22.スティーブの物語 Year Four 4年目の限界
いらっしゃいませ!
では、ごゆっくりどうぞ
ストルー反乱軍はアリシアの得た情報を元に、各地の魔王軍施設を破壊して回った。モリーの作戦指揮、スティーブやマリーの正面突破で容赦なく突っ込み、送魔所を潰しては次の施設へと向かう。その間、ソフィーは水の読心魔法で魔王軍兵から更なる情報を読み取り、それを元にゲリラ戦を仕掛けた。が、マーヴら別働隊はあの一件で信用を失い、戦力にも数えらず、作戦にも組み込まれなかった。
順調に戦いを進めていたある日、ついに彼らは偉業を成し遂げる。
デストロイヤーゴーレム心臓部に取りつける送魔官の部品となる鉱石の強奪と破壊に成功したのである。これはアリシアの得た情報を元に見つけ出したのであった。これによって破壊兵器の完成を半年遅らせ、それによって魔王の大規模作戦を遅らせる事に成功した。
この功績がとある人物の耳に入り、その者がストルー反乱軍のキャンプに現れる。
ワルベルトであった。現在は世界を飛び回る武器商人であり、討魔団の協力者でもある彼がこのキャンプに来るという事は、討魔団司令官のラスティーに認められた証拠であった。
彼は護衛を何人も連れ、大量の武器の積まれた馬車と共に現れる。マリーはその中へ飛び込み、ジェニットからの木箱を探り当てて注文していた新型エレメンタルガンを手に取る。
「行儀の悪い嬢ちゃんだな」馬車の上でボウガンを光らせる男が口を尖らせる。
「嬢ちゃんって呼ばないでくれる? あんた誰よ?」鋭い眼光で自前のエレメンタルガンを相手に向ける。
「風使いのルーイだ。オタクらの新しいメンバーになるんで以後、お見知りおきを」
「……へぇ~」マリーは訝し気な目で彼を睨み、気を取り直して木箱の中身を確認する。そんな彼らには目も向けず、モリーとワルベルトは今後の行動について話し合う。
「あんたらの活躍はうちの司令の耳にも入ってやしてね。よくやってくれている、と資金や武器、人員の補充を送ってくれやした。ルーイもその1人です。上手く使ってください」ワルベルトは相変わらず胡散臭い笑みを覗かせ、積み荷のリストと新たに手に入れた情報、更にラスティーからの直筆の手紙を渡す。
「ラスティー司令官の話は私も耳にしています。西大陸同盟の立役者で、南大陸も掌握寸前。東にも人員を送って、このバルバロンを孤立させる策だと聞き及んでいます」受け取った書類の中から近々行われる反乱軍掃討作戦の情報を目にし、目の色を変える。
「今年中に三大陸同盟を成して欲しいところですね。今、あの男は勢いに乗ってますから……ですが、デストロイヤーゴーレム建造妨害は怪しくなってきやしたね。ロキシーが南大陸へ渡り、例の鉱石の取引に向かったとか……あれがウィルガルムの手に渡ったら、貴方達の活躍が無かったことになりやす……」
「なんと……では、今度は心臓部そのものを破壊しに向かいますか?」
「いえ、貴方達は上手い事潜伏をして下さい。魔王軍の掃討作戦は中々に本気の様で……調子に乗ると痛い目に遭いやすよ?」
「……わかりました。討魔団の手がバルバロンに伸びる頃まで隠れさせて頂きます」モリーは軽く会釈し、そこから2人で今後の詳しい策を練り始める。
その頃、スティーブはソフィーと近隣の地域を見回りながら進軍路や緊急事態の時の退路などを地図に書き込んでいた。
「討魔団の第一人者が来ているらしいね」ソフィーは晴れた空を眺めながら口にする。
「フラットマンに似た胡散臭そうな奴だったなぁ」彼の事を思い出し、複雑そうに吐き捨てる。彼の人生を狂わせたのは良くも悪くも彼のお陰であった。
「……ねぇ、スティーブ。この戦いが終わ……ううん、ひと段落着いたら、どうする?」彼女自身、そう簡単に終わる事は無いと首を振り、言い変える。
「どういう意味だ? 俺は皆の為に戦い続けるぞ。皆を守り……うん」急に思考の中で違和感を感じ取り、言葉を詰まらせる。
