157.転生魔法の可能性
いらっしゃいませ!
では、ごゆっくりどうぞ
ウィルガルムのパワードスーツは今までのシリーズとは違い、ごちゃごちゃした装備は一切なく、流線型のデザインをしていた。黒紫色の輝きは相手の姿を写し出す。黒い靄は背後の闇魔法発生装置から吐き出され、それを全身に纏いふわりふわりと宙を浮いていた。手を翳すと好きな場所に闇の弾を発生させ、これを属性攻撃に当てるだけで打ち消し、更に拳を突き出すとダークブラストを放つことができた。本来、このパワードスーツは魔王からの使用許可を必要とし、ちょっとやそっとの作戦では許可は下りなかった。
「貴様ぁ……ついに闇魔法まで……」ブリザルドは忌々しそうに歯を剥きだし、周囲に展開させた嵐をさらに強めた。
「ブリザルド、苦し紛れに魔石を取り込んで己の力を上げたつもりだろうが……常に嵐を巻き上げる事で身体にかかる負担を減らし、結局は普段の力の2割増し程度しか扱えていないな。苦労している割には、その程度か?」ウィルガルムはマスクの下で笑い、徐々にブリザルドに近づく。
「調子に乗るなぁ!!」ブリザルドは風雷の力で加速し、余裕綽々の相手の周囲を高速移動して隙を伺いながら飛び続けた。
それに対しウィルガルムのマスクの下では自分を中心にブリザルドの気配が光点となって表示され、どんなに高速移動していても場所は一目瞭然であった。光点が背後斜め上空で止まり、光が激しく輝く。それに対し、ウィルガルムは闇の小粒を指先から放つ。
「なにぃ!!」ブリザルドの溜めていた魔力が一瞬で闇の粒に吸収され、手に溜まっていた風雷がウソの様に消える。
そこへ更に振り向きざまにダークブラストを放ち、ブリザルドは闇の炎に巻かれる。今まで彼の周囲に展開されていた嵐が徐々に弱まっていく。
「言っておくが、闇魔法は加減が難しいんだ。下手な事はするな」ウィルガルムは闇の炎に悶絶するブリザルドを鼻で笑う。
「おのれぇ……だが、ここで止まる訳にはいかんのだ!!」と、ブリザルドは闇に巻かれながらも何とか空を飛ぶだけの力を振り絞り、間合いを取った。
「そうか……じゃあ冥途の土産に教えてやるが、お前が世界王クリスと繋がっている事、その為に死にかけの世界の影を利用した事、クリスとお前が企んでいる事も全て御見通しだ。更に、お前はクリスを騙して創造の珠、破壊の杖を独り占めにしようと企んでいるのもな」と、両腕に闇魔法を纏い、周囲の闇の粒子を吸収し、ダークブラストの威力を増大させる。
「そうか……私は悉く読まれていたわけか……だが、クリスを甘く見ない事だな。あの男はお前らの上を行こうとしている! そして私は、私のやり方でお前らの上を行く!!」と、闇の炎を振り払う。皮膚は焼けて腐り、闇魔法の影響で直ぐに回復魔法を施す事が出来なかった。
「少なくとも、お前は脱落だ、ブリザルド!!」ウィルガルムは容赦なく高出力ダークブラストを放った。その一撃はブリザルドを飲み込んでしまう。闇の本流はそのまま彼を遥か彼方まで吹き飛ばし、彼の意識消えたかの様に周囲の嵐がウソの様に消え去った。
「やっと晴れたか。さて、仕事に戻るか……言い退屈しのぎだった」ウィルガルムはフルフェイスマスクを解除し、デストロイヤーゴーレムの中へと戻っていった。
「嵐が止んだ……」嘘の様に晴れた空を見てアリシアは首を傾げた。彼女は意識を失ったヴレイズの肉体を診断していた。そこで感じた異変に頭を悩ませる。
彼の首や腰、心臓に至るまで真新しい回復痕があり、それを不気味がっていた。実際、この場所に回復痕があるのは不自然であり、この場所を自己再生させるのは相当な手練れであり、回復呪術を何重にもかけていないと不可能であった。首を撥ねられても回復し、更に動くのは例え賢者の域にいる者でも不可能であり、もはや不死身の化け物に近かった。
「一体どういう事なの?」これ程までに回復痕が刻まれ、肉体や内臓は焼け爛れ、ほぼ死人の様に成り果てていたが、ヴレイズ本人の心臓は力強く動いており、脳波も正常であり、彼も普通に眠っている状態であった。しかも、彼女の光の回復魔法やヒールウォーターも拒絶する様に受け付けなかった。
「……ヴレイズ、一体貴方は?」と、口にした瞬間、ヴレイズがガバッと勢いよく起き上る。「う゛お゛ぁ!!」
「ぐぁ!! あ、アリシア……無事か?」と、目を泳がせながら彼女を見る。その間にヴレイズの身体の傷が消えて行き、やがて何事も無く全快する。
