182.創造の珠争奪戦 破壊巨人破壊作戦
いらっしゃいませ!
では、ごゆっくりどうぞ
ラスティーからの指令を受け、キャメロンは早速、作戦会議を始める為に部下全員を収集した。彼らは皆、兵員輸送機の整備、武器の調整、怪我の手当てを行っていた。
彼らの手を止めさせ、彼女はありったけの食料を集める様に命じ、それらを全て大鍋に入れ、全員で食べ始める。
「これから一世一代の作戦を始める! 皆、力を付けろ!!」と、椀に入れた肉の塊を一口で頬張る。
エルは傷の痛みを介さぬように力強く飯を頬張り、すぐにお替りをかき込む。
「作戦は決まったんですか?」咀嚼しながら彼が問う。
「糸口が見つかった。今は、力を付ける!」キャメロンは食べた物を全て血肉に変える勢いを魅せ、興奮に満ちた目を向ける。
そこへベンジャミンが現れる。彼は我が目を疑い、来るべき場所を間違えたと思ったか首を傾げた。
「ここは食堂だったっけ?」
「おう、博士! お前も一緒に食べるか?」彼女は空の椀を直ぐに満たし、彼に寄越す。
「いえ、結構です……」豚の餌の様なそれを見て、表情を引きつらせる。
「で、糸口を詳しく説明してくれる?」と、キャメロンは彼に用意した飯を自分の喉へ流し込む。
「ご、ご飯を食べ終わった後でいいかと……」彼はこの寄せ集まった兵たちが一斉に馬車馬の様に飯を食べる様子を見て、吐き気を催していた。この様な空気には慣れておらず、目を背けた。
「時間が惜しい! 食べながら聞く!」
「わ、わかりました……」ベンジャミンは早速、自分が見つけ出した作戦の糸口の説明を始めた。
デストロイヤーゴーレムは『難攻不落の要塞』と『世界を破滅させる兵器』を足して擬人化したような大巨人であった。装甲は何層にも合金を折り重ね、耐魔法コーティングがされており、神性存在であるノインの攻撃魔法すらも意に介さない程の耐久性を誇っていた。
全身には迎撃用属性魔法兵器が多数備え付けられ、中でも自動迎撃装置付きの無属性砲が脅威であり、おいそれとは近づけず、例え対無属性障壁を備えたスレイヤーフォートレスでも無傷では済まず、巨人の鉄拳で撃墜しかけた程であった。
そして主砲であるデストロイヤーフュージョンカノン、通称『神殺し砲』は、まさに神を殺せることを証明した一撃を誇った。一発を撃つためには丸1日エネルギーをチャージする必要があったが、その威力は通常の無属性砲とは比べ物にならず、大国をまさに真っ二つにする事が可能であった。
この大巨人は本来、移動攻撃要塞として、魔王の力の象徴として、そして破壊の杖を捜索する為に建造された。ベンジャミン曰く『ウィルガルムの夢の集大成』であった。
そんな要塞の穴をベンジャミンはスレイヤーフォートレスで一戦交える中でいくつか見つけ出し、その中でも実用的なモノを発見した。当初、無属性副砲の排熱口が潜入に適していると予想したが、そこは潜入するには余りにも小さく、手足を伸ばして蛇の様に潜らなければ入れず、更に排熱した瞬間、およそ数千度の熱風が排出され、潜入したモノは丸焦げになる事になった。
これを予想し、ベンジャミンはひと晩寝ずに考えに考え、その先で発見したのが主砲の排熱口であった。
ここでキャメロンが「そこもヤバい程に熱いんじゃないのか?」と口を挟んだが、ベンジャミンは指を振った。
この主砲は砲撃後、やはり排熱口から灼熱が吐き出されたが、数時間すると冷却が始まり、この冷風が内部に収まった機関を冷ました。この時がデストロイヤーゴーレム内部潜入への唯一の方法であると彼は説明した。
「質問は?」乾いた口の周りを軽く舐め、用意された水を一口含む。
「いくつかあるんだけど……?」飯を食べ終わり、茶を片手にしたキャメロンがワザとらしく挙手する。
「はい、なんでしょう」
「まず、その排熱口は何人通れるの?」
