153.暖かい炎、灼熱の光
いらっしゃいませ!
では、ごゆっくりどうぞ
朝の作戦会議を終え、太陽が真上に登る頃、討魔団の大半はスレイヤーフォートレスや輸送機の修理、武具の手入れを行っていた。
その中でアリシアとヴレイズは次の戦いの支度を済ませ、魔力を高め合っていた。
「ヴレイズの魔力の練り方は凄いけど、安定感がもうひとつだね。上半身と下半身の魔力伝達のバランスに問題がありそう」と、魔法教師の様に眼を尖らせる。
「ひきかえ、アリシアの魔力循環のバランスは完璧だな。一体どうすればそんな風に安定化が出来るんだ?」と、目に炎を灯し、彼女の魔力の流れに注目する。
「あたしは1から勉強して、まぁ色々あって……てか、逆にあんたはどうやったらそんな風になるの?」首を傾げ、鼻からため息を吐く。
「クラス3.5に頼り過ぎたかな……?」反省する様に頭を掻くヴレイズ。
因みに、アリシアの様なお手本の様なクラス4はお手本の様な魔力循環であったが、ヴレイズのそれはククリス魔法学院からはまず出てこない異端のクラス4であった。アリシアの言う通りバランスが悪く、不安定でつけ入る隙の多い未完成の魔力循環であった。
しかし、不安定故に爆発力があり、熟練の使い手でも予想できない奇跡の様な魔力を発揮できるという利点があった。それでも不安定故に、この魔力循環は誰も真似しようとはせず、使い手はヴレイズの様な自己流のイレギュラーのみであった。
「さて、そろそろだな。頼むぞ」と、煙草を咥えたラスティーが2人の前に現れる。
2人への次なる作戦は、デストロイヤーゴーレムの周囲を飛び回り、様子見とウィルガルムへのプレッシャーと攪乱が目的であった。
「隙があれば、攻撃してもいいんだよな?」ヴレイズは右腕の赤熱拳を唸らせ、得意げに笑って見せる。
「相手は無属性砲を無数に撃ってくる移動要塞だ。無茶だけはしないでくれ。で、2人はこれからデストロイヤーゴーレムが停泊している場所から射程範囲外に位置する無人島で待機してくれ。その場所には既にワルベルトさんからの物資や2人分のテントが用意されている」
「わかっている。今度は急な任務とか無いよね?」アリシアは訝し気な表情でラスティーの顔を覗き込む。
「ない……が、臨機応変に行動してくれ。2人にしか出来ない行動をな」と、煙を吐きながら自分の顔を隠し、2歩3歩と後退る。
そんな彼を見て、2人は『また何かあるな』と、内心ため息を吐きながら作戦の準備を済ませ、デストロイヤーゴーレムが停泊するミッドオーシャンへと向かった。
2人は超高速で飛行し、1時間弱でデストロイヤーゴーレムのいる大海が見えてくる。接敵する前にラスティーの言う無人島へ降り立つ。
そこには意外にも真新しい大型テントが二つ用意されており、食料や調理道具、魔法用具などが新品で置かれていた。
「流石、ワルベルトさんだ。用意されたのは昨夜かな?」と、輸送機が止まったであろう場所に手を置き、鼻を動かすアリシア。
「ここから大体20キロかな? ま、そんなに都合のいい島なんて無いか」ヴレイズは食料を確認し、眉を上げ下げしながら鼻歌を唄う。「じゃ、さっそく小突きに行きますか」
「待って!」彼女は彼の肩を掴み、何か思いつめた様な表情を見せる。
「なんだ? なんか今朝から変だが?」彼もアリシアの異変には気が付いており、内心、心配していた。
「その事なんだけど……」と、マリオンに相談した内容をヴレイズに伝えるか迷う。このまま彼にも聞いて貰いたいという反面、これからの戦いに支障をきたさないか不安に思っていた。
「どうした?」普段のヴレイズの目はアリシアの弱味を隠す様な目を見つめる。
「……ううん、その……旅を始めてあたしが大怪我した日の事、覚えている? ほら、アーマーベアに背中を斬り裂かれた時の事」
「急にどうした? あぁ、覚えているよ。俺もアリシアも無茶したっけ」と、およそ4年前の事を思い出す。その時は互いに未熟であり、アリシアに至ってはまともに魔法も使えなかった頃であった。
「その時、燃やす物を選ぶ炎で救ってくれたよね? ……その時の暖かさが懐かしくなってさ。またやってくれる?」と、アリシアは背を向けた。
「今?」
「いま!」
