190.創造の珠争奪戦 驚異の科学力
いらっしゃいませ!
では、ごゆっくりどうぞ
10年前、バルバロン国内のウィルガルムの工房。彼は作業用スーツを着て日々、兵器開発に勤しんでいた。
そこへ、ヴァイリー博士が現れ、ドアをノックする。ウィルガルムは顔を向けないまま返事をし、彼を招き入れる。
「相変わらず精が出るね、ウィルガルム」工房のエレメンタル兵器を見回しながら口にするヴァイリー。彼はウィルガルムが作り出す兵器が大好きであり、毎回自分の開発する呪術兵器を見せ合っては語り合っていた。
「我らが魔王様が資金、資材、人手をたんまりと用意してくれるからな。俺のアイデアが湧く限りは、休めないな」と、彼は無邪気に笑いながらも手を止めなかった。
「そんな君にいい知らせと悪い知らせがあるのだが……」
「悪い方から頼む」手元で火花を散らしながら耳だけ傾ける。
悪い知らせとは、ウィルガルムの肉体は既に限界を迎えており、持ってあと10年弱という診断結果を告げた。彼の肉体と呼べる部位は上半身と右腕しか無く、それ以外は全て機械で補っていた。が、年々肉体が削れており、機械ボディの拒絶反応も重なり限界が迫っていたのである。
「だよな。これでも長生きした方か……」ここでやっと手を止め、自分の右手を眺める。
いい知らせとは、人造人間計画が軌道に乗り、魔王からもプロトタイプを作る許可が降りたとの報告であった。これはウィルガルムとヴァイリーの共同開発であった。
「これのコピー元として君の細胞を使いたい。これによって、君の肉体のスペアボディを作るんだ」
「スペアボディ……か。って事は、ロキシーの力を借りる必要があるな」闇の軍団長ロキシーは魂操作術を扱う事が可能であった。
「上手くいくかは五分五分だが……それに、実現に10年……間に合うか……」ヴァイリーは珍しく弱気な表情を覗かせる。彼は部下には決して見せない顔であった。
「大丈夫だ。俺たちなら……魔王様の元でなら、出来るさ」ウィルガルムは一切弱気な顔は見せず、再び作業を再開する。
「君は彼と一番付き合いが長いからね……その信頼関係を信じよう」と、ヴァイリーは白衣を翻して工房を後にした。
ところ戻ってミッドオーシャン上空、デストロイヤーゴーレム前。
「命をくれてやるって、凄い覚悟だな……」ヴレイズは相手の気迫を感じ取って気合を入れ直す。
「なぁに、こっちの話だ! お前も俺に命を捧げるつもりで来い!!」ウィルガルムは両腕を広げ、全身から魔力を漲らせる。同時に全身のアーマーが脈動する様に光り輝き、スチームが噴き上がる。
「最初に会った時の事を思い出すな……あの時は絶対に勝てない壁って感じだったが、今は……憎き仇として堂々と殴れる相手って感じだよ!」
「そうだな、あの時は子犬を踏み潰す様な気分だったが、今はちゃんとした敵を相対したって感じだ!」と、ウィルガルムは右手の骨をゴキゴキと鳴らす。彼の腕には未だにアリシアの首の骨を折った感触が残っており、彼の心中に深く傷として刻まれていた。その感触を、成長したヴレイズと戦う事によって拭い去る事が出来ると思い、この戦いを思い切り楽しもうとしていた。
「「いくぞ!!」」2人の間合いが一瞬で潰れ、凄まじい魔力爆発が巻き起こる。
それを見たミランダは目を大きく広げ、喉を鳴らした。
「こんな戦いは……90年前にもなかったな……」彼女は拳を握り込み、小刻みに震わせた。
そんな戦いをよそに、最後の1機となった輸送機はこっそりとデストロイヤーゴーレムの背部へと回り込んでいた。
「あの、何をする気ですか?」操縦席から追い出されたパイロットがベンジャミンに問う。
「今から脱出路を確保するんです! たぶん、あの見取り図じゃ脱出は不可能。彼らが混乱して一か八かの行動に出る前にこちらから打って出ます!」
「でも、どうやって?」と、首を傾げる。
するとベンジャミンは小型爆弾取り出す。
「これは小さいながら破壊範囲は10メートル級の無属性爆弾です。コイツをデストロイヤーゴーレム背部に取り付け、起爆します」
「しかし、あの巨人は対無属性魔障壁を張っているのでは?」
