4.武器商人フラットマン
いらっしゃいませ!
では、ごゆっくりどうぞ
ガロンが去った後、入れ替わる様に沢山の荷物を積んだ馬車が現れる。そこには3人の男が乗っていた。2人は寡黙な用心棒で小脇にはエレメンタルガンを抱えていた。もう1人の乗り手はどこかの武器商人の様に胡散臭いにやけ面を張り付けていた。
その者を見て見張り役のルーイはため息を吐きながら廃砦内へとへと案内した。
「ここを根城にするとは……玉砕覚悟ですか?」馬車の乗り手が口にし、クスクスと笑う。
「演技でもない。ストルーさんがここに行けって言っていただけだ」ルーイは煙を吐き、短くなった煙草を吐き捨てる。
この武器商人は魔王軍武器工房を出入りできる武器商人のひとりであり、ワルベルトの息のかかる者でもあった。名をフラットマンといった。
すると、そこへ今迄気絶していたマリーが飛び込んでくる。
「例の物は? 出来たの?!」と、馬車の後方荷台の方へ回る。すると用心棒の2人が睨み付けながらエレメンタルガンを向ける。
「その娘はお客さんだ。商品の中で一番でかい物を渡してやって下さい」と、口にする。
用心棒の2人はため息を吐きながら馬車から降り、言われた通り2人がかりで一番大きな木箱を降ろす。バールで開けると、そこには長いバレルの着いた新品のエレメンタルガンが入っていた。
「ジェニットの自信作だ。対魔障壁エレメンタルバレットを発射できる。他にも熱貫通弾、グレネード弾、アンチエレメンタル弾も撃ち出せる。ま、そこまでサービスする気はないが……だが、こいつをやろう」と、木箱を一箱降ろす様に言う。その中には大量の弾薬とフラッシュグレネードが入っていた。
「目晦ましか……ま、使えなくもないが」マリーは口を渋くさせながら箱を閉じる。
「こいつは最近、武器工房に出入りしている光使いの姉ちゃんが手を入れた新作だ。目晦ましどころか、目を焼いて溶かす程だ。瞼すら焼き尽くすヤバい代物だ。気を付けて使うんだな」
「よ、フラットマン。あんたのお陰で援軍が到着した。1人な」そこへスティーブがヨロヨロと現れる。
「1人? 連中は誰を寄越したんだ?」
「ケビンって吸血鬼だ」彼の口にしたその名を聞いた瞬間、フラットマンは目を剥いて驚き、口笛を吹いた。
「ありゃま本当か!! そんな大物をよく寄越したな! すげぇぞ、ドラゴンと戦って頭からしゃぶられた事があるらしいぜ?」
「面白い冗談だ……で、例の物は?」スティーブはそそくさと彼に歩み寄る。
「おう、頼んでおいた物がついに完成したぞ。だが、テストはまだだ」と、スティーブが持つブースターと似た者を懐から取り出し、手渡す。
「元の物もテスト段階だったんだろ? だったら問題ないさ」受け取ったブースターをマジマジと見つめる。
「元のブースターを使えるのが10人に1人だったら、そいつは100人に1人かもな。何せ、使えば正真正銘クラス4になれるって言うんだ。だが、欠点もある。ブレーキが付いていないんだ。使ったらそれまでだ」
「ブレーキなし、か……」
「気を付けて使うんだな。で、他の連中の武器は……一応、黒勇隊でも使ってるエレメンタルライフルを何丁か持ってきた」と、荷台の箱をもう一箱降ろす。
「ありがとうよ……でも、なんでここまで俺たちに武器を?」スティーブが問うと、フラットマンはクスクスと笑いながら彼の目を見る。
「ストルーには世話になっていたし、ワルベルトさんからもよろしくと言われている。それに、お前の手にブースターが渡ったのは俺のせいみたいなもんだからな……あと、おまけだ」と、ヒールウォーターの瓶が1ダース入った箱を渡す。
「こいつが一番、ありがたいかもな……」
「限界がキてるみたいだな……死ぬなよ」と、フラットマンは彼の肩を優しく叩き、足早に回れ右して廃砦を後にした。
