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ゴッドレス・ワールズ・ファンタジア  作者: 眞三
第5章 バルバロンの闇と英雄の卵たち
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7.スティーブの物語 Year One 後編

いらっしゃいませ!


では、ごゆっくりどうぞ

 スティーブはこのバックストリートに住む様になってから10年経っており、その間にギャングらから散々な目に遭っていた。寝床代から始まり、用心棒代から安全に金を稼ぐ権利など、税金の代りに散々毟り取られていた。更に目が合うと財布や金品、新品の昼食まで奪われる始末であった。


 生意気を言おうと、反抗しようとした仲間は容赦なく殺され、その指の1本がスティーブや仲間に送り届けられた。


 それ程に彼らチンピラ仲間らは頭を押さえつけられながらこの街で生活していた。




 スティーブは昔から積りに積もった積年の恨みを今ここで炸裂させた。眼前のギャングはいつも自分たちに絡んできてはショバ代以外の金品を巻き上げてくる奴であった。そんな彼の顔面を殴り砕く。それでは満足できず、2度3度と顔面を殴り、壁の染みに変える。何が起きたのかわかっていないギャングらは唖然とした顔を真っ赤に汚していた。彼らが反応する前にスティーブは固めた拳で腹を貫き、股間を蹴り上げ、傷口に指を入れて肉体を引き裂く。


 スティーブは呼吸を荒げながら膝を折る。地面には血の池が広がり、壁には内臓や骨がへばり付いていた。


 彼の身体に満ちていた魔力は嘘の様に消え失せ、漲っていた力も抜けていた。


「はぁっはぁっ……一体……何が……?」顔の汗を拭おうとするが、全て血糊で塗れており、咽かえる悪臭に塗れていた。


「あ……わ……わ……」仲間の1人がスティーブを指さす。彼の顔は赤い恐怖色に染まっており、ブルブルと震えていた。


「なぁ、俺は……」助けを求める様に腸のこびり付いた腕を伸ばすが、仲間は本能的に逃げ出す蟲の様に這いながら後退った。



「ば、化け物ぉぉぉぉぉ!!!」



 腸塗れになった仲間はそのまま通りから喚きながら逃げ出し、その場には肉塊とスティーブが残された。


「……俺……一体……?」と、地面に転がったエレメンタルブースターを拾い、ヨロヨロとその場から逃げ出した。




 1時間後。行く宛の無いスティーブは血塗れの身体のままフラットマンのアパートへ向かっていた。激しくドアをノックし、返答がないとまた殴りつけ、仕舞には蹴り始める。


「わーったよ出るよ、何だよ誰だ! くさっ!! なんだお前!!」と、鼻を摘まんで顔を顰める。


「俺は……使えるみたいだ……」と、彼の目の前にブースターを差し出す。彼の頭の中には仲間の死、初めての殺害、力の高揚、これからの事などあらゆる考えが渦巻いていたが、彼の目の前では間抜けな言葉が飛び出た。


「汚いなぁ!! シャワー貸してやるからその汚れを落として……それハラワタだな? 何をして来た?」と、血塗れのブースターを受け取りながら彼自身も思考を張り巡らせる。


 その後、スティーブは1時間かけて全身の汚れをシャワーやバスタブを使って落とした。お陰でバスルームは殺人現場の様な汚れ方をし、フラットマンは頭を抱えた。


 その間にフラットマンはこの街で作った情報網を使ってここ数時間の情報をかき集め、何が起きたのかを悟った。


「……お前、バックストリートの化け物って噂になっているぞ?」


「俺が、化け物……」未だにクラクラした頭で聞き、首を傾げる。血塗れの服や下着は全て捨て、フラットマンのシャツとパンツを借りて袖を通し、真っ赤になったバスタオルを肩にかける。


「お前、コイツを使えたんだな? どういう状況だったんだ? 詳しく説明してくれよ」


 彼の問いにスティーブは休み休みゆっくりと先ほどの出来事を話した。そして更に使った時の身体の具合、今の健康状態など詳しくフラットマンは診断した。


 ブースターを使って暴れた時間はほんの10秒足らずであり、その間にギャング3名を一方的に殺害した。その後、身体に悪影響は見られず、凄まじい疲労感に襲われる程度であった。


