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ゴッドレス・ワールズ・ファンタジア  作者: 眞三
第一章 光の狩人と愉快な仲間たち
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51.窮地

いらっしゃいませ!


短めですが、ごゆっくりどうぞ!

 アリシアが姿を消して3日目の夕暮れ。


 ラスティーとバグジーはトボトボとキャンプへ戻り、無言でたき火を作り、煙を立上らせた。ただの一言も言葉を交わさぬまま数分経ち、ラスティーが煙草にぎこちなく火を点ける。


 突然、バグジーが立ち上がり、被り物を取る。


「……やはり、ここは私が家臣たちに正体を明かし、真正面からブリザルドの首を!」


「その話は却下したはずだ」と、落ちた被り物を乱暴に被せる。


「何故です!? もうこの方法しか……」



「お前の話は『如何にこの国を取り戻すか』ではなく『如何に美しく死ぬか』だろ? それじゃあ意味がないだろうが! 勝ち目があるのか? え?! そのお前の作戦に勝ち目はあるのか?!!」



「で、ではどうするんですか? もう万策尽きたじゃないですか!!」



 彼らはアリシアがいなくなってから3日間、彼女の足取りを追った。何を目的にどこへ向かったのか、村や町、砦に潜入してまで情報をかき集め、ついにアリシアがマーナミーナ側に向かって切り立つ崖へ向かった事を悟った。


 そして現場へ向かい、仰天した。


 残っていたのは獣に喰い散らかされた骨片と血の跡と衣類の破片。


 ラスティーは奥歯を噛みしめながら現場からわかり得る情報を得て、今に至る。


「まさか……アリシアさんがこんな無謀な賭けに出るなんて……」落胆するような声を漏らすバグジー。


「いいや、彼女はこんな勝ち目のない狩りはやらない。その証拠に、このキャンプに彼女はお気に入りの装備を置いていった。本命の獲物を狩りに向かう時、こんな真似はしない。それに彼女の最後の言葉は『お土産を持ってくる』だった。多分、ブリザルドと交戦してその時の経験を俺に語るつもりだったんだろ……」


「それにしても無謀ですよ! 賢者を相手にそんな真似……」


「いいや。彼女はお前や、きっと俺が思うよりも賢くて図太い。捕まるところまでは計算の内だと思う。だが、計算外の事が起きたんだ」


「計算外?」


「きっと、監禁場所から抜け出せないんだろう。そこで……くそ、なんで俺に相談してくれなかったんだよ!! してくれれば……」煙草の吸い口を噛み潰し、たき火に向かって吐き捨てる。


「……それはきっと、止められる事をわかっていたからでは……?」バグジーが恐る恐る問う。


「……きっと止めただろう。彼女の策は賢いが、相手が悪すぎる。それに成功率も五分以下だ。俺は間違いなく反対した。だが……彼女はそれを見透かして、最悪な博打に打って出たわけだ……そして……」ラスティーは次の煙草を取ろうと胸ポケットを弄ったが、しばらくして切れている事を悟り、舌打ちを鳴らす。


「なら、助けにいきましょう!! きっと城の地下牢に、」


「そこにはいない!」


 ラスティーはイラついたように、ぴしゃりと言い放ち、新しく煙草を巻き始める。


「なぜわかるんです?」


「……いいか? アリシアはヤツを魔王の手先呼ばわりしたんだ。そんな子を自分の懐に持っていくか? そんな危険な事を言う者を傍に置くか? 俺なら絶対に置かない。10人に1人は彼女の言葉に耳を傾ける者が現れるだろう? そうなれば少しずつ策に綻びが生じ、いずれ破綻する。策士はそれを恐れるものだ。


 ブリザルドは抜け目ないヤツだよ。あいつが王代理に就任したことは前から知っていたが、魔王の使いだと知ったのはワルベルトさんとお前から聞かされたのが初めてだった。つまり、ヤツはそれだけ情報が漏れないようにコントロールしている」


「情報を漏れないようにコントロール……ってどうやって?」ラスティーに詰め寄り、兎の顔を擦りつける。


「……おそらく、事情を知っている部下を最小限に抑えているんだろう。俺はチンピラ時代、街の構成員数百人を束ねていたが、どんな秘密も必ず外部に漏れたもんだ。きっと、ブリザルドの部下は数人だろう。だがその分、優秀なんだろうよ。アリシアを閉じ込めている番人はきっとそいつだろうしよ」


「なるほど……では、アリシアさんを助けに行きましょう!!」バグジーはすくっと立ち上がったが、ラスティーは彼を強引に座らせた。


「どうやってだ? 俺たちが3日間駆けずり回って、やっとアリシアの動向を掴めたんだ。彼女の監禁場所を探るのにどれだけかかる? こんなだだっ広い国のどこを探せば、秘密主義であるブリザルドの秘密の部屋はどこにあるんだ? どこを探ればわかるんだ?!」


