127.破壊の杖争奪戦 武人きたる
いらっしゃいませ!
では、ごゆっくりどうぞ
ヴィントスは外伝に出たキャラクターです、外伝もどうぞ~
ヴィントスは馬の脇腹を軽く蹴って合図をする。同時に彼の大地魔法が脚から愛馬の身体全体を巡り、前脚に集中する。次の一歩の蹄の一撃で大地に巨大な階段の様な坂が出来上がり、そのまま疾風の様に駆け上がる。
「なに、あのわざ……」キャメロンは見た事も無い大地魔法を目にし、ポカンと口を開いた。彼女の知る大地魔法は精々激しく揺らすか、地割れを作る程度であった。
「ヴィントスさんの軽い挨拶、ですよ」エルは相手の戦闘方法を懐かしむ様に呟き、盾を構える。
ヴィントスはそのまま坂を登り切り、そのまま馬に飛ぶように命じて天高く跳ぶ。大空高く大槍を掲げ、彼は手心無しに大声で吠えながらエルへ向かって急降下した。
「うっそ……アレが軽い挨拶?!」キャメロンは鼻水を垂らし、尻ごみをする。
「あの人らしいな……」エルは微笑み、足を踏み込んで気合を入れ、急降下してくる相手に集中する。
次の瞬間、ヴィントスの一撃がエルたちのいる場に激震を起こし、大爆発した様な砂埃を上げ、大地が裂けて破片が飛び散る。周囲で戦っていた魔王軍兵と討魔軍兵らは怯んでその場に集中し、砂埃の向こう側の影に集中する。
砂埃が晴れると、そこには大地に大槍を突き立て、軽々と引き抜くヴィントスの姿があった。巨馬は鬱陶しそうに首を振るって唸り、彼は宥める様に項を撫でた。その足元にはギリギリ踏ん張りちびる寸前になっていたキャメロンと、僅かに後退して彼の一撃を躱したエルの姿があった。
「派手で大きな音を出す攻撃はただの脅しで、その内容は至って単純……そう教えてくれましたね、ヴィントスさん」震える膝を我慢しながらエルが口にする。
「実戦でそれだけ口が効ければ上等だ、エル・スラスト。元気そうで何より」ヴィントスは穏やかな口調で手綱を引き、彼の周りをゆっくりと歩かせる。「黒勇隊を抜け、討魔団に入ったか……何故だ?」
「……俺は……父さんの仇を討つ為に黒勇隊へ入り、懐に入り込んで魔王を討つつもりでした……でも、俺の歩む道は討魔団へ向かいました。それに、導いてくれた人たちが俺を変えてくれました」
「変えた?」片眉を上げ、大槍を握る腕を唸らせる。
「ナイアさんが導き、キャメロンさんに鍛えられ、ヴレイズさん達と実戦を潜り、そしてアリシアさんに磨かれ、今の俺がいます。未熟ですが……今の俺をどう見ますか? ヴィントスさん!!」と、エルはまた全身の魔力を漲らせ、構える。今の彼は以前の頼りない光使いなどではなく、十分この戦いに通用する戦力をもった光の戦士であった。
「中々に険しい道を歩んだ、と……どれ!」ヴィントスがひと睨みした瞬間、怪物の様な殺気が解き放たれ、エルに襲い掛かる。それはロザリアが放つ突風の様な殺気と似ており、実戦でコレを当てられた者は数秒間怯み、その間に真っ二つにされていた。
エルの脳裏には真っ二つにされた自分の姿が映し出され、身体に力が入らなくなり、膝が抜ける。
そんな彼を察したキャメロンが彼の後頭部を強く引っ叩く。
「しっかりしなさい!! この半人前!!」彼女は一瞬でエルを引き戻す。キャメロン自身はこう言った戦場の殺気に耐性があるため、通用しなかった。
「ほぅ、今のを浴びて平気とは……お前がアリシアか?」
「いいえ。この隊の隊長のキャメロンっていいます。むかぁし、あんたと戦った事があるんだけど、覚えているかな?」得意げに笑みを覗かせるキャメロン。実際はそこまで誇れる戦いではなかったが、この武人を相手にどう戦うか考える時間を稼ぐために敢えて口にする。
「……何年前か、仕損じた兵がいた……ゴルソニア反乱軍の傭兵だったか? 誰かは知らないがお前だったか。もしくは4年前のアメロスタ反乱軍か?」顎髭を撫でながら思い出す様に口にするヴィントス。彼は戦いの中で斬り捨てた戦士、傭兵の人数や素性などを調べ上げ、戦いで出た死傷者と照らし合わせていた為、キャメロンの事も僅かながら覚えていた。
「う……マジで覚えていたとは……ははは」キャメロンは悪さを見つかった子供の様に背筋を冷やし、乾いた笑いを漏らす。
「拙者の仕損じた者がエルをここまで鍛えた、か……人生何があるか、わからんもんだ」と、大槍を頭上で回転させ、その場で突風を巻き起こす。「久々の再開だ。2人とも、遠慮なくくるがいい!」
「やる気満々かぁ……でも、あたしもこいつも、あんたの知っている頃よりは腕を上げている筈……舐めるなよ!」
