6.スティーブの物語 Year One 前篇
いらっしゃいませ!
では、ごゆっくりどうぞ
魔王歴15年(アリシア達が魔王討伐の旅を始めた年)。バルバロン5大都市のひとつ、サンシャインシティ(元ランドルグシティ)。ここはファーストシティに次いで発展しており、真夜中でも昼の様に光が照らすウィルガルムが統治する大都市であった。
この都市も他と例外がなく、貧富の差が激しくあり、金持ちの住む大通りとそれ以外が済む貧民街が存在した。金持ちの住む大通りの賑わいはファーストシティ以上であり、所狭しと店や娯楽施設が並んでおり、金持ちたちが済むマンションが立ち並んでいた。
その裏側の貧民街は、元からあったランドルグシティの成れの果てであった。金持ちが捨てたゴミや汚水が流れ着いており、腐臭が立ち込めていた。
そんなバックストリートには当然、チンピラやギャングが幅を利かせており、この街の暗部を象徴とする集団と化していた。ウィルガルムはこの問題に頭を抱えており、近々貧民街のギャングを相当する作戦を計画していた。
スティーブはそんな貧民街の片隅で暮らしており、チンピラ仲間と徒党を組んで大通りで盗みを働いて生計を立てていた。
「今日の稼ぎはどうだ?」仲間のひとりがスティーブを見る。この頃の彼は中肉中背の16歳の若者であり、腕に仲間の記しのタトゥーを掘ってあった。彼はクラス1、つまり魔法の使えない一般人であり、特別頼りになる男でもなかった。
「偽物の時計に、安物のペンダント……20ゼルの入った財布……ぐらいか?」と、本日の稼ぎを大きな袋に入れる。彼らは1日の稼ぎを1カ所に集めて現金に変え、公平に仲間内で分配していた。
「偽物とわかっているなら袋に入れるなよ!」
「足しにはなるかもだろ?」スティーブはため息交じりに酒瓶の中身を呷る。
「だが、今日の稼ぎで1番はスティーブだろ。また空き巣か?」もうひとりが肘で彼を小突く。
「評判の悪い教師の部屋を漁ったんだが、意外と物持ちが悪い奴でな。財布もスったが、素寒貧だった」
「数学のロンか?」心当たりがあるのか、仲間の1人が問う。
「当たりぃ~ 学校近くで小耳に挟んでな。嫌がらせしてくれって頼まれたんだ。で、その報酬だ」と、懐から50ゼル取り出し、袋に入れるスティーブ。
「やるな。今週分まであと……考えたくないなぁ……なんか手っ取り早く金を稼ぐ方法はないかなぁ~」と、頬杖を突きながらビルの谷間から覗く夜空の暗雲を見る。彼らは貧民街の一区画を収めるギャングの下で働いていた。
「もっと田舎へ行けば俺たちでもギルドに登録できるかもな? この街のギルドじゃ……って、俺達がハンターに追われる立場か」
「ちげぇねぇ」と、ケラケラと仲間らはケラケラと笑った。
「抜け出してぇな……この立ち位置から……」と、スティーブは大きなため息と共に汚れた地面に寝転がった。
数日後、仲間の1人が笑顔でスティーブ達の輪に入る。まるで宝くじにでも当たった様な興奮具合で、仲間らは期待に胸を膨らませた。
「見て驚けよぉ!! じゃじゃーん!!」と、1本の綺麗な筒を取り出す。
「なンだこりゃ……」スティーブは訝し気な表情で首を傾げる。
「金目の物かと思ったが……なんだ? 新しいドラッグかなんかか?」他の者らも期待外れだと嘆き、白い目で見た。
「お前ら知らないのか? 今、魔王軍で開発された新兵器の試供品だってよ! コイツを胸に刺すとなんと!! 誰でもクラス4並の超人になれるんだってさ!!」と、疑い知らずの満面の笑みを見せ、筒を振り回す。
「なんて名前だよ、その兵器」スティーブはブスッとした顔で未だに笑顔の仲間を睨む。
「その名もエレメンタルブースター!! 武器商人のフラットマンから無料で貰ったんだ! 無料だぞお前!!」
「怪しいなぁ~ っても、無料か……騙されたと思って使ってみたらどうだ?」仲間の1人が促すと、笑顔の仲間は早速シャツを脱いで胸に刺し、スイッチを入れる。
すると、刺した部分を中心に赤く染まり、全身に赤々とした炎色が駆け巡る。
「キタキタキタぁ!! 最強の力! 熱い、熱いぞぉ!!」仲間は興奮して力む。目の奥から真っ赤に染まり、ついには身体から炎が噴き上がる。
「うぉ! すげぇ! お前、炎使いなのか!?」仲間らは皆、目を丸くして彼を囲み、興奮する様に騒ぐ。スティーブも一緒になって『力』に期待し、目を輝かせた。
が、喜びもつかの間。ブースターを刺した若者の声は悲痛な悲鳴へと変わり、「熱い!」という断末魔と共にその場で血と火の粉を残して消し飛んだ。仲間らを血肉内臓で汚し、彼らのシマでは爆発事件として騒ぎになった。
