23.スティーブの物語 Year Four ジェニットのお仕事
いらっしゃいませ!
では、ごゆっくりどうぞ
モリー率いるストルー反乱軍は魔王軍内でも注目を集めていた。黒勇隊情報部から機密情報を盗み取ったのは大きく、魔王軍を大いに悩ませていた。魔王は書類上では幾度も反乱軍鎮圧の命令を下してはいたが、その命令はたらいまわしにされ、最終的には地元ギルドの依頼書へと落ちていった。故にストルー反乱軍の脅威になる敵は現れなかった。
しかし、ついにウィルガルムの逆鱗に触れ、彼の命令で六魔道団のひとりソロモン・ディアブロンが動き出す。これは彼の弟子のひとりであるガロンへと命じられる。
ガロンは早速、地元のギルドへと出向き、情報を探る。ギルドマネージャーやハンターたち、更に街の人間にも話を聞いて回り、ストルー一行の足取りを追う。
が、思うように彼らの足跡を追う事は出来なかった。モリーらも今は安易なゲリラ活動は行わず、潜伏場所を転々と変えていた。更に、彼らの活動が他の反乱軍の指揮を上げており、広大なバルバロンの各地でゲリラ活動の狼煙が上がり、妨害工作が進んでいた。
最初は忍耐強く情報を探っていたガロンであったが、1カ月もするとウィルガルムからの催促もあり焦りを見せ、ついに彼は他の反乱軍のつるし上げを開始したのであった。その行動がモリー達の警戒心を呷り、彼女らは更に用心深く潜伏した。
そんな潜伏活動が半年程続いた。
「……よくあんたら、ここに姿を現せたわね」ジェニットは呆れた様にため息を吐き、頭を抱えた。なんとスティーブ、マリー、ソフィーは変装して彼女の仕事場に現れたのであった。ここへ来たのは2年ぶりであった。
「フラットマンから、ここは監視の目が甘いって聞いてさ」マリーは気安く仕事椅子に座り、卓上の試作エレメンタルガンを観察する。
「ジロジロ他人の目を気にして仕事をしたくないからねぇ……って、勝手に触るんじゃないよ。無属性ガンの試作型で、下手をすれば手が丸ごと消えてなくなるよ」と、マリーを睨み付ける。彼女はウィルガルムの弟子でありお気に入りである為、ある程度の我儘が効いた。
「怖っ……」マリーは手にした試作武器を卓へ置く。
「で? 何しに来たの? 武器の調達ならフラットマン経由で送っているから、情報かな?」
「口頭だと時間がかかるだろうから、ソフィーに読み取らせてくれるか? もし頭の中を探られたくなければ、一晩中ここで話を聞く事になる」スティーブは腕を組みながら淡々と口にする。
「遠慮なくどうぞ? 変なのを見ても、それは口外無しね」ジェニットは仕事手袋を外し、ソフィーの前に差し出した。
「では……」ソフィーはそっと彼女の手に触れ、数分かけて彼女の頭の中の情報を読み取る。その半分以上は武器兵器製造に関する難しい内容であった。
「大丈夫? アンタの頭で咀嚼できる?」
「えぇ、大丈夫……少し休むわ……」ソフィーは頭の熱さを堪える様に椅子に座り、壁にもたれ掛って休む。
「アタシの意見だけど、ガロンには気を付けな。あいつは情報に鈍くて頭の固いヤツだけど、実力は折り紙付き。兵器要らずの化け物よ」と、彼女なりの忠告をする。
「どんな奴が来ても、俺がなんとかするさ」スティーブは手の中でブースターをクルクルと回し、得意げな笑みを浮かべる。
「あんた、まだそれを使っているの? 身体に異変はない?」
「……問題ない」スティーブが口にした瞬間、ソフィーが勢いよく立ち上がって彼らの間に割って入る。
「問題なくないよ! もう体が限界なの! スティーブの為に何かいい武器はない?!」ソフィーは疲れた頭を押さえながら語気を荒げて問うた。
「大袈裟だな……少し胸が痛むだけで……」彼は参った様に口を濁す。
「ちょっと、診せてくれる?」ジェニットは部屋の奥から器具を取り出し、手に嵌める。
「なにそれ? あんた、魔法医の知識でもあるの?」マリーが問うと、彼女は自嘲気味に笑いながらスティーブに歩み寄る。
「武器を作る上で突き詰めると、人体の解剖学の勉強もする様になるのよ。すると、自然と医学の知識もまぁまぁ入ってくるわけで。あんたの仲間に魔法医はいるだろうけど、別角度から診断できるかもよ?」
「……じゃあ、診てもらおうかな」彼は仲間の魔法医に何度か身体を診断して貰っていたが、彼の場合はイレギュラーで前例がない為、これといった診断結果は出なかった。