「成る程……お前、こいつに選ばれたって事だな」ブースターをペンの様に振りながら口にする。


「選ばれた?」


「そうよ。こいつの使用者で成功……っていうか生存者はお前だけだ。適応したならもう一度使えるはずだ」


「適応……」聞き慣れない言葉に首を傾げ、不思議そうにブースターを眺める。


「なぁ、もう一度使う勇気はあるか? どうだ?」フラットマンは好奇心に満ちた目でブースターを彼に渡した。


「……また暴れるかも……」不安の眼を向けるスティーブ。彼はあの時の興奮に恐怖を覚えており、自分の中に化け物がいるとさえ思っていた。


「なぁに、その時は用意がある」と、手の中で別の機器を握り込む。それは一瞬ではあるが属性使いの魔力循環を強制停止する武器であった。


 しばらく考え込む様に押し黙るスティーブだったが、何かを決めた様にブースターを受け取り、自分の胸に押し当ててスイッチを押した。彼はどの道、外へ出れば警備隊かギャングに掴まり、悲惨な未来しか用意されていなかった。事実、次の日の朝には街中、魔王軍警備隊が裏路地の巡回を始め、ギャングの間ではスティーブの名が駆け巡っていた。


 その瞬間、スティーブの身体に電流が駆け巡り、細かった手足が一回り膨らむ。瞳孔が開いて全身の血管が浮き上がり、髪の毛が逆立つ。


 それを見てフラットマンは目を丸くして笑みを零した。天井や床、家具が電流によって焼き切られ、所々が黒く焦げたが彼は気にせず、一歩近づく。


「うぉ! クラス4の臨戦態勢みたいだな……だが、魔力が外へ漏れ過ぎているな。それに落ち着きが無く、興奮気味っと」と、メモを取り始める。


 その姿は5秒程度で止まり、スティーブはその場で膝を折り、両手を床に付いて息を荒げた。先ほどは血塗れで気が付かなかったが、大汗を掻き、脱水症状を起こしてその場で倒れた。


 それを見てもフラットマンはメモを取るのを止めず、しばらくして気付いた。


「成る程……奇跡的に破裂しなかった風船ってトコロか……」




 スティーブが目を覚ますと昼の時間になっており、フラットマンは荷造りを終わらせて彼が目を覚ますのを待っていた様な出で立ちをしていた。


「凄まじい疲労で倒れていた。摂取カロリーも凄まじく、栄養失調と脱水症状を起こしていたぞ。栄養剤とヒールウォーターの点滴をしておいた」


「意外と親切なんだな……」目の下を青くさせながらぼんやりと口にする。



「で、コレからお前、どうする?」



 フラットマンはまるでスティーブの未来を本で読んだ後の様な顔をしていた。事実、彼の元にはスティーブの目撃情報を求める声が集まっていた。彼は武器商人であると同時に情報屋でもある上、『スティーブの居所』についての情報料は高く売れた。


「何で俺を売らないんだ?」


「天秤にかけたんだ。このままお前を何も知らない連中に売って終わらせるか……だが、お前に向上心があり、ブースターを使いこなそうって言うなら話は別だ。お前はこの街のチンピラで終わるはずだったが、それ以上の存在になれる。もしかしたら魔王軍から声がかかる程の大物になれるかも知れない。そう、コイツを使いこなせればな」と、ブースターを指揮棒の様に振る。


「それがお前の何の特になるんだ?」


「お前の人生に関われば、それなりの金になるだろ? 武器も情報も人もどこまでも転がり、俺の元に金が集まる……で、提案だ。俺と一緒に来ないか?」フラットマンがにんまりと笑いながら手を差し出す。


「……お前と?」


「俺と来れば、力の使い方がある程度わかるはずだ。もしこの街で成りあがりたいなら、そのうち独り立ちして、一人前になった時にこの街に出戻って好き放題暴れればいい。どうだ? 来ると言うなら、無事この街から出してやる。この手を取らないなら、勝手にしろ。今のお前は多分、ブースターを使っても次の日には牢獄に入るか家畜の餌だ」と、フラットマンは容赦なく口にし、首を傾げながら彼の目を見た。


「選択肢は……なさそうだな」スティーブはブースターを受け取りながら彼の手を取って立ち上がった。


「よし! じゃあ早速行動だ! この鞄の中で半日過ごして貰うぞ!」と、人間1人を折り畳んでやっと入る程度のトランクを開いた。


「やっぱり考え直そうかな……」


「もう遅い。トイレを我慢しないと、酷い目に遭うぞ?」


「……ちくしょうぅ……」スティーブは渋々トランクの中へ入り、結局その中で10時間以上過ごす羽目になったが、フラットマンの手腕もあり、無事サンシャインシティを出る事に成功した。


 そこからスティーブの長く険しい旅が始まった。


如何でしたか?


次回もお楽しみに

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