「ゼロ距離で爆破すれば大丈夫です。僕たちには僕たちの出来る事をしましょう!!」ベンジャミンはそう口にしながら操縦桿を切った。こう見えて彼はまた小便をチビリ、手足をガタガタと震わせていた。それだけ、先程のデストロイヤーゴーレムの主砲を目の前にしてのショックが大きく、更に他の5機が消滅した事実に頭が真っ白になっていた。が、今迄の出来事が走馬灯の様に流れ、ここで自分が折れたら全てが無駄になると心で理解し、操縦桿を握る腕が力強く動いていた。
デストロイヤーゴーレム内部では、一方的な戦いが続いていた。無傷の人造人間が血達磨になったエルに襲い掛かり、巨大な拳を振るう。人造人間は他のと同様、ウィルガルムの巨体をベースにしており、属性攻撃は出来ないが、身体能力はクラス4の魔力循環並であった。
対してエルはクラス3の光使いであり、魔力循環もクラス4の足元にも及ばない平凡なクラス3並である為、実力差は歴然であった。
「勝てなくてもいい……作戦さえ、成功すれば……! キャメロンさんさえ、無事なら!!」彼は決意を瞳に宿し、盾を構えて再び飛びかかる。相手は隙を見せればすぐにキャメロンのあとを追う姿勢を見せるため、その邪魔をする為にしつこく飛びかかり、その都度、返り討ちに遭っていた。
「まずはお前の息の根を止める」人造人間は自分に言い聞かせる様に小さく呟き、身体と顔をエルへ真っ直ぐ向ける。
「やってみろよ!!」と、盾の先端を向け、それを突き刺す勢いで突撃する。
が、そこからの人造人間の動きは素早かった。速攻で盾を撥ね飛ばして彼の首を掴み、壁面へ勢いよく押し付ける。間髪入れず3発ボディブローを入れ、返り血を浴びる。
「げばっ!! ガハッ!!」凄まじい衝撃で上半身に拳の跡が残り、肋骨が砕けて内臓が破裂する。そのまま膝が折れて倒れそうになるも、人造人間の押さえつけが強く、ダウンする事が出来なかった。そのまま続けざまに1発、2発と拳が見舞われ、トドメに横面に拳がめり込む。手が離れると、エルは力尽きる様に倒れ伏し、白目を剥いて痙攣した。
人造人間の耳には彼の心音が聞こえており、倒れた彼を執拗に踏みつけた。その度に激しく痙攣し、血だまりが広がる。しばらくして彼はピクリとも動かなくなり、心音が止まる。
「侵入者、追跡開始」人造人間は再びキャメロンの向かった方へと顔を向けた。
「う~ん……どこに仕掛ければいいんだ? 破壊範囲は調節して50メートルかそこらとは言ってたけど、念の為に一番効果的な場所に仕掛けたいよねぇ」キャメロンは見取り図を片手に道に迷っていた。デストロイヤーゴーレム内部は素人目には機械が図書館の様に並んでいるだけに見えて、どこも同じに見えた。取り敢えず侵入した地点から上へと登っていき、見た目重要そうな部分を見つけて爆弾を仕掛けるつもりであったが、キャメロンの目にはどこが重要なのかわかっていなかった。
「やっぱ最初の侵入地点に仕掛ければ確実だったかな? でも、ベンジャミンはそこには仕掛けるなって言ってたし……」彼が言うには、主砲は一番強力な無属性を撃ち出す為、彼女が持ち込んだ無属性爆弾を炸裂させても無効化されると言った。この爆弾は普通の火薬を使った爆弾とは性質が違う為、取り扱いが全く違った。
「早く見つけないと、エルが持たない……」彼女の耳には彼が殴られる音と地響き、くぐもった悲鳴が聞こえており、内心焦っていた。
そこで、彼女の眼に周りとは違った機械の塊が飛び込んでくる。それは真っ赤に脈動しており、紅色の巨大な珠が機械部品にめり込んでいた。そこから四方八方へと血管様な配線が伸びていた。
「コレだな! 絶対コレだろ? もうコレしか、ないだろ!!」と、キャメロンは無属性爆弾を機械部品の間に挟む。「で、後は出口だな……そっちの方が難儀しそうだ……」頭を悩ませていると、背後からキンっという爆発音が鳴り響く。
そこへ向かうと、そこにはポッカリと穴が空いており、輸送機が顔を覗かせていた。
「キャメロンさん!! 爆弾は仕掛けましたか? 脱出口はこっちです!!」
「ナイス、ベンジャミン!!!」キャメロンは親指を立てて笑顔を見せ、エルの方へと身体を向ける。
そこには顔面に返り血を浴びた人造人間が無表情で立っていた。
「こいつを片付けないと脱出は無理、か……」一転して冷静になったキャメロンは炎の翼を生やし、殺気を蓄えて早速間合いを詰めた。
如何でしたか?
次回もお楽しみに
 




