表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ゴッドレス・ワールズ・ファンタジア  作者: 眞三
第5章 バルバロンの闇と英雄の卵たち
536/600

26.スティーブの物語 Year Four 脱出開始

いらっしゃいませ!


では、ごゆっくりどうぞ

 モリーは全身の雷撃を拳と脚に込め、眼前のガロンへ向けて唸らせる。彼女の拳は鋭く、蹴りも突風が起こる程に強烈であった。が、彼はビクともせず彼女の攻撃を防ぎもせずに受け、薄ら笑いを浮かべる。


「ストルー一味のリーダーがこの程度か」


「ウチはチームワークが売りでね!」モリーのセリフに合わせてルーイがボウガンを放つ。矢先には閃光弾が括りつけられ、彼の眼前で光り、目を射抜く。


「ぬっ?! 猪口才な!」一瞬で目を瞑ったが間に合わず、視力が一瞬だけ奪われる。その隙に彼女らは直ぐに撤退プランに切り替え、来た道を急いで戻る。ソフィーは一瞬だけガロンの身体に水糸を伸ばして記憶を読み取り、彼の作戦を探る。


「そんな……」彼女は顔面蒼白になり、逃げ足を動かせずに制止する。


「どうしたの? 早く逃げるわよ!!」モリーは彼女の手を引く。


「今頃、隠れ家が……」この作戦が始まると同時に、ガロンの差し向けた魔王軍がモリーらのアジトに襲撃を仕掛けていた。結果、不意打ちだった為、残った仲間の半数以上が殺されていた。更に、工場内へ足を踏み入れるのと同時に出入り口は完全に封鎖されていた。


「参ったな、3方向にある出入り口が全て封鎖されている。俺たちはあのデカブツと閉じ込められた!!」ルーイは慌てた様に声を荒げ、ボウガンに爆薬付きの矢を番える。


「皆、落ち着いて!!」モリーは破壊工作隊に持ってきた爆薬を使って出入り口を破壊する様に指示し、自分はガロンのいる方角へ向かう。


「モリーさん!! そっちは!!」ソフィーが駆けだそうとすると、モリーは安心させるような笑みを見せる。


「大丈夫、少し時間を稼ぐだけだから」と、殺気の方角へと駆けた。その先には視力を回復させて額に血管を浮き上がらせたガロンが腕を唸らせていた。




「くそ……間に合ってくれ……ぐっ……」胸を押さえ、ヨタヨタと走るスティーブ。彼の胸の内では割れそうな何かがグズグズと蠢き、心臓がバクバクと跳ねまわっていた。いつもならいくらは知っても疲れないスタミナを誇っていたが、今は両手足に砂が詰まっている様に重たく、思うように動かなかった。


「もう間に合わないさ」彼の背後で聞き覚えのある声が響く。その声の正体はマーヴであった。


「マーヴ?! やはりお前が……」


「そうだ、俺だ」


「……何故だ?!」スティーブは彼に向き直り、鬼面で語気を荒げる。


「飲み代欲しさ、と言ってやろうかと思ったが……やっぱ俺はお前の事が好きみたいだ」


「は?」


するとマーヴは彼に歩み寄り、手を差し伸べる。


「俺と一緒に、また楽しくやらないか? 朝から晩まで酒飲んで騒いで、ならず者を倒した金でまた遊ぶ。あの頃は楽しかっただろう? お前とならどこまでも楽しくやれるんだよ! なぁ?」


「何を言ってやがる?! 俺たちがこの数年、何の為に戦ってきたのかわかってないのかよ!!」スティーブは両手を握り込んで血反吐と共に叫ぶ。


「俺は、ただお前と楽しくやりたかっただけだ! こんな辛気臭い反乱軍で戦いたいわけじゃねぇ! お前こそ、何の為に戦っているんだ?! こんなボロボロになって、命削ってよぉ! 魔王討伐か? そんな事できるわけがないだろうが!!」マーヴは彼の胸倉を掴んで引き寄せる。


「……俺は……皆を守りたいだけだ……」


「その皆ってのは何だ? 反乱軍か? ソフィーやマリーか? まさか、この国の民とか言うんじゃないだろうな?!」


「俺は、踏みつけにされるのが嫌なんだよ……育った街ではいつも踏みつけられていた。そして、今の仲間が踏みつけられるのはもっと嫌だし……そうされたくなければ、戦うしかないんだよ! お前みたいに現実逃避して、自分だけ楽するのは嫌なんだ!! この力を持て余したくない!」