仲間らは皆、気が動転した様にバラバラになって逃げ出した。スティーブはその場に残ったブースターを握りしめ、同じように悲鳴を上げながら逃げ去った。
貧民街の汚水で返り血を落としたスティーブは、目の前で起きたショッキングな光景が脳裏から離れず、恐怖と怒りに身を任せながらフラットマンを探して回った。半日で武器商人の居場所を見つけ出し、ナイフ片手に1人で怒鳴り込んだ。その場所はボロボロになったアパートの一部屋であった。
「おや、どなたかな? ってか、くせぇ!! 貧民街出身だなおめぇ!!」
「よくも俺の仲間を誑かしてこんなモンを!! 人間爆弾製造用の間違いだろうが!!」スティーブは彼の胸倉を掴み、ブースターを彼に顔に押し付けた。
「おいおいおい! あの人の話を聞かないヤツの仲間か? 俺は説明したんだぜ? 適合しなければ己の魔力暴走に身体が耐えられずに弾け飛ぶってな!」フラットマンは怖気づかずにへらへらしながら説明する。
「ウソを……いや、あいつは確かに……でも、こんな危ないモノを渡したのは事実だし、あいつが死んだのはお前のせいだ!! お前の!!!」と、目を血走らせてブースターのスイッチに親指を乗せる。
「待て待て! そいつは確かに危ないが、確率は半々! 路地裏で弾けるか、最強の力を手にするか! お前らみたいなチンピラには面白い賭けじゃないか?」
「……くっ……ふざけやがって……何故こんなモノを無料で配っているんだよ! ケチな武器商人がよ!!」スティーブは未だに怒り治まらず、呼吸も乱れていたが、スイッチから指を離して落ち着くように深呼吸をしていた。
「上から頼まれただけだ。手頃な、力を欲しがっている若者に使わせろってな! 俺には悪意はないし、ぶっちゃけ儲けも無いタダ働きだ。どうだ? なんか買っていくか? お前らの世界でナイフ一本じゃ生きていけないだろ?」と、大きなカバンを指さしながら口にする。
「……ふざけやがって……二度と俺の仲間に話しかけるなよ! クソが!!」スティーブは目を血走らせながら胸倉から手を離し、アパートから離れた。
「……本当は20人に1人もいないらしいが……ったく、嫌なお仕事だぜ。20本はばら撒いたが、成功者はナシ、か……」フラットマンはぼやきながら埃まみれのソファに座りながら酒瓶を呷った。
その日の夜、スティーブは仲間から呼び出されて再びいつもの路地裏へと向かった。そこにはボスの手下である偉ぶったギャング3人がいた。スティーブはこの3人の事が心底嫌いであった。いつもかき集めた金を根こそぎ持って行き、彼らには何も渡さずただ偉ぶっているだけであった。
「ここで起きた爆発騒ぎ……お前らが中心だそうだが、一体どういう訳だ?」と、チンピラのひとりが仲間に蹴りを入れながらスティーブに近づく。
スティーブはブースターを片手に今までの出来事、フラットマンの説明を口にしてチンピラに手渡す。
「成る程……五分五分の賭けか……成功すれば最強、失敗すれば人間爆弾か……こいつは愉快だな!」と、チンピラは仲間の1人を羽交い絞めにし、ブースターを胸に突き刺して容赦なくスイッチを押す。
「おい! 何しやがる!!」スティーブは激昂してナイフを片手に掴みかかるが、もう2人のチンピラが押さえつける。
「お前らのグループはいつも最低賃金なショバ代しか持ってこないし、サービスも悪いし、いい活躍も聞かないからな……せめて役に立て。次はお前な?」ニヤニヤしながらブースターを突き刺した若者を眺める。
若者は目、鼻、口から夥しい量の水を吐き出し、そのまま汚い地面に溶けてしまう。
「この野郎!! 殺してやるぞチクショウ!!!」スティーブは数発殴られたが、怯まずに悪態を吐き、その場で暴れた。
チンピラは彼の上着をナイフで破き、容赦なくブースターを突き刺してスイッチを入れた。
「さ、お前はどんな風に弾けるんだ?」チンピラは好奇心の眼差しで二歩下がり、苦しむスティーブの様を観察した。
「あ゛……あ゛ぁ……うわ゛ぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」
彼の身体から青白い稲妻が噴き出て埃が始める。バチバチと激しい破裂音が鳴り響き、回りの者は皆、スティーブもこのまま爆散するのだと思った。
が、彼は目を真っ白にして路地裏全体に響く咆哮を上げ、ビルの壁を思い切り殴りつけ、周囲に衝撃波を唸らせた。
「……ん?」チンピラは首を傾げ、目の前で鬼面を張り付けたスティーブを見た。
「覚悟しろよ!! このクソ野郎が!!!!」
如何でしたか?
次回もお楽しみに




