184.創造の珠争奪戦 光の議長からの指令
上空が嵐に見舞われる中、キャメロン達の輸送機6隻が一斉に飛び立つ。キャメロンとエル、ベンジャミンが乗る輸送機を先頭に強風と豪雨の中を突っ切ってミッドオーシャン上のデストロイヤーゴーレムを目指す。
「いいねぇ~! ここぞの作戦って時に嵐! いい攪乱になる!」凄まじく揺れ動く船内で興奮しながら笑うキャメロン。
その隣でエルが外を見ながら首を傾げる。
「でも、一面嵐っておかしくないですか? まるで世界中の空が嵐……みたいな」と、疑問を呟くのと同時に雷が機体を掠め、飛び上がる。「だ、大丈夫なの?」
「雨や雷、その他諸々は対策してあるんで大丈夫です……」ベンジャミンは気分悪そうに腹を押さえながら顔を青くさせていた。「気持ち悪ぅ……」
「船酔い?」エルが彼の肩に触れながら問うが、彼は首を振った。
「さっき食べ過ぎて……」
「この揺れは大丈夫なんだ……」意外そうにエルが口にすると、気持ち悪そうにその場にしゃがみ込んだ。彼は船酔いには強い方であったが、流石にこの揺れは堪えた。
「この嵐にこの海! 大巨人を相手にするには丁度いい! 運はこちらに向いている!」キャメロンは全く何も感じないのか、輸送機の外を睨みながらテンションを上げていた。
「指令に作戦内容の相談はしたんですか?」エルが問うと、彼女は口をへの字に曲げながら顔を彼の方へ向けた。
「してないよ」
「え゛ぇ゛!!」エルだけでなく周囲の隊員たちも騒めき、不安の空気が流れる。
「だってあたしに全面的に作戦を預けてくれたんだよ? 『任せる』ってね? だったら、作戦に文句は言わせませんよ!」キャメロンは腕を組んで鼻息を鳴らす。
「指令が任せると言ったなら……」と、疎らに納得するように頷く。
「それに、現場で作戦は色々な形に変わる! この嵐に海! 既に作戦は変わりつつあるんだから! あたし達で何とかするよ!!」
すると、ベンジャミンがヨタヨタと起き上り、壁面を叩いた。
「この輸送機はどんな嵐が来てもへこたれない性能をしています。更に、デストロイヤーゴーレムとの交戦を想定して設計され、多少の無茶な操縦でも墜ちる事はありません! みなさん、存分に暴れて下さい!」彼は胸を叩いて口にしたが、またこみ上げたのかしゃがみ込み、腹を押さえた。「作戦開始まで寝ます……」
「大丈夫かな……」エルも船酔いの気持ち悪さを我慢しながら、そっと呟いた。
ミッドオーシャンのど真ん中に鎮座するデストロイヤーゴーレム。この巨体は見た目通り、多少の強風や豪雨、津波ではビクともしなかった。しかし、機体内部はゆらゆらと揺れ、時折殴られた様な衝撃が走っていた。
コクピット内部ではウィルガルムがパワードスーツはおろか生活用スーツすら脱ぎ、本体にコードが数本繋がった状態で寛いでいた。普段のパワードスーツ状態の彼は筋骨隆々の巨人の様な頼もしい姿をしていたが、今の姿はとても頼りなかった。唯一まともに動く右腕すらも操縦席からダランと脱力させていた。
「あ~暇だ。流石にずっとこの状態が続くと退屈で死にそうだ」ひたすら響くソナー音と正常に作動する各種機器の音を聞かされ、精神的に参っていた。更にブリザルドと交戦した時に着用したパワードスーツの後遺症で気分が悪くなっていた。ダーククリスタルを使用したそれは身体に馴染んでいないと拒絶反応が起き、彼は二度と着たくないと思うほどの感想を抱いていた。
「それにこの嵐、ノインを倒した影響か……作戦は順調だな。さて、そろそろ魔力エネルギーの充填が完了するか……邪魔者はいなさそうだし、そろそろ海底神殿の攻略に移るか」と、重そうに身体を起こし、日常用アーマーを装着し、神経接続用のコネクターを首筋に挿す。すると、脱力していたデストロイヤーゴーレムに光が灯り、背筋を伸ばす様にビクンと動く。
彼の作戦では、海底神殿の神通力で張られた防御壁をデストロイヤーフュージョンカノンで吹き飛ばし、そこでようやく潜水し、神殿内部へ侵入して目当てである破壊の杖を探索する予定であった。この主砲は水中では魔力エネルギーの融合が出来ない為、海上で撃つ必要があった。