「それでお前はボロボロじゃないか! 仲間の為に死ぬのか?」


「死ぬかどうかは、抗ってみなきゃわからないだろうが! どけ、俺は仲間を助けに行くんだ!!」彼の手を振りほどき、工場方面へ向く。するとマーヴが遮る。


「行ってももう遅い! 相手はガロンだ! とっくに連中は死んでいる!」


「お前のせいでな!! このクソ野郎が!!」スティーブは拳を彼の顔面にめり込ませる。いつもの彼なら一発でマーヴをノックアウトできるほど力量差があった。しかし、今のスティーブでは鼻血を出させる程度にしかダメージを通す事しかできず、倒す事が出来なかった。


「こんなに弱っちまってよぉ……可哀想に。あのバカ女共のせいだ!! ここでお前を気絶させ、嫌でも俺らと一緒に来てもらうぞ!!」と、マーヴは殴り返し、スティーブを地面へ叩き付けた。彼の懐からブースターが転がる。


「くそっ……」手を伸ばすが、先にマーヴが拾い上げる。


「こいつが無ければお前もただのデクノボウだな。ここでじっとしていろ」と、彼はスティーブの後頭部を肘で殴りつける。




 マリーは工場地帯へ辿り着き、目的地である組み立て工場の前に立つ。周囲には魔王軍兵が列を成して行進していた。組み立て工場は完全に包囲され、缶詰め状態になっていた。


「こりゃヤバそうだ……さて、どうしようかな~」マリーは頬杖をついて考えた。ここでまた騒ぎを起こし、どさくさで工場の壁に穴を開けようとも考えたが、彼女1人では不可能な作戦であった。彼女は素早く組み立て工場の周囲を探ったが、何処も雲行き妖しく眉を顰める。


「ん~3か所とも固めてあるなぁ……っと、ここだけだっけ?」彼女は工場見取り図を懐から出し、地面に広げる。確かに目立った出入り口は3カ所しかなかったが、通気口や地下下水道など、普通ではない出入り口も何か所かあった。


「じゃあ、できるだけ目立たない場所から行こうかな」と、彼女は物陰から通気口の蓋を開け、狭い穴へ身体を潜り込ませた。




 その頃、組み立て工場内ではマリーがガロンと戦闘を行っていた。その戦いは一方的であったが、マリーは何とかガロンの拳や蹴りを避け、時間稼ぎに徹する様な足運びで工場内を逃げ回った。


「はぁっ、はぁっ……まさに怪物ね」雷速で尻尾を掴ませながら逃げ回る。なるべく相手が自分に注目し続ける様に挑発し、雷の礫を飛ばす。


「どうした、反乱軍リーダーはその程度か?」ガロンは腕を地面に突き刺し、大地魔法で激しく揺さぶる。すると周囲の金属片や機械パーツがガラガラと落ちてくる。


「くっ、地震を起こすとは流石……」


「こいつはタダの地震ではないぞ?」と、彼女のいる方角とは違う方を睨む。


「なに?」


「まずは手頃なヤツからだ!!」ガロンはソフィー達のいる方へと駆けだす。彼の今の地震はソナーであり、彼女らのいる場所を振動で特定したのであった。


「しまった!!」彼の行く手を遮る様に立ちはだかる。


「バカめ!!」これが彼の狙いであり、巨大な拳を彼女の腹へめり込ませる。


「ごはっ!!」目を剥き、崩れ落ちるモリー。内臓がいくつも破裂し、激しく吐血する。


「さ、お前はここで蹲っていろ。お前の仲間らを血祭りにしてやる」


「さ、させるか……」力なく彼の脚に纏わりつくが、裏拳一発で壁まですっ飛び、叩き付けられる。


「雑魚がリーダーを気取るからだ」ガロンはクスクスと笑い、ゆっくりと余裕の足取りでソフィーらのいる方角へ向かう。




 その頃、ソフィー達は出入り口の破壊に手間取っていた。扉は外側から魔法防御されていて爆弾は通じず、開錠も不可能であり、廃材で殴りつけても開く事は無かった。


「どうしよう……」ソフィーは涙目でルーイを見る。


「待て、風で他の出入り口を探している……う、ガロンが近い。あと……ん?」良く知った気配を感じ取り、その方へ首を向ける。


 そこには不敵に笑ったマリーが立っていた。


「迎えに来たよ~ぃ!!」彼女は両手のエレメンタルガンを唸らせ、扉をぶち破る勢いでトリガーを引いた。

如何でしたか?


次回もお楽しみに

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