154.襲撃の突風
いらっしゃいませ!
では、ごゆっくりどうぞ
量産型ウィリアムが破壊され、モニター越しにウィルガルムは目を剥き、口をあんぐりと開けていた。コストを押さえた量産型ではあったが、空中で護衛出来る様にバトルアーマーを装着させた自信作であった。それがいとも簡単に破壊され、水を浴びせられた様に目を覚ました。
「あいつら……あの時と比べ物にならない強さだ」と、急ぎ右腕のアームを切り離し、直接コンソールに繋ぎ、神経接続をする。小さな稲光の様な音と共に蒸気が噴き上がり、ウィルガルムの生身の血管が浮き上がり、痛みを堪える様に奥歯を食いしばる。
神経接続とは、彼と機体のコンピューターと直接繋がる事によってデストロイヤーゴーレムを直感的に操作する事が可能になった。不測の事態が起きない様、彼は最低限の本気を出す事に決めたのだった。
「さて、まずは小手調べといこうか!!」
アリシアはヴレイズの元まで急ぎ戻り、彼の隣で制止する。
「お、アリシア。倒してきたのか?」
「まぁね。で、どうしようか、アレ?」と、アリシアがデストロイヤーゴーレムの方へ向き直る。それは彼ら2人を認識する様に顔をゆっくりと向け、目を輝かせる。
「なんだかヤバそうだな」ヴレイズは冷や汗を掻きながら後退りし、身構える。
すると、デストロイヤーゴーレムの目から強い波動が放たれる。それはどの属性でもない不思議な波動であった。
それに反応して2人は互いに魔障壁を掛ける。が、波動は魔障壁を貫通し、突風の様に2人を叩いた。同時に2人の身体から漲っていた魔力がふっと消え、力が抜ける様に海へと落下を始める。波動によって魔力循環が強制停止した合図であった。
「ちょ、どうなっているんだよ!!」ヴレイズは手足をバタつかせる。
「封魔の波動か……舐められたものね!」アリシアは口元を緩ませ、彼の手を握る。それを合図に、2人の身体の魔力循環が一気に戻り、光と炎が溢れだす。
が、デストロイヤーゴーレムのサンダーキャノンとヒートブラスターが2人の方を向き、射撃を開始する。この砲撃は輸送機や軍艦を一撃で粉砕する威力を誇った。
そんな砲撃を、ヴレイズひとりの魔障壁で防ぎ、一瞬で炎の分身を展開する。それらが一斉にデストロイヤーゴーレムへ突撃し、自動砲台はそれに攪乱される。その隙にアリシアは高速でデストロイヤーゴーレムの背後へ回り込む。
「ここはどうかな?」と、後頭部と首の境目に光の粒を飛ばす。それは直撃と同時に膨張して炸裂する発光魔法であった。それが見事境目へ入り、同時にデストロイヤーゴーレムの全身から光が噴き出る。
しかし、体勢を崩すどころか全く怯む様子を見せず、背後の砲塔が彼女の方を向く。
「ちっ、中にいる人の目も眩まないかぁ……」と、口にした瞬間、彼女の身体が砲撃によってクシャっとバラバラに爆ぜ飛ぶ。
「うぉい!! アリシアぁぁぁぁ!!」それを見て目を剥いて仰天するヴレイズ。次の瞬間、彼の隣にアリシアが光と共に戻ってくる。
「分身が作れるのはヴレイズだけじゃないよ」彼のは炎一色であり、一目で分身だと分かった。が、アリシアのは形から色までも寸分違わず本物に近い分身であった。
「いや、あまりにも精巧な分身で……心臓に悪いな」と、胸を押さえる。
「今度は右からいく!」アリシアは光だけ残してその場から消え、大巨人の右舷へと回り込み、フラッシュブラストを放つ。それは熱と衝撃波を持った光属性使いの数少ない攻撃魔法であった。
「じゃあ、俺は左だな!」と、ヴレイズは赤熱右腕を燃え上がらせ、今迄で一番無遠慮な火炎熱線を放つ。周りが海であり、相手は要塞の様な巨人と言う事もあってか、思い切りの良い熱線であった。
しかし、デストロイヤーゴーレムにはほぼ全属性に対応した魔障壁を張る装置が搭載されていた為、噴火の様な火花が飛び散る。
アリシアのフラッシュブラストに対して魔障壁は対応していなかったが、防ぐまでも無い威力だった為、傷ひとつ衝撃ひとつ与える事は出来なかった。
「なんだよ、拳の跡を残すつもりで撃ったのに、手応えなしか……」と、赤熱右腕から燻る煙吹き消し、自動砲撃を防ぐ。