「さて、そろそろ……ん?」一定の音を刻む計器に異常がみられ、それに集中する。そこには東の空から6つの飛行物体が向かってきていた。
「来たか……討魔団! 流石にガルムフォートレスでは来れなかったみたいだな……あの輸送機はベンの設計だな? 楽しませて貰おうか!!」ウィルガルムは退屈からの解放を嬉しむように笑い、操縦桿を握った。
「彼女の作戦、納得できるモノだったか?」診療所で横になるラスティーに問うマリオン。
彼は目の上に濡れタオルを置き、半分仮眠を取っていた。
「正直、完璧と呼ぶに足りるものではないが……彼女には現場力がある。実際の作戦行動中、上手くいかなくても打開する力は持っている。それに、あの戦いから慎重になっているからな」ぐったりと仰向けになりながら口にするラスティー。
「あの戦い……ガルバルオ荒野のナイトメアソルジャーと戦った時のか……」
「彼女はあの戦いで憎しみと共に爆死しようとした。一現場指揮官としては失格な行為ではあったが……彼女はあの反省を生かし、決して自分が死なない、そして隊員たちも死なせないと心に誓い、再起した後の戦いに身を投じている。今の彼女なら大丈夫だ」と、濡れタオルを退かしながら起き上る。
「で、肝心のお前はどうなんだ?」マリオンは別のカルテに目を通しながら口にする。
「相手が相手だからな……流石にタレこみで知っているとはいえ、やり辛いな……それに……」と、口を結び、煙草に手を伸ばす。
「それに?」マリオンは彼の手から煙草を叩き落とし、代りに飴を口へ押し込む。
「俺は……この戦いに敢えて負け、全てを失わなければならない」
「失うのはやはり怖いか?」マリオンは彼の策を全て聞いている為、動揺せずに返答する。
「いいや。俺には信頼できる仲間がいるからな。今は、そいつらを死なせずに負ける策を成功させる事だけを考えている」飴を噛み砕き、己の顔を強く叩く。
「わかりやすく、且つド派手に負ける絵は考えてあるのか?」
「勿論……ニックには悪いがな」と、ラスティーは不敵に笑いながら診療所を後にした。
ラスティーは1か月前、お忍びでとある国を訪問していた。そこは聖地ククリスであった。彼は誰も共を付けず、身分を隠して船で密航し、手紙に記された招待状を裏門の兵に見せ、入城した。
堂々と城内を歩き、執務室へと案内される。
「よく来てくれた、我が切り札よ」
そこにはこの国の実質的主である光の議長、シャルル・ポンドが待っていた。
「手紙には書けない内容だと……」部屋に風の音声遮断魔法が発動したのを確認し、口を開く。
「我が甥、クリスについてだ」煙草を吸う様に灰皿を差し出し、自分も葉巻を咥える。彼はリラックスした腹を割った話をする時は必ず葉巻を吸った。
「世界王……今回の戦いに参加するとか? 狙いはバルバロン本土の元チョスコ国とか?」ラスティーは遠慮なく煙草に火を点ける。
「いや、それはフェイクだ。あいつの目的はゴッドブレスマウンテン、創造の珠だ」
「ほぅ……」灰を落とし、前のめりになって聞く。
「具体的な作戦は不明だが、あいつは本命に対して鼻息が荒くなる。そして、余裕を装う」
「それはグレイスタンで見ました。しかし、あの余裕は不気味だった」
「その不気味さの正体を教えよう」と、シャルルは自分の掴んだクリスの情報をラスティーに書類を提出した。その内容は『預言の力の一部を所持している』というモノであった。
「預言の力……成る程」全て読んだ後、ライターで書類を燃やし尽くす。
「その力は一部ではあるため不完全ではあるが、あいつは力を使いこなしつつある様子だ。そこでお前にやって欲しい事がある」
「なんでしょう?」
「次の戦いで派手に負けを装って欲しい」シャルルは葉巻の灰を落とし、灰皿において手を組む。
「これはこれは……」ラスティーは頭の中で組み立てていた戦いの作戦が全て崩れ去り、軽く絶望した。が、同時にワクワクと心が踊り、微笑みがこみ上げていた。
 