「ヴレイズ、一体何なの? あんた、今まで全身火傷で生きているのが不思議だし、その回復痕もおかしい!」と、指を向けながら声を荒げる。彼女はシルベウスの元で勉強をしたが、炎魔法についてこの様な記述が無かった。
「ゴメン、アリシアがあいつにやられたのを見てから記憶が無くて……ただアリシアを助けたくて、死んだなんて信じられなくて……また助けられないなんて嫌だって気持ちが一杯になって……」と、頭を押さえて涙を流す。
「自分でもよく分かっていないのか……少し調べさせて。その回復痕が正常なものかどうか確かめないと、急に傷が開いたら困る場所だしね」と、彼女はヴレイズの回復痕のある首に触れる。
が、彼はアリシアを引き寄せて抱きしめた。
「無事でよかった……俺はもう、失いたくないんだ……奪われたくないんだ!!」
ヴレイズは今まで家族や故郷を奪われ、人生の殆どを孤独に生きていた。そんな中、アリシアや他の仲間らと出会い、やっと自分の人生を歩めるようになり、生の実感を得ていた。が、今度はフレインをヴェリディクトによって奪われ、心に大きな穴が空いていた。アリシアや仲間らと再会してその穴は埋められたが、先程の経験から再び心の傷が開き、悲しみが溢れ出たのだった。
「そうか……ゴメンね……あの時はあぁするしかなくて」彼女は狩人としての、そして今迄の戦いの経験から相手によっては死んだふりを用いて油断を誘う手をよく用いていた。今回は歯が立たない為、意図的に心臓を止めて生を拾った。その代償として右腕が完治不能となった。
「その右腕……」ヴレイズの目に止まり、包帯でグルグル巻きになった手を診せる。
「ヴレイズの右腕と同じだね。あたしのは眩しいから包帯で隠すけどさ」と、無理やり笑って見せる。実際は今までの右腕とは使い勝手が違い、弓を使う際には苦労するだろうと覚悟していた。
「いや、多分……」ヴレイズはその傷に触れ、目をじっと瞑る。彼女の右腕に炎を纏わせ、包帯を焼き払う。
すると、少しずつ欠損した筋肉や骨が再生していく。仕舞には皮膚や爪までもが生え変わり、ズタズタだった腕が元通りに戻った。
「え……え? えぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ?!?」信じられないのか左と右で交互に見て、右腕の各指の動作と感覚を確認し、全く問題なく再生した事を確認し、仰天する。
「マジか……いや、さっき意識を失った時、感覚でこう……なんとなく掴んだ回復方法だ。俺の致命傷を回復したのもコレなのかもな」と、首筋に触れる。
アリシアは目を剥いて驚いたが、同時にヴレイズの右腕を見る。
「その腕は再生できないの?」
「無くなってから日が経つし、これに慣れちゃったからなぁ……出来るかわからないな」と、赤熱右腕を揺らめかせる。
「そっか……でもすごいよ。回復魔法の技術ならあたしを超えている。悔しい程にね」
「なんだか自然の摂理に反している気がするけどな……いや待てよ、これが……?」と、過去に得た己の知識と照らし合わせる。
「炎の蘇生魔法、転生の炎……?」アリシアも知っているのか、その可能性に気付いていた。
蘇生魔法とは、実際には心停止30分以内に心臓を動かす魔法の事を呼んでいた。が、伝説の蘇生魔法は死んだ者を冥界から呼び戻し、文字通り蘇らせる魔法の事を言った。その昔、ネクロマンサーが存在したが、彼らの蘇生魔法は粗悪なゾンビを作成させるだけに留まり、ボスコピア国の事件に伴いネクロマンサーの蘇生呪術はククリスにより禁忌とされた。それ以外の蘇生魔法は水、大地、そして炎の3種類存在が確認されたが、どれも使いこなせる術者は出てきていなかった。
「これが使えれば、俺は……」と、立ち上がろうとするが、腰が抜けた様にその場にへたり込む。ブリザルドとの戦いの反動からか、回復はすれど肉体への負担はそのままなのか、力が入っていなかった。
「なんだか、まだ課題が多そうなだね」アリシアは少し安心した様にため息を吐き、茶の準備を始めた。
「どうやら回復の負担がキツイみたいだ……アリシアの傷は大丈夫か?」それに対して彼女は笑顔で首を振り、彼をテントの中に座らせる。
「嵐の元のブリザルドの魔力を感じないから、撤退したのかな? それに、ラスティーの言う通りデストロイヤーゴーレムに圧はかけたし、作戦は順調ね。だから、今は休憩しよ?」と、彼女は彼に優しく笑いかけ、湯呑に茶を注いだ。
如何でしたか?
次回もお楽しみに




