8.スティーブの物語 Year Two 前篇
いらっしゃいませ!
では、ごゆっくりどうぞ
スティーブがサンシャインシティから旅立ち1年後。彼はチョスコまで辿り着き、今はそこのギルドハンターとして働いていた。エレメンタルブースターを使った彼の戦い方は、最初は暴走気味で危なく、誰も近寄ろうとしなかった。
そんな彼に面白がって近づいた者がいた。それはマーヴというB級ギルドハンターであった。彼はスティーブよりも一回り大柄であり、自慢の太腕で犯罪者を締め上げるのを得意としていた。面白がった理由は、自分よりも小さく細く弱い彼が、半年でB級はおろか自分をも超えるA級ハンターに独力で成りあがっていた為であった。
マーヴは酒場で彼に絡み、喧嘩を売る様に小突き回した。が、相手にはされず、仕舞には仕事に勝手に付いて行く。その仕事ぶりを見てマーヴは納得し、その日から彼は勝手にスティーブの相棒と名乗る様になり、どんな仕事にも付いていく様になった。
最初は煙たがったが、気のいい性格をしたマーヴと次第に仲良くなり、自然と2人で仕事をこなす様になった。
「よぉ相棒! こいつで最後だ!」マーヴは強盗団のひとりを小脇に抱えて絞め落とし、蹴り転がす。
「マーヴ……あまり力を入れすぎると首の骨に負担がかかり、後遺症が残って上手く歩けなくなるんだぞ? 気を付けろよ」呆れながらスティーブは縛って転がした強盗団の上に座る。彼らはチョスコ国内の反乱軍の戦いに乗じて暴れ回る強盗団の討伐を終えていた。
「この前のは力を入れすぎただけだって! あと、魔法医がヤブだったんだ! ってか、こんな目に遭いたくなかったら、強盗になんかなるなってんだ、馬鹿がよ!!」と、マーヴは地面に転がる強盗団のひとりに蹴りを入れる。
「まぁまぁ……兎に角、こいつらを金に変えて、酒場へ行こうぜ。こいつら全員で、2000ゼルか……安いなぁ……」と、手配書を見てため息を吐く。
「だったらよ、今朝張られていた奴を狙うか?」と、懐から手配書を2枚取り出し、スティーブに渡す。
「なになに……フレイン・ボルコン60000ゼルにヴレイズ・ドゥ・サンサ30000ゼル!! 何をやったらこんなに高くなるんだよ!!」スティーブは目を丸くして仰天する。しばらくは遊んで暮らせる額であった。
「なんでも、サバティッシュ国を2人で襲撃して、六魔道団のウルスラを退けたとか。どんだけ強いんだろうな?」マーヴはにんまりと笑い、彼の目を見ながら返事を待つ。
「こんなのブースターを使っても勝てねぇよ……手頃なのはいないのか?」
「ニック・グッドスピード6000ゼルってのは?」と、つまらなさそうに口にする。
「ひとりで6000か。狙うのは悪くないな」
「あ、でもこいつは例の2人のツレらしいぞ」
「なんだよ……じゃあ、また火事場強盗狩りだな……何かデカい仕事でも舞い込んでこないかなぁ~」と、スティーブはロープを片手にチョスコ首都の方へと向かう。そのロープには強盗団が全員繋がれ、全員渋々と歩き始める。
「兎に角、今日はこいつらを突き出した金で騒ごうぜ! いつもの酒場で朝までだ!」
「また朝までかよ……好きだな、お前!」
「お前となら何処までも楽しくなるんだ! 朝だろうが夜だろうが、天国だろうが地獄だろうがな!」マーヴはスティーブの首に腕を巻き付け、ガハハと笑った。
「暑苦しいなぁ! 離れろよ~」と、スティーブも楽し気に笑いながらロープを強めに引っ張った。
チョスコ国内の魔王軍武器工房。ここを仕切っているのはウィルガルムの弟子であるジェニットという女であった。彼女は飴玉をバリバリと噛み砕きながらエレメンタルガンを弄っていた。
そんな彼女の背後に魔王軍兵士が軍靴を鳴らしながら近づく。
「ジェニット~ 今、暇?」酒瓶を片手に近づき、近くの椅子に座る。
「うんざりした声、だらけた足音、酒瓶……愚痴る気だな? って事でアタシは暇じゃない。帰れ」と、顔も向けずに追い払う様に手を振るう。
「そんな事言わずにさ、付き合ってよ」と、キンキンに冷えた酒瓶を彼女の頬に押し当てながら隣に座る。
