147.ヴァイリーとの因縁
いらっしゃいませ!
では、ごゆっくりどうぞ
その日の真夜中、ナイアはローリーをローワンに任せて宿を後にする。それを待っていた様にガルムドラグーンが上空から飛来する。が、それは魔王軍の記しは無く、ベンジャミンの設計した輸送機に近い代物であった。
「時間ピッタリだな」タラップが降り、中からディメンズがひょっこりと顔を出す。
「さぁ、早速行きましょう」彼に目で挨拶をすると、そそくさと乗り込む。操縦席には見ず知らずの男が座っており、片眉を上げる。「信用できるの?」
「こいつはワルベルトが用意している例の村の者だ」ディメンズは煙草を吹かしながら口にし、鼻から煙を吐く。
「そう……私達も秘密結社みたいなマネをやっているわね」自嘲気味に笑いながら首を振る。
「そうだな。世界の影、か……首はエリックが斬り落し、心臓もグレイスタンで潰した。風前の灯だが、まだ油断は出来ない。どこかいいタイミングで横合いから殴りつけてくる可能性があるな」昔を思い出す様に上を向きながら煙を吐く。彼らは魔王歴になる以前、全盛期の世界の影と戦っていた。
「殴る相手は私達か、魔王か……あちらも悩ましいでしょうね。ただ、タイミングはわかる。ね?」と、首を傾げて彼の目を覗く。
「来るなっていっただろうが」
いつの間にか輸送機に乗り込んだハーヴェイが目を座らせながらナイアを鉄仮面腰に睨む。
「う゛わ゛!! 乗っていたの?!」ナイアは仰天して客席からずり落ちそうになる。
「いや……いつ乗り込んだ?」ディメンズも目を丸くさせ、煙草をポロリと落とす。
「今だが……言っただろナイア。この戦いには首を突っ込むなって」ハーヴェイは彼女の正面の客席に座り、重たくため息を吐く。
「えぇ、アリシア達の戦いには、ね」
「ヴァイリーを倒しに行くんだろう? 十分アリシア達の迷惑になる。ここから先はディメンズと俺でやる。お前はこのままローリーと一緒の船に乗れ」と、口にした瞬間、ナイアが勢いよく立ち上がる。
「ふざけないで! エクリスは譲る。でも、ヴァイリーはあたしがやる! その為にあたしは……あたしはっ!!」口の端から血を滲ませながらヴァイリーの襟首を掴む。
「……まぁ……そうだよな……だが、俺はアリシアの事を考えて……」ハーヴェイは少し弱った様に咳ばらいをする。
「あたしの事はどうなのよ!! あたしは家族に故郷、それと今迄の人生にケリを付けたいの!! その為だけにあたしは世界の影のケツを2回も舐めたのよ。いい? 2回よ?! 今回のこの件であの忌々しい連中とヴァイリー、ついでにエクリスとの決着も付けてやるわ!!」目を血走らせ、鬼の形相を見せる。
「……言いだしたら聞かないのは昔からだな……」ディメンズはクスクスと笑い、煙草をもう一本取り出す。
「こういう一面……アリシアにもあるから不安だ」ハーヴェイは唸る様に口にし、頭を押さえた。
「ヘマをしなきゃいいんでしょ! ヘマを! ったく……昔を思い出すわねぇ」ナイアが笑いだすと、つられて2人が笑いだす。
「ま、ヘマをさせないために俺が来たんだがな」と、ハーヴェイは2人の顔を見ながら目を光らせた。
バルバロン国の内陸部、元ボスコピア国に位置する地域にヴァイリーの研究都市があった。ここには研究員の住宅、各施設、研究所、工場、格納庫などここはバルバロンの呪術兵器開発の心臓部であった。
ボスコピアはかつて、不死の呪術と蘇生魔法研究を第一に進めていた。その研究にはヴァイリーも参加していたが、彼はこの研究を退屈に思い、ネクロマンサーの秘術を暴走させ、この国をエルデンニアに並ぶ死の国へと変えた。彼が作ったのはグールではなく、もっと感染力の高い呪術モンスターであった。
