15.スティーブの物語 Year Three 助っ人参上
いらっしゃいませ!
では、ごゆっくりどうぞ
ビーボルブ国内のストルー反乱軍キャンプ。そこでは各々が武器を研ぎ、調整し、鍛錬していた。マリーは届いたばかりのエレメンタルガンを解体、調整、組み立てをリズムよく行い、照準調整をしていた。ソフィーはなるべく皆の役に立てるようにと水魔法の勉強をしていた。打って変わってマーヴは気のいい仲間を連れて別のキャンプを開き、そこで気ままに過ごしていた。
そしてスティーブは、キャンプから少し離れた森林で鍛錬を行っていた。丸太を担いで山を登り降りし、滝に打たれ、岩を叩き、大地を蹴った。鍛錬の最後にその場で座禅を組んでエレメンタルブースターを刺す。そのまま己の限界を計る様にめいそうする。
このような鍛錬を1日中、毎日行っている為か、彼は反乱軍内で右に出る程がない程に筋肉に包まれていた。身体の大きさだけはマーヴには負けるが、筋力と持久力は圧倒的に上であった。
「よし!」本日の持続時間は3分以上持ったため、上機嫌に鍛錬を終え、川に飛び込んで汗を流す。
「精が出るね! 私と手合わせする体力はある?」そこへ反乱軍リーダーのモリ―・ストルーが現れる。彼女は雷のクラス3であり、スティーブよりも上の使い手であった。だが、ブースター使用時の彼には負ける為、その上で作戦を練っていた。
「モリーさん! やりましょう!」彼はヒールウォーターの入ったカプセルを飲み込んで体力を取り戻し、構えた。彼はブースターを使わなければ魔法の使えない戦士と変わらなかったが、ブースターを織り交ぜた戦術は何も知らない使い手を惑わせ、一瞬の隙を突く事が出来た。故に、彼はこの反乱軍のワイルドカードであり、一つ頭の抜けた活躍をしていた。
2人は軽く乱取りをし、結果はモリーが投げ飛ばして決着が付く。彼女はジャレッド直伝の戦場格闘術を使いこなしていた。隙を突いて投げ飛ばし、弱点を抉る戦い方を得意としていた。
「やっぱり敵わないな……強い」スティーブは無傷で起き上り、参った様に頭を掻く。
「ブースターを使った貴方には敵わないけどね。さ、キャンプに戻りましょう。次の作戦は大変よ」
「大変と、いいますと? また送魔所の襲撃ですか?」
「いえ。黒勇隊情報部への潜入よ」
「……そりゃあ、大変だ」スティーブはこの反乱軍に入って一番肝を冷やした。
黒勇隊情報部はバルバロン国内の極秘情報が一挙に集まる場所であった。おそらく首都のバルバロン城の警備よりも厳しく、とても反乱軍では潜入は不可能であった。しかも情報部には警備兵だけでなく、腕利きの情報部エージェント、更には黒勇隊士がいる可能性がおり、運が悪ければ隊長クラスと戦わなければならなかった。しかも、襲撃ならば戦うだけで済むが、今回の作戦は潜入であった。この難攻不落の要塞に潜入できる腕を持った使い手は、このキャンプにはいなかった。
「無理じゃない? あたしは情報部へ行った事はないけど……黒勇隊の強さは知っている。少なくともあたし達だけじゃ無理」マリーは冷静に口にし、エレメンタルグレネードガンの調整を終える。
「じゃあ、どうするつもりだろう?」心配そうにソフィーが首を傾げる。作戦会議の円卓には彼女らとマリー、スティーブやその他数名が参加していた。
「今回の作戦で得られる物は大きい。サンシャインシティの送魔所の潜入方法や、デストロイヤーゴーレム作戦の全容、更に研究都市への潜入方法も手に入る! つまり、バルバロンへの付け入る隙がいくつも手に入るの! 絶対に成功させるわよ!」マリーは息巻き、円卓を強く叩く。
「しかし、この潜入作戦は俺たちだけじゃ、逆立ちしても不可能だと思う。どうするんだ?」スティーブが問うと、マリーは得意げな顔を向けた。
「安心しなさい。今回は強力な助っ人がいるの。その人に潜入して貰うわ。我々の役割は情報部建物外での陽動。正面から強行突破をするふりをして、裏から助っ人に入って貰うのよ」
「……なるほど。その助っ人がどれだけの手誰かに寄る訳ですね」スティーブは少々不服そうに腕を組んで鼻息を鳴らす。
