130.破壊の杖争奪戦 アリシアへの依頼
いらっしゃいませ!
では、ごゆっくりどうぞ
黒勇隊の馬車に乗せられたアリシアは、しばらくローズに小突き回され、うんざりした顔を向けていた。
「いい加減、誰の命令であたしを捕まえたのか話してよ」
「捕まった奴が、偉そうね。まだよ、まだアタシのお楽しみ時間は終わってないわ!」と、人差指を向けてアリシアの額をグリグリとさせる。すると、隣の隊員が彼女に耳打ちをし、彼女は咳ばらいをして真面目な表情に戻る。
「で? どこへ向かっているの?」
「バルバロン首都、ファーストシティよ」ローズは隊員から渡された書類をアリシアに見せる。「あんたにやって欲しい事があってね」
「魔王暗殺、とか?」冗談を口にしながら見せられた書類に目を通し、表情を険しくさせる。「本当に?」
「そう。魔王の娘、ローリー・ワーグダウナーを拉致して欲しいの」
「スワートの姉……ダーククリスタル生成を任され、ファーストシティーの塔に幽閉されているとか?」知っていたのか、アリシアは滑らかに口にし、小首を傾げる。
「今、魔王を始めとして破壊の杖探索作戦やデストロイヤーゴーレムのバックアップ、西と東の守りに集中していて、塔の守備はいつもよりは手薄になっているの。その隙を突いて、あんたに彼女の拉致をお願いしたい」と、手にした書類を雷魔法で焼き払う。
「……なんで、あたしなの? 敵なのに」
「……アタシたち、黒勇隊の半数以上は魔王に反旗を翻す準備をしているの。でも、魔王の懐にいると、絶対に敵わない事を痛感させられる……それでも反抗し、散った仲間もいる。私たちは最高のタイミングで反乱し、魔王を討伐したいと考えているわ。その第一歩として、頼みたいの」
「貴方達で出来ないの? その、拉致作戦」アリシアは納得できない様に首を傾げる。
すると、ローズは手首のブレスレットを見せた。それは淡く光っていた。
「今、あたし達はこのブレスレットを付けているからこのバルバロンで魔王に感知されずに動けるの。でも、長時間付けていると、後に書く報告書に矛盾が生じるし、外せば……わかるでしょ? あんたは光使いだから感知されないの」
「成る程……まだ表立って反乱を起こす気はないって事ね……拉致が成功したとして、誰がやった事にするの?」
「討魔団の別動隊。別にいいでしょ? 因みにワルベルトとは話がついてるわ」
「あの人……で、誰の命令なの?」
「貴方の母親と、うちの総隊長、ゼルヴァルトよ」
「ゼルヴァルト!?」この名を聞いた瞬間、アリシアの髪と産毛が逆立ち、心音が早まる。ゼルヴァルトはアリシアの故郷であるピピス村を焼き払い、家族同然の村人たちを皆殺しにした張本人であった。彼女の頭の中では全て魔王のやらせた事だと片付けようと試み、この2年は黒勇隊への復讐心も無く平常心で彼らに接する事が出来た。が、それでもやはりゼルヴァルトを許したわけではなく、やはり彼を身近に感じた瞬間、復讐心が頭を出した。
「因みに、ナイアさんとゼルヴァルトさんは数十年前から協力関係にあるわ。ナイアさんもピピス村で起きた事や、あんたの身に降りかかった悲劇についても知っているし、その上で協力している。あんたも、魔王討伐を優先するなら、復讐心は……」と、ローズが淡々と口にしていると、周囲の隊員が怯えている事に気が付く。
アリシアは珍しく鼻息を荒くし、拘束している手足のバンドを千切らんばかりに力ませ、血を垂らしていた。極めつけに大型の猛獣すら怯ませる程の殺気を吹き上がらせ、頬を痙攣させていた。
「落ち着きなよ……あんたの潜入技術は前回の黒勇隊本部に潜入した時に実証済み。あんたならできるって、ナイアさんからのお墨付きもある。どう? やってくれる? 断るなら、ここで降ろしてもいいわ。でも、ローリーを……魔王の娘の拉致に成功すれば、この戦いを早く終わらせる事ができる」彼女の言う通り、ダーククリスタル生成可能の彼女がいなくなれば、ダーククリスタルは簡単に兵器運用出来なくなる。更に、今後予定されるクリスタル貯蔵庫襲撃や兵器工場破壊などを成功させれば、軍事力を更に減らす事が出来た。魔王軍の弱体化により、バルバロン国内で反乱の種火を大きくし、分裂させる事が黒勇隊の作戦でもあった。