「そ、それは……」


「これは彼女が自力で脱出できるのを待つしかなさそうだな……流石の俺も、数日で探し出すなんて不可能だ……」と、ラスティーは降参したのか、仰向けに大の字になった。




「グ……あっ……げぇ……ぅぷっ」


 アリシアは全身の痛みに苦悶し、真っ黒い塊をべちゃり、と吐き出した。目の下を黒くさせ、不安定な呼吸と共に血の咳を吐き、痙攣する。


「そろそろ限界かしら?」


 彼女の眼前でローズは血濡れた拳を握り直し、稲妻を奔らせる。


 アリシアのどす黒く染まった腹筋に2度、3度と拳をめり込ませ、彼女の呼吸に合わせて膝蹴りを入れる。アリシアはもはや激痛の声を上げる事も出来ず、ただ首を絞められる小動物の様な音を上げ、奥歯をカタカタと鳴らした。やがて、呼吸の感覚が長くなり、瞳から光が失せていく。


「……それにしてもタフね」


 ローズは棚から特製ヒールウォーターの瓶を取り出し、詮を噛んで引き抜く。乱暴にアリシアのだらしなく開いた口に突っ込み、無理やり飲ませる。



「ぐぼっ! んぐぅ! げぇ! がっ、ぎゃあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」



 次の瞬間、アリシアの全身から真っ白な蒸気が上がり、部屋に肉を締め付ける音が不気味に響き渡る。骨が軋む音、液体が走り回る音が混声合唱を奏で、アリシアが苦痛の絶叫を木霊させる。


「これで何本目かしら? あなた、もう孫の顔は見られないわね」


 憎たらしい口調でローズが空の瓶を落とす。地面には10数本の瓶が無造作に転がっていた。


「はぁっ、はぁっ、はぁっ!!! ……くっ……」


 アリシアは弱り果てていた。この3日間、手心のない拷問に肉体を蹂躙され、これまでにない危機を感じ、もう彼女には涙を堪える事しかできなかった。


「名前くらい名乗りなさいよ。もうっ……電流に釘、毒、ペンチ、鞭に水……一通り試してもう飽きちゃったんだよね……」と、アリシアのしなやかな腹筋に優しく触れる。先ほどまで真っ黒に染まっていたが、今は生まれたての様に治癒されていた。


「ひっっっ!」恐怖を隠す事が出来ず、怯えた表情を露骨に見せるアリシア。


「ふふ、まぁ……お仕事だから……ね?」と、笑顔を覗かせて彼女に背を見せる。机に乗った武骨な器具に触れ、長らくえり好みをした結果、焼き鏝を選び、己の魔力でねった電流で熱しはじめる。


「……こんな事をして、楽しい?」血走った目でこれでもかと睨み付けるアリシア。


「まぁ、お仕事ですから。楽しくはないかな? それに、アタシも経験者だから、同情するよ」と、真っ赤になった焼き鏝に水を一滴垂らし、豪快な音を鳴らす。


「……同情するならさ……そろそろ、さ……」


「ギブアップしたいなら早くしてくれる? アタシも暇じゃないからさ。簡単よ、あなたの知っていることを洗いざらい話してくれればいいのよ~?」


「それは……だ、」


「じゃあ、我慢すればいいわ」ローズは手慣れているように鏝をアリシアの腹に押し付けた。


 彼女は喉が裂けて血が噴き出る勢いで悲鳴を上げ、カタカタと震える。


「安心して、辱めだけはしないからさ」鏝をベリベリと剥がし、彼女の呼吸を読み、胸に押し当てる。




 アリシアが姿を消して5日目。


 ラスティーとバグジーはキャンプから動かず、ただじっとアリシアの帰りを待っていた。ラスティーは相変わらず地図を睨みながら策を練り、バグジーはアリシアの置いていった得物の手入れをしていた。


「……ん?」ラスティーが何かに気が付いたのか、身を屈めて息を潜める。


「どうしました?」


「誰かこっちにくる……数は2人、男性と女性……声は……おぉう?!?」ガバッと起き上り、ラスティーは声のする遥か後方へ向く。


「アリシアさんですか?! 帰って来たんですか!!」




「良い事をしたあとは気持ちがいいな、エレン」ヴレイズが上機嫌な声を出す。


「はい! はやくラスティーさん達と合流して、街へ戻りましょう! 御礼に宿を貸し切りにしてくれるなんて、長旅の中で初めてですよ! ……あ、あれはラスティーさん?」遥か前方の小さな人影を見て首を傾げる。


「本当か?! アリシアも一緒か!? んうぅ?! 嘘だろ? あれがラスティー?」


「なんかめちゃくちゃ号泣していますが、本人でしょうか?」

いかがでしたか?


次回、アリシア救出作戦開始か?!

乞うご期待!

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