17.スティーブの物語 Year Three アリアン潜入
いらっしゃいませ!
では、ごゆっくりどうぞ
作戦当日。アリアンは朝食の時の雰囲気とは打って変わって鋭い目つきで草むらに隠れ、黒勇隊情報部を睨んでいた。この建物は内部だけでなく外壁にも監視の目が行き届いており、普通の術者でも近づくのが困難であった。
「作戦は変わらず……囮3名で突撃して正面玄関で暴れ、その間にあたしが潜入。15分ぐらいで合図を出すから、それと同時に第2部隊がモリーさんらの撤退を補助。で、いいんですよね?」念を押す様に背後で構えるモリー達に問う。
「変更はない」モリーは準備する様に両手足に魔力を巡らせ、雷を奔らせる。
「マーヴたちも配置についている。大丈夫だ」スティーブは明け方に彼らに念を押し、頭を下げて頼み込んでいた。作戦成功の暁には酒場で飲み放題とおまけをつけ、何とか彼らの重い腰を上げさせたのだった。
「で、連中はどれだけ出てくるかね」マリーは今回使うエレメンタル武器の最終点検を終え、両手にエレメンタルガンを握る。
「9番隊……というか黒勇隊事態、数年前とは違って装備も戦い方も変わっているのは知ってる?」アリアンは敢えて確かめる様に問う。
「エレメンタルガンと魔障壁装備が標準で、隊長並びに副隊長はクラス3以上の属性使い……元魔王軍だから知っているよ」馬鹿にするなと言わんばかりに睨むマリー。
「相手の出方にもよるけど、こちらは少数で敵基地の真ん前。圧倒的不利なのは変わらない。油断しない様に」アリアンはそう言うと、足の先から徐々に光魔法で透明になっていく。
「あんたも、せいぜい警報を鳴らされないようにね」モリーも言い返し、立ち上がる。本部前で騒ぐ程度なら黒勇隊が出てくるだけだったが、基地内部の潜入に気付かれたら近くの砦から大多数の魔王軍兵士が飛んで来る事になった。
「で、どうします、モリーさん? 一発派手にいきますか? それとも、芝居がかった感じで?」スティーブは指の骨を鳴らしながら問うた。こう言った陽動作戦は馴れており、毎度やり方を変えていた。
「そうね……今日はマリーに任せようかしら」モリーはニヤリと笑い、マリーの肩を叩く。
「ありがたいね! 久々にコイツをぶっぱなすか!!」背に担いだエレメンタルグレネードランチャーを右手に抱え、左手にエレメンタルライフルを握り、エレメンタルガンの2丁をホルスターに挿し、草むらから飛び出る。
次の瞬間、本部の正面に備え付けてある機関銃座に向けてライフルの貫通火炎弾を放って破壊し、同時にエレメンタル焼夷弾を基地上空へと放ち、火の雨を降らせる。相手がリアクションを起こす間に3発ほど焼夷弾を撃ち、あっという間に基地の屋根が炎上を始める。アリアンの潜入の為にも敢えて内部へは焼夷弾を放り込まなかった。
「おらぁ!! 出てこい魔王軍共!! あたしらは泣く子も黙るストルー反乱軍だ!! 死にたい奴だけかかって来いやぁ!!!」マリーは大興奮して上空へ向かってライフルを乱射し、煙噴き上がる銃口を正面玄関へ向ける。
数瞬と待たずに黒勇隊員が十数人程内部から現れ、最後に副隊長と隊長が出てくる。建物の火災は隊員の中にいる水使いが消火活動を開始し、数瞬で鎮火させる。
「いきなりなんだ? この建物がどんな所かわかっていて放火したのか?」副隊長のホッパーマンがマリーを睨み付ける。彼女はヘラヘラと笑い、容赦なくエレメンタルライフルを発射するが、ホッパーマンは素手でそれを撥ね飛ばした。
「ひゅう~! やるね」
「お前の装備じゃ、遊び相手にもならんぞ?」
「生憎、遊び相手は他にもいるんだな」彼女が口にすると、両脇からモリーとスティーブが現れる。
「クラス3と……ただの力自慢か? スティング隊長の出る幕じゃないな」ホッパーマンは余裕たっぷりに笑い、指の骨を鳴らす。彼は風のクラス3であったが、近接戦闘が得意であった。
「……こいつらの目的は何だ? 見た感じ、頭の悪い囮だな」隊長のスティングが注意深く周囲を観察しながら口にし、隊員の中にいる風使いに周囲を探らせる。
「他に潜伏する者らはいませんよ。この馬鹿共だけです」ホッパーマンも周囲を探り、呆れた様に口にする。マーヴらが潜伏するのは彼らの探知範囲外であった。
