170.目覚める偽りの英雄
いらっしゃいませ!
では、ごゆっくりどうぞ
ディメンズが起爆スイッチ押した瞬間、研究都市各所で爆発が起こり、煙が上がる。
「これはこれは酷いじゃないか。罪の無い一般人もいるというのに」ヴァイリーは眉を下げ、ワザとらしく爆発の方へ顔を向ける。
「そうでもないさ」1回目の爆発は避難を促す陽動であり、頃合いを見計らってもう一度ボタンを押すと支柱に仕掛けた本命が爆発する予定であった。研究員たちは大切な書類や器具を抱えて慌てて避難を始め、見回りの警備員らが誘導を始める。
「で、あんたのご自慢の新兵器とやらはどこだ?」ディメンズは余裕たっぷりに煙草を咥え、火を点けて煙を吐いた。
「この新兵器はそこまで派手でも大きくもないんだ」ヴァイリーはため息交じりに中央棟の方へ様子を伺う様に眼をやる。
「そっちだったか……あっちはハーヴェイが担当しているが……何かあったんだろうなぁ」と、ナイアとドミノが絡んでいる事を思い出し、苦しそうに煙を吐く。
すると、中央棟から筋骨隆々の半裸の男が出てくる。その者は量産型ウィリアムの様に半透明の肉体をしていたが、顔は似ても似つかなかった。
「人造人間か……多少期待していたが、芸が無いな」ディメンズは安心した様にため息を吐いたが、次第に表情を強張らせる。
「知った顔かな?」ヴァイリーはしたり顔を向け、彼の表情を伺う。
「お前……どうやって……」彼は明らかに動揺し、煙草を落とす。
その人造人間の顔は彼が良く知る人物の顔であった。
「そう、エリック・ヴァンガードをモデルにしたんだ。1年前、世界の影の残党が作った別タイプの人造人間のデータとサンプルを使ってね」
「貴様!!」ディメンズはハンドボウガンを取り出し、憎き相手目掛けて容赦なく引き金を引く。が、ヴァイリーは飛んでくる矢を避け、一歩間合いを近づける。
「君はエリック君の一番の相棒だったそうじゃないか? 君以上の適任はいないだろう。起動実験のデータを取らせて貰うよ」と、セリフを残して忽然とその場から消える。
ディメンズは気配の残った方へボウガンを放ったが、避けられたと悟り、人造人間の方へ向き直った。
「あいつの行く場はわかるからいいか……今は、アレだな」エリックを模した人造人間は一歩一歩ディメンズの方へ近づいていた。
彼は様子を見る様にボウガンの矢を放つ。今回は矢先に爆薬を仕込んでいた。
人造人間はそれを素手で掴み、もろに爆発を喰らう。
「大したことないな」ディメンズは安堵しながら矢を装填する。
「いってぇ!! 油断したぁ!!」
人造人間は黒くなった顔を擦りながら矢を掴んだ手を振るい、分かり易く熱がった。
「なに?」ディメンズは首を傾げながらも、どこか懐かしそうに頬を緩めそうになる。
「ディメンズだっけ? 凄腕のボウガン使いか……データだけじゃわからない事もある。実際に試させて貰おうかな~」人造人間は楽し気な声を漏らしながら首と肩を動かし、指の骨を鳴らす。
「なんだ、こいつ? まるで……まるで……」人造人間の表情の動かし方、話し方を聞き、耳を疑う。
「生まれたばかりだから自信を持っていうべきではないんだろうが、俺はちと強いぜ?」と、エリックと姿形の似る人造人間はディメンズへ間合いを詰めた。
その頃、ハーヴェイはドミノの水触手を避けながらナイアを抱きかかえ、逃走していた。
「待てぇ!! やっとナイアを私の玩具に出来るんだ!! それを置いていけぇ!!」鬼の形相で殺意の籠った水触手を振り回し、ハーヴェイ目掛けて飛ばすドミノ。
「玩具とか雌豚とか、品の無い女だな!!」彼は周囲で爆発が起き、火の手が上がっているのを確認して予定よりも早く作戦が始まった事を悟り、ポケットの中の起爆スイッチを押す。
すると、丁度ドミノの真横の壁が勢いよく爆発し、爆炎に巻かれる。
「くそ、どこへ行った!!」煙で視界を塞がれ、ハーヴェイを見失う。今の彼女は完全に理性を失っており、普段ならこのようなミスはしない女の筈であった。
それを見てハーヴェイは直ぐに建物の影へ隠れ、ナイアを寝かせる。
「ちょっと悪いな」彼は彼女の眼と呼吸、体温を確認する。「自分の名前を言えるか?」
