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ゴッドレス・ワールズ・ファンタジア  作者: 眞三
第4章 光の討魔団と破壊の巨人
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169.異世界転生者ヴァイリー

いらっしゃいませ!


では、ごゆっくりどうぞ

 用意されたデザートを踏み荒らし、ナイアは鬼面でドミノに襲い掛かる。彼女の怒りはこの20年以上溜めに溜め込んだ灼熱の様な憤怒であった。更にアリシアの涙で拍車がかかり、彼女は理性が完全に切れていた。


「私たちの食事は毎回、食後のワインまではいかないわね! 折角今日は最後まで楽しめると思ったのに!!」予想が外れて計画が頓挫したドミノは忌々しそうに吐き捨てながら中央研究棟内を駆け回る。


「お前を片付けてから楽しませて貰うわ!!」ナイアは目を血走らせ、周囲の目もはばからず怒鳴り散らしながら彼女を追いかけ回す。


 そんな2人を影ながら気配だけ追跡するハーヴェイは内心冷や汗を掻いていた。


「あいつ、目的の事を……いや、無理もないが」と、溜息を吐きながらも彼はナイアの油断や危機に注意を払いながら追う。彼もナイアとドミノの因縁は知っており、彼女の怒りは痛い程に理解できた。加えて彼の第二の故郷とも呼べるピピス村を滅ぼし、守るべきアリシアを悲しませたドミノには彼も人並みの恨みがあった。


「ちっ、こうなるなら、この施設の予習をしておくべきだったわ!」と、鞄から催涙弾を取り出し、地面に叩き付ける。ドミノは水魔法で目を保護しながら裏道へ通じる通路へ入り、ナイアから離れる。


 ナイアは催涙ガスに巻かれながも奔るのを止めず、視界を奪われたまま廊下を直進した。


「頭に血が上っていると、ロクな事にはならないわね。さ、一先ず出直して……」ドミノは裏通路から中央研究棟から外へ出て息を整える。



「残念、あたしは予習してきたのよ……」



 先回りしたナイアはドミノの背後に立ち、肩を叩いていた。


「あ~ら、よくできました……ご褒美は何が欲しいかしら?」


「決まっているでしょ!!」と、ナイアは拳を握り込み、憎き彼女の顔面を睨む。


 が、そこで彼女の膝がぐらつき、突如その場で嘔吐する。未だに彼女の頭の中ではアリシアの悲鳴が響いていた。ピピス村を燃やされた時、傭兵団に身体を弄ばれた時、グレイスタンで拷問された時、そしてウィルガルムに仲間を蹂躙され、殺されかけた時。更にナイアの過去を悪夢として見せられた時の苦しみが呪いの様に彼女の脳内で溢れ返っていた。この呪いは精神に永続的に作用する代物であり、一時的に強がり、怒りで猛進できたが、ついに限界が訪れたのであった。


「う……あ……が……」両手を地面に突き、先程食べたランチを人目もはばからず吐き続ける。胃にはいくつも小さな穴が空き、鋭くも鈍い激痛が彼女を襲っていた。


「そうよ、普通そうよね……精神崩壊しかねない威力の自信作だもの」ドミノは過去に何度かこの技を使っており、何人もの心を破壊していた。


「ぐっ……あ……くっ!!」ナイアは闘志で無理やり立ち上がり、ドミノに掴みかかったが、カウンターで横っ面に膝蹴りを喰らい、後方へ吹き飛ぶ。「ぐあっ!!」


「調子に乗るなよ、この雌豚が!! あんたは私の家族になるのよ……いえ、家族にして下さい、っていうまで私の玩具よ! そして私が許すまで……」と、獲物をいたぶる様にゆっくりと近づき、痛みに喘ぐ彼女の髪を掴み上げる。


「ぐっ……この……」


「拷問してあげる。昔のようにね」ドミノはぐにゃりとした笑顔を覗かせ、声を張り上げて笑った。


 次の瞬間、彼女の肩に矢が突き刺さり後方へ吹き飛んだ。


「なに?!」



「悪い、俺は予習し損ねた」



 ハーヴェイは、気配は追えても建物内の構図を把握する事に一手遅れ、追いつくのに手間取っていた。やっと追いつき、憎きドミノの肩を一瞬で射抜いていた。


「あんた、ハーヴェイね?! 死んだんじゃなかったの!!」


「よく言われる。お前には俺も怨みがあるからな。晴らさせて貰うぞ」と、言いながらもナイアを抱き寄せ、ヒールウォーターと薬を飲ませる。苦悶に歪む彼女はそのまま眠りについた。「無理しやがって、本当に昔と変わらないな」


