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ゴッドレス・ワールズ・ファンタジア  作者: 眞三
第5章 バルバロンの闇と英雄の卵たち
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29.スティーブの物語 Year Four 人手が足りない!

いらっしゃいませ!


では、ごゆっくりどうぞ


 組み立て工場の爆発から3日後。ソフィー達は森の中の仮拠点でやっと落ち着いていた。それまでに彼女らの緊急時用の拠点は全て魔王軍によって潰されており、待ち伏せされていた。それは全てマーヴや他に逃げた者らの密告によるものであった。


 更に大々的にリーダーであるモリーが討ち取られたというニュースが新聞や口伝、街の伝言板、ギルドによって広まっていた。その為、彼女が独自で握っていたツテが使えず、ソフィー達はイマイチ上手く態勢を立て直せずにいた。


 そして今回の戦いでマリーは両腕を骨折し、思うように休息をとれなかった為か高熱を出して倒れていた。スティーブもブースターの使い過ぎによる無茶が祟り、この3日間意識が戻らなかった。


「これからどうすれば……」僅かに残った仲間に聞かれない様に弱音を零すソフィー。逆に彼女はあれから休むことも眠る事も無く2人の看病をし、仲間らに指示を出して仮設拠点を何とか使い物になる様に努めていた。


 そこへルーイがボウガン片手に現れる。


「周囲に魔王軍はいない。が、俺らを助ける様なお人よしな街も施設も無いな」


「元の拠点から相当離れたからね……モリーさんもいないし……」ソフィーは何とか涙を堪えてため息を吐く。するとルーイが今朝の新聞を手渡す。


「記事によると、モリーさんを仕留めただけじゃ満足していない様子だ。あんたとスティーブに懸賞金がかかり、情報提供を求めている」


「……下手には動けないって事か……」


「俺は何とかワルベルトさんとコンタクトを取る。皆は見つからない様に慎重に動いてくれ。あと、あんたはそろそろ休んだ方が良い。目の下が真っ黒でやつれ始めている」ルーイはそう言うと瞬時にその場から消えた。


「頼りになるな……私も頑張らな……きゃ……」立ち上がろうとした瞬間、立ちくらみが起こり倒れそうになるが、踏ん張る。


 その後、ソフィーはふらついた足取りで2人の看病を行う。マリーの両腕は添え木と包帯だけの治療であり、十分とは言えなかった。発熱も頭に濡れた布を乗せているだけであり、薬も満足に飲ませる事が出来なかった。食事も喉を通らず、熱と苦しみに喘いでいた。


 スティーブはまるで死んでいる様にぴくりとも動かず、ただ呼吸を繰り返すだけであった。


 ソフィーは何とか勉強した薬草調合と拙い水の回復魔法でなんとか頑張った。が、この近辺では目当ての薬草は見つからず、回復魔法もソフィー自身の疲弊で上手く練り上げる事が出来なかった。練れたとしても切り傷の治療程度しか出来なかった。


「2人ともごめんね……私、役立たずでさ……」


「ん……ぅ」マリーは強く目を瞑り、小さく唸る。


 ソフィーが彼女の頬に手を当てると、マリーの心中が流れ込んでくる。自分の不甲斐なさとこれからの戦い、そしてソフィーに「自分を責めない様に」と伝えた。


「でも……私は余りに無力で……」静かに落涙し、彼女の頭に乗せた布を取り換える。


 そしてスティーブの心中も覗く。しかし、彼はまるで抜け殻の様になっており何も見えなかった。


「大丈夫なの? スティーブ……」




 次の日、ついにソフィーも無理が祟り倒れてしまう。周りの仲間らは内心ため息を吐きながら2人の横に並べて寝かせる。そこへ夜通し活動していたルーイが戻ってくる。


「だから言ったじゃないか……」と、言いながらも彼は調達してきた食料や医療品をその場に広げ、まず他の仲間らに分配する。


「ワルベルトさんはなんと? 応援は来るのか?」仲間の1人が我慢できずに問う。


「文は送ったがな……だが、向こうも情報収集を生業としているからな。すでに気付いてはいるだろう。すぐ応援がくるさ」ルーイは仲間たちを宥める様に口にし、偵察や食料、物資調達を促す。しかし内心では応援は期待しておらず、仲間らの脱走や裏切りを防ぐための気休めであった。


