136.破壊の杖争奪戦 魔王の目的
いらっしゃいませ!
では、ごゆっくりどうぞ
デストロイヤーゴーレムの拳を受けたスレイヤーフォートレスは、あちこちから煙を吹きながらも高速で空を駆け、イモホップ国の港へ降り立った。まるで力尽きる様な音を立て、少し傾きながら着陸し、後部ハッチが開かれ、一番にニックが現れる。
「急いで修理を開始する! 弾薬、魔力エネルギーの補給を済ませるぞ! 休憩はその後だ!」と、手を叩きながらヘトヘトの乗組員たちへ激を飛ばす。
艦内ではベンジャミンが沢山のデータに囲まれながらデストロイヤーゴーレムの分析を開始していた。彼は行儀よく書類を並べたりはせず、床一面にデータをばら撒き、何か規則があるのかパズルの様に並べる。
それを見たラスティーは何も言わず、黙って煙草を吹かしながら診療室へ向かう。
「なに? またセラピー?」少しうんざりした様な声を出すマリオン。
「いや、ベンジャミンの仕事がひと段落ついたら、彼の話を聞いてやってくれ。彼もかなりギリギリだからな」
「ちょっと刺激が強いと思うけど、いいの?」と、胸元を強調して見せる。彼女は子供にとって見せるべきではない姿をしており、乗組員らの目のやり場を困らせていた。
「……自覚しているなら、エレンみたいに慎ましい格好を頼むよ」エレンは決して胸元を安易に覗かせる様な女性ではなかった。
「やだ」
「まぁ、俺は良いけど……いや、ほぼ全員いいんだが……彼にとっては、目に毒だとおもうから、せめて彼を前にした時ぐらいは……」
「いいじゃない。若いうちからいろんな経験を積ませれば……」と、妖しく微笑んで見せる。
「おい! あいつに妙な真似はするなよ?!」
「……アタイはそんなフシダラな女じゃない」
「お前、本当にやり辛いヤツだな!!」ラスティーは頭を押さえながら唸り、また煙草を咥え、診療室を出た。
時同じくしてファーストシティ手前の小さな町に討魔団の馬車が入る。そこにはローズの隠れ家があり、2人は隊員らとここで別れる。
隠れ家内に入ったアリシアは整えた装備を身体から外し、小さな木箱内へ入れる。
「塔へは丸腰でないと入れないからね。誘拐が成功して塔から出られたら、これを返し、アタシがバックアップするわ」と、木箱を受け取るローズ。彼女も討魔団の隊服からスーツに着替え、サングラスをかける。
「その恰好、仕事の時の母さんみたいなんだけど……まさか……?」と、訝し気な顔で覗き込む。
「正直に言うけどアタシ、ナイアさんとはまぁまぁ長い付き合いでね。尊敬しているし、信頼もしているわ」
「母さんを? へぇ……」と、更に訝し気な顔を歪め、鼻で笑う。
「へぇ、って何よ! バカにしたみたいな口の利き方して!!」
「バカにはしてないよ……なんだか信じられなくてさ。あたしの前では母さん、そんなに頼りになる人じゃなくてさ……」と、母ナイアとの日々を思い出す。殆ど一緒に暮らしたことは無かったが、数年に数日だけ帰ってきて家族として共に過ごした。その時の印象は、母ではあったが見た目も村人との会話もフシダラであり、少し恥ずかしい母親であった。外で聞く彼女の評判も珍妙な格好をするナイアの事ばかりで、アリシアは、いい気はしていなかった。
「そりゃ、あんたの前だからでしょ」
「そうかなぁ……で、塔の警備状況なんだけど……あの書類には警備員は2人だけとあったんだけど……その警備員ふたりは、ウィリアム04と05ってあるんだけど。一体何なの?」と、頭の中に記憶した中から疑問に思ったモノを問う。
「アタシもよく分からないけど、ヴァイリー・スカイクロウとウィルガルムが人造人間を共同開発したって噂を聞いたわ。その中でプロトタイプのゼオって奴があんたらに破壊されたって。知っているんじゃないの?」
「ロザリアさんが倒したってヤツか……相当強かったみたいだけど、それが2体か……」
「ま、見つからなきゃ問題ないでしょ?」と、ローズはブーツの中に小道具を仕込み、踵を鳴らす。
「簡単に言ってくれるわね……塔の警備システムとこの2人の警備員は何とかするとして、問題は目的のローリー……大人しく誘拐されてくれるかな?」