「大丈夫よ。その助っ人は、ワルベルトさんお墨付きの使い手だから。で、陽動作戦には私とスティーブ、マリーを先頭に突撃し、ある程度暴れて後方部隊の援護と共に撤退する」モリーは一通り、作戦を説明し、この日は解散した。その後、モリーがスティーブを呼ぶ。
「なんですか?」
「この作戦の後方部隊としてマーヴに参加して欲しいんだけど、頼んでくれるかしら?」
「……マーヴかぁ……」スティーブは参った様に頭を掻いた。
マーヴはキャンプから外れた場所に小さなキャンプを張り、そこで気の合う連中と連日酒を飲んで騒いでいた。一応、作戦開始の時に声がかかると、暴れる為だけに出撃していた。モリー達からすれば鼻つまみ者であったが、貴重な戦力である為、無視する事は出来なかった。
彼はモリーや他の者の話は効かなかったが、スティーブの頼みだけは聞いた。
「……マーヴ」昼から酒盛りをするキャンプに着き、表情を顰めるスティーブ。
「ん? おぅ、スティーブじゃないか! なんだ?」彼は酒片手に首を向ける。
「マーヴ……次の作戦についてなんだが」彼はモリーの作戦を彼に伝える。
「気に入らねぇな……何で俺達が前衛じゃないんだ? 陽動って事は暴れるんだろ? だったら、俺らの出番じゃないか! なぁ!!」と、取り撒き連中に声を掛ける。疎らに下品な声が応えたが、期待できる代物ではなかった。
「モリーさんには考えがあるんだ。頼もしいお前らだからこそ、後衛を任せたいんだろ。頼むよ、大人しく指示に従ってくれ……」スティーブは頭を下げて頼んだ。
「……ふんっ、あの女は気に入らないんだよ! 俺達を見下しやがって……わかった、お前の頼みだから聞いてやる。だが、次の作戦は、俺達を立ててもらうからな!」マーヴはスティーブの胸板を面白くなさそうに小突き、再び仲間らに交じって酒を呑み始めた。
「どうしちまったんだよ、マーヴ……」
その数日後、ワルベルトの使いとしてフラットマンが現れ、キャンプに補給品の提供の為に馬車から荷を下ろし始める。
「あら? 助っ人の人は?」挨拶しながらモリーが問う。
「ここら辺の土地を確認してから来ますってさ。プロ意識の高い人だからねぇ~」フラットマンは荷を下ろしながら周囲の物に運ぶように命じ、リストを確認する。
「その人って、どれだけ凄い人なの?」マリーは前から気になっていた様に問いかける。
「なんでも、グレイスタンって国を風の賢者から救ったって話だ。知っているだろ? あの魔王の手先だったブリザルドからだ。それに、いくつも伝説を残すヴレイズの仲間で、討魔団と合流予定だそうだ」
「名前は?」スティーブが補給品の中身を調べながら問う。
すると、上空から光の球が飛来し、馬車の隣にフワリと着地する。眩いその中からは快活な女性が金髪ロングを靡かせながら現れる。
「この立地にキャンプを張るのは正解だけど、分けるのは得策じゃないね。離れにある下品な連中のせいで、魔王軍に見つかるリスクがある」その女性は片眉を上げながら口にし、モリーへ歩み寄る。
「初めまして、アリアン・ホーリーベルトです! 今度の作戦でお世話になります!」
アリアンは可愛らしく微笑んで丁寧にお辞儀をした。
「す、凄い魔力ね……私では足元にも及ばない程の……」モリーは彼女の実力を目で測り、冷や汗を掻いた。
「あたしでは反乱軍を束ねる事は出来ません。人には必ず役割がありますから。で、作戦を聞かせて下さいますか?」
「……クラス4をこんな近くで見たのは、初めてだな……」スティーブは目を丸くし、アリシアから放たれる優しくも激しい魔力を感じ取り、うっとりとした目で眺める。
「……こう言う人が討魔団にゴロゴロいるのかな……あたし達もうかうかできないね」マリーは補給品のグレネードを確認しながら口にする。
「優しい人……触れなくても解る……」ソフィーはアリシアから放たれる魔力を感じ取るだけで理解し、安心した様に微笑んだ。
「以後、ヨロシクっ!」アリシアは丁寧に皆に向かって笑顔を見せ、円卓のあるテントへと入って行った。
如何でしたか?
次回もお楽しみに