「俺たちも早くここを離れるか……」と、スティーブは瓶の中身を飲み干して地面に叩き付けた。
その日の夜、廃砦近くの街のギルドにガロンが入って行く。ここには傭兵や賞金稼ぎ、ゴロツキがわんさかと屯し、騒いでいたが、彼が入って来た瞬間、静まり返った。その中で一番大きな男が凄んで近づいたが、ガロンは素通りして一級ハンターしか入れないドアを開いた。
その中にはギルドマネージャーと接待を受けるアリアンがソファに座り、ティーカップを片手に香りを楽しんでいた。
「その感じ、失敗したみたいね」ガッカリした様にため息を吐いてカップを置いた。
ガロンは腕を組みながら正面のソファにドスンと腰を下ろす。
「思わぬ助っ人がいたんだ。そいつは相当の使い手だった。名は確か……ケビンといったか。吸血鬼だ。しかも特殊な」
「ケビン……それは貴方では勝てない訳ね」と、ガロンへ茶の入ったカップを寄越し、光の雫を垂らした。
「知っているのか?」
「以前、旅をした事があるの……」
「ほぅ……もし、ストルー一味残党の連中を片付けたかったら……」
「訂正。ソフィーという水使いの娘を確保し、スティーブ一味を殲滅して貰うわ」
「……どちらにしろ、我の方にも助っ人が欲しい。あの吸血鬼を無力化、または足止め出来る程の手練れを用意してくれ。情けない話だが、我ではあの吸血鬼には勝てん」
「そいつは私が何とかしましょう。1時間は足止めできるわ。それでいいかしら?」と、アリアンはサングラスの向こう側の眼を怪しく光らせた。
「5分で十分だ。あの吸血鬼さえいなければ、残りは雑魚。今日、あの助っ人がいなければ既に終わっている仕事だ」と、カップの中を一口飲み、美味そうに唸る。
「ひとつアドバイスしてあげる。どんな小物でも、侮らない事。そして、舌なめずりしない事……あ、これじゃあふたつね。情報が入ったら、伝えるわ。それまで待していて。どうせ連中はもう廃砦にはいないでしょうし」アリアンは腰を上げ、光と共にその場から消え失せる。
「……ふん、言われなくとも容赦はせんさ。それにしても美味い茶だな」ガロンは気に入った様に茶の味を楽しんだ。
その頃、スティーブ一行はアリアンが言った通り、廃砦を後にしており、最小限の荷物を持って歩き出していた。
「ジェニットのヤツ、ここ数ヵ月プッツン状態だった割には真面な武器作るじゃん~! こいつならあのガロンも一撃だ!」マリーは大型エレメンタルライフルを両手に楽し気に笑った。そんな彼女の背にはエレメンタルグレネード、更に腰には各属性グレネードを備えていた。
「全身武器だらけね。一押しで花火になりそう」ソフィーが口を尖らせると、マリーは楽し気に笑いながらおどけて見せる。
そんな2人を見てケビンが安心した様に笑う。
「結構な緊張状態だが、いい雰囲気だな。いつもこんな感じか?」
「マリーのお陰かな。あいつはいつも明るく振る舞ってくれる。ちと物騒だがな」と、スティーブが口にしながら地図を見る。彼らはバルバロン南部の海岸線沿いへ向かっていた。そこのどれかの港の船を奪い、国外へ逃げる予定であった。
「ま、俺が来たんだ。大船に乗ったつもりでいるんだな。俺はドラゴンに丸焼きにされても平気なぐらい頑丈だ。いくらでも弾除けにしていいぜ?」
「精々頑張ってくれよ。俺も……絶対死なせないさ、今度こそ」と、ブースターを握りながら奥歯を噛みしめる。
「何が遭ったか知らないが、思いつめるなよ」
「余計なお世話だ。ってか、あんた、本当にドラゴンにしゃぶられたり焼かれたりしたのか?」
「あぁ……まぁ……」
「って事は、俺たちの向かう先にはドラゴンとかそういう化け物がいるのか?!」スティーブは好奇心の眼で彼に詰め寄った。
「いや、なかなかいないと思うぞぉ?」
如何でしたか?
次回もお楽しみに




