188.創造の珠争奪戦 巨人内部潜入
いらっしゃいませ!
では、ごゆっくりどうぞ
デストロイヤーゴーレムに搭載される兵器の半数以上が破壊され、ほんのりと機体から煙が立ち始めていた。が、内部まで攻撃は浸透しておらず、未だ問題は無かった。
「このままだとじり貧か……ま、作戦を強行した俺が悪いんだがな」ウィルガルムは自嘲気味に笑い、コンソールを叩いた。自動迎撃装置の殆どは破壊され、無属性副砲も1門壊され、残った武装は主砲と副砲1門、そして両腕と両脚だけであった。
「この手際……指揮を執っているのはベンか……一度接敵して観察し、ここまでこの機体の弱点を的確に攻めるとは流石だ」と、眼前で飛び回る輸送機を睨み、微笑ましそうに笑う。何かを決心した様に喉を鳴らし、
「仕方がないな……こうなったら、作戦遂行に遅れが生じるが、やるか……ベンジャミン、悪く思うなよ」と、彼は腹をくくってアンチエレメンタルフュージョンカノンの発射スイッチともうひとつあるボタンへ指を掛けていた。
最後の無属性副砲を破壊すると同時に腹部のハッチが開く。それを見たベンジャミンは眼鏡を光らせ、勢いよく立ち上がり全パイロットに指示を飛ばす。
「ついに主砲が開きました!! 前方に密集して引き寄せ、光ったら回避運動を取ってください!! キャメロンさん、エルさん! 出番です!!」彼は興奮した様に顔を赤くさせ、目を血走らせていた。全員声を揃えて『了解!!』と、返し、指示通りに6機がデストロイヤーゴーレム前方を蠅の様に鬱陶しく飛び回った。
「ついに来たか……エル、ビビるなよ?」キャメロンはついにやって来た出番に興奮を抑えながら立ち上がる。
「はい! び、び、ビビってなんかいませんよ? たかが神を殺す大砲の中に入るぐらい……ね?」ついにやって来た決死の作戦を前にエルは心底震えていた。が、同時に興奮もしており、昂っているのか怖がっているのか自分でわかっていなかった。
「大丈夫、あたしも怖いさ」彼女は彼の背中を摩り、勇気づける。
外ではミランダが主砲を目にして驚き、まじまじと見つめる。
「凄まじい属性エネルギーだ……あの無属性砲とは違った、凄まじい力を感じる……そうか、こいつがノイン様の肉体を破壊した大砲か……」彼女はその大砲内部の複雑な機構を目の当たりにし、自分がいなかった間に世界がどれだけの進歩を遂げたのか想像できず、大きくため息を吐いた。「シルベウス様は正しかった……外の世界で研鑽を詰むべきだった」
「感心している場合ですか! 今は回避しましょう!」ヴレイズが訴えかけると、ミランダは静かに頷き、遠くへと離れる。
すると、デストロイヤーゴーレムの胴体の脇腹のハッチが開き、一発の砲弾が飛び出る。それは6機の輸送機が飛び回る中心部へとゆっくりと投射された。
「アレは一体?」ベンジャミンを始めとし、それを目撃したモノ全員の頭上にハテナマークが浮かぶ。
次の瞬間、その砲弾が凄まじい風の魔力が発生する。その風は周囲を吹き飛ばす突風ではなく、その逆、砲弾を中心に凄まじい吸引風が発生した。その風によって輸送機6機がバランスを崩しながら吸い寄せられる。
「これは一体?!」パイロットは何が起こったのか理解できぬまま操縦桿を右へ左へと動かす。全機コントロールが効かず、パニック状態に陥っていた。
「マズい!!」ベンジャミンは何が起きたのか気が付き、パイロットから操縦桿を奪い取る。
彼らの眼前には凄まじい無属性のエネルギー波が大爆発が起こり、再び海が真っ二つに分かれ、津波が巻き起こる。が、ノインの肉体を破壊した程の威力は無く、その半分以下の破壊力であった。それもその筈、ウィルガルムは神殺し砲の出力を半分に抑え、無駄なエネルギー消費を抑えたのであった。が、その破壊力は絶大であり、蠅6匹に対して最新式の大砲を使う様なモノであった。