この国に住んでいたのが当時4歳のナイアであり、彼女の父親と母親が命がけで彼女を国外へ逃がし、命を拾った。そこから流れに流れてピピス村に辿り着いたのであった。
この都市には普段、ヴァイリーはおらず、特別な研究をする時にしか姿を見せなかった。
その時がこの数日間であった。
ヴァイリーはウィルガルムと共同開発した量産型ウィリアムの戦闘データの集計と新型人造人間の起動実験立ち合いの為にこの都市に姿を見せていた。
ヴァイリーは研究棟の自室で戦闘データの蓄積されたメモリーウォーターを飲みながら書類を読み込んでいた。
「ゼオを好き放題させたのが良かったな。いいデータが取れている。やはり感情があった方が強い。が、制御が難しいな。呪術で洗脳コントロールも出来るが、そっちはイマイチ成果を上げていないし、なんでも感情を抜いた量産型は何体か破壊されたからな。いやはや難しい」と、メモリーウォーターを飲み干す。すると、何かに気付いたのか眉を潜ませる。
「ん……あのゼオを破壊したのがアスカだったのか……オロチ共々破壊するとは、あの強さは20年前から変わっていないのか。だが、全く老けていないのはどういう訳だ?」と、首を傾げながらデスクに書類を置き、溜息を吐く。
そこへ彼の部下である研究員が現れる。
「すいません、お休みの所を……こちらの新兵器に関して意見を聞きたいのですが……」
「私の事は無視し給え。普段からいないのだから、現場の所長にでも聞き給えよ」
「いえ、折角いらしたのですから貴方のご意見を……」と、書類を申し訳なさそうにデスクに置く。
「……ったく」と、言いながらもヴァイリーは渡された書類を手に取り、一瞬で端から端まで目を通し、研究員へ突き返す。「つまらん。意外性も無ければ既存のアイデアに既にあるモノをくっつけただけじゃないか。所長なら許可するだろうが、こんなモノ、ここで研究する価値は無い」
「は、はい……!」と、研究員はお辞儀をしながら退室する。実はヴァイリーに書類を読んで貰い、感想を聞くのがここで働く研究員たちのある一定の目標でありステイタスであった。
「全く……さてさて、新型人造人間はどんな感じかな」再び部屋でひとりになったヴァイリーは新型の進捗状況の記された書類に目を通し、頬を緩める。
この新型は量産型ウィリアム、ゼオ、更にはガルオニアより持ち帰ったコピー人間技術を用いて更に強化させた珠玉の一体であった。
彼の目的は人類の進化であり、その為に呪術による最先端の研究を進めていた。知能や肉体、精神の向上が進化に繋がると信じ、それを促進させる為に呪術を用いて様々な研究を重ねていた。それにより、様々な研究の副産物が生まれ、それが魔王軍の呪術兵器として用いられるようになった。
「で、このタイミングで仕掛けてくるのはナイアか世界の影か……こちらはこちらで楽しみだ……」彼は彼で情報網があり、ある程度は自分に向けられた矛先の持ち主を知っており、この状況を楽しんでいた。
更に、これを機に彼は新型人造人間の起動実験の日程をあえて合わせ、最高の戦闘データを取るべく準備を進めていた。
「来るなら、ナイアか……やっと主犯に気が付いたんだ。どうくるかな……?」
時同じくしてバルバロン某所の森の中で、世界の影残党最後の生き残りたちが集結していた。その数、僅か13人。他の者らはワルベルトの放った刺客や黒勇隊に刈り取られていた。
「お前の事を信じるぞ……お前が最後の戦力だ……」世界の影のひとりがある者の前に膝まずく。
「思いは同じだ」その者は薄ら笑いを浮かべたブリザルドであった。
如何でしたか?
次回もお楽しみに
 




