が酷くなり、激痛に喘ぐ。


「満足か?」


「……撃たれる覚悟で何を話しに来た?」


「お前らを助けてやろうと思ってな」と、書類束を取り出して彼女に投げてよこす。


「これは?」霞んだ目では文章を読むことが出来ず、吐き気を催す。


「魔王軍の探索ルートだ。この地域は俺が担当しているから安全だ。更に逃亡ルートも確保できる。この先の廃砦は手付かずで潜伏場所にはぴったりだぞ」


「罠の間違いじゃないの?」彼女は痛む腕を堪えながらエレメンタルガンの銃口を向けたまま睨みを効かせる。


「罠だったら、ここにガロンの野郎を連れてきている」


「あんたの狙いは何?」


「言ったろ……俺は反乱軍以前の俺たちに戻りたいだけだ……小さな町のギルドで仕事を請け負い、暴れ、夜は酒場で夜明けまで飲み明かす。俺はこの国とか魔王とか反乱とかどうでもいいんだ……」


「そんな事の為に……あたし達を売ってモリーさんを殺したのか!?」マリーは鬼面で怒りを露わにし、もう一発撃つ。が、かすりもせずに苛立つように唸る。


「正直、あのソフィーって奴を売ればそれなりの報酬を約束されている。スティーブもだが、あいつは俺が情報を操作して逃がす事が出来る。どうだ? 協力次第ではお前も逃がしてやるぞ」


「ふざけるなこの野郎!!!」マリーは傍らに置いたエレメンタルグレネードランチャーを取って銃口を向ける。「これ以上戯言をほざいたら殺す!!」


「そんな狙いをつけられない腕でか?」マリーはランチャーを両手に構える。


「両手なら正確に狙えるし、滅却焼夷弾よ! 魔法の使えないお前はひとたまりもないわ!」彼女は激しく睨みながら狙いをつける


「そうか……じゃあ」と、口にした途端にその場か消え、あっという間にマリーの隣に座り込む。彼は魔法を使えなかったが傭兵団のボスをしているだけに闇夜に紛れた身のこなしは熱で霞む目では追えなかった。


「お前も突き出して終わりだ」マーヴは自慢の巨拳を握り込んで構える。が、彼は殺気を感じ取って怯えるように間合いを取った。「なんだ?!」キョロキョロと周囲を見回すと、その気配の先にはスティーブが寝ていた。


 彼は絶対に目を覚ますことの無い魂と肉体のはく離した状態であったが、明確にマーヴに向かって殺気を飛ばしていた。


「あんな状態で……あいつを助けられるのか?」マーヴも彼の容態は知らず、目を丸くして驚く。


「今、行動を起こしているところだよ」マリーはランチャーの銃口を向けたまま口にする。


「……そうか。今日は退いてやろう。スティーブが目を覚まして話せる様になったら、また来る。どこへ逃げようが無駄だぞ? 俺はずっとお前らを見張っている。売るも助けるも俺の判断次第だ」マーヴがにたりと笑うとマリーはランチャーを彼の身体に押し付ける。


「ここでぶっぱなしてもいいんだぞ?」


「ここで撃ったらお前も死ぬぞ」


「お前を殺してあたしも死ぬ覚悟はある」


「風っ引きが無理するな。また来る」と、マーヴは素早く彼女の眼の前から消えた。彼の気配が消えるとマリーはうんざりした様なため息と共にランチャーを降ろし、両手に奔る激痛を堪える。


「くそ、あの野郎……銃口を突き付けて行きやがった。ふざけやがって……」と、悪態を吐きながらランチャーとエレメンタルガンを傍らに置いて激痛の奔る頭を枕に預ける。


「スティーブ……起きているんでしょ? ありがとう」彼女はソフィーやルーイの身を心配しながら目を閉じ、頭痛を堪えながら目を閉じた。


 一方その場を去ったマーヴは森を抜け、溜息を吐いていた。


「スティーブのヤツ、まさかあんなに弱っているとは……だが、あの殺気は寝ている者の代物か?」彼は首を傾げながらも地図を広げ、彼らの潜伏する森には何もなかったと記した。


如何でしたか?


次回もお楽しみに

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