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ゴッドレス・ワールズ・ファンタジア  作者: 眞三
第5章 バルバロンの闇と英雄の卵たち
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19.スティーブの物語 Year Three 折れる光

いらっしゃいませ!


では、ごゆっくりどうぞ

 スティーブがブースターのスイッチを押した瞬間、その場から雷光を残して姿を消す。同時にホッパーマンの間合いに入り、唸る拳を振るい抜く。


 ホッパーマンは腕をクロスさせてそれを防ぎ、衝撃で数メートル後退した。上腕には皹が入り、稲妻が燻っていた。


「さっきよりも鋭い……」ホッパーマンは腕を振るいながら苦笑いを見せる。その瞬間、スティーブは背後へ回り込んで背を蹴り飛ばし、吹っ飛んだ先へ回り込んでは殴り蹴り、叩き付ける。戦いはすっかり彼のペースになるだけでなく、更に加速していき、まるで意志をもつ稲妻の様に襲い掛かる。


「ぐっ……数秒でもやはりクラス4並か……」ホッパーマンは次の瞬間、風の分身を作り出してスティーブに殴らせる。その間に気配を消して近くの大木の影に隠れ、風の回復魔法を展開する。


 が、次の瞬間、大木が稲妻蹴りで薙ぎ払われ、木片を撒き散らして吹き飛ぶ。なにっ!!」


 ホッパーマンが転がった先へ稲妻が駆け、追い打ちをする様に蹴り飛ばし、掴みかかって腹を殴り抜く。


「ぐぼぁ!!」ホッパーマンは白目を剥いて前のめりに倒れ込み、負けじと高濃度の真空波を飛ばす。スティーブはそれを潜り抜け、顔面を殴り抜いた。ついにホッパーマンは目を剥いて気絶し、大地に大の字で寝転がった。


 同時にスティーブの身体から魔力が抜け、片膝をつくのを我慢しながら深呼吸を繰り返す。全身の血管が浮き上がって脈打ち、筋肉からは蒸気が上がっていた。全身は激痛が奔り、骨は軋み、鼻血が垂れる。


「ダラダラ戦える身体じゃないんでね……」と、モリーが戦う方へ顔を向けるが、自分は次の撤退戦に備えて身体を休めようと落ち着いて息を吐き、マリーの元へ向かう。


「凄いね……また腕を上げたんじゃない?」切断された腕を玩具の様に扱いながら手を振るマリー。拠点へ戻れば治療できる魔法医がいるので、多少余裕ではあった。


「マリーがあいつの動きを見せてくれたお陰だ。あれが無かったら、やられていたのは俺だ」と、照れながら首を摩る。彼の言う通り、あそこで大木の影に隠れたホッパーマンを見つけられなければ、数瞬差でスティーブの首は高濃度真空波で切断されていた。


「あとはモリーさん次第か……あの人は俺より強い。大丈夫だろ」




 モリーはスティングと拳を合わせ、互角の殴り合いを演じていた。スティングは腕に火炎を纏わせ、更にそれをもう2本の腕の様に伸ばし、まるで4つ腕の魔人の様だった。それに対しモリーは雷速の拳で手数を互角にし、炎を寄せ付けない。更に速度を増して殴り押し、スティングの顔面に拳を見舞う。


「成る程、戦いの中で勢いを増す……半端な雷使いの戦い方だ」


「なに?」


「真の雷使いは自分の戦いの速度、勢いを最初からコントロールできる。だが、お前は……おそらく準備運動が無くてはそれが出来ないと見える。お前の部下も同じ様子だ。そんなハンパ者では、私を倒す事は出来ん!」と、スティングは太い腕に炎を吸収させ、凄まじく重たい拳を唸らせた。


 モリーはそれを両腕で受け止めたが、数十メートル後退し、腕で熱と痺れを感じ取る。


「ぐっ……実力は頭ひとつ上か……しかも欠点まで言い当てて……」


「それとお前らの目的はただの冷やかしではないな。仲間の1人がこの施設に潜入している。本来なら既に警報が鳴り、近くの砦から応援が来ている筈だが、この様子を見ると潜入を諦めたか……もしくは奇跡的に成功したか」スティングは冷静に分析し、モリーを値踏みする様に見る。


「……ふん、やっと気づいた? 意外とノロマなんだね」ハッタリを言う様に口にし、賭けに出る。スティングが侮るか、砦から援軍を呼ぶか。万が一呼ばれても、マーヴの別動隊の時間稼ぎがある為、どちらに転んでも良かった。


