25.スティーブの物語 Year Four 作戦開始!
いらっしゃいませ!
では、ごゆっくりどうぞ
その日の夜、モリーはスティーブを自分のテントへと呼び出す。彼女は酒瓶を用意し、彼にグラスを手渡した。
「珍しいですね。貴女から呑みの誘いとは」スティーブはグラスを片手に彼女の酒を受け、一口で飲み干し、顔をギュッと顰める。
「キツイ酒でしょ。彼が好きだったのよね」モリーも一口で飲み、酒をもう一杯注ぐ。
「彼……『勇者の時代』の最後の勇者、ジャレッドでしたか」スティーブは以前に彼女の昔話を聞いたことがあった。ジャレッドは元黒勇隊総隊長であったが、実際はワルベルト達の仲間であった。黒勇隊にいる反乱分子や残った勇者達を集め、最後の戦いに挑み、ロキシー率いるナイトメアソルジャーに全滅させられたのであった。その戦いにモリーも参加していたが、彼女は戦いを語り継ぐ役目を押し付けられ、戦いの前夜に逃がされたのであった。
「彼の故郷の酒よ。もう作られていないし、これが最後の一本よ」と、彼の空いたグラスに注ぐ。
「そんな貴重なのを、飲んでいいんですか?」
「貴方に飲んでほしいの。そして、語り継いで欲しい。私たちの戦いを、この酒の味を」モリーは微笑みながらまた一気に飲み干し、腹の底へと流し込み、余韻を楽しむ様に目を瞑る。
「次の作戦で何か無茶をする気ですか?」彼女らしくない言葉に違和感を覚え、問いかける。
「いえ……ただ、次の戦いは必ず成功させなきゃならない。けど、応援はなく、貴方たちも私も無茶をしなければならない。いつもの事だけれど、今回の作戦は目的が目的だから……」次の作戦はヘタをすれば六魔道団のひとりかウィルガルム本人を相手にする可能性があった。どちらか一方と接敵すれば、ひとたまりもなく全滅は必死であった。が、それでもデストロイヤーゴーレム心臓部パーツの破壊は重要であった。
「陽動は任せておいてください。マリーとやり通してみせますよ」
「私たちも、必ず成功させてみせる。誰が相手でも」
その頃、この地方を代表するギルドにマーヴが顔を出す。彼は世渡り上手であり、情報収集や小銭稼ぎの時はここを利用していた。打って変わって仲間と悪さをする時は顔を隠して宵闇に紛れ、旅人を襲っており、その悪事はギルドにばれていなかった。
「よぉ、良い情報を持ってきたぜ」マーヴはニヤニヤと笑いながらカウンターへ近づき、ギルドマネージャーと情報提供料について話し合う。
「その内容は? 賞金首の住処か?」
「ストルー一味がデストロイヤーゴーレムの組み立て工場を襲うって話だ。正確な日時や作戦内容を売ってやる。こいつぁ高ぇぞ?」マーヴはカウンターに寄りかかり、自慢げな顔を近づける。
「それは本当か?」
カウンターの後ろから野太い声が響く。このギルドにやって来ていたガロンであった。カウンター裏へ通ずる扉を開き、マーヴの目の前まで近づく。マーヴは大柄な方であったが、ガロンはそれを超える巨躯であった。
「あ、あぁ……間違いない。連中のひとりから聞いたんだ」マーヴは表情を引き攣らせながら相手の凄まじい魔力と殺気を肌で感じ取り、心底震えあがる。
「詳しく聞かせろ。提供料に2万、成功したら3万ゼル払おう」ガロンは大金を提示し、マーヴからモリーらの作戦の一部始終を聞く。陽動作戦に作戦決行日時、戦力、更にソフィーの存在まで耳にし、ガロンは彼の肩を二度叩く。
「お前も同行しろ」
「は、はい……」マーヴは小刻みに頷き、冷や汗を拭った。彼自身、ギルドの3流ハンターをけしかけてスティーブ達に嫌がらせをする程度で納めるつもりであった。ソロモンの片腕に情報を売るのは想定外であった。
作戦の決行日。太陽が頭上に登る正午。スティーブとマリーは早速配置に着き、組み立て工場のある工業地帯へ近づく。
「さて、どうする? マリー」スティーブは両手のガントレットのベルトを締める。
