191.創造の珠争奪戦 破壊巨人での死闘
いらっしゃいませ!
では、ごゆっくりどうぞ
ヴレイズとウィルガルムは魔力を解放させて互いに一歩も譲らない殴り合いを繰り広げていた。相手との体格差は3倍ほどあったが、空中戦だと体格差は殆ど無いようなものであった。
更に、ヴレイズは空中戦に慣れており、彼の方が僅かに勢いを押していた。その上、ヴレイズには炎の自己回復魔法があり、どんな手傷を負っても一瞬で治癒する事ができたが、ウィルガルムのパワーアーマーにはヒールウォーター生成からの回復機能があったが、彼ほどの回復力はなかった。
その為、ヴレイズの方が明らかに優勢であり、余裕の笑みすら零れていた。
「お前……本当に強くなったな」ウィルガルムは相変わらず嬉しそうに笑いながらも電磁トラップを展開しながら後方へ逃げる。
「時間を掛ける理由は無いんでな!!」ヴレイズはトラップを炎で薙ぎ払って破壊し、一気に間合いを詰める。が、すぐさま異変に気が付き、彼も後退して距離を空ける。
「流石、気付いたか」したり顔でにんまりと笑い、パワーアーマーの破損状況を余裕の指運びで調べ、自動修復機能を起動させる。彼の展開した電磁トラップは囮であり、それを破壊すると呪術の混じった粉塵が舞い、それに触れるだけで筋肉弛緩、封魔作用が働き、相手を無力化する事が出来た。
ヴレイズはそれにギリギリで気が付き、急いで解呪するが左腕に触れたため、少しばかり麻痺していた。
「ちっ……油断したか」戦いのリズムが乱れるのを嫌ってか、強引にでも戦闘を続けたかったが、体内の魔力循環が乱れており、呼吸を整えるので精一杯であった。
「中々に高度な戦いだな」ミランダは彼の約束を守ってか、観察するのに夢中なのかその場から一歩も動かずに静観していた。
「ちょっと一息ついでに、話でもしようや……ずっと疑問だったんだが、どうやってそんなに強くなった?」ウィルガルムは会話で時間を稼ぐつもりか、自動修復を着々と進める。
「くっ……こっちも時間が欲しいから応えてやるよ……仲間を守る為だ!」
「本当にそうか? ヴェリディクトを倒す為じゃないのか?」彼は何かを知っている様に口にしてニタリと笑う。
「な……?! 魔王軍はそこまで調べがついているのか?」相手の情報収集力に驚嘆し、この戦いで初めて冷や汗を掻いた。
「いいや。ウルスラにパトリック、ナイトメアソルジャー相手の奮戦にヤオガミでの活躍程度だが……ヴァイリー博士と話した時に、お前の名前が出たんでな」
「なに? ヴァイリー?」ちらりと聞いたことしかない名前に首を傾げ、混乱するヴレイズ。
2か月前、ウィルガルムはデストロイヤーゴーレムの組み立て作業の立ち合いの最中、ヴァイリー個人の研究所へと立ち寄っていた。そこには丁度ヴェリディクトが立ち寄っており、隣には賢者の娘であるフレインが立っていた。
「珍しい客人だな。我らが魔王様だけでなく、ヴァイリー博士まで毒牙にかける気か?」彼はヴェリディクトを恐れ、警戒していた。それだけ彼は魔王に影響を与えていた。
「人聞きの悪い……私はただ、博士にしか出来ない事を頼みに来たのだよ。確か、複製人間の制作には大金が必要とか? 言い値で結構だが?」と、ヴェリディクトは腕を組みながら博士に目をやる。
「いいや、貴方のお願いは興味深い。無料でやろう! ただし、責任は取らんがね」ヴァイリーは毒笑を覗かせながらフレインの顔と身体をまじまじと観察する。
「何をするんだか知らんが、俺たちに迷惑を掛けるなよ……」ウィルガルムは重たくため息を吐く。
「これも全て、我が友人たちの為だ」
「友人? あの吸血鬼の為か?」
「いや、ヴレイズと言う名をご存知か?」
「あぁ……最近、名を上げているよな。あん時の炎使いが随分やるようになったな……って、まさか!!」ウィルガルムが勘付くと、ヴェリディクトが楽しそうに笑い始める。