「ハッタリか……それにその冷や汗……侵入者が上手く情報を盗み出しているとも思えんな……だからと言って、お前らをここで逃がす訳にもいかん」


「そりゃ困ったな」心中ではガッツポーズをしながらも、スティングの相手に疲れながら拳を構える。


「ホッパーマンがやられたか。油断したか、馬鹿め……私が纏めて相手してやろう!」スティングは全身から火炎を噴き出し、モリーへ向かって間合いを詰めて殴りかかる。




「あ……あぁ……あっ」眼球を真っ黒に染めたアリシアは涎を垂れ流し、その場で直立したまま痙攣していた。彼女の脳内、心、魂は闇に包まれ、魔王の干渉を受けていた。数瞬後、突如彼女の身体が眩く光り、部屋中の闇を払って魔王の暗黒を退ける。


「ぐはっ! がはっ!! ごほっごほっ! 気持ち悪ぅ……」なんとか悪夢を打ち払い、闇からの脱出に成功するアリシア。目頭からは未だにひんやりとした闇の汁が零れ落ち、魔王のねっとりとした言葉が木霊していた。


「魂の切除……? 何を馬鹿な……」闇の中で何を言われたのか、アリシアは悔しさに表情を強張らせ、壁を思い切り叩く。そこからトラップ部屋に隠された書類を探ったが、目ぼしいモノは何も無く、本当にただの罠部屋だと知り、また壁を叩いた。


「ちくしょう……母さんを狙っているって言っていたな……くそぉ!! どいつもこいつも母さんを!! これ以上母さんを苦しめないでよぉ!! もう沢山だ!! 何が魔王だ! ドミノだ!! 世界の影だ!! 全部消えちまえぇぇ!!」アリシアは潜入を忘れて怒鳴り散らし、部屋に光の球を放って暴れる。彼女の心は限界を迎え、すっかりヒステリーを起こしていた。感情を吐き出すように叫び、涙し、その場に力尽きる様にへたり込む。


「何が世界を救うだよぅ……あたしはただ……村で静かに暮らしていたかっただけなのに……仲間のみんなと笑い合いたいだけなのに……くだらない連中が邪魔をしてぇ!! 自分勝手にどいつもこいつも!!」アリシアの叫びはついに施設内の職員の耳に入り、あっさりと警報装置を押されてしまう。そのシグナルは数瞬で砦のアラームを鳴らした。


「あぁ、もう!! このくそったれが!!」アリシアは光屈折を利用した透明化魔法を展開させようとするが、心の乱れのせいか集中できなかった。彼女は気持ちを切り替えようとするが、闇に取り込まれた影響かそれは出来ず、頭を押さえて呼吸を整える。


「……助けて、ヴレイズ……助けてよ、みんな……もうひとりは嫌だよぉ……」




「ん、警報が鳴ったか? どうやらお仲間は何とか施設内へ入れたようだな。入れただけだろうが」スティングは馬鹿にする様に口にし、モリーの横面を殴りつける。


「ぐはっ! 見つかったのか……5分もしないうちに援軍が来るな……よし、撤収!!」と、モリーはスティングから間合いを離そうと身を翻す。が、ステインングは先回りして彼女の腹に回し蹴りを喰らわせ、施設の方角へ吹き飛ばす。


「貴様だけでも逃がさんぞ。反乱軍の頭さえ取れば、あとは烏合の衆だ。反乱軍の頭は、少ない方がいい」と、彼はモリーを逃がさない様に構える。


「くそ……スティーブ、マリーを連れて逃げな!! 私に構わないで!」


 それを聞いたスティーブは苦そうな表情を覗かせる。彼はマリーに肩を貸し、撤退の準備を進めていた。


「モリーさんを助けないと……でも……」


「あたしは足手纏いってか? 冗談じゃない! お前はリーダーに手を貸しに行きな!! あたしは片腕でも逃げ切って見せるさ!!」マリーは余裕の笑みを見せ、左腕にグレネードランチャーを構えて森の中へと向かった。


「早めに合図を送っておくか」と、スティーブは照明弾を撃ってマーヴに援護の合図を送り、踵を返してモリーの元まで駆け寄る。彼はそのまま胸にエレメンタルブースターを撃ち、稲光となってスティングの背後から襲い掛かった。


「命令無視とは、ご立派な部下だ」背後から襲い来るスティーブの腕を取り、モリーへ向かって投げ飛ばす。が、彼は受け身を取って転がり、そのままスティングへ向かって殴りかかった。


「スティーブ!! 命令を……いや、聞こえないか……くっ」モリーは彼の働きを無駄にしない為に撤退を開始する。


「リーダーを逃がす考えは正しい。お前は勇敢だ。だが、勝ち目のない戦いはおろかだぞ?」と、スティーブの攻撃を全て受け流して首を掴み、施設の壁へ叩き付ける。


「ぐぁ!!」逃げる事も抵抗することも出来ず、彼はスティングの万力の様な腕に抵抗する様にもがいた。


「お前はエレメンタルブースターを使いこなす珍しい成功例だ。捕獲させて貰おう」


如何でしたか?


次回もお楽しみに

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