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ゴッドレス・ワールズ・ファンタジア  作者: 眞三
第5章 バルバロンの闇と英雄の卵たち
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3.悪魔のブースター

いらっしゃいませ!


では、ごゆっくりどうぞ

 ケビンを真正面から睨み付ける刺客は、太い腕を組んで仁王立ちしていた。その者は六魔道団のひとりであるソロモン・ディアブロンの弟子の1人であり、大地魔法主体の格闘技『ボルカディ』の使い手であった。この格闘技は心技体魔大地の5つを極める事に重きを置いていた。ボルカディを極めたソロモンは大山を割る事が出来る程であった。


 この男はその弟子の中でも実力者であり、自分の道場を持つ程であった。名をガロンと言った。


 彼は木の影からヌッと現れ、姿をハッキリと露わにする。


「そこの者は、ストルー一味残党の者か?」ガロンは重々しく口を開く。


「……いいや? 助っ人だ」ケビンは全く物怖じをせずに返答する。


 すると、隣で立っていたマリーがカタカタと震えてエレメンタルランチャーを殺気と共に向け、引き金を引く。ガロンはその弾を握り潰し、手の内で炸裂させる。彼の手は真っ黒に焼け焦げるだけで、彼は眉ひとつ動かさずに手を払った。


「こいつだ!! あたし達の仲間を、ストルーさんを殺した奴は!!」マリーは次弾装填しながら間合いを詰めようと駆けだすが、それをケビンが軽々と止める。


「成る程、因縁があるのか。まぁまぁ落ち着け」


「落ち着いてられるかぁ!! こいつが皆を!! こいつが!! こいつがぁ!!」今迄冷静だったマリーが打って変わって殺気立つ獣の様に荒れ狂い、ケビンにも噛みつく勢いで殺気を撒き散らした。


「赤の他人だったら別に止めないが、今の俺はあんたらの助っ人だからな。俺の目の前でみすみす死なせる訳にはいかないんだよ」と、ケビンは軽く彼女に当身を喰らわせ、自分の後ろに寝かせる。「さて、お帰り頂こうか。あんたの眼ならわかるだろ? 俺には絶対に勝てないってな」


「うむ……ソロモン様が唸る程に強いと言わしめたヴレイズの隣にいた男だったな……あの戦いは遠くで見させてもらった……勝てないと分かっていても……」と、両腕を広げて構えて見せる。


「ま、そうだよな。折角、来たんだからな~」ケビンはそこでようやく背中の大剣に手を掛けた。


 次の瞬間、間合いが潰れて両者が激突する。ケビンの抜剣がフルスピードになる前にガロンが彼の手を抑える。それだけで周囲に突風が吹き荒れ、両者の踏み込みんだ地面に大皹が入る。


「へぇ~、やるなぁ~」ケビンは口笛を吹いてニヤリと笑う。彼のこの一撃を正面から受け止めたのはロザリア以来であった。


「流石に腕で刃を受け止める勇気はなかった。が!」ガロンはケビンの腕を掴み、一本背負いの要領で投げ飛ばす。


 が、彼ははそのまま着地し、逆にガロンを投げ飛ばす。


「ぬぉお!!」と、彼は森の木をなぎ倒しながら飛ばされ、何とか着地する。


「おぉ、よく飛んだな~」大剣を背に仕舞い、両手に唾を付ける。「互いに拳で語り合うか?」


「その方がありがたい!」と、再び2人は激突し、廃砦前で突風が吹き荒れた。




「くっそぉ……どうなってんだ……」廃砦内のベッドの上でスティーブはヒールウォーターの小瓶の中身を飲み下しながら嘆く。


「……段々持続が難しくなって来ているね」ソフィーが布で彼の顔の血を拭いながら口にする。


「リーダーみたいに……ストルーさんみたいには戦えないのか、俺は……」と、金属筒を握ったまま頭を押さえる。


 彼の使う金属筒は、『エレメンタルブースター』という魔王軍が開発したドーピング兵器であった。これを使った者は例え魔法の使えないクラス1でも、忽ちクラス4の魔力を使えるようになる恐るべき代物であった。が、これはまだ試作品であり、これを真面に使える者は一握りであり、適合できなければその場で魔力暴走を起こして爆散する事となった。使えても数秒であり、スティーブの様に10秒以上使える者も更に一握りであった。身体への負担も凄まじかった。説明を聞くだけだと試す気も起きない程に危険な代物であったが、これには『ブレーキ』があり、肉体限界が来ると強制的に魔力循環を通常に戻す事が出来た。因みにこれはブースト出来る者のみに用意されたブレーキであり、そもそもブーストを成功させる事が出来なかった者は問答無用で爆散する事になった。


