192.創造の珠争奪戦 石頭カチ割れ!!
いらっしゃいませ!
では、ごゆっくりどうぞ
「そろそろ本気で行くぞ!」ウィルガルムは身体が温まってきたのか、パワードスーツに身体が馴染んできたのか、攻撃に速度と鋭さが乗り始める。グレイスタンで彼と交戦した時、まるで自己紹介をするようにパワードアーマーのエレメンタル兵器を駆使して戦っていたが、今は1人の戦士として遊ぶ事なくヴレイズと拳を交えていた。
「堅いし、やり辛いし、やっぱ強ぇし……だが、リノラースさん程じゃないな! 勝てるぞ!!」ヴレイズは目を輝かせ、巨大な拳を迎撃する。時には熱線を、また赤熱拳、赤熱蹴りを放ち、更に炎の分身を織り交ぜてひたすらに押す。
ウィルガルムはヴレイズの小細工をエレメンタル兵器の衝撃波で掻き消し、ヴレイズひとりに集中する。実際には左腕に仕込んだチェーンナックルを使うことも出来たが、これは容易く破壊されると読み使用せず、彼は小細工を使わずに闘った。
更に、彼は使おうと思えば無属性や闇属性を詰んだパワードスーツを装着して戦いに臨めたが、それでは戦いを楽しむ間もなく無粋に終わってしまう為、ウィルガルムは敢えて接近戦用のパワードスーツを装着した。それだけ今回の戦いには彼の夢とロマンが詰まっていた。
それに対してヴレイズは相手の真意は知る由も無かったが、それでもウィルガルムの戦いに対する熱を感じており、彼も無粋な熱操作魔法を控えるようになっていた。
すると、ウィルガルムのヘルメット内に小さな警告音が鳴り響く。これはデストロイヤーゴーレム内部に侵入者を検知し、警備の人造人間が鳴らしたモノであった。
「成る程、お前は囮か……どこから潜入したんだ? 悪いな……モタモタしている場合じゃなくなってきた」と、彼は残念そうに口にし、パワードスーツの出力を最大まで上げる。スーツは黄色く発光し、凄まじい熱気と蒸気を噴出させる。
「どこまで本気を隠している気だよ、あんた……」ヴレイズは呆れた様にため息を吐き、拳を握り直す。
「次の一撃で仕舞だ」と、彼はゆっくりと左腕を引いた。
「くそ……舐めるなよ、たかが見張りが……」キャメロンは砕けた歯を吐き出しながら壁面にもたれ掛っていた。彼女は今迄、更に2発、3発と拳を喰らい、血みどろになっていた。ギリギリ急所を外す様に躱そうとしたが、脛から折れた脚では思うように避けれず、いい一撃を喰らっていた。更に持参したヒールウォーターは既に無く、回復も出来ず、炎の回復魔法も気休め程度の活性魔法程度しか使えない為、彼女は危機に陥っていた。
「チクショウ……こんな巨人の中に、こんなデカブツがいるなんて聞いてなかったな……流石、魔王軍……」全身から響く激痛と腹部から立ち上る生暖かい鈍痛に襲われ、目が霞む。
次の瞬間、人造人間の拳が彼女の胸に命中し、胸骨がバラバラに砕け、折れた骨が臓器に突き刺さる。
「がふぁっ!!」喉の奥に溜まっていた血が勢いよく噴き出て、己の血で溺れる。口に留まらず、鼻や目からも流れ出る。彼女の視界は真っ赤に染まり、不気味な耳鳴りが響く。彼女はそのまま倒れる事は許されず、人造人間はそのままグリグリと拳を胸へめり込ませ、そのまま心臓を潰そうとする。彼女はゴボゴボと血の泡を吐き出し、激しく痙攣する。もはや脳裏には走馬灯が流れ始めており、彼女自身諦め始めていた。
「やめろぉぉぉぉぉぉぉ!! こんのデカブツがぁぁぁぁぁ!!!」
満身創痍の身体を引き摺って来たエルが盾を振りかざして勢いよく跳び、盾の尖った先で人造人間の脳天を殴りつける。彼はそのまま肩車状態で圧し掛かり、執拗に盾で殴りつけた。
人造人間は慌てた様にキャメロンから離れ、エルを振りほどこうと暴れた。
エルは死んでも離れまいと足を人造人間の首にがっちりと挟み、幾度も盾の先で殴りつけた。次第に物騒な音を立てて盾先が脳天へめり込む。エルはそれを見て好機とグリグリとめり込ませて盾を殴りつける。盾はどんどん沈んでいき、仕舞には人口頭蓋骨が割れて黒い人工脳が悪臭と共に噴き出た。エルはそれでもめり込ませるのを止めず、激しく痙攣する頭を押さえつけて盾を殴り続けた。