「ったく、私の計画の邪魔をしやがって!! お前はもう一回死ね!!」ドミノは化粧の崩れかかった鬼面を向けながら肩に刺さった矢を抜き、水の触手を伸ばしながら獣の様に唸る。


「化けの皮が剥がれたか……」ハーヴェイは淡々と口にしながら弓を背に仕舞い、片手にナイフを構えた。




 その頃、ディメンズは西棟と東棟に爆弾を仕掛け終わり、兵器格納庫へ向かっていた。


「ワルベルトの情報と違うな……東棟に新兵器がある筈だったが。ここか?」彼は首を傾げながら堂々と研究都市を歩いていた。


 そんな彼の背後に白衣を着た何者かが立つ。


「君がディメンズだね?」


「俺の背後に立つとはやるじゃないか」と、ディメンズはゆっくりと振り返る。


「初めまして、ヴァイリー・スカイクロウだ。君たちの活躍は聞いているよ」


「お前が噂の異世界転生者か……お前が持ち込んだ技術のせいで、色々と迷惑しているんだよ」ディメンズは一歩引き、集中する様に目を細める。


「ほぅ、そこまで調べがついているのか。恐れ入った」ヴァイリーはワザとらしく手を叩く。


「っと言っても、俺にはよく理解できないんだよな? お前は異世界から来たんだろ? だが、転生ってトコロがわからん。お前は一体何なんだ?」ディメンズは頭を掻きながら首を傾げる。


「まぁ色々あってね」




 彼は生まれた頃から前世、別世界の記憶を引き継いでおり、その情報と頭脳を武器にここまでのし上がってきた科学者であった。


 前世でも彼は科学者であり、人類の進化の為に尽力していた。が、彼がどんなに努力しても戦争は起こり、世界は悪い方向へ突き進み、邪悪な人間が蔓延る醜い世界へと成り果てていた。彼は自分の研究は正しい、人類の進化は世界をより良くすると信じて研究を続け、ついに彼は不死身の肉体を手に入れ、世界人口を10分の1に間引き、選ばれた者のみの理想郷を作る事に成功した。


 しかし、残った人類は彼の理想とした人間ではなく、邪悪な者しか残らなかった。そしてまた争いを巻き起こしたのであった。


 彼はそんな世界に絶望し、別の世界へ移動する術を数百年かけて研究し、ついに発見する。異世界への門を開き、肉体と嘗ての世界を捨ててこの世界に魂だけでやって来て、赤子の身体を乗っ取ったのであった。


 そして同じ過ちを犯さない様に再びこの世界で人類の進化の研究を再開し、やがて魔王と出会うのであった。




「で、人類の進化って奴の調子はどうなんだ?」ディメンズは煙草を咥えながら問うた。


「前の世界で学んだのは、肉体は精神を蝕む、という結果だった。だが確かに蝕まれず、高潔な精神のまま肉体の進化について来る者もいたが、それは10分の1の人類だけだった。だが、いざ残ったのは……醜く欲張りな人間ばかりだった。そして気付いた。進化すべきは肉体ではなく、精神なのだ」


「ほぅ……? だが、お前の研究は人間の肉体を玩具にするモノばかりじゃないか?」と、彼の呪術兵器研究を指摘した。


「いいや、精神の成長、進化に則したモノだ。その証拠に、ドラゴンを心に宿した者はドラゴンになったし、呪術による精神操作も可能だ」


「そうやってお前は、何処へ向かおうとしている?」


「真なる人類の進化だ。精神の成長と、完璧な肉体。これを完成させ、魔王をあっと言わせるのだ! 更に魔王は異世界へのゲートを開こうとしている! しかも私と違って安全にだ! 私はそれで元の世界へ帰還し、今度こそ世界を救って見せる!」と、ヴァイリーは笑いながら両手を掲げた。


「それはご立派な目的だ。お前らみたいな、人の心を理解しない連中は大局にしか目を向けないよな……邪悪な目をしてよ」と、煙草をヴァイリーの足元へ投げ捨てる。


「お前には新兵器の実験台になって貰おう」と、ポケットに手を突っ込み、手の中のスイッチを入れる。


「面倒だから、俺もやっちまうか」ディメンズもポケットに手を入れ、起爆スイッチを入れた。



如何でしたか?


次回もお楽しみに

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