5.大砲に入って飛べ!
いらっしゃいませ!
では、ごゆっくりどうぞ
スティーブ達が廃砦から数十キロ離れた荒野でキャンプを張っていると、彼の仲間の1人が肩を怒らせて歩み寄ってくる。
「おい、話がある!!」彼の片腕にはエレメンタルガンが握られ、魔力が漲っていた。
「なんだよ」スティーブはどんな言葉が飛んで来るか知っている様に顔も向けずに返事をした。
「俺たちとお前らはここまでだ!! そこら中のハンターに追われ、ストルー達はガロンに殺された! 逃げるばかりで疲れ果て、援軍はこの自称吸血鬼たったひとり! もうついていけない!!」と、エレメンタルガンを向ける。
「お前らは所詮、暴れたいだけの雑魚だもんな」
「なんだとぉ?!」向けたエレメンタルガンで威嚇する様に地面へ向かって撃つ。
すると、彼は腕を痙攣させてエレメンタルガンを落として膝が崩れる。他の5人の者らも所持していた得物を取り落とす。
「下手な真似はしない事ね。裸踊りさせてあげようか?」木陰からソフィーが姿を現し、指をコキコキと鳴らす。彼女の指先からはか細い水糸が伸びており、その1本1本が仲間らの首筋に伸びていた。彼女は水魔法で体内の水分を操り、肉体や精神までもを操る事が出来た。
「くそっ……マリーもソフィーもルーイもお前側だもんな……だが、勝ち目はない!! どうせ逃げられずに殺されるんだ!! せめて抜けるだけの自由はくれよ!!」
すると、マリーがエレメンタルライフルを向けながら歩み寄る。
「今日、受け取った武器だけ置いて何処へでも行くんだな」彼女は引き金に指を置き、殺気を込めて睨み付ける。彼女の言葉の数分後、彼らは軽い荷物を背負って夜の闇へ消えて行った。
そんなやり取りを見ていたケビンはスティーブへ歩み寄る。
「いいのか? あいつら、自分の首可愛さに裏切るぞ?」
「大した事は知らないし、俺達が向かう場所も知らない」と、握っていたブースターを懐に仕舞う。
「で、そろそろ邪魔な連中が消えた所で逃亡プランを聞かせてくれないか?」ケビンが問うと、待っていたと言わんばかりにルーイが現れ、彼らの正面に座る。その両サイドにマリーとソフィーが座る。
「運搬や逃亡は俺の専門分野ってね」ルーイがバルバロン南部ウィリベルグ地方の地図を広げ、赤丸を指さす。
彼らの行く先はサンゴイズ港であり、貨物船、漁船から軍艦まであらゆる船が停泊していた。
「その中の一隻を奪うのか?」ケビンが問うと、ルーイが指を振る。
「この港には超巨大砲台が置かれている。隣の大陸の街を吹き飛ばせる程にヤバい奴だ。だから、船を奪ってどんな速い速度でこの国を離れても、その砲台で狙われて終わりだ」彼の言う砲台とは、数ヵ月前にスレイヤーフォートレスを1撃で粉砕したモノと同じ砲台であった。
「じゃあ、その砲台を破壊するのが俺の仕事か?」ケビンは得意げに口にするが、それを見てマリーがバカにする様に笑う。
「案外、討魔団のエースは頭が良くないみたいね?」
「俺は本能で勝手気ままに動くんでね」
ルーイが言うにはその砲台には無属性エネルギー波を撃ち出す事が出来た。魔王軍はそれを利用して可能な限り遠い場所へ大荷物を運搬する技術を開発し、幾度ものテストを成功させていた。それは世界王クリスが使用した無属性砲と同じ原理であった。
「まさか……その大砲に入って飛んで逃げるのか?」ケビンは呆れた様に首を傾げる。
「最速でこの国を脱出するにはそれしかない。グズグズ国内の関所を抜けて逃げ回っていたら、いずれ殺される」ルーイは煙草を咥え、得意げに煙を吐いた。
ケビンはしばらく黙ったまま皆の顔を伺い、溜息を吐く。
「俺はそれでいい。プランBもあるしな」スティーブは異存ないのか腕を組んで頷く。
「プランBって何?」マリーは初耳の様に疑ったように問う。
「どうせ行き当たりばったりで動くんでしょう?」ソフィーは台詞の割には楽し気な表情でスティーブを見た。
「あんたはどうだ? 賛成か、反対か?」ルーイが問うと、ケビンは大口を開けて笑った。