「……スティーブはよくやってるよ……」ソフィーの手が震え、涙声になる。


「悪い、俺が弱いから……」


「弱くなんかない……弱いのは私……」


「ソフィー?」と、2人が見つめ合っていると、それに割って入る様に男が現れる。彼はこの一味の偵察担当であるルーイであった。


「今戻った。外の騒ぎは? あれが助っ人か?」


「多分そうだ」スティーブは彼女から目を背け、彼に目を向ける。


「多分じゃ困るんだが」


「あぁそうだな。ソフィーのチェックも含めて、助っ人で間違いない」


「たったひとりか……だが、有象無象を1ダースよりは遥かにマシかもな。あいつが相手にしてるヤツ、ストルーさんの仇だ」ルーイは萎びた煙草を一本咥え、火を点ける。


「な……に?」スティーブは急にカタカタと震え始める。


「……何度も言っているが、あれはあんたのせいじゃない。あそこでお前が突っ込んでも、勝てる相手じゃないし、仲間たちを助ける事も出来なかった。冷静に対応して、俺達と一緒に逃げてくれた。だからまだ生きてられるんだ」と、煙を吐く。


「……そうだよ……あれは私達の居場所をリークしたマーヴの仕業よ」ソフィーが付け加え、安心させるように背中を摩る。



「ふざけるな……っ!! 今度こそ俺が、皆を守るんだ!!」



 スティーブは勢いよく立ち上がり、正門方面へ向かって歩き始め、徐にエレメンタルブースターを胸に突き刺す。が、まだ身体が万全ではなかった様子で、急に立ち止まって膝を震わせて蹲り、また激しく吐血する。


「スティーブ!! もう、連続使用は止めろって言われたでしょうが!!」ソフィーが彼に駆け寄り、肩を貸してベッドへ引き戻す。


「ここ最近は使いっぱなしだったもんな……」ルーイも手伝って彼を無理やりベッドへ寝かせ、エレメンタルブースターを取り上げる。


「なにすんだよ……」


「回復するまで、こいつはお預けだ。たまには俺たちに頼れよ。どれ、俺も加勢にいくかね」と、彼は軽い足取りでケビンとガロンの戦う正門へと足を向ける。


「どうせ野次馬でしょ」ソフィーは布を濡らしてスティーブのおでこに乗せながら言う。


「それが偵察の仕事だ」と、煙草を踏み潰して駆け出した。




 その頃、ケビンとガロンは己の拳を顔面やボディに突き刺し合っていた。互いに楽しそうに笑み、代わりばんこに殴り合い、血煙を上げる。


「いい殴り合いだ……だが、この拳の手応え……貴様、人ではないな?」数千人もの拳法家と手合わせしてきた彼は拳に違和感を覚えていた。


「お、わかる? 俺、吸血鬼なんだよね」殴られた個所が再生していき、その説得力が増す。が、彼らの戦う場所には日光が差している為、その説得力が失せる。


「何故、日の元で無事なのだ?」


「俺も色々あってね~ で、まだ続けるか? 疲れてきたから、そろそろ本気出すぞ俺」と、大剣に手を掛ける。


 すると、ガロンは一歩間合いを離して手を差し出した。


「いや、今日はこのぐらいにしておこう。ストルー一味残党程度なら無策で十分だが、お前が助っ人にいるなら話は別だ。出直すとしよう」


「そうか。俺も、ここでお前を〆るのは造作もないが、俺は弱い者いじめが嫌いでな」と、大剣を握ったまま挑発する。


「……弱いモノ、か……確かに。ここで俺が逆上して飛びかかったら、今度こそ俺の首が飛ぶのだろうな……出直させてもらおう」と、ガロンは冷静な足取りで姿を消した。


「ちっ……ノって来なかったか……」ケビンは口血を拭いながら踵を返し、地面に転がったマリーを抱きかかえた。「さて、これでやっと話が進むな」


 そんな2人のやり取りを観察していたルーイは震えた手で煙草に火を点けていた。


「……とんでもない奴が助っ人になったもんだな。これなら、ここを死に場所にしなくて済むかもな……ストルーさんは逆にここで死にたかっただろうに……」ルーイは自嘲気味に笑い、マズそうに煙を吐いた。


如何でしたか?


次回もお楽しみに

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