193.創造の珠争奪戦 蘇生の炎
いらっしゃいませ!
では、ごゆっくりどうぞ
満身創痍のキャメロンは海へ飛び込み、一心不乱で沈んだエルを探した。全身複雑骨折し、満足に泳ぐ事すらできない筈であったが、無理やり魔力循環を行って身体を動かし、沈む彼を見つけ出し、潜っていく。息を吐く度に血が混じり、無視できない痛みが脳天から突き抜け、何度も気絶しそうになるが、彼女は全身から炎を噴出させて海水を沸騰させ、エルの腕を掴む。
が、力尽きたのか息が切れたのか、キャメロンはそのままエルと共に真っ赤に染まった海の底へと沈んでいきそうになる。
そんな彼女の背後から力強い腕が伸び、勢いよく引いた。
ヴレイズとウィルガルムは最後のブン殴り合いを演じようとした瞬間、2人は急に止まる。互いの顔面に拳が届く寸前で示し合わせた様に引き、互いが引き留められた方角へと顔を向ける。
「……今はこんな事をしている場合ではなさそうだ……」ウィルガルムはメットの中で鳴り響くアラート音を聞き、冷や汗を掻いていた。この音は警備を任せていた人造人間がやられた事を知らせる音であった。彼の最高傑作であった為、ショックは大きく狼狽していた。それだけでなく、デストロイヤーゴーレムに最大の危機が迫っている合図でもある為、今すぐにでも戦闘を中止して戻りたい気持ちで一杯になっていた。
ヴレイズはエルとキャメロンの生命の危機を感じ取り、今すぐにでも飛んで行こうと構えていたが、ウィルガルムの言葉に耳を疑っていた。
「奇遇だな……俺もこんな事をしている場合じゃなさそうだ……」
「本当なら徹底的に殴り合って勝敗を決めたかったが……決着は次までお預けだ。だが、いいか? 次に会う時、俺は今の俺ではない……容赦なく無属性や闇属性を使って、楽しむ間もなく戦いを終わらせるだろう。お前も出し惜しみせず全力で来るんだな」
「妙なアドバイスだな……じゃあ、その時まで!!」と、ヴレイズは高速で海中へと突っ込んだ。
「ったく、俺のデストロイヤーゴーレムに侵入とは一体どこから?」と、ウィルガルムはハッチを開いてコクピットへと戻り、内部の異変調査を開始した。
それを見ていたミランダは首を傾げながらもヴレイズの潜った海面へと近づく。
「戦闘をほったらかして何を? 成る程……」察したのか、ミランダは空中を旋回していた輸送機を呼びに向かう。
ヴレイズは小さくなった命の灯へ一直線に向かい、力の抜けたキャメロンを抱える。更に、息が完全に止まったエルも掴み、力強く引っ張り海面へと浮上する。
2人を抱え、海上へ上がると、ベンジャミンの乗った輸送機が出迎える。彼は直ぐに2人を乗せ、容態を確認する。
「作戦は!! 成功したんですか!!」ベンジャミンは彼女に作戦の可否を問おうとしたが、そういう場合ではない事を悟り、閉口する。
ヴレイズは落ち着いてキャメロンに蘇生処置を施し、海水を吐かせる。
彼女は意識を取り戻した瞬間、ヴレイズの手当てを振りほどいてエルを揺さぶった。
「エル! エル!! 起きろ!! こんな所で死ぬな!!!」彼女が彼の絶命を一番わかっていた筈であったが、呼びかけるのを止めなかった。彼の腹には大穴が開き、腸が飛び出ていた。心音は無く、瞳孔は開いていた。誰がどう見ても絶命しており、残った隊員らは涙し、ベンジャミンは唖然としてその場に立ち尽くしていた。
「ふざけるな!! あたしは、あたしは……っ!」彼女は今回の作戦で死ぬのは自分だけでいいと思っていた。潜入作戦の際、部隊の半数以上を失い、自分の不甲斐なさを味わい、脳裏にバルバロンでの悪夢の戦いを思い出した。その上、更にエルまで失う事となり、彼女の心は張り裂けそうになっていた。最悪、自分の命を犠牲にしても作戦を成功させようと心に誓っていたが、この様な結果になりキャメロンは隊員たちに初めて涙を見せた。
「俺だって御免だ……」
ヴレイズは神妙な顔で目を閉じ、魔力循環を緩やか且つ、今迄に見せたことの無い穏やかな炎を滲み出し、エルの身体を炎で包み込む。