そんな彼らを横目にフレインは無表情のまま拳を震わせていた。
「ヴェリディクトにフレイン!! そこで何をしていた!!」2人の名前が耳に入った瞬間、ヴレイズは詰め寄ろうとするも身体が未だに言う事を聞かず、滞空するだけで精いっぱいだった。
「さぁな? 俺は興味が無くて最後まであいつらの企みを聞かなかったが、複製人間がどうとか言ってたな。まぁ、あの男にあそこまで興味を持たれるとは、お前も不運だな」
「ヴェリディクト……っ!!」ヴレイズの瞳に炎が灯り、奥歯を鳴らす。
「お、いい顔だな。仲間を守る為に強くなった男の顔って感じではないな?」と、左のパワーアームを回して動作確認をする。彼の自動修復は完了していたが、襲い掛かる様子は見せなかった。
「黙れ……俺は、皆を守る為に……お前らを倒すために!!」と、再び両手両足を赤熱化させ、間合いを詰めた。
「第2ラウンドだ!!」ウィルガルムもフルパワーで突撃し、相手の拳に応えた。
「こいつ!! なんて力!!」キャメロンは人造人間と組合い、互いに一歩も退かずの押し合いを繰り広げていた。相手の体格はウィルガルムを元にしている為3倍以上あったが、それでも彼女の魔力の練り上がりによる馬力は凄まじく、馬鹿力に負けない剛力を誇っていた。
が、人造人間は疲れ知らずなのか、彼女の炎にも怯まずにじりじりと押し始める。
「ぐっ……ベンジャミン! いったん離れて!! このままだとあたしごと輸送機を沈められる可能性がある!!」この後の万が一を考え、彼に一旦離れる様に命令を飛ばす。ベンジャミンは頷き、デストロイヤーゴーレムの背部から離れて滞空した。
「これで邪魔はいなくなった……思う存分やらせて貰うよ!!」と、組み付きながら引っ張って人造人間のバランスを崩し、拳の連打と蹴りの応酬、更にそのまま跳び上がり、火炎弾を連射する。
人造人間は全て正面から受け止めたが、ビクともせず、人工皮膚が焼け焦げただけだった。コイツは他の量産型と違い、頑丈且つ戦闘力もゼオと同等かそれ以上に強化されていた。その為、彼女の手にも余るほどの相手と言えた。
「少しは効けよ……それにしてもエル……本当に殺されたのかよ……」人造人間の顔面には彼のと思しき返り血で汚れていた。あそこまで喰らいつく彼が人造人間の全身を許す筈がないため、彼の安否は絶望的と考えていた。
「あんたの仇は、あたしが討つよ!!」と、爆炎弾を投げつけ、それを目晦ましに鋭い蹴りを見舞う。
が、それを見切った様に人造人間は彼女の蹴り足を掴み、そのまま地面や壁面に連続で叩き付け、トドメに足元へ叩き付け、腹を踏みつけた。
「ぐあぁぁぁぁぁぁぁぁ!!! ゲバっ!!!」堪らず吐血し、痙攣しながら呻くが、追撃が来る前に何とか距離を取り、何とか相手から逃げようと転がる。掴まれた右脚は脛が真っ二つに折れ曲り、腹部は灼熱の激痛地獄に見舞われていた。
「こいつ……」ヒールウォーターを飲み下し、何とか腹部の内臓破裂の治癒を試みる。
しかし、人造人間は容赦なくゆっくりと間合いを詰めていた。
遠くからキャメロンの声が響き、血塗れで倒れるエルの耳に入る。それに反応して彼は奥歯をガリッと鳴らしてゆっくりと目を覚ます。彼は人造人間の攻撃の最中、仮死薬を飲んでおり、今の音は奥歯に仕込んだ蘇生薬であった。
これはアリシアから教わった生存技術であり、本腰を入れた死んだふりであった。実際は魔力操作で自分から心臓を止め、動かす技術であったが、エルはおろか他の属性使いにも出来ない高度な技術だった。その為、ワルベルトが調達した薬を使ったのであった。
「ぐっ……あっ……余りにも勝ち目がないから、ついやっちゃったよ……スイマセン、隊長……今、行きます……」と、彼はヨロヨロと壁伝いに立ち上がり、キャメロンの声が響いた方へと盾を片手に進んだ。
如何でしたか?
次回もお楽しみに




