11.スティーブの物語 Year Two 反乱者スティーブ
いらっしゃいませ!
では、ごゆっくりどうぞ
スティーブら3人は気絶したソフィーを連れて工場より数キロ離れた森の中へ潜伏した。同じ頃、廃工場には研究所の回収部隊が到着しており、3人を探し回っていた。
マリーは風の探知魔法から逃れる装置を起動させ、しばらくの時間稼ぎを行っていた。
「これでよしっと……この娘はまだ起きない、か」彼女は未だに気絶するソフィーの頬に優しく触れる。
そんな彼女らを見ながらスティーブは、安心しながらも己の先行きに暗雲を感じながら表情を引きつらせた。
「……どうしよう。殴るつもりではあったけど、殴り殺すつもりは無かったんだよ……本当に」と、右手首を摩りながら身震いする。未だにボビー軍曹の顎を砕いた感触が残っており、昔の事件も思い出しながら吐き気を堪える。
「まぁ、殴り殺すのはやり過ぎだな……顎を砕く程度で良かった」マーヴは窘める様に口にするが、内心ではボビー軍曹の死に関しては何とも思っていなかった。
「いや、よくやったよ。あいつは下っ端や捕虜に対してやりたい放題だったし。死んで悲しむのは仲間内だけでしょうね」マリーは言葉通りにスッキリした顔を彼へ向ける。
「あんた魔王軍だろ? 何であんな真似をしたんだよ!?」スティーブは未だに死体撃ちをしたマリーの行動を理解できずにいた。
「魔王軍にウンザリしていたから、潮時かなって思ってさ……あんたこそ、何も考えずに軍曹をぶっ殺したなら、あたしが主導権握るけどいい?」
「え? 主導権?!」スティーブは目を丸くして靄だらけの頭の中を必死で晴らそうとする。
「ダメダメダメ! 絶対にダメ!! 主導権は俺らが握る!! な? スティーブ!! 何か面白い策があるんだろ?」慌ててマーヴが割って入る。
「……ぬぅ」
「お前……ぇ」気の抜けた返事に呆れた様に肩を落とす。
「じゃあ、あたしの策を聞くしかないわけね?」
「「……はい」」2人は意気消沈した様に俯き、大人しく頷いた。
マリーの策は、魔王軍からある手土産を持ち出して反乱軍に好待遇で迎え入れて貰おうというモノであった。彼女は元々、反乱軍鎮圧部隊に所属する正規の魔王軍兵士であった。素行不良でキャンプを追い出されたが、出入りしても多少妖しまれずに潜り込むことが可能であった。
彼女の策は、そこから捕虜になっている反乱軍騎士のスカーレット・ボディヴァを逃がし、彼女を手土産に反乱軍に入るというモノであった。このまま何処にも所属せずに他の地域へ逃げてもハンターか魔王軍、最悪、黒勇隊に掴まるのがオチであった。だったら反乱軍へ身を置き、自分の納得できる戦いをするというのがマリーの目的であった。
「どう? あんた達もこのままだとチョスコのハンターは続けられないでしょ? 明日には賞金首になるわね」
「そうだな……って、マーヴは何もしていないじゃないか! お前は大丈夫だ!」と、スティーブは少し喜ぶように声を上げる。
「いえ、一緒にいてみすみす軍曹が殺され、何もしないであたし達と一緒にいるから、同罪ね。いまからあたしら2人を突き出すならまだチャンスはあるけど、どうする?」マリーは目を座らせ、自分よりも体格の大きいマーヴを睨み付ける。
「え゛ぇ、お前が敵になるの?」スティーブは彼から間合いを取るように後退る。
「いや、俺は……お前に付いていくよ相棒。お前と一緒なら、ギルドでも反乱軍でも面白いだろ?」マーヴは間合いを詰めて彼の肩に腕を回す。
「なら、よかった……」
「決まりね。今頃ボディヴァ嬢は酷い目に遭っているけど、クラス3の雷使い。本気の彼女に敵う兵士はあのキャンプにはいないわ。解放すれば、内部から打ち壊すのは容易。アヴェン砦の追撃部隊とノーマンが来る前に反乱軍と合流できれば、あたしらの勝ち」と、地図を広げてキャンプとアヴェン砦、反乱軍の予想潜伏場所に丸を付けて線で繋ぐ。
「ノーマンって、六魔道団パトリックの右腕か……クラス4の雷使い。逆立ちしても勝てる相手じゃないな……」スティーブはまた身震いする。