「主砲の排熱口だから大きく、大人2人が入れるほど余裕があります。更に、ふたつあります」ベンジャミンは指を二本立て、微笑んで見せる。
「……その冷却中の温度は?」
「予想温度はマイナス50度。厚着をするか、炎魔法でなんとか凌ぐしかないですね」
「まぁ、あたしは炎使いだから問題ないか……で、どうやってその主砲を撃たせるの?」
「それは隊長さんの作戦次第ですよ」と、彼は彼女の眼を見る。
キャメロンは足と腕を組み、満腹の息を吐く。
「……つまり、あたし達でその主砲を撃たせ、排熱口を開かせて冷却が始まったら、そこから潜入し、内部から巨人をぶっ壊すって事ね?」
「そういう事です」
「却下ね」
キャメロンはゲップと共に口にし、楊枝を咥える。
「きゃ、却下とは? これしか侵入路は無いんですよ?!」一晩以上探し抜いた道を呆気なく拒絶され、ベンジャミンは怒り心頭寸前になりながら跳び上がる。
「あんたは要塞に侵入した事ある?」キャメロンは彼の血走った目を覗き込みながら問うた。
「ないですが……」
「完璧な要塞に堂々とした入口以外の潜入路なんて存在しないって事。見つけても大体は罠。そこから入ろうものなら熱湯をぶっかけられたり網をかけられたり、大人しく入れた事なんてないわ。まぁ、未熟な要塞なら簡単に忍び込めるけどね」キャメロンは過去にバルバロンやグレーボン、バンガルドなど数々の城や要塞に潜入した経験があり、それらを踏まえて語った。
「でも、潜入路はここしかないんですよ!!?」
「ここしかないってトコロに罠を置くもんだよ。それに、ウィルガルムとの戦いでヴレイズがまんまと嵌ったって聞くじゃない。絶対に何かあるよ」彼女は過去の戦いについて合ラスティーやエレンから話を詳しく聞いていた。ヴレイズは弱点と思われる丹田の光る部位を狙ったが、そこは対要塞用兵器の発射口であった。
「排熱口に……そんなモノを仕込みますか、普通?」ベンジャミンは我が耳と常識を疑う様に眼を見開いた。
「ウィルガルムは開発者でもあるけど、武人でもあるからね……罠は警戒すべきよ」
「じゃあ、どうすれば……もう弱点なんて……」
「いや、あるじゃない。ねぇ?」
キャメロンは不敵に微笑み、部下の皆の顔を見る。彼らは皆、エルも含めて頷いていた。が、半数は顔を青ざめさせ、身震いをしていた。
「え……? どこ……?」ベンジャミンは一番その場所を聞きたいのか首を傾げる。
「こ~こ」と、彼が持って来ていたデストロイヤーゴーレムの図面を広げ、主砲を指さした。
「だから、排熱口は……」
「ちが~う! ここ!!」キャメロンはベンジャミンの眼前へ図面を広げ、主砲から指を突き抜けさせた。
「は、発射口から!!!! そんな馬鹿な!! 自殺行為だ!!」彼は仰天しながら尻餅をつき、彼女へ指を向け返した。
「でも、攻城戦や潜入の鉄則よ。相手の意表を突けってね」
「大砲の中へ入るバカがどこにいますか?!!!」思わず声が裏返り、口を押える。
「入った事ある奴、いる?」と、キャメロンが挙手する様に手を上げる。彼の隊員の中には数人いる様子であり、彼女もバルバロンとバンガルドで2回入った事があると口にした。
「そ、そんな馬鹿な……」
「それに、あのヴレイズはドラゴンの口の中へ飛び込み、撃退したって聞いたな。いい? 戦いってのは相手の意表を突いて一番痛いところを抉る為には、自分の命を差し出す覚悟が必要なんだよ。今回もそれをやってのける!!」と、キャメロンはお茶を一気に飲み下し、カップを机に叩き付けた。それに応える様に隊員たちは一斉に声を上げた。
「……あわ……わ……」殺気にも似た闘気に満ちた声で叩かれ、ベンジャミンはその場で失禁し、小刻みに震えた。が、この震えは恐怖から来るものではなく、初めて闘争本能に目覚めた雄としての自覚無き興奮であった。
如何でしたか?
次回もお楽しみに