彼自身、このような戦いに身を投じ、長続きするとは思っていなかった。今のこの時を悪くないと思い、このまま上手い事、作戦が続けば良いと考えていた。彼に取って反乱軍の皆は家族であり、マリーやソフィーも言うまでもなく、かけがえのない存在であった。
「守り?」
「このまま続けばいいなって……」
「私、早く戦いは終わって欲しいな。で、みんなと一緒に平和に暮らしたいな」ソフィーは微笑みを覗かせ、スティーブの眼前でご機嫌そうに舞う。
「あぁ、それが一番だな、うん」彼女の舞いを眺め、小刻みに頷く。が、彼の分厚い胸板の内側では何かがチリチリと痛み始めていた。
2人が反乱軍キャンプへ戻る頃、ワルベルトらは馬車へ荷を纏めて去る頃であった。ルーイを始めとした補充要員らが挨拶を交わしていた。スティーブと目が合うと、ワルベルトは荷台から降り、歩み寄った。
「あんたがフラットマンの言っていた適合者ですね? うんうん、身体を鍛え、ブースターの能力に胡坐を掻いてはいないみたいだ」と、彼はスティーブの身体をマジマジと観察しながら何かしらの装置を取り出して診察を開始する。
「何をするんだよ!」得体の知れない検査方法に狼狽し、スティーブは彼を訝し気に睨んだ。
ワルベルトはスキャン結果を目にし、軽く頷いては興味深そうに唸る。
「……どうやら、魔石や内臓が限界に近づいているみたいですね。戦い方を変えた方がいい」
「な……?」スティーブは耳を疑う様な返事をしたが、身に覚えがあり、背筋を凍らせる。
「え、スティーブ? 嘘だよね?」ソフィーが彼の身体に触れ、一瞬で彼の今の考えを読み取り、一筋の涙を流す。
彼は調子のいい時は、2分間はブースターでの魔力循環の持続が可能であった。しかし、最近ではその時間が徐々に短くなっており、胸の下で鋭痛が奔る様になっていた。その異変を誰にも悟られず、自分でも気のせいで片づけていた。
「血液のデータも取らせてください。いい資料になりそうだ」ワルベルトは淡々と血液採取セットを取り出し、彼の二の腕に触る。
「おいやめろよ! 俺は実験動物じゃないぞ!!」スティーブは彼を突き飛ばして呼吸を荒げる。彼らは魔王軍研究施設も襲った事があり、そこに収容された実験体を何人も見てきた。救う事の出来ない哀れな者らで、スティーブらにはどうしようもなかった。
「……その、どうにかできるの? 彼を治せるの?!」ソフィーはワルベルトに掴みかかり、興奮した様に揺さぶった。
「わかりやせんが、討魔団の医療技術も中々に進歩していやす。この血液データを渡せば……」
「スティーブ! 血を採らせてあげて!!」ソフィーは目を鋭くさせ、無理やり彼の二の腕を差し出させる。
「えぇ……」渋々彼は血を摂らせる。ソフィーはワルベルトに治療法を見つけると約束させ、馬車を見送った。
「ソフィー、どうしたんだよ? 俺の頑丈さはお前が一番知っているだろ?」スティーブはおどける様に笑い、上腕の力こぶを膨らませる。が、彼女はそんな言葉は聞かず。涙で濡れた両目で彼を見つめる。
「死んじゃだめだから! もうブースターは使っちゃダメだから!!」
「えぇ……それじゃ戦えないだろ?」
「戦い方を変えて! マリーみたいにエレメンタルガンを使えばいいじゃない!!」
「う……あの武器、俺、苦手なんだよな……」スティーブは参った様に頭を掻き、彼女を宥めながら苦笑する。その間にも胸の下の痛みは鼓動と共に響いており、不安で煽られていた。
ワルベルトはスティーブから採った血を小型検査機にかけ、打ち出されたデータを目にし、口笛を吹く。
「この後のあっしの行動を彼女は許しちゃくれないでしょうねぇ……あのスティーブには、最期が訪れる前にもう一度実験に付き合って貰いましょうかねぇ」と、微笑を浮かべる。彼は現在、クラス4能力者を安定して生み出せる新型ブースターの製造に手を貸していた。スティーブの血が最後のピースであり、今回ストルー反乱軍へ顔を出した目的のひとつがこれであった。
「開発には半年かな? この後はフラットマンに託して、あっしは次の策へ移りましょうかね」と、ワルベルトは上機嫌に手綱を振って馬を奔らせた。
如何でしたか?
次回もお楽しみに