「キャメロン、エルの手を握っていてくれ……」と、目を瞑り、彼の身体に集中する。彼女は無駄口を叩かず、両手で彼の手を強く握り、神に祈る様に額を付ける。
「ヴレイズ……一体を?」ミランダは今迄見たことの無い炎を目の当たりにし、興味深そうに唸る。
「ミランダさん、腹の傷の治癒を手伝ってくれますか? 俺の魔力に合わせて下さい」
「う、うむ……」反論せず、大人しく従うミランダ。炎よりも風の方が回復魔法に向いており、治療技術も彼よりも圧倒的に上である筈であったが、何故か彼女は大人しく彼の指示に従った。
ヴレイズはまず彼の身体ではなく、魂の在処を探した。いくら蘇生を試みても、人によっては直ぐに魂が離れて冥界に向かってしまうのであった。
「よし、エルの魂はまだ身体にしがみ付いている! これなら……」と、自分の魔力循環をエルの身体に経由させ、心臓をゆっくりと動かしはじめる。更に脳へと酸素を送り込み、息を吹き返す準備を行う。
その間にミランダは風魔法で腹部の大穴を治療する。彼女の治療技術は恐らく世界5本指に入る程であり、あっという間に傷を塞いでしまう。
「取りあえず傷は塞いだが……」と、ミランダは一歩引いてヴレイズの治療を観察する。
「ありがとうございます……あとは……」と、彼の頭を両手で触れ、目を閉じる。すると、白くなった肌が色付いて紅潮し、彼の身体に体温が戻る。
次の瞬間、エルの息が戻り、安堵した様に呼吸を始めた。
「エ……ル?」キャメロンは自分の目を疑い、エルの手を握る。すると、弱々しく握り返してくるのを感じ取り、彼女は俯いて啜り泣いた。
「一体……どうやったんだ? こんな治療、いや……蘇生法か?」ミランダは自分の目を疑った。
「俺にもよく分かりませんが……命に、蘇生に必要な事を全力でしただけです……ミランダさんがいなかったらこんなに上手くはいきませんでした……ありがとうございます」
「いや、腹の傷の治癒は大した事では……呼吸と体温を戻すなんて、風魔法には……お前のは本当に炎魔法なのか?」
「もう自分にもよく分かりません……ただ、やっと……助ける事が出来た、かな……?」と、ヴレイズは安心した様にため息を吐き、ここでようやくエルにヒールウォーターをゆっくり飲ませた。
「ヴレイズ……」キャメロンは涙を拭いながら笑顔を覗かせる。
「なんだ?」
「あたしの身体も……お願いできるかなぁ~?」今更になって自分の身体の重傷を思い出し、吐血しながら倒れ伏した。
「あ゛ぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」
ウィルガルムはすぐさまキャメロンの仕掛けた爆弾を見つけ出す。が、停止ボタンは無く、あと1分で爆発であった。
「潜入路はまさかの主砲口か……こいつはどこで手に入れたモノだ? だが、ベンの見立ては正確だな。流石、俺の息子だ……」と、無属性爆弾を手の平で転がし、左腕のコンソールを叩き、数本の触手の様なコードを伸ばして接続する。すると、残り1分だった表示がグルグルと回転を始める。
「確かに停止する事は出来ないが、時間の細工は幾らでもできる。甘いな、ベン。だが、これで散っても構わんぞ……作戦が終わったらな」と、デストロイヤーゴーレムの損傷状況を確認する。全身の武装は主砲を残して全て破壊されており、手足の関節が破壊されるのも時間の問題であった。無属性爆弾は残り7分でスタートし、彼は元の場所へ戻す。
ウィルガルムはコクピットへと戻り、主砲の準備を進める。討魔団の妨害がくる前に最後の任務である海底神殿探索の為の準備を始めた。
「最後の咆哮だ。とくと見るがいい! そしてベンよ……お前の爆弾で俺とこいつは心中するとしよう!」と、どこか嬉しそうに口にし、アンチエレメンタルフュージョンカノンのスイッチを撫でた。
如何でしたか?
次回もお楽しみに




