137.破壊の杖争奪戦 一時撤退
いらっしゃいませ!
では、ごゆっくりどうぞ
「修理はどのぐらいかかりそうだ?」ニックの背後からラスティーが問いかける。
「万全を期すなら1週間だな。ダメージとエンジンへの負担がメーター以上に出ている」乗組員らの報告を全て纏めた書類を目にしながら口にし、忙しそうに手を動かしながら指示を与える。
「3日だとどうだ?」煙草を咥えながらスレイヤーフォートレスを見上げる。
「とりあえず飛べるが、乗り捨てる事になるな。帰りは小型輸送機か、貨物船だな」
「それは惜しいな……」ラスティーは困った様に唸り、腕を組む。
「……乗り捨てるつもりか?」ニックは目を疑い、首を傾げた。
「いつ機会が来るかわからないからな……もうすぐキャメロン達が引き上げてくる筈だから、輸送機の整備もやらなきゃな。デストロイヤーゴーレムの破壊作戦は輸送機とヴレイズらに頼もうと思っている」
「コイツの出番ってまさか……?」嫌な予感がしたのか、ニックは総司令官の次の言葉を予想しながら問うた。
「そう、囮に使うつもりだ」
「やっぱりな……万全でも乗り捨て覚悟だな、こりゃ」残念そうに呟き、書類の頁を捲りながら乗組員に指示をする。
「あと、ベンの力はなるべく借りるなよ? あいつは、デストロイヤーゴーレムの弱点を……」
「それは、俺が一番わかっている」と、ニックは目を鋭くさせた。
「流石、艦長」
バルバロン東部南海岸での激闘を繰り広げるヴレイズ達。相対する魔王軍の様子を見て、キャメロンは全軍に攻撃の手を緩めるよう指示する。
「どうやら、最初の作戦は上手くいったみたいね。退くぞ!!」彼女が高らかに指笛を鳴らしながら照明弾代わりの火炎弾を上空へ打ち上げる。すると、彼女の部下らは滑らかに輸送機へ乗り込みながら威嚇射撃を開始し、一機ずつ海岸から離れて行く。
「今日の戦いはここまでみたいだな……」拳の火を吹き消し、ヴレイズがソロモンの間合いから下がる。彼ら2人は今迄ずっと互角に打ち合い、血肉を削り合う戦いを繰り広げ、海岸沿いの形がまるっきり変わっていた。
「そうだな。また戦える日を、心待ちにしているぞ」巨体を荒い呼吸で揺らし、熱い湯気を発して蜃気楼で背後を歪めていた。
「敵って言うより、友達が出来たみたいだ……」血唾を飛ばし、折れた全身の骨を治癒しながら上空へ跳び上がるヴレイズ。「おい! ケビン! 帰るぞ!!」
「おっと、もう時間みたいだな。今度会った時はデートでもしようぜ?」互いに無傷なままケビンは一足飛びに上空を飛ぶ輸送機へ飛び移りながら投げキッスを残した。
「ちっ! 誰が!! ったく……こんなにやり難い戦いは初めてだわ!!」ウルスラは超不機嫌満々の顔で唸り散らす。ヴレイズが南海岸から離れて行くにつれて氷魔法が指先へと戻り、やけになって海岸線数百メートルを氷の大地へと変える。
「さ、我々も一先ず引き上げだ」全身に漲って破裂しそうな程に隆々とした筋肉を鎮静化させながらソロモンが口にする。
「ったく、勇者ごっこの連中を相手にするのも楽じゃないわね」2人が号令を発すると、魔王軍も流れる様に撤退を始めた。実際、彼らも攻め過ぎず引き過ぎずと命令を下されており、本気を出してはいなかった。
ロザリアは粉微塵になったデストロイヤー整備ドッグの真上で仁王立ちになり、地平線を睨み付けていた。何も言葉を発することなく、微動だにしなかった。ただ、彼女を中心に凄まじい殺気の嵐を吹き荒れさせ、港に残った魔王軍は何もできずにへたり込んでいた。
「スカーレット……」死んだと聞かされた彼女の事を想い、目を瞑る。そんな隙だらけな彼女を見ても、魔王軍の誰も彼女に襲い掛かる事が出来なかった。
しばらくすると、キャメロンの輸送機が港上空へ到着した。