「……ぅ……ぁぁ……」彼女の瞳は虚ろであり、自分がどこにいて誰を目の前にしているのか理解していなかった。頭の中では未だに娘の悲鳴が木霊しており、彼女の自我は徐々に壊れつつあった。
「以前の時より酷いな……あの時は肉体の方が重傷だったが、今回は心か……またホワイティ先生に頼るしかないな」と、ハーヴェイはヒールウォーターの小瓶に光の破片を入れてシェイクし、彼女に少しずつ飲ませる。「これで落ち着くといいが」
その後、彼は彼女を物陰に隠して寝かせ、殺気溢れるドミノの方へ向かった。彼は大跳躍をしてナイアを隠した方とは別方向から姿を現す。
「ドミノぉ!!」
「ナイアを何処へやったぁ!!」髪型と化粧をぐちゃぐちゃにしたドミノは獣の様に唸りながらハーヴェイを睨み付ける。
「俺の大事な家族によくもやってくれたな……」
「家族ぅ? 旦那はくたばったエリックの方でしょ?」
「あぁ、そうだな……だが、俺はナイアの娘……アリシアと共にあの村で生活し、普通の生活というモノに触れた。十数年間、俺はアリシアと共に暮して……ナイアは俺の事を家族と、アリシアは父親と呼んでくれた。嬉しかった……そんな2人を傷つけたお前は絶対に許さない。お前は獣だ。ここで狩る!」ハーヴェイはここでやっと殺気を漏らし、鋭い眼差しでドミノを睨み付け、弓を構えた。
「ナイアの家族は私だぁぁぁ!!」彼女は彼の言葉が気に入らなかったのか、今まで以上の怒声を上げて襲い掛かった。
次の瞬間、彼は雷魔法で加速した矢を4発放ち、彼女の四肢を貫く。怯んで動けなくなった彼女の胸に肘打ちを入れる。その一撃で彼女の魔力の流れがストップし、水触手がただの水に変わって地に落ちる。
「ぐっ……?! なに?」
「怒りで曇った獣を狩るのは容易い。珍しいな、お前がここまで取り乱すとは」と、彼は淡々と彼女の手足を縛る。
「やっと、やっとあの子を手の中に収める所までいったんだ!! このまま手を離して堪るか!! ナイアは、ナイアは私の物なんだ!!」ドミノは涙を流しながら歯の間から絞り出し、手足を縛られながらもその場で暴れた。
「そんな事を言うから、お前は拒絶されるんだ」
「黙れ! あぁなったナイアを助ける事はもう出来ない!! 心は砂の様に崩れ、がらんどうの生き人形になる! お前たちでは助けようが無い!! 私に寄越せぇぇぇぇ!!!」
「……そうはさせない。いいか? お前のトドメは正気に戻ったナイアにやらせる。それまでお前は、俺のモノだ」ハーヴェイは彼女に顔を近づけ、凄みを効かせて口にした。が、内心ドミノには身震いしていた。
ディメンズは距離を取りながらボウガンを放ち、風魔法を足元に展開して上空へと跳躍していた。
「あいつは間違いなくエリックだ……だが、あそこまで似せる事が出来るのか? 一体どうやって??」珍しく彼は狼狽しながらも研究都市の一番高い建物に隠した大型ボウガンの元へ跳ぼうと顔を向ける。
「そっちに本命の武器があるのかな、ディメンズ君?」
彼の背後から声が囁き、ディメンズは振り向くことなくボウガンを撃つ。が、全ての矢は避けられ、かすり傷すら与えられなかった。
「気安く名前を呼ぶな、人造人間!!」
「じゃあ、何て呼べばいい? 俺はエリックだ」と、半透明の表情でにこやかに口にする。
「お前は『エリック』じゃない!!!」ディメンズは普段は使わない風の斬撃魔法を飛ばして人造人間を遠ざけ、急いで建物の屋上へ着地し、急いで得物を取り出して射撃準備をする。
そんな彼の射線の真正面に着地し、余裕の笑みを覗かせる。
「ん~その武器なら、俺を一撃で仕留められそうだな。よし、俺は避けないから、よく狙え。外したら、お前の負けだ」と、胸を聳やかして腰を落とす。
「……やめろ……そのセリフは……エリックのセリフだ」聞き覚えのある、脳裏に忘れられることなく残り続けるセリフと似たセリフを聞き、表情を歪めて冷や汗を掻く。
「だから、俺はエリックなんだって」
「お前はエリックでも人間でもない!!!」と、500メートル先の獲物を確殺する用の矢を10メートル先の人造人間に向かって容赦なく放った。
如何でしたか?
次回もお楽しみに