「ひとつ聞きたい……この作戦、ローリーは知っているの?」
「彼女は知らないわ。彼女にも、スワートと同じ闇の呪術が施されている。それを解き、バルバロンの、魔王の闇が届かない場所まで運ぶまでが作戦よ」
「……それは厄介ね……」アリシアは冷静さを取り戻し、大きくため息を吐く。
「それに、貴方がファーストシティにいるって魔王に勘付かれてはダメよ。魔王はあんたを利用して何かを企んでいる」
「知っている。ねぇ、この作戦に参加する条件があるんだけど、いい?」
「なに? 報酬?」
「ゼルヴァルトに会わせて」
アリシアは殺気の籠った眼差しをローズに向け、獣の様に小さく唸る。
「……作戦が成功したら、いいわ」彼女は総隊長の実力を信頼しており、例えアリシアに襲われても殺される事は無いと全幅の信頼を置いている為、この望み承諾した。
「もうひとつ条件。あたしひとりでやらせて」
「それは最初からそのつもり」
「あっそ……この拘束、外してくれない?」
「妙な真似をしないなら、ね」と、ローズは隊員に命じて拘束バンドを切らせ、封魔の首輪も外す。アリシアは手首を摩り、一瞬で出血部位を治癒させる。
「装備とかは貸してくれるの?」
「そこは任せて。ワルベルトがとびっきりいいのを用意してくれたわ」
「それはよかった……ったく、結局あたしたちは、母さんの掌の上、ってことね……」
「しっかし、あっさりとアタシ達に捕まるなんて、地に落ちたわねぇ~~~~」と、ローズは思い出した様にまた口にし、憎たらしく笑って見せた。
「こいつ! まだ言うか?!」
ところ戻ってデストロイヤーゴーレム整備ドッグのある港。破壊活動は順調に進んでおり、ロザリアはメインであるドッグに近づきながら施設を豪快に斬り裂き、スカーレットは港に泊まる軍艦を内部から破壊していた。
そんな2人を放っておくまいと、スネイクスが大竜巻を作りながらロザリアの元へ、メラニーは巨大水流に乗ってスカーレットの元へ向かう。
「あんたがアスカね……かつて魔王様やウィルガルムと旅をし、覇王の腕を斬り飛ばしたと聞くが?」スネイクスは彼女の前にゆっくりと降りたち、挨拶にと両腕に纏ったカマイタチを飛ばす。
ロザリアは抜刀せず、闘気と気合のみでそれを掻き消し、魔剣王風を地面に突きたてる。
「お前が相手か」ロザリアは相手の話に耳を傾けず、静かに口にして殺気を放った。
「うわっ……やっぱメラニーにこっちと戦わせればよかった……」
メラニーは軍艦の甲板上で暴れるスカーレットを止める為、軍艦上で立てなくなるほど海を大きく揺らした。
「ん……!? やっと大物が出てきたか!」ひとしきり暴れ、いつもの調子を取り戻したスカーレットはメラニーに目を向け、張り切る様に稲光を上げる。
「あっちと違って随分小物ね……ボディヴァ家のお嬢さん。チョスコ国の方はいいのかしら? あっちでもそろそろ激戦が始まる頃じゃない?」
「!!? ……今は、自分の戦いに集中する!!」動揺は隠せないが、目の前の敵に集中しようと首を振り、大きく深呼吸をする。
「……ま、いいわ。とっとと片付けて、スネイクスを手伝わなきゃね」と、軍艦へ降り立つ。
すると次の瞬間、稲妻が如く高速でスカーレットが駆け、メラニーの頬に固めた拳をめり込ませる。そこから更に行きつく間もなく連撃を浴びせ、彼女を滅多打ちにする。甲板上に血が飛び散り、トドメの一撃でメラニーの顔面がすっ飛び、海へと落下する。
「油断している間に、一気に終わらせる! どうだ!」スカーレットは拳に付いた血を払い、一呼吸置く。
が、海中から大海流に乗ってメラニーが無傷で現れる。スカーレットには目もくれず、爪の様子を見てフッと息を吐く。
「言っておくけど私、今すっごく機嫌が悪いの。で、挨拶間もなくこの仕打ち……一気に終わらせようと思ったけどやーめた。必要以上に嬲って、海底のゴミにしてあげる」メラニーは淡く殺気を漏らし、やっとスカーレットに目を向けた。
「……私ならやれる……」スカーレットは自分に言い聞かせ、魔力を高めた。
如何でしたか?
次回もお楽しみに