 彼は調達してきた医療品をマリーとスティーブに使い、ペースト状の栄養剤を喉へ流し込む。最後にソフィーにも栄養剤を与え、起こさない様に毛布をかける。


 すると彼女は気が付いて薄らと瞼を開き、彼に気が付く。


「……何かいいニュースはある?」


「……ぼちぼち物資を調達できたってぐらいだな……盗んできたんだが。で、ワルベルトさんに応援要請を送ったが、無事届くかどうか。それでも万が一応援が来るのは1週間後か、もっと先かも……」


「そっか……厳しいな」


「あぁ……」2人揃って項垂れると、背後から何者かが歩み寄り、彼の肩を叩いた。



「中々にピンチみたいだな」



 そこには武器商人のフラットマンが立っていた。


「え!? 何でここに?!」ソフィーはガバッと起き上り、今迄の経緯を説明しようとした。が、体力が無くその場で崩れ落ちそうになる。


「慌てるな。大体、情報は収集して理解しているよ」と、背負ったリュックから大量の物資を取り出して広げる。


「助かります……」ソフィーは縋る様に受け取り、衣料品を両手に2人にまともな治療を施そうとする。が、フラットマンはその手を止める様に掴む。


「治療は俺の方が得意だ」と、マリーの両腕の包帯を替え、更に変色した部分に薬を塗り、触れただけで骨の状態を確かめる。そこから更に抗生物質などを注射し、解熱作用のある薬を飲ませ、そこでやっとヒールウォーターを飲ませる。


「本当に慣れていますね」


「病人に対してヒールウォーターは最後の仕上げに使うと回復が早くなる。覚えておくと良い」と、次にスティーブの治療に取り掛かる。そこで彼の異変に気が付き、眉を顰める。


「何かわかるんですか?」物資の中からソルティーアップルを取り出して齧るルーイ。


「こういう人間を以前に見た事がある。魔石が使い物にならなくなっている」


「魔石が……?」ソフィーは唖然とした表情で彼の説明を聞いた。


 そもそも魔石とは、人間の体内に宿る操魔器官であり具体的な形はなく、血液などのように体内を巡っていた。が、とある装置を使うとその操魔器官を物質の様に取り出す事が可能であり、それが『魔石』と呼ばれていた。


「で、スティーブの魔石は……壊れちゃったんですか?」


「俗に言う魔石が砕けたって言う奴だ。属性使いにとって、心臓が潰れた様な状態だ」


「それって……死んだってこと?」ソフィーは目に涙を溜め、口を抑える。


「いや、死んだとは言えないが……この例を見るのは2度目か。初めて見たのはワルベルトさんのとこだったか……」


「この例って、どういう事?」


 フラットマン曰く、ブースターの使い過ぎによる『クラッシュ』という状態だと説明した。この『クラッシュ』と言うのはブースターによる負担もさることながら、使用中は一時的にクラス4となり、魔力と肉体は完全に一体となる。その状態で魔石が砕けると、そのショックで肉体と魂が分断され、意識が戻らなくなると説明した。


「じゃあ、スティーブはその……」


「魂と肉体が分断され、目を覚まさないんだろう」


「どうすれば目を覚ますの? ねぇ! それはわかるの?!」ソフィーは取り乱して彼の両肩を掴んで激しく揺らす。ルーイは落ち着くように宥めたが、ソフィーは興奮が収まらずに彼を助ける方法を問い続けた。



「保証は無いが、方法はある」



 フラットマンは指を立て、スティーブに向ける。


「その方法は?」


「代わりの魔石をスティーブに入れるんだ」彼は簡単に口にしたが、目の前の2人はキョトンとした顔で首を傾げる。


「「どうやって?」」


「調達場所と、入れる方法はわかっている。が、問題がひとつ」


「「それは?」」


 そんな2人に向かってラットマンは彼らを指さした。


「人手が足りない」


「「……確かに……」」


如何でしたか?


次回もお楽しみに

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