「うっひゃ!! 何よ!! 酒が入ると半日は武器を弄れなくなるし、アンタの愚痴を聞く事になるからヤダってば!!」と、言いながらもジェニットは酒瓶を受け取り、歯で詮を抜いて喉を鳴らして飲み下す。「あぁ~あ、飲んじゃったよ! アンタのせいだ!」
「って事は愚痴を聞いてくれるんだ」マリーはもう1本酒瓶を彼女に手渡しながら一口飲む。
「軍服のままここに、酒瓶片手。相当、吐き出したいみたいね~」
「……昨日、反乱軍の騎士を捕えたのよ。ウチのボスが正面から打倒し、そいつの部下を丸ごとね。そこまでは良かったんだけどさ……あたしの同僚や上官が……」と、俯いて吐きそうな表情をのぞかせる。
「どうしたの? 身ぐるみ剥いだとか?」3本目を飲みながら問う。
「……その騎士が女でさ……尋問を始めるならまだいい。その女の部下を人質にして……服を脱ぐ様に強要し……」マリーはその光景を瞼に映し、酒瓶に皹を入れる。
「うーわ……でも、地元傭兵団で水増しした反乱軍鎮圧部隊なんでしょ? まぁそうなるよね……」ジェニットは察した様に口にしながら席を離れ、つまみ欲しさに棚を漁り、サラミを引っ張り出す。
「尋問担当は生粋の魔王軍兵士よ! 正直あんな行為に正義は無い! そこらの野盗と大差ないわ!! あたしは止めに入ったけど、誰も賛同しなかった! しかも、あたしは鎮圧部隊から外されたわ!! おまけに明日はつまらない仕事を押し付けられたわ!! ふざけやがって!!」と、マリーは飲み干した酒瓶を遠くへ思い切り投げる。
「後で片付けろよな」
「ゴメン……正義に憧れて入った魔王軍だったけど、結局はこんなもんか……リサ先輩のいる黒勇隊に入りたいけど、試験には落ち続けているし……もう潮時かな」
「あんたがいなくなったら寂しくなるね。まぁ辞めても、いつでも遊びに来ていいけどさ」
「うん……今日はもう、浴びる程飲んでやるから覚悟しなさいよ」と、マリーは背後に置かれた木箱からもう1本酒瓶を取り、一気に飲み干した。
「1箱持ってきたのか……じゃあ、サラミ1本じゃたりないね。近所の女将さんにピザでも作って貰おうか」
「2箱よ」
「マジか」
次の日、スティーブとマーヴは頭を抱えながらギルドへと向かった。結局2人は朝まで酒場で騒ぎ倒し、そのままの足でここへ来たのであった。
「酒~じゃない、仕事くれ~」スティーブはヨロヨロとした足取りでマネージャーカウンターに付き、催促する。
「相変わらずだな。こんなのでもウチのエースハンターなんだから驚くよ。丁度いいのが入っているぜ」と、書類を1枚差し出す。
そこには『3人の属性使いの捕獲、または討伐』と書かれていた。
「なに? 魔王軍と合同だと?」目敏いマーヴが注意事項を指さして不服そうな声を出す。
「お目付け役、だそうだ。お前らに魔王軍兵が2名付く事になる」
「その属性使いって。何者だ?」スティーブは頭痛を堪えながらも真面目な口調で問う。
「3人ともクラス2。大した使い手では無いそうだが、出自が特殊でね。なんでも、特殊な属性使いを育成する施設から逃げ出した3人らしい」と、依頼書を読みながら答える。
「特殊……? どんな風に特殊なんだ?」マーヴの問いにマネージャーは面倒くさそうに耳くそを穿る。
「10000ゼル分は特殊だ。最低1名は捕獲する様に、との事だ。詳しくは同行する魔王軍兵に聞くんだな。で、受けるのか? 向こうの注文はこのギルド1番のハンターをご指名だ」
「じゃあ、俺達が受けるしかないな! こんな美味しそうな仕事は俺たちの為にあるだろ!?」と、マーヴは依頼書を奪い取り、スティーブの首に腕をかける。
「あぁあ! 暑苦しい!! とにかく受けるから、先方への連絡ヨロシク!!」
「もう来てる。この2人だ」と、カウンター横の扉が開く。
そこから魔王軍兵の2人が現れる。
ひとりは厳つい髭を生やした、マーヴと同じく体格の良い男であった。もうひとりはスティーブ達同様に二日酔いに苦しむマリーであった。
「自分はボビー軍曹。こいつはマリーだ。よろしく頼むぞ!」
「……ヨロシク。うっぷ!」と、彼女は口を押えて白目を剥き、何とかその場で吐かない様に堪える。
「こいつ酒場にいたか?」マーヴは首を傾げながら彼女の顔を覗き込む。
「いなかった、と思う……仕事前に酔い覚まし3人前買っていくか」
如何でしたか?
次回もお楽しみに