「あの、ロザリアさん!! 退き上げです!」吹き上がる禍々しい殺気にビビりながらも声を掛ける隊員。
「……わかった」ロザリアは一足飛びに輸送機へ飛び乗る。
「あの、アリシアさんとスカーレットさんは?」
「スカーレットは……戦死した……」
ロザリアが重々しく口にすると、隊員らは口を結び、俯いた。彼女は黙祷する様にそのまま何も口にしなかった。
「……で、アリシアさんはどこに?」
アリシアはローズと2人で塔潜入作戦を練り、プランを何種類か考えていた。
「まず、あたしひとりで塔へ潜入し、ローリーとコンタクトをとる。彼女の中の闇呪術を解呪し、塔から連れ出す。その後はあんたが何とかしてくれるのよね?」
「そうね。潜入成功しても、見つかりながら慌ただしく出てきても、失敗しても、アタシのやる事は変わらないから楽だわ。あんたはどうする気?」
「勿論、静かに潜入するわ。警備は黒勇隊本部より少し厳しいぐらいで、猛獣のいる森よりは楽な潜入ね。問題は、人造人間2体。こいつに関しては、黒勇隊本部の資料でチラッと見たわ。弱点はうなじにある小さなツボで、ここを強烈に鋭打すれば3分間行動不能にできるとある。3分で蹴りをつけるわ」
「その弱点は1年前のモノで、改良されている可能性があるわ」ローズが指摘すると、アリシアは余裕の笑みで返した。
「その時はその時……外まで追って来たら、これを使う」と、ローワンから頂いた爆弾を見せる。それは対パワードスーツ、機械兵器用の試作品爆弾であった。
「なにそれ?」無属性爆弾とも違うそれを彼女は見た事が無く、目を丸くした。
「なんでも、輸送機だろうがエレメンタルガンだろうが強制停止できる代物だってさ。人造人間に試したことはないけど、効くってさ」アリシアはそう口にしながらその爆弾をローズに手渡した。
「あくまで潜入だからね。見つからない様に最善を尽くすわ」
「アタシもよ……初めての共闘だけど、頼んだわよ」
「それはこっちのセリフ」アリシアは目を尖らせて顔を背け、立ち上がり、アジトから外へ出た。
「この戦いで何を感じた?」帰りの輸送機内でヴレイズがケビンへ問いかける。炎の回復魔法で隊員たちの傷の手当てを施していた。
「気持ち悪い程に手を抜いていたな。お前らは楽しそうに戦っていたし、ウルスラはお前のお陰で戦いにくそうだったが、あまり前向きな殺気は感じなかったな」彼は傷こそ負っていなかったが、ウルスラとの戦いで衣服がボロボロになっており、お気に入りのロングコートを裁縫針で繕っていた。「この戦い、何か裏があるな……ウチの指令は気付いていると思うか?」
「ラスティーなら気付いているさ、きっとな。だが、一応報告はしておこう」
「指令、報告します」弱点の分析途中でベンジャミンがラスティーの前に現れる。
「頼む」皆が修理を進めるスレイヤーフォートレスを眺めながら頷く。
「とりあえず、今回の収穫でデストロイヤーゴーレムに出来る事、出来ない事を照らし合わせ、付け入る隙を5カ所発見しました」
「それは凄い! ……実用的なのは?」
「ひとつ、ですね。後方下腹部に副砲を発射した後の排熱口があって、そこから内部へ潜り込めます」
「成る程……そこから侵入し、内部のエンジン部分に攻撃を仕掛ければあるいは……どのぐらい強力な攻撃ならいける?」
「精密な機械の塊ですから、エレメンタルガンが一丁あれば、機能不全には出来ます!」
「よし……もう少し分析を進めてくれ。もっと何か気付く事があるはずだ、もうひと踏ん張り頼む!」
「はい!」と、ベンジャミンは気合の入った返事をし、踵を返した。
「さて……デストロイヤーゴーレム破壊まではシナリオ通りか? 魔王……だが、お前の思う通りのは行かないぜ?」と、ラスティーは新しい煙草を咥えて火を点け、楽しそうに煙を燻らせた。
如何でしたか?
次回もお楽しみに




