197.光と闇の対峙
いらっしゃいませ!
では、ごゆっくりどうぞ
ところ変わってバルバロン首都ファーストシティの城の奥深くの牢獄。そこにはローズが一糸まとわぬ姿で天井から吊り下げられていた。人造人間と戦った傷はある程度、完治しており視力も戻っていた。首には封魔の首輪をガッチリと嵌められ、雷魔法は滲み出す事すら出来なかった。
そこへハイヒールの音を鳴らしながら秘書長ソルツが現れる。
「良い格好ね、ローズ」彼女の無様な姿を目にし、ニヤリと笑う。が、油断せずに間合いを取り、2歩程離れる。
「そっちこそいい趣味ね……あちこち弄って玩具を全部取り上げてくれて……」全裸ではあったが隙を見せない表情で彼女を睨む。吊られていても隙があれば蹴りを一閃出来る程の体力は回復していた。
「貴女は魔王様の命令で、ここで地獄を見てもらうわ。絶対に逃げられないし、助け出される事も無い。そして、死ぬ事も……」
「なに? 貴女が直々に拷問してくれるの? 至れり尽くせりね」
「今、最高の拷問官を呼んでいる所よ。それが来るまで、私が暇つぶしに……」と、手に持った装置を前に突き出す。それはボウガンの様な形をしていたが矢は番えていなかった。その代りにラッパの先の様な形をしていた。
「それは?」
「兵器開発部が好奇心で作った玩具よ。試してみなさい」と、トリガーを引く。
次の瞬間、ローズは弓なりに仰け反り、部屋中に響く悲鳴を上げる。彼女の頭の先からつま先まで奔る神経に茨が走り抜けていた。片目を限界まで剥き、次第に全身の血管が浮き上がってうねる。
「原理は解らないけど、特殊な音波と水魔法を組み合わせた波動が出て、神経を刺激するらしいわ。どんな痛みかは知りたくもないけど、貴女がこんなに騒ぐなら相当なんでしょうね」ソルツは淡々と口にしながらもトリガーを引き続け、ローズが激痛に苦しむ姿を眺めた。が、あまりやり過ぎると死ぬと悟り、指を離す。
ローズは汗だくになって大きく肩を動かして呼吸を繰り返し、喉が裂けたのか血を吐き出す。
「はぁっ! はぁっ! はぁっ……目覚ましには丁度いいわね」精一杯強がりを見せ、ソルツを血走った目で睨む。
「いい根性ね。貴女の余裕の皮の向こう側を見てみたいわ」と、またトリガーを引く。
そこからソルツはローズを生かさず殺さず満足に休ませずに拷問を繰り返した。30分が過ぎる頃、ローズは嘔吐と失禁を繰り返し、顔面は涙と鼻水に塗れていた。
「そろそろ限界かしら? それにしても、何で貴女みたいなゴミが魔王様の娘を誘拐なんて……」
「あ……が……か……っ……」ローズは聞こえているのか、何も言い返せずに天井を見上げたまま激痛の余韻に身を捩っていた。
「貴女と一緒に誘拐事件を起こしたアリシアだったかしら? 魔王様が欲しがっているけど、あんな小娘に何の価値があるのかしら? ただの光使いでしょうに……」
「ア゛……リ゛シア……を、お前らが手に入れられるわけがないでしょう……?」
ローズは涎で溺れながらも口にし、天井のシミを見ながら息も絶え絶えで口にした。
「何を根拠に?」
「あいつの意志はアタシよりも堅い……例え魔王を目の前にしても、決して降伏するような事はない……そして、ただで殺されるような事もしない……あいつはそう言う奴だ」
「それが何? 魔王様は手に入れると決めたら絶対に手中に収めるお方よ?」
「手に入れられないモノもあったでしょう? 預言者の石板とか、ナイアさんとか……今回も無理でしょうね」ローズはクスクス笑うと、ソルツはまたトリガーを引いた。この激痛は馴れる事が無い様子だった。肺の中の息を悲鳴と共に全て吐き出し、激しく痙攣し、気絶と覚醒を繰り返す。
「誰に意地を見せているつもり? もうじき拷問官が来て、貴女は更なる地獄へ行くのよ。そこで聞かせてあげるわ。アリシアが我らが軍門に降るのをね」
シルベウスからの逃走命令が頭に響くと同時に、アリシアの眼前の闇から魔王が生えてくる。彼は勝利を確信した様な笑顔を覗かせ、彼女の手の届く距離まで近づいた。