「でも妙ね……こいつには無属性砲があるのに、あたし達に向かって撃たないなんて」と、アリシアは首を傾げる。
その頃、コクピット内部では再び冷や汗を掻いていた。あと少しヴレイズの攻撃が強かったら魔障壁発生装置がオーバーヒートし、しばらく使えなくなっていた。
「本当に強くなったんだな……魔障壁が破壊されても問題はないが、このまま続けられたらやっかいだ……くそっ」と、無属性砲の自動迎撃装置を発動させたそうに唸る。
しかし、それは出来なかった。魔王の命令でアリシアは殺すなと命じられており、極力手を抜いていた。
「全く、エクリスも早く合図をくれないもんかな……足が錆びついちま……ん?」と、遠方から強い魔力反応をレーダーが感知し、そちらの方へ首を向ける。
大海が荒れ、深海の巨大生物が顔を出す中、大空を鉛色の雲が太陽を覆い隠す。その下を凄まじい魔力を纏った台風が通過する。それは海を巨大生物ごと巻き上げ、大竜巻となってデストロイヤーゴーレムへ向かって直進していた。
その巨大渦の真ん中には鬼の形相をしたブリザルドがいた。彼は体内に魔石をふたつ宿し、普通では考えられない程の魔力を意のままに操っていた。
彼は元風の賢者であったが、魔石をふたつ取り込んだことにより、雷も操れるようになっていた。台風の中心から怒りを発散する様に稲妻を撒き散らし、怪物の様な轟音で吠える。
「さぁさぁ、ウィルガルムだけではない……あの時の小娘に、あの炎使いか! これは何のご褒美だ? あの2人はじわじわと殺してやる!!」
ブリザルドは喜々とした笑みで両手を広げ、デストロイヤーゴーレムを中心とした戦場へ突撃する。
「あ、アリシア……なんだ、あれ……?」魔力を感じるまでも無く空気の震えを感じ取り、暗雲の広がる北の空を見る。
「……ラスティーのアドリブ作戦とは関係なさそうだけど……何?」アリシアも台風の正体が分からず、訝し気な顔で首を捻る。目を瞑り、台風の正体を探る。それは感じた事があるが、以前の彼ではない事に気が付き、身を強張らせる。
「……ブリザルドだぁ……」ヴレイズも気が付き、奥歯をカタカタ震わせる。以前、彼と戦った時、勝利は仲間らと共に捥ぎ取ったものの、ヴレイズは片腕と片脚を斬り飛ばされ、散々な目に遭った。その時の思い出が過り、ヴレイズは腕を震わせた。
「何であいつが? いや、そんな事はどうでもいいか……さて、敵が増えたけど、どうする?」アリシアは冷静に状況を判断し、一歩引いてデストロイヤーゴーレムとブリザルドの台風をひとつの視界に置く。
「俺の見た感じ、あの巨人は手を出さない限り激しく攻撃はしてこないな……で、あの台風は?」ヴレイズは注意深く観察する。
すると、2人に向かって空間を引き裂くような稲妻が無数に襲い掛かる。慌てて2人は身を翻して、稲妻を避けた。
「おいおいおい!! あいつは風使いだろ?! 雷ってなんで?!」
「雷は元々、風と同属性だったけど、同時に操れる使い手はいなかった。だから、ククリスが属性を分けたって話だよ。でも、あいつはそれが出来る様になったみたいね!」
「でもどうしてそんな芸当が? あいつもすんげぇ修行したとか?!」ヴレイズは尻を掠めた稲妻の衝撃にビビりながら問う。
「いや、あの感じ……まさか……」アリシアは文献で目にした事のある微かな内容を思い出し、喉を鳴らす。
「まさか、なんだよ……怖いから早く言えよ!」ヴレイズはどう考えてもブリザルドのあり得ない程の魔力に合点が行かず、怯えた様に声を震わす。
「魔石をふたつ、取り込んだって言うの?!」
アリシアは目を剥いて驚き、ここに来て初めて狼狽する。彼女の口にした事は簡単ではあるが、実際はあり得ない、またとんでもない事であった。
「魔石をふたつ……? なぁんだ……」ヴレイズも大したことではないと考え、気の抜けた返事をする。
「なぁんだとは何だ!! 魔石をふたつ身体に入れたらどうなるか、あんたわかってるの?!!?!」彼女はヴレイズの胸倉を掴み、勢いよく揺さぶった。
「なんだよなんだよなんだよ?! いったいどういう意味があるんだよ?!」
如何でしたか?
次回もお楽しみに




