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ゴッドレス・ワールズ・ファンタジア  作者: 眞三
第5章 バルバロンの闇と英雄の卵たち
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24.スティーブの物語 Year Four 不穏なマーヴ

いらっしゃいませ!


では、ごゆっくりどうぞ

 ジェニットの武器工房から2週間かけてストルー反乱軍キャンプへ戻るスティーブ達。彼らは手に入れた各々の得物を弄り、試し打ちをしていた。マリーは新しく得たエレメンタルガンの調整を行い、エレメンタルグレネードを自作する。ソフィーも護身用のエレメンタルガンを的に向かって撃ち、やっと端に当たり始める。スティーブはオーダーメイドのブーツと籠手のスイッチを入れ、稲妻の拳で空を裂く。


「……なんか違うんだよな……」手足に違和感を覚え、不服そうにため息を吐く。彼の先頭の持ち味は一時的なクラス4の力と高速移動であった。インファイトの火力は同等であったが、一番の持ち味である速度は殺されている為、戦闘スタイルをガラリと変える事を余儀なくされていた。


「やぁ、やっと帰ってきたんだな」偵察から戻ったルーイが馴れ馴れしくソフィーに近づく。


「あ、ルーイ。貴方はこういう武器の扱いは馴れているの?」


「ん~、俺は」口にした瞬間、彼は瞬時に背に備えたボウガンを抜き、10メートル先の的へ3本命中させる。


「わぉ」


「風の偵察兵の得物は弓かボウガンさ。俺、ディメンズさんに憧れているんだよね」と、指先でボウを転がし、風魔法で器用に操る。


 するとそこへモリーが現れる。


「あんた達、遊んでないで次の作戦の話し合いをするわよ」と、大きめの手を叩く。


「作戦? しばらく潜伏するんじゃないのか?」スティーブはガントレットのスイッチを切って首を傾げる。


「南大陸からデストロイヤーゴーレム心臓部のパーツを作る鉱石が運ばれたの。このままだと予定通り、完成してしまうわ。と、いうわけでもう一度破壊作戦を決行します!」モリーはそう言うと、作戦司令本部として使っているテントへと入った。


「なるほど。武器を試すいい機会だ!!」マリーは両手にしたエレメンタルガンを唸らせ、生き生きとした顔でテントへと入って行く。


「……最近、魔王軍の警戒が強いからねぇ。慎重にやらなくちゃ」ルーイはボウガンを背に仕舞い、その場で跳躍して消える。


「スティーブ! ……ブースターを使う様な危険な事はしないでね……」ソフィーは彼に釘を刺す様に口にし、肩に触れる。


「あぁ……わかっている」


「わかってないでしょ?」ソフィーは彼の水分を読み取り、嘘ではないまでも空返事だという事を見抜き、頬を抓る。


「いでっ! わかっているって!!」




 モリーの策は、デストロイヤーゴーレムの建造が行われている工場付近へ陽動隊を送り、迂回して本隊で襲撃し、心臓部に使われる鉱石の強奪、余裕があれば心臓部、工場の破壊も行うと語った。実際は鉱石の強奪がやっとではあるが、最初から道筋を立てる事で何が起きても臨機応変に対応が可能になった。


「その、陽動隊は……?」マリーは手を上げて質問する。この答えは誰もが分かってはいたが、口を噤み、苦そうに唸る。


「……マーヴたちにお願いしたいトコロだけど……ねぇ」弱ったように頭を押さえ、スティーブの顔を覗く。彼らとは既に半年以上別行動をとっており、殆ど彼らはストルー反乱軍から脱退して異様なものであった。しかも悪い噂ばかり立つようになり、殆ど強盗団の様な振る舞いを行い、近隣の村から迷惑がられていた。


「あの人たちに頼るのは、何だか嫌だな……」ソフィーはため息交じりに口にする。


「でも、陽動が出来る程に悪目立ち出来るのはあいつらだけだ。ひきかえ今の俺たちは少数精鋭。俺たちだけで隊を分けたら、本作戦に支障をきたすし、バックアップが無くなる。あいつらに頼むしかないな……」スティーブは腰を上げ、モリーに会釈をしてテントを出た。彼の後をソフィーとルーイが続いた。