すると彼女はそれに応える様にエレメンタルグレネードガンを構え、上空へ向かって撃った。空中で炎が炸裂し、轟音が兵隊たちを集める。
「さて、始めようぜ!」と、スティーブは大地を蹴り、臆さず隊列へと暴れ込む。魔王軍兵は各々の武器を構えて迎撃の構えをしたが、そこへ向かってマリーが焼夷弾を放つ。火炎の津波が焼き尽くし、その中をスティーブは稲妻と共に泳ぎ、殴り込む。
「こいつら出来るぞ! ただの陽動ではないな?!」指揮を執る隊長が剣を抜き、スティーブの拳に迎え撃つ。
「な? 陽動だと知っているのか?!」スティーブは狼狽し、拳の連打を緩める。
「ギルドからの情報だ。お前らは俺達を舐めすぎだ!」と、剣を指揮棒の様に振る。同時に後方で大砲の準備をしていた者が一斉に砲撃を行い、スティーブ達の背後の道を焼き払う。退路が塞がれ、マリーも後方支援がやり辛くなる。
「ちっ! こいつらをとっとと片付けてモリーさん達の所へ行かなくちゃ!!」マリーは両手にエレメンタルガンを構え、上下左右に発砲する。
「とっとと片付けるには……くそっ!」と、スティーブはソフィーから止められていたブースターを胸に刺し、一瞬でその場に雷撃の嵐が巻き起こる。彼の高速移動と稲妻拳の乱打、電刃回し蹴りが魔王軍兵らを薙ぎ払う。
「やっぱあんたはそう来なくちゃね!」マリーはサンダーグレネードを投げ込み、雷嵐に華を添える。スティーブの雷撃が更に激しく巻き起こり、あっという間に魔王軍兵らが全滅し、工業地帯正面広場が片付く。
同時にスティーブの魔力循環が止まり、全身から稲妻がのたくり、煙が噴き上がる。
「ぐっ……がっ……くっ……ぅ」スティーブは片脚をつき、胸を押さえて吐血する。
「大丈夫?! はい、これ!」マリーは彼にヒールウォーターを手渡し、ゆっくりと飲ませる。彼の胸の痛みは少しずつ引き、傷ついた内臓が回復する。
「くっ……すまない……くそ、誰が情報を漏らしたんだ?」
「……きっとマーヴでしょ……あいつらならやりかねない」
「まさかあいつが……急いでモリーさんと合流しなきゃ!」スティーブは駆け出そうとしたが、腰と膝が抜けてその場で手をつく。
「あんたは少し休んでいな。あたしが援護に向かう」
「いや、俺も!」
「万全でなきゃ足手纏い! それに、あんたは託されたんでしょ? ソフィーを守る余力を残しておきな」と、マリーは優しい笑みを覗かせる。
「盗み聞きしたのか?」
「暇だったんでね。あの人、死を覚悟している……あたしがそうはさせない!」マリーは両手にエレメンタル武器を構え、モリー達がいる工業地帯西部へと向かった。
「く……無理をしても行かなきゃ……くそ、脚が動かない……」ブースターの反動がいつもよりも大きく、胸の痛みが強くなっており、不安に冷や汗を垂らした。
その頃、モリーが率いる破壊工作隊は工場内へと潜入していた。その隊にはソフィーとルーイも参加していた。
「おかしいな。見張りの兵が少なすぎる」風魔法で周囲を探索したルーイは首を傾げる。
「……いやな予感がするな。引いた方が良いかも」ソフィーも異変を感じ取り、モリーに撤退する様に口にする。
「冗談じゃない。この機を逃せば、デストロイヤーゴーレムが完成する。このタイミングを逃したら、もう破壊は不可能……今しかない!」モリーは焦っているのか、無理やり前進し、デストロイヤーゴーレムの組み立てを行っているセクションへと向かう。
すると、最後尾にいた者が突然、モリーの眼前に落ちてくる。振り返ると、隊の最後尾に反乱軍兵の首根っこを掴んだガロンが立っていた。
「よく来たな、反乱軍共。やっと仕事が進むぞ……」
「こいつ、ソロモンの片腕ガロン!」モリーはすぐさま戦闘態勢に入り、雷速の蹴りを放つ。それはガロンの首に命中したが、身じろぎもしなかった。
「その程度の蹴り、ボルカディを極めた俺には通じんぞ」ガロンは腕を唸らせ、モリー達に襲い掛かった。
如何でしたか?
次回もお楽しみに