「じゃあ、本当にお前らだけでこの施設にカチコミを掛けに来たのか? たった3人で? ストルー一味って言うのは噂通りのバカの様子だ」彼らの事は黒勇隊の中でも有名であった。
「ただのバカかどうか……確かめてみる?」モリーが笑った瞬間、その場に雷光だけを残して消え失せる。次の瞬間、陣形を組んでいた黒勇隊員が端から殴り飛ばされ、顔を凹ませて吹き飛んでいた。彼女は自慢の雷を纏った俊足の一撃を繰り出し、次々と怯む隊員らを殴り飛ばしていった。
それを合図にマリーもグレネードガンを連続で放つ。次はスパークネット弾で、網状の電撃が隊員らに降り注いで動きを封じた。その動きに合わせてスティーブはブースターを使用せず、電撃の合間を縫って1人ずつ殴り飛ばしていく。
「良い連携だ」スティングは感心しながらも手は貸さず、腕を組んだまま静観する。ホッパーマンもいつでも動ける様に魔力を蓄えていたが、まるで3人の戦闘パターンを観察する様に眉を動かした。
あっという間に黒勇隊員らは全滅し、隊長副隊長を残すのみとなった。
「たった十数秒で隊員らを無力化するとは……やるな。お前ら、身に染みたか? いい経験だろ。反乱軍を相手に舐めると、こう言う目に遭う」スティングは教官の様な口ぶりで倒れている隊員に声を掛ける。
「こいつら最近、鈍っていましたからね。勇者の時代が終わって、平和が我々を鈍らせた。剣と弓で戦っていた時代が懐かしい」ホッパーマンも自嘲気味に笑う。
「いい機会だ。久々に楽しませて貰おう。俺はリーダーの女の相手をしよう。お前は、あの2人だ」そう言うとスティングは腕に炎を纏い、彼女の眼前に向き直った。
「お任せください。久方ぶりの、殺し合いだ」ホッパーマンも楽し気に微笑み、周囲に真空波を纏う。
「さて、こっからだな!」スティーブはブースターを手の中で転がし、胸に押し当てた。
その頃、アリアン改めアリシアは黒勇隊情報部施設の塀を一足飛びで超え、裏口の鍵をピッキングで開けて潜入した。彼女は風の探知魔法に引っかからない特殊なアクセサリーを身に着けており、そのお陰で術者に発見される事も無く、光の透明魔法で身を隠して移動した。ここまで数分もかかっておらず、脚も止める事なく順調だった。
そこから彼女は施設内の風の流れと匂い、反響音で位置情報を頭の中に描き、するすると部屋を確認する。
「(……資料室はこっちか)」足音も気配も立てず、室内へ滑り込み、書類を1枚1枚確認していく。そこにはバルバロン各地方での物資の搬送状況や魔法エネルギーの確保、資材の伐採採掘計画などが記されていた。
「(何かデカいのを作っているのかな?)」一纏めになった資料の中身を記憶し、別の資料をパラパラと読み進める。有益な情報は一握りであったが、それらをパズルの様に組み合わせ、多数の計画が浮き彫りになる。『神器探索』『巨大兵器建造』『海岸線沿い防衛』などを計画している事がわかり、更に詳しい情報を探ろうと資料室を後にする。
そこから情報部主任の部屋を見つけ出し、デスクや棚を調べる。そこには書類やファイルが丁寧に整頓されていた。それを手に取り、じっくりと読み進める。
「(……デストロイヤーゴーレム……か)」バルバロン各地で建造される腕と脚のパーツを一カ所に集め、組み立てる計画が記されていた。この恐るべき兵器が何処へ向けられているのか不明であったが、データによると『神をも殺せる』と書かれており、アリシアは信じられない様に首を傾げる。
更に次のファイルには魔王が計画する世界平和計画の一端が記されていた。
「(クラス4の光使い……か)」その計画に必要な人物の中にそれが記されていた。そこからしばらくアリシアはファイルの中身を読み進め、目を瞑る。
「……あたしは……大丈夫」口に出して頷き、ファイルを元の棚へ戻す。そこから更に主任のデスクの鍵をピッキングで開き、開かれた手紙を1枚残らず内容を頭に入れる。その中にはゼルヴァルトとのやり取りの記されたものもあった。
「(ゼルヴァルト……あたしの村を焼いた男……)」手紙に皺を作りそうになり、そっと元の場所へ戻し、拳を握りしめた。奥歯を噛みしめ、怒りを我慢していると、外から凄まじい轟音が鳴り響き、肩をびくっと震わせた。
「(囮にしては少し派手過ぎない?)」アリシアは呆れた様に苦笑し、また別の部屋へと忍び込んで情報を貪った。
如何でしたか?
次回もお楽しみに