その6匹の蠅を確実にまとめて落とすために使われたのが吸引砲であった。これで破壊対象をひとまとめにし、一網打尽にする事が可能であった。
紫光が眩く光り輝き、数瞬後に割れた海が元に戻り、再び海原に激震が走った。
遥か地平線が夜明けの様に光り輝き、遅れて海原が怒り狂ったように津波が発生する。
それを双眼鏡で眺めていたラスティーが表情を険しくさせ、煙草の煙を吐く。
「アレは作戦通りなのか?」彼の背後にいたマリオンが遠目で紫光を見つめ、不安そうに口にする。
「あぁ……兎に角信じよう。ベンジャミンを……キャメロンを……」
神殺し砲の光が晴れると、そこにはやはり輸送機は1機も残っておらず、跡形も無かった。
「……間に合わなかったか……?」ヴレイズは奥歯をカタカタと鳴らし、身体を震わせた。彼は眼前で仲間らが消え去り、作戦の失敗を確信していた。
「判断が遅れたか……やはり、引きこもったのは良くなかったか……」ミランダは反省する様に呟き、溜息を吐く。が、同時にあるモノを見つけ、目を輝かせる。「おい、アレを見ろ」と、指を差す。
その指の向こう側には、1機の輸送機がデストロイヤーゴーレムの腹部ギリギリまで近づいていた。
「やった! ……助けられたのはあの1機だけか……」ヴレイズは喜びと無念さを同時に味わい、両手を悔しさで握り込んだ。
あの時、神殺し砲が放たれる瞬間、ミランダが吸引砲の特性を見抜き、ヴレイズに熱線で破壊する様に指示し、彼は正確に吸引弾を撃ち抜いた。そのお陰もあって吸引の高速から解かれ、操縦桿を正確に動かしたベンジャミンの乗った輸送機だけが神殺し砲の射程範囲から逃れる事が出来たのであった。が、やはり残りの5機は回避運動が間に合わず、紫光の中へ消えて行ったのであった。
ベンジャミンはそれに怯まず、予定通りにデストロイヤーゴーレムの腹部へと接近していた。
「お願いします!!!」ベンジャミンは目の前の作戦に必死になって集中し、神殺し砲へ近づいた。
「おう! エル! 悲しむのは後だ! 爆弾抱えろ!!」キャメロンは振り返る素振りすら見せず、後部ハッチを開く。
「はい!!」エルは無属性爆弾を脇に抱え、震える膝を我慢した。
次の瞬間、デストロイヤーゴーレムの右腕が勢いよく動き、輸送機を掴みにかかった。流石に咄嗟の回避運動が効かず、狼狽するベンジャミン。
「調子に乗るなぁ!!!」
ヴレイズは火の玉になって右腕に向かって突撃し、攻撃をギリギリで止めた。が、デストロイヤーゴーレムとは質量が違い過ぎ、押され気味になる。
「ぐっ……流石にきついか……っ」
「関節を狙ってください!!」ベンジャミンの大声が彼に届き、素早く特大赤熱拳を大巨人の右肘に向かって放つ。この一撃で破壊は出来なかったが、異音が鳴り響き、動作が軋む。
「よし、次の標的は手足だな!!」と、ヴレイズはまた大巨人の右肘を連続で攻撃し始めた。
その間にキャメロンとエルは輸送機から飛び立ち、神殺し砲の大口の中へと飛び込んだ。
それと同時に砲台の口が閉じてしまう。
「もう引き返せない。あとはあたし達が、張り切る番だ!!」真っ暗になった砲台の中でキャメロンは指先に火を灯した。
「はい!!」
「まさか、1機逃すとは……乗ってるのはベンか……」ウィルガルムは安堵した様にため息を吐いたが、正気に戻る様に首を振り、今度は憤る。
「しかし、あの野郎!! 的確に機体の弱点を突きやがって!! これ以上俺の夢を傷つけられて堪るか!!!」と、彼はコクピットから飛び出し、戦闘用の最新式パワードスーツに身を包んだ。それはブリザルドと戦ったダークスーツではなく、最新鋭の対賢者用のパワードスーツであった。
「さて、あの頃からどれだけ成長出来たんだ? 見せてみろヴレイズ!!」
如何でしたか?
次回もお楽しみに