「わ、わかったよ……いつでも言ってくれればいいのにな」と、左腕に淡く炎魔法を纏い、彼女の背中に手を置く。あの頃とは違い、炎の回復魔法を扱えるようになり、更に身体を外からも内側からも温め、殺菌と免疫向上、気分高揚の技術も使いこなしていた。その魔法は彼女の萎んだ心を芯から温めた。
「…………っ」アリシアの頬を涙が伝い、膝がガクンと折れる。今まで引き締まっていた表情が緩み、再開して初めて彼女らしい安堵の声を漏らす。
「ど、どうした?!」急に力なく崩れたアリシアを見て焦って一緒に屈む。
「いや、久々に……何年かぶりにホッとしたというか……張りつめた糸が緩んだ、というか……ありがとう、ヴレイズ……!」アリシアはボロボロと泣きながらも笑顔を見せ、ヴレイズに向き直る。
「それならいいんだどさ……大丈夫か? しばらく休むか?」と、彼女の背中を温めながら優しく問いかける。
「いや、もう大丈夫!! 行こう! あたしはもう大丈夫!!」
それを合図に2人は跳躍と同時に炎と光の筋となって空を駆け、デストロイヤーゴーレム目掛けて一直線に向かっていった。
アリシアらがデストロイヤーゴーレムの射程範囲内に入った途端、自動迎撃兵器が作動し、サンダーバルカンと長射程ヒートブラスターが火を噴いた。2人は器用にヒラリヒラリと避け、さらにヴレイズはブラスターを正面から魔障壁で防ぐ。
「こんなもんか? 大したことないな!」彼は得意げに笑いながら更にデストロイヤーゴーレムへ近づく。
そんな彼の後頭部にアリシアが光の弾を軽く当てる。
「調子に乗らないの!」
「久々だな、このやり取り!」と、2人は炎と光を交差させながらデストロイヤーゴーレムの正面を飛び回った。
そんな中、コクピットで昼寝をしていたウィルガルムはアラームで目が覚め、すぐさま何者が来たのかを判断し、顎を撫でた。
「あいつらはあの時の……本当に生きていたんだな、アリシア……」と、数少ない生身である左腕を摩る。彼の腕には未だに彼女の首の骨を折った時の感触が後悔の念と共に残っていた。いくら一番の友である魔王の願いでも、年端もいかない小娘の首を折るのは流石に抵抗があった。
「あの時から随分腕を上げた様子だな……よし、少し試してやるか」と、右わきにある6つのボタンの内ふたつ押す。すると、デストロイヤーゴーレムの腰から『量産型ウィリアム改・バトルアーマー装備』が現れる。これは他の量産型と違い、ウィルガルムのバトルアーマーと同様の性能を持っており、空を飛び、1体で武装要塞を落とす事が出来る程の戦闘力を有していた。これはアリシア達の様な厄介な使い手を迎撃する為の武装の一部であった。
「なんかゴツイ顔した奴が出て来たな?」相手が何者か知らないヴレイズは構わずに人造人間の間合いに入り込み、赤熱拳を振るう。その見た目は3年ほど前のウィルガルムそっくりである事に気が付き、冷や汗を垂らす。「マジかよ!」
量産型ウィリアムが無表情、無感情でアリシアらに襲い掛かる中、デストロイヤーゴーレムも援護する様に砲撃の手を緩めず、2人を追い詰めて行く。
「とっとと終わらせよう!!」
アリシアは何か覚悟をしたのか、目を尖らせ、一気に殺気を噴き上がらせる。それを合図にヴレイズも頷き、一気に魔力を上げる。彼は火炎の軌跡を残して流れ星の様に飛び、人造人間の1体をおびき寄せる。アリシアも超高速で上空数百メートルまで飛び上がり、太陽に背を向ける。
次の瞬間、勢いに乗ったヴレイズが急速旋回して量産型ウィリアムへ向かって飛び、赤熱拳を振りかぶり、体全体の魔力を乗せて突き抜ける。その一撃はアーマーを容易く粉砕し、柔軟且つ頑丈な人造人間の肉体を赤熱化させて融解させ、真っ二つにする。無残にも人口の腸と奇妙な色合いの血液が異臭を撒き散らしながら蒸発し、ヴレイズの鼻を貫く。
「くっさ!! なんだコレ!! 人間じゃねぇな!!」と、やっと相手がただの人間ではないと気が付き、鼻を摘まんだ。
同時にアリシアも腕に練り上げた光魔法を太陽に翳し、更に魔力を凝縮させ、向かってきた量産型ウィリアムの拳にカウンターで貫き手を見舞う。彼女の頬を拳が掠め、彼女の手刀は頑丈なアーマーをバターの様に溶かし、分厚い胸板をぶち抜く。柔らかい人工心臓を握り潰し、光魔法を体内で炸裂させ、跡形もなく消し飛ばす。
「……あまりやりたくない技だけど……」アリシアは胸の内に溜まった罪悪感のため息を吐き、ヴレイズの元へ向かった。
如何でしたか?
次回もお楽しみに
 




