194.創造の珠争奪戦 神殿の崩壊
いらっしゃいませ!
では、ごゆっくりどうぞ
エルが息を吹き返し、作戦が終了し、あとはデストロイヤーゴーレムの爆散を見届けるだけとなり、輸送機は遠巻きに様子を見ていた。作戦はほぼ成功と言えたが、キャメロンの部隊は数える程しか残らず、声を上げて喜べる状況ではなかった。
「キャメロンさん、とりあえず応急処置をするんで、我慢して下さいよ……」ヴレイズはあまり見たくない様に顔を背けながら彼女の折れた脚に手をかける。彼女の脚は脛からぽっきりと直角に折れており、骨が飛び出て靴下に引っかかっていた。ここまで見事に折れているのは見た事が無く、乗組員全員目を背け、ベンジャミンに至っては吐き気を我慢して操縦に集中していた。
「大丈夫だよ。全然痛くないし、思い切りやっちゃって!」と、全身の痛みを堪えながら笑う。因みにミランダはエルの傷に集中している為、炎属性同士と言う事もありヴレイズに任せていた。
「思い切りやっていいんだな?」と、彼はまず邪魔な靴下を折れた骨からゆっくり引き剥がす。
すると、キャメロンは海老反りになって声にならない悲鳴を上げ、ジタバタとその場で暴れた。
「~~~~~~~~~~~~~~っっっっ!!!!!!!」
彼女の脳内アドレナリンが切れたのか、靴下を脱がせたショックのせいか、キャメロンの折れた脛の激痛が今更、彼女の脳天を貫き、今迄経験したことの無い激痛に襲われていた。
「だよな、痛くないわけないよな」経験があるのか、ヴレイズは同乗しながらも淡々と靴下とブーツを脱がせ、脚をまっすぐ伸ばそうとする。
「まてまてまて痛い痛い痛い!! 鬼か! ちょっと待って!!」折れた脚を庇う様にヴレイズから逃げようとするキャメロン。
それを見てミランダが呆れた様にため息を吐く。
「お前、いい大人で討魔団の隊長なんでしょう? 恥ずかしくないの?」
「恥ずかしい恥ずかしくないの問題じゃないんだよ!! 痛みを消す魔法とかないの?!」
「意外と無いんだよな……それに、無痛だと治療経過とかわからないし……痛みを無くす薬に世話になった事はあるが……」と、ヴレイズはバースマウンテンでの事を思い出す。
「痛みを和らげる魔法といえば水魔法だな」ミランダは回復魔法についての知識が深かった。エレンもといマリオンのいるキャンプまで1時間以上かかった。
「じゃあそれまで我慢する!! マリオンに治して貰う!!」
「子供みたいな我儘言うんじゃないよ……」ヴレイズはため息を吐きながら逃げる彼女に近づく。
「我儘言わせてよ!! あのデカブツを破壊したんだから!! 作戦をせいこ……う?」と、デストロイヤーゴーレムの方を不思議そうに見る。予定通りなら既に爆発する時間であったが、未だに巨人は健在であった。
「そうだよ、もう脱出してから時間がたつのに、まだ爆発しないって事は……どういう事だ?!」ベンジャミンは慌てた様にキャメロンに詰め寄る。が、彼女の脚が目に移り、慌てた様に眼を覆い、子供らしい悲鳴を上げる。
「まさか爆弾を止められた……?」キャメロンは首を傾げ、マジマジと窓の向こうの巨人を見る。
「いや、アレは止める事は出来ない!! 無理やり止めたら即時爆発するようにしました! 父さんにだって止める事は出来ないです!!」と、ベンジャミンは確信を持って力説する。
「じゃあ、どういうことよ?」キャメロンが不服そうに唸る。すると、物騒なゴキリという音が鳴る。「ん? ん! ん!?」
「よそ見してる間に真っ直ぐしたぞ」と、いつの間にか彼女の折れた脚を真っ直ぐに伸ばし、ヒールウォーターの沁みた包帯を巻いていた。
「んぎゃぁおぉぁぁおああおあおあお!!!!!」思い出した様に彼女は再び悲鳴を上げ、跳び上がった。
「一体どういう事なんだ……?」ベンジャミンは奥歯を鳴らしながら拳を握り、鼻息を荒くしながらも破壊巨人の周囲を旋回した。