「これで!! とどめだぁ!!!」
エルは両拳を組んで盾を殴りつけた。すると、盾の半分が人造人間の頭へ突き刺さり、ついに機能を停止した様に膝から崩れ落ち、倒れ込んだ。割れた頭から真っ黒な液体が流れ出て、ピクリとも動かなくなる。
エルは全身から奔る激痛を思い出した様に身もだえしながらも倒れたキャメロンへゆっくりと歩み寄り、揺り動かす。
「隊長……無事じゃないと思いますが……生きてますか?」
「………………生き、てた? エル……」安堵した様にエルの身体に体重を預け、そのまま気絶しそうになる。
「大丈夫ですか? 爆弾は仕掛けましたか? 脱出はどうしましょう?」エルは疑問を次々に投げかけると、キャメロンは彼の顔面を力なく殴りつけた。
「一気に質問するな! 話すのもやっとなんだこっちは!!」と、調子を取り戻した表情を見せるも、立つのは難しいらしく尻からへたり込む。「休暇が欲しいな……」
「兎に角、仕事を終わらせましょう」と、エルは彼女に肩を貸し、ヨタヨタと爆弾を仕掛けた方へと向かった。そこはほぼ脱出用に開けた穴の近くである為、彼は安堵した。
頭を割られた人造人間は機能停止したが、これは一般の量産型とは違い、ウィルガルムがカスタマイズした特別仕様となっていた。デストロイヤーゴーレムの内部を侵入者を排除する為の万が一の為に積んできた最高傑作であり、その戦闘力は近接戦闘だけなら賢者に匹敵する程であった。
そんな最強の人造人間も回復魔法やヒールウォーターの類は無く、人間並みの治癒能力しかない為、頭を割られればひとたまりもなく機能停止に追いやられた。
が、人口脳の内部には小さなチップが埋め込まれており、そこが命令をインプットする装置であった。そこから人口脳で最善の行動を導き出すために思考するのが人造人間であった。
つまり、脳を破壊されてもチップが無事なら短時間ながら活動が可能である為、まだ人造人間は正確には機能停止していなかった。
「これ、ボタンを押すだけでいいんですか?」まともに動けるエルは仕掛けられた無属性爆弾を弄りながら口にする。
「そうだよ……んぐっ」無駄口を叩きたくても、それ以上口を利くと肺が絞られるような激痛が響くため、呻く事しか出来なかった。因みにベンジャミンは彼らの様な専門知識の無い戦士でも扱えるように無属性爆弾を改造してあった。
エルは爆弾を起動し、すぐさま離れてキャメロンに肩を貸す。爆弾は10分で爆発する様に設定されていた。
「エル……っぐ……」彼女は身体から立ち上る死の気配を感じ取り、彼に謝りたい気持ちで一杯だった。ナイトメアソルジャーと戦った時、彼諸共自爆しようとした事を悔いていた。が、それを話すことも出来ず、ゆっくりと涙した。
「帰ったら、いくらでも聞きますよ……」と、ぽっかりと空いた壁の穴へ向かう。そこから荒れた潮風が勢いよく吹きこんでいた。
すると、背後から大きな影が忍び寄り、腕を引いていた。
エルの頭上から黒い汁が滴り、気付いた瞬間、人造人間が手刀を構えていた。
「エル!!」その気配にキャメロンがいち早く気付いており、彼の前に身体を出して盾になろうとする。彼女の身体はほとんど動かなかったが、その瞬間だけは機敏に動いた。
が、エルはそれを突き飛ばして彼女の守護を拒み、そのまま手刀に腹部を貫かれた。そのまま持ち上げられ、同じ目線まで持っていかれるエル。
「エルゥゥゥゥゥゥゥ!!!」何をされたのか理解できなかったが、眼前で彼が貫かれたのを見て目を剥き、痛みを忘れて絶叫する。
エルはそのまま目を閉じる事も力を抜く事もせず、今迄で一番力強く腕を動かし、人造人間の頭に突き刺さったままの盾を掴んだ。
「ご、ごいづ……いい加減、くたばれ!」と、更に盾を深々とめり込ませる。次の瞬間、人造人間の脳内に収まったチップが真っ二つに割れ、今度こそ完全に機能を停止させた。互いの目から光が消え、エルは人造人間諸共壁の穴から外へと落ちて行った。
「エル! エルゥゥゥゥゥゥゥ!!!」キャメロンも身体を引き摺って穴へ近づき、転がる様に外へ投げ出し、そのまま海へと落下した。
如何でしたか?
次回もお楽しみに