「はい、いきましょう、キャメロンさん!!」と、エルも再び気合を入れて構え、大地に足を踏みしめる。
それと同時にキャメロンは炎の翼を生やしてエルの肩を蹴って上空へと跳び上がり、お得意の火炎弾を連射する。彼女の放つそれは鋭く、着弾と同時に突き刺さって骨まで焼く代物であった。エルは盾を構えながらもう片腕で鋭い閃光を放ち、ヴィントスの目を潰しにかかる。彼の放つ光はただの目晦ましではなく、瞳を通じて脳へ突き刺さる程に強烈な光であった。
その同時攻撃に対し、ヴィントスは一瞬だけ顔を背けて光を避け、大槍の一振りで火炎弾を掻き消す。
すると、掻き消された火炎弾の中の一発が彼の放った突風に触れた瞬間、勢いよく爆発して彼の視界を塞いだ。その爆炎を掻い潜ったエルは勢いよく跳び上がって馬の頭を踏み台にして更に跳び上がり、ヴィントスの顔面目掛けて拳を振るった。
「ぐぼぉぇあ!!!」拳が届く数ミリの所で止まる。エルの腹にはヴィントスの巨大な拳が深々と突き刺さっていた。腹部を守るプレートはパラパラと砕けその向こう側にある合金もひしゃげていた。その衝撃はエルの全身に響き、内臓がパニック状態に陥る。
「子供だましは通じない」
「ごぷっ……どう……かな?」エルは吐血しながらもニヤリと笑うと同時に拳から先ほどよりも数段強い閃光を放つ。それは周囲の兵たちの目を潰して身体を丸めさせた。ヴィントスの目にも光は入り込む。
が、彼は身体を丸めるどころか瞬きもせず「んむぅ?」とだけ呻いただけであった。
光が炸裂すると同時にキャメロンがエルを抱き上げて一足飛びに間合いを取る。
「効いた……の?」微動だにしないヴィントスを見て冷や汗を掻くキャメロン。
「その筈ですが……?」
ヴィントスは軽く瞼を擦り、首を振るい、太陽の方を見る。
「……凄いな、チラリとも光を感じない。これは失明したな、初めての経験だ。ただの光をここまで磨き上げたか……」と、彼は音、気配、匂いを頼りにキャメロンとエルの方へ顔を向ける。「いいハンデだ」
「見えているんじゃないの?」
「ここからですよ、この人の戦いは……」殴られた腹を押さえながらヨロヨロと立ち上がり、血混じりの嘔吐をする。
それを合図に馬が駆けだし、ヴィントスが大槍を振るう。その勢いで地面の砂や礫が舞い上がり、弾丸の様に2人を襲う。馬の一歩一歩が激く轟き、戦場を地震の様に揺るがす。
キャメロンはエルを抱いたまま炎の翼を生やして再び空へ舞い上がる。今度はエルが彼女の肩を蹴って更に高く跳び、盾を構える。その間に彼女は再び鋭い火炎弾を無数に降らせた。
ヴィントスは大槍を大回転させて火炎弾を掻き消し、急降下してくる気配へ向かって突きを放つ。が、その気配はキャメロンが作り出した火炎分身であり、虚しく炎を切り裂いた。
「目は見えずとも、子供だましは見えるぞ!!」と、本命と覆われるエルの盾に乗せた一撃に向かって再び大槍を突き出す。その刃先はこの大槍の名『無鉄』の通りに盾を紙の様に突き破る。
が、その先にエルはいなかった。その手応えに気付き、ヴィントスは彼の気配を探る。
「気配を殺したか?」と、槍先に刺さった盾を抜き捨て、耳を澄ませながら構える。彼の耳には戦場の喧騒、馬の唸り声、そして心音が聞こえた。
そんな彼の遥か上空には、キャメロンに連れらたエルが拳引いてか、その彼の上で彼女が無言で火炎爆発を炸裂させる。その勢いに乗ってエルがヴィントス目掛けて急降下した。その速度は凄まじく、大槍が彼を捉えるよりも先にヴィントスの頬を捉えた。
「ぬぐがっ!!」その拳はヴィントスの頬骨を砕く程であったが、エルの拳も砕けていた。そのままヴィントスは空いた左腕でエルを殴り飛ばそうと構えたが、次の瞬間、キャメロンの足先が左胸に命中していた。「んなにぃ!!」その一撃は彼の胸当てを凹ませ、鎖骨に皹を入れた。
キャメロンは急ぎエルを抱えて再び一足飛びで彼の間合いから退いたが、ヴィントスの大槍が2人の隣を掠める。彼はただでは退かせぬと自慢の得物を投げたのだった。
「ごぷっ!!」その鋭い刃がキャメロンの脇腹を掠める。ただ掠めただけだったが、脇腹の半分が斬り裂かれ、腸が傷口から覗き出る。これ以上飛び出ない様に押さえ、その場に腰を下ろす。
「キャメロンさん!!」
「エル……ここからは、2人で語り合ってくれるかな?」彼女ら2人の前では、下馬しながら右腕を唸らせるように回すヴィントスの姿があった。
「……成長したな、エル……」彼は嬉しそうに呟き、一歩前に出た。
如何でしたか?
次回もお楽しみに
 