「何でルーイまで?」ソフィーが問うと、彼は煙草を咥えながらニヤリと笑う。


「その噂のマーヴって奴の顔を確かめたくてな。俺の目で見極め、後でどう監視するか決める」


「……わかった。俺も会うのは久しぶりだが……歓迎してくれるかな?」スティーブは重い溜息を吐き、馬車に乗って走らせた。




 マーヴたちは反乱軍キャンプより西へ2時間馬車を走らせた地点の廃村に住み着いていた。その風体はまさに強盗団であり、ガラは悪く、いつ襲ってくるか危うい程に物騒であった。彼らはいつも酒盛りと喧嘩に明け暮れ、堕落していた。


 スティーブは2人を連れて恐れる事無く廃村の門を潜り、マーヴを大声で呼んだ。周囲の連中は彼らに注目すると、馬鹿にする様にケラケラと笑って酒を呷る。


「久しぶりだなスティ~ブ! どうだ? 俺たちと一緒に来る気になったか?」マーヴは赤ら顔で小屋から現れ、ズボンのベルトを締める。


「いや、頼みがあって来たんだ」


「なんだ? また囮か陽動を命じに来たのか? 冗談じゃないぞ! 俺たちはもう、反乱軍じゃねぇんだ! モリーの命令は受けない!」マーヴは彼に歩み寄り、鼻先まで近づく。


「……俺の頼みだ。受けてくれれば、俺達が援助で受け取っている武器の半分をやる」


「武器、か……そんなもんはいらねぇ!」と、マーヴは太い腕を馴れ馴れしくスティーブの肩に回し、耳元へ口を近づける。


「お前は変わったよな……昔は一緒に楽しくやったのによぉ……俺はまた、お前と面白おかしく暴れたいんだよ」


「前も言ったが、お前は変わらなさすぎだ。おまけに堕落して、以前の様な強さも無くなった」と、スティーブは彼の腕からスルリと抜け、片手で彼を転がす。


「いてっ! 何するんだよ!」周りの者達が警戒する様に各々の武器を手に取るが、マーヴは収める様に合図をする。


「……腕の鈍り、強盗団の様な振る舞い、酒浸りで堕落して……お前らに頼ろうとしたのが間違いだった。行くぞ」と、スティーブは踵を返して馬車へと向かう。


「スティーブ、お前こそ、身体に限界が来ているんじゃないか? 目の下が黒いし、血を吐いた様な匂いがするぞ?」


「……それでも俺は戦う。お前みたいにはならない!」一喝すると、ソフィーとルーイに合図をし、馬車を走らせた。


「あいつら……一度、目を覚ました方がいい。魔王軍に喧嘩を売っても、無駄だってな」




 馬車の中でスティーブは胸を抑えて苦しみを奥歯で噛み殺し、口の端から吐血を垂らしていた。彼の肉体はブースターを使わなくても時折激痛が奔り、魔力暴走による血管の損傷が起こり、内臓も傷ついていた。


「スティーブ、これ……」ソフィーは彼の為に用意したヒールウォーターのボトルを差し出し、少しずつ飲ませる。


「悪いな……あいつら、もうダメだな。俺たちだけでやるしかないな。ルーイはどう思う?」


 ルーイは馬車の手綱を任されており、正面を見ながら口を開く。


「監視する価値もない程に堕落した連中だったな。だが、あぁ言う連中が、酒代欲しさに平気で仲間を売るんだ。偵察の俺が目を光らせておくさ。で、陽動はどうするんだ?」


「……マリーと俺でやる。ストルーさん達に工場潜入を任せる。あんたは、工場の外で見張りを頼む」


「了解」


「ねぇ、私の持ち場は?」ソフィーは自分を指さし、スティーブの指示を待つ。


「ソフィーは……ストルーさん達と行ってくれ。魔王軍の見張りや工場の連中の心中を読み取り、作戦行動をスムーズにできる用サポートしてくれ」


「わかった! スティーブは、無茶しないでね」と、ソフィーは濡れた布で彼の口の端を拭う。


「あぁ、ありがとう……なるべく無茶はしないよ」


「なるべく、じゃない!」


「あぁ……」スティーブは彼女が納得するまで頷き、その後はキャンプに着くまで仮眠した。そんな中、彼の体内の魔石には皹が入り、魔力循環バランスが崩れ始めていた。その事にスティーブは気が付いていたが、それでも彼はソフィーら仲間たちを守る為、必要あらばいつでもブースターを使う覚悟を決め、闘志を燃やしていた。


如何でしたか?


次回もお楽しみに

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