ところ変わってバルバロン南海岸沿い。ここでは各所にロザリアや六魔道団の3人が散って港を津波や嵐から守っていた。ノインという海を見守っていた神聖存在がいなくなったことで海の秩序は乱れ、今や世界を飲み込む勢いで荒れに荒れ、大陸を津波と嵐が襲い掛かっていた。
「堪らないわ……こんな酷い海は初めてね」連続で襲い来る津波を水魔法で受け止め、参った様な表情を覗かせるメラニー。
ウルスラは氷魔法で大海原そのものを氷に変え、嵐による弾丸の様な雨も凍らせて操り、港町を守っていた。
スネイクスは大嵐を風魔法で操って竜巻に変え、津波へ向かってぶつけて海を割っていた。それにより最低限、港を守る事が出来ていた。
が、流石の六魔道団でも疲れが見えてきており、これ以上強い津波や台風が現れたらスリ潰れてい舞いそうな弱々しさが見て取れた。
その一方、ロザリアは一の太刀で津波を割り、台風の強風を二の太刀で吹き飛ばしていた。それを延々と繰り返し、自然災害すらも斬り裂き、港を守っていた。他の3人が弱る中、何故か彼女は生き生きとした表情を覗かせ、鎧を脱ぎ捨て、二振りの魔剣を振って目の前の荒れ狂う自然を斬り裂いていた。
「まだまだいけるぞ!! どんどん来い!!」と、彼女は港の住人が冷や汗を掻く中、まるで楽しい鍛錬をするかのように災害を相手し続けた。
「さぁ、フィナーレだ」ウィルガルムはレバーを引き、デストロイヤーゴーレムの照準を操作する。主砲の先は海の中であった。ベンジャミン達はその意図が分からず、首を傾げるばかりであった。
「さて……エクリス、後は頼んだぞ……そして、次の俺によろしくな」と、目を瞑り、主砲のスイッチを押す。
すると、最後の力を振り絞ったアンチエレメンタルフュージョンカノンが火を噴く。海面を貫いて海中を進み、目的地を紫光が照らした。
そこは海底神殿であった。そこの守護を任されていたリヴァイアの分身が目を見開き、急いで脱出を試みたが手遅れであり、あっという間に神殿は無属性の奔流に押し潰され、跡形もなく消滅した。
主砲が無属性を吐き終わると、海面に巨大なトンネルが作り出されるが、数秒後に凄まじい波を発生させながら海が元に戻る。
「作戦は成功だ……さて、討魔団やククリスは何処まで読んでいたかな?」と、ウィルガルムはニヤリと笑った。次の瞬間、キャメロンの仕掛けた無属性爆弾のタイムリミットが訪れ、紫光が炸裂する。
ミッドオーシャン洋上で再び無属性の大爆発が巻き起こり、輸送機は慌てて爆発範囲から遠ざかる。
「うわ! 爆発したぁ!!!」キャメロンは仰天しながら無属性の光を瞳に映し、目を丸くする。
「報告通りなら4分遅れて爆発した……一体どういう事だ? 僕の計算違いか?」ベンジャミンは頭を掻きながら納得できない様に唸る。が、瞳には涙が溢れており、俯いた。
「兎に角、作戦は成功だな」ヴレイズは安堵した様に息を吐き、キャメロンの脚の治療を続けた。
「父さん……僕は……」嗚咽を上げて泣き、肩を揺らすベンジャミン。
そんな彼を察してキャメロンが背後へ近づく。
「向こうも承知の筈だよ。こちらは出来る事をやったまで。気に病む必要はない……けど……うん……」と、口をもごもごさせて肩を叩き、頷く。
次にヴレイズが近づくが、何も声を掛けることなく安心させるように彼の背を温めるだけに止めた。
「でもおかしいな? 魔王軍は海底神殿へ破壊の杖を捜索する予定だったハズ……何故あんな真似を?」鼻水を啜りながらベンジャミンが疑問を口にする。
すると、荒れ模様だった大海原が更に不機嫌になった様に荒れ狂い始めた。
「嫌な予感がするなぁ……」ヴレイズは唾を飲み込み、アリシアが向かった空へ顔を向けた。「アリシア……」
如何でしたか?
次回もお楽しみに