「別に連中とサシで戦う訳じゃないわ。それに接敵しても、逃げる方法はいくらかあるわ」と、マリーは手持ちのエレメンタルグレネードを数えながら口にする。彼女の装備ならノーマン相手なら逃げられるだけの武装が揃っていた。
「で、彼女はどうする?」スティーブは心配する様に未だ目を覚まさないソフィーを見る。
「そう、だから手土産が必要なの。褒美としてマーナミーナ国行きの貨物船を手配して貰うの。その船に彼女を乗せる。国外なら、簡単に追跡は出来ないでしょ」
「っへぇ~、そこまで考えていたのか」スティーブは目を輝かせ、頼もしいマリーを見た。
「反乱軍は国外へ逃亡するという噂もある。それにあたし達皆で付いて行くってのもアリね。でも、その場合はあたしとあんたらはお別れね」
「何で?」
「あたしはこの国に残って戦う」
すると、ソフィーがゆっくりと瞼を開く。目に移ったのは仲間2人を殺害したハンターと魔王軍兵士であったため、当然悲鳴を上げ、怯えながらその場から逃げようとする。
そんな彼女に落ち着くようにスティーブが手を握って止める。
「落ち着いてくれ!! 俺たちは君を助けようと……」
「ウソつき!! 騙して仲間を殺したクセに!! 人殺し!!」彼女はパニックを起こしてその場で暴れ、仕舞には彼の腕に噛みついた。
「いっでぇ!! アレは嘘じゃなかった!! 本気で俺たちは君らを助けるつもりだった!! でも……あとの事は考えていなかった……もう君を騙したりはしない! 追手からも守って、この国から出してやる!! 約束だ!! 疑うなら俺の考えを読め!!」スティーブは噛みつく彼女を引き剥がそうとせず、そのまま強く抱きしめて説得した。
ソフィーは恐る恐る彼の心の中を覗き見る。彼の言った言葉に嘘偽りは無かったが、同時に彼のトラウマも目にする。ブースターを始めて使った日の事、仲間の死と恐怖、初めての勢い任せの殺し、そして先ほどの軍曹殺しも映し出された。それらの情報が彼女の頭の中へ流れ込み、また目から涙を零す。
「あなたも、酷い目に遭ったんだね……可哀想……」と、ソフィーは彼を抱き締め返す。
「何とか説得できたみたいね」マリーは安心した様にため息を吐き、早速この場から離れる準備を始める。
「じゃあ早速、そのキャンプで女騎士様を助けに行きますか」と、マーヴは腕を唸らせた。
が、彼女らの目論見は脆く崩れ去った。彼女らが着く頃には既に鎮圧部隊のキャンプは消し炭と成り、兵士たちは皆、炎と雷魔法で焼き尽くされ、目を回して転がっていた。
「一体どういう事?」マリーは計算が外れ、頭を抱えてその場でしゃがみ込んだ。
「相当な使い手か、化け物に襲われたか……」マーヴは辺りの焦げ付いた匂いを嗅いで身震いした。
「……確かすんげぇ炎使いが2人、この国に入ったんだよな? フレインとヴレイズだっけ? そいつらがやったんじゃないの?」スティーブは首を傾げながら周囲を見回す。キャンプは見る影もなく平らになり、大地は焼け焦げていた。
すると、ソフィーが近くに転がる兵士に恐る恐る触れて水分を読み取る。彼の目には叫びながら殴り合う雷使いの女と炎使いの女が映し出された。見たままの光景を彼女は3人に報告し、揃って首を傾げた。
「で、どうする? 策は頓挫した訳だが」マーヴは腕を組んで面白くなさそうに鼻息をフンと鳴らす。
「……まぁ、誠心誠意を見せれば反乱軍には入れてくれるんじゃない? 人では足りなさそうだし……魔王軍の内情を渡せば、まぁまぁ好待遇で迎えてくれるかも」
「それでも貨物船を紹介してくれるかはわからないだろ……そうだ、あいつに相談しに行こう!」と、スティーブは良い事を想いついたように立ち上がり、ソフィーの手を握る。
「「誰?」」
「確かチョスコに来ている筈だ! あいつから情報を引き出せば……」
「だから誰だよ!」マーヴが彼の肩を掴んで引き留める。
「武器商人のフラットマンだ。俺の人生こんな風にしてくれた元凶だ。あいつに借りを返して貰うぞ!!」と、彼は日が昇らぬうちにチョスコ首都方面へと向かった。
如何でしたか?
次回もお楽しみに