ジェニットは手に嵌めた器具でスティーブの身体を撫で回し、胎内の魔力の流れや魔石の状態を診る。これは魔力兵器と使用者の相性を計る器具であった。魔法医では見えない部分まで見通す事が出来る為、医療への転用が可能であった。
「……あんた、魔石が限界に来ているわね。どんなに身体を鍛えても、補う事は出来ない。ブースターを使えば、魔石や体内循環機能に負担がかかり、肉体が内側からスリ潰れるわ」
「ほら、やっぱり!! もうブースターはなし!!」ソフィーは彼の手からブースターを取り上げた。
「……どうすればいい? ウチの魔法医は使用を控えろとしか言わないが……」
「その言葉通りね。もしくは、あんた自身が属性使いとして覚醒するか、新型のブースターに賭けるか……」
「新型のブースターって?」初耳の希望に目を輝かせる。
「ワルベルトがあんたのブースターの使用データや血液サンプルを元に試作品を製造しているとか……ただ、やはり適合する者は一握り且つ、使いこなせる者は皆無」
「新型って言うのはどういう点で、新型なの?」マリーも興味ありげに問う。
「今のブースターがクラス4の力を一時的に使えるに対し、新型は半永久的にクラス4の力を維持できるようになるって……要するに、手軽にクラス4の使い手を増やす事ができるって。でも、話はそう簡単じゃない……」
「それのどこが解決になるの?! それがトドメになったらどうするの!?」ソフィーは怒った様に声を荒げて歩み寄る。
「言ったでしょ? クラス4の力を半永久的に使える。つまり、魔力循環が安定化するって事。スティーブのそれが落ち着けば、力を使いつつ、負担を掛ける事も無い。上手くいけばの話だけど」
「手に入るのか?」スティーブが問うと、ジェニットは首を傾げる。
「言ったでしょ? まだ試作段階だって。完成すれば、一番にアンタに渡しに行くでしょうよ」と、器具を片付けて仕事に戻ろうとする。
「まて……て、事は……またその試作ブースターを街や村にばら撒いて……使った奴は……」昔、自分の仲間がブースターを使い、爆散した事を思い出し、冷や汗を流す。
「ワルベルトは魔王討伐の為なら手段を選ばないわ。多分、魔王よりもあくどい事を裏でいくつもやっている様な外道よ。あんたの使っているブースターの実験も元はワルベルトの命令だったし……」
「……そうか……」スティーブは近くの椅子に腰掛け、呆然したような表情で天井を見上げる。
「……アタシはおすすめしないけどね。じゃ、あんたらに特別良い武器を紹介してあげようかな? エレメンタルガントレットとか、ブレード、ハンマーにボウガンまで様々よ?」と、ジェニットが箱から色々な武器を取り出す。
「そういえばジェニットさん、最近何か……ありました?」ソフィーが先ほど読み取った中に複雑な心境のモノがあった。これは本人の口から聞くべき物だと判断し、彼女は礼のつもりで問うた。
「聞いてくれるの? 気が利くのね……」
ジェニットには弟と呼べる者がいた。彼はジェニットと同じ工房で勉強し、ウィルガルムを父親、師匠と慕った。ジェニットはエレメンタルガンなどの武器の設計を得意とした。弟は無属性爆弾製造や大型兵器開発などの才能があり、魔王軍から重宝されていた。
しかし、そんな彼が先日、ジェニットに対して独り立ちをすると宣言をして別れの挨拶をし、喧嘩別れしたのだと語った。
そんな弟の名はベンジャミンといった。
「まだ子供のくせに、アタシより大人な部分があってさ……アタシも討魔団に武器の横流しをやっているけど、あいつは討魔団にスカウトされたって……親父と戦う覚悟もあるんだかないんだか……ったく、生意気なんだから」
「そうなんですね……もっといい別れ方が出来れば良かったですね……」ソフィーは彼女の眼を見て手を握る。
「……誰しも別れは突然やって来る……毎日、大切にしている人と一緒にいる日々を大事にしなさいね」ジェニットは彼女の手を握り返し、優しく微笑んだ。
「あんたらしくないわね。しんみりしちゃって」マリーは茶化す様に彼女の後頭部を叩いた。
「うるさいわね! さ、日課の魔力放出でもしようかな!」と、ジェニットは大型エレメンタルバルカンを手に工房の外へ出て、上空に向かって火炎弾を乱射した。彼女は生まれつきクラス4の魔力を持って生まれた特異体質であったが、定期的に魔力を放出しなければならなかった。
「相変わらず豪快なヤツ……」マリーはため息交じりに紹介されたエレメンタル武器を手に取り、一緒になって試射した。
如何でしたか?
次回もお楽しみに