「そこはあんたの手腕にかかっているわね。ま、頑張って」
「他人事みたいに言わないでよ」アリシアが下唇を出して口にすると、ローズが目を尖らせる。
「他人事の訳ないでしょ?! あんたがしくじれば、アタシも終わりなんだからね! 終わる覚悟はあるけど、ここで終わる訳にはいかないの! あんたこそしくじらないでよ!!」と、じりじりと近づき、鼻先まで顔を近づける。
「はい……んっ!」と、アリシアの頭の中でシルベウスがまた喧しい声を響かせる。
「どうしたの?」表情の雰囲気の変わった彼女を見て少し離れる。
「ちょっと、ひとりにして……はいはい?」
「いつ私の肉体を戻してくれるの? 破壊の杖の防衛をリヴァイアにだけ任せているんだから、早くしてくれる?」頭を掻き毟るシルベウスの背後で零体のノインが喧しく口にする。
「そう急ぐな。きっと魔王には考えがある……私達の考えの裏を掻く何かをするつもりだ!」と、片手のメロンパンを食べながら口にする。鼻の下にはクリームを付けていたが、舐める余裕がないのかそのままだった。
「でも、早くしてくれないと、あの巨人が海底神殿へ到達する。あれをリヴァイアひとりで止められるとは思えない!」
「そう簡単に海底神殿へ来れるとは思えないが……破壊の杖の保管場所はもっと別の場所にすべきだったか?」シルベウスは椅子に踏ん反り返り、大ため息を吐く。
「ここには既に創造の珠が……冥界には『あのお方』がいて危険。次元の狭間に隠そうにも、破壊の力をあそこに隠すには危険すぎる」
「やはりアリシアらに頼るしかないな……お前もリヴァイアと交信しておけ!」と、彼はアリシアと交信を始める。
「はいはい?」アリシアの声が響き、安心する様に表情を緩めるシルベウス。
「その声、まだ余裕がありそうだな?」
「そうでもない。で、何の用?」少々うんざりした声色を隠しながら口にする。
「状況の報告を頼む」シルベウスの質問に対し、彼女はため息を押し殺しながら今迄の事を報告する。
「あんまり状況が変わっていないんだな……」呆れる様な声を出すと、アリシアはついに怒声を上げて唸った。
「こっちは必死で戦っているんだ!! 文句があるならあんたも手伝いに来なさいよ!!」
「そんなに怒るなよ……わかった、ミランダを手伝いに送るから、な?」
「え? ミランダさんが来るんですか?」彼女はシルベウスの付き人であるのと同時にアリシアの魔法基礎の先生であった。何故か頑なにゴッドブレスマウンテンを降りようとはせず、今でも彼の手伝いをしながら修行をしていた。
「そうだ。これで文句はないな? アリシア?」と、彼女との交信を終了し、ミランダの方へ向き直る。「って事で、頼むぞ」
「勝手に決めないで下さいよ!!」
今迄口を挟めずにもやもやしていたミランダは、突然の事に狼狽しながら怒鳴り、息を深く吐いて一気に落ち着く。「わかりました」
「非常事態だからな、頼むぞ」と、口にする間もなくミランダは神殿を高速で出て、風魔法に乗ってミッドオーシャン方面へ高速で飛行を開始した。
「で、ノインの方はどうだ? 海底神殿で進展は?」
「あまり変わっていないな……で、私の肉体をはやく!」と、ノインが急かすも、相変わらずシルベウスは考える様な表情で椅子に深々と座ったまま唸っていた。
「魔王、一体何を考えている?」
「早く創造の珠を使えよ……はやくはやくはやく!」魔王の居城にある仕事部屋で魔王はにやにやとした顔を覗かせながら手をコキコキと鳴らしていた。彼はバルバロン中に広げた闇を一点集中でゴッドブレスマウンテンまで伸ばし、シルベウスらの隙を影から窺っていた。
彼の目的とは、デストロイヤーゴーレムにノインの肉体を破壊させ、その肉体の再構築の為に取りだした創造の珠を強奪する事であった。彼の欲しいモノは創造の珠であり、破壊の杖はそのついでであり、ラスティーやクリス、世界の影の目を眩ますための餌に過ぎず、デストロイヤーゴーレムも囮に過ぎなかった。その事はウィルガルムや他の六魔道団らも承知していた。
「こいつが手に入れば、俺様の野望にまた一歩近づく……」
如何でしたか?
次回もお楽しみに