「あ……あ……」呆気にとられ、不意に猛獣に遭遇した少女の様な声を漏らす。
「初めまして、アリシア・エヴァーブルー。俺様が魔王だ」
魔王は丁寧にお辞儀をし、彼女の次の行動を観察する。
アリシアは小刻みに震えて大汗を掻き、息を飲んでいた。間違っても憎き仇を目の前にした姿ではなかった。
「その様子、随分揺れた様だな? 今迄、何度俺様の影と遭遇した? ……ほぅ、4度か。シルベウスも首を絞める様な真似をしたモノだ……」アリシアも瞳を覗き込み、彼女の心中の闇を探る。
「な、何故ここに? 創造の珠は?」聞いていないと言わんばかりに混乱し、ここに来てやっと間合いを取る様に魔王から離れる。
「今回の大規模作戦。正直、破壊の杖や創造の珠はおまけだった。あれらは今、手に入れなくても問題ない代物だ。だが君だ、アリシア。俺様は君の様な光使いが欲しいのだ。君を手に入れる為に、今迄の作戦を進行してきたのだ」
「な……何故、あたしがお前の仲間に?! だ、誰がなるか!!」アリシアは全身に魔力を漲らせ、光を滲み出し、弓を構える。
「そう言う割には、随分と揺れているみたいだな? 君はどう思う? この世界……救う価値はあると思うかね?」魔王は全く身構えず、彼女の周囲を浮遊する。
「世界……」アリシアは唾を飲み込み、今迄彼女の心中を苦しめる言葉が響き始める。
「君はシルベウスの元で学んだだろう? 光魔法について、光の歴史について、そして世界の歴史の真実……あそこなら事実を包み隠していない文献がいくらでもあるだろう? それを読んだ、だろ?」魔王は徐々にアリシアに距離を詰めていく。
「……読んだ……」奥歯から絞り出し、目を瞑る。アリシアに取ってその内容はショックであった。
「光と闇の戦い、神聖存在と人類の戦いを経て、覇王の時代の到来……世界は何処まで行こうと、醜いままだ。それでも救う価値があると思うか?」
「…………っ」彼女は即答できず、息を止める様に唸り、拳を握る。
「救う価値はもちろんある! 故に俺様はこうやって頑張っているのだ! 君にも協力してほしいと思っている!」
「あたしが?」
「迷っているという事は、もはや君は大局しか見れていないのだろう? 村を燃やされた恨みは捨て、仲間を見限り、俺様と共に世界を救いたいのだろう? 俺様はそんな君と共に世界を争いの無い世界へと導きたいのだ」と、魔王はアリシアに手を差し伸べる。
「ぅ……ぐ……」今にも手を伸ばしそうになるが踏み止まり、また唸る。
彼女はこの2年ほど、悩みに悩み続けた。彼女自身の目的は魔王討伐であったが、シルベウスの元で得た知識、世界の真実を知って絶望した。その上、彼女はバルバロンの黒勇隊本部で情報を漁り、魔王の真の目的を知って更に揺れてしまっていた。
魔王は世界を救おうと本気で考えており、その方法にアリシアは同調してしまっていた。
更に、ラスティー達から魔王を倒した後の話は聞いておらず、この後の世界を憂うようになっていた。その為、彼女は仲間を捨てて魔王軍へ寝返ろうと何度も悩んでいた。
しかし、やはりヴレイズ達を裏切る事は出来る筈もなく、自分は余計な事を考えずに戦おうと心に決めたのだった。
が、眼前に魔王が現れた事で再び揺れてしまったのであった。
「あたし……は……」
「答えを聞かせてくれ、アリシア」そんな魔王の顔面に彼女は光の弓矢を撃ち込み、鋭い眼光を向けた。
「あたしは魔王を討つと心に決めた狩人だ!! 眼前に現れたのなら、狩るまで!! ここで長い戦いを終わらせてやる!!」アリシアは緊急時用に心中で『ピピス村を焼かれた時の記憶』『仲間たちとの思い出』を光魔法で炸裂させ、無理やりいつもの自分に戻り、弓を引いた。
魔王の顔面には光で焼かれて大穴が開いていたが、一瞬で真っ黒になり、魔王の顔が元に戻る。
「そうか……そう言う所はお前の両親にそっくりだな……忌々しい!!」魔王は両腕に闇を蓄え、殺気を滲み出した。
如何でしたか?
次回もお楽しみに