「いいじゃないか! 気に入ったぜ! 大砲に入って飛ぶなんて中々出来ない経験だ!!」と、彼らのプランに乗ると頷いた。
次の日の朝、アリアンは1人で廃砦にやって来ていた。スティーブ達がいた痕跡、捨てた不用品、ケビンとガロンの戦闘痕、更に馬車の車輪痕も確認する。鞄から手帳を取り出し、手掛かりを書き記す。
「合計11人。使い手は3人か。空気に微量の電反応。コイツがスティーブか。で、水使いの反応は……」と、鼻をヒクヒクと動かしながら砦内を歩き回る。その中で食事を食い荒らした跡や武器を調整した台も発見する。
「成る程。エレメンタルガンで武装している、と……で、あの車輪が気になるんだけど」と、別の分厚い手帳を取り出し、目を走らせる。そこにはバルバロンで使われる馬車の車輪の種類が書かれていた。他にも馬の種類やエレメンタルガンの発する魔力の色、匂いなどが書かれていた。
「これは武器商人が利用する馬車の車輪ね……3人一組で動いているとはいえ、まずまずの荷物の重さだったみたいね」と、メモ帳にペンを走らせ、この地域で活動する武器商人の名を調べ上げる。
「3人か……ここら辺だと、試作型フラッシュブラストグレネードを1ケースずつ渡したっけ……そいつらに当たる前に……」と、今度は地図を取り出してペンを走らせる。
「陸路、空路、海路……さて、どれを選ぶか……ストルー一味は陸路からこっそりとチョスコ港へ向かおうとして発見された。一刻も早く国から出たいでしょうに……」と、三つの港に丸を付ける。
「次は海路……どこからか船を奪って逃げようにも、海岸線沿いには海上パトローラーは勿論、砲台が目を光らせている……ナシ。では、空路は? バシス港にはガルムドラグーンが3機停泊している……でも、飛ばす人間がいない……では、どう逃げる? 泳いで? それとも一か八か船で? 確実なのは……」と、アリアンは今迄記入してきた情報を読み漁る。その中にはスティーブは何も考えず強行突破する事、そして仲間らがそれをカバーする事、更にトールという風使いが用意周到に脱出路を用意しているという事まで書かれていた。
「……そういえばこの砲台、試作型アンチエレメンタルショットキャノン砲だったわね……世界の果てまで荷物を撃ち出す事が出来る、用途不明の試作砲台……まさかコイツに乗って逃げる気? ありえない……けど、この一味の中にはケビンが混じっているのよね」と、アリアンは頭を掻きながら首を捻る。
「これだ……これで連中は逃げる気だ……ケビンならそうする、連中ならそうする」と、すぐさま廃砦から飛び立ち、上空で待機してあった飛空艇に乗る。
「サンゴイズ港に連絡! スティーブ一味が向かい、砲台を使って逃げる気だ!!」
それを聞いた部下たちが耳を疑ったような顔をする。
「あの、アレは有人撃ち出しテストはまだ……」
「それでもやるのがバカって人種なのよ。ガロンを拾って向かうわ。今頃、近くの街で朝ご飯を食べているでしょうね」と、アリアンは鞄から干し肉を取り出し、一口で頬張る。壁に掛けてあった神弓に手を伸ばし、弦の状態を確かめる。
「……悪いけど、使わせて貰うわ……ゴメン、シルベウス様」と、鏃を光らせる。
その頃、スティーブ達は一足早く、サンゴイズ港へ到着していた。
「で、こっからどうするんだ?」ケビンは大剣を肩に担ぎ、首の骨を鳴らす。
すると、スティーブ達は臆さず前に出て各々の得意な得物を手にする。スティーブはブースター、マリーはエレメンタルグレネード、ソフィーは水糸、そしてトールはボウガンを取り出す。
「俺たちは一味の中でも突撃担当だからなぁ~」というスティーブの合図と共にマリーが景気よくエレメンタルグレネードを放つ。
「行くぞぉぉぉぉぉぉ!!!」
と、4人は笑みと共に駆け出した。
「そこん所は討魔団の連中と変わらないか……俺も暴れますか!」と、ケビンも続いた。
如何でしたか?
次回もお楽しみに




