122.破壊の杖争奪戦 神殺し砲
いらっしゃいませ!
では、ごゆっくりどうぞ
ノインはしつこくしがみ付いてくるデストロイヤーゴーレムを振りほどこうと、幾度も腹部へ向かってボディーブローを放った。その度に機体から火花と煙が上がり、仕舞には魔力エネルギーと思しき青白い炎まで吹き上がる。
「ぐっ……まだだ」操縦者のウィルガルムは画質の悪くなるメインカメラを睨みながら最高のタイミングを待ちながら、デストロイヤーゴーレムの切り札を放つボタンに指を掛ける。
その間にノインは身体全身に魔力とは違う眩い光のエネルギーを溜め、機体へ向かって放った。この衝撃波にデストロイヤーゴーレムは拘束した手を離しそうになったが、それでもしつこく肩を掴み続ける。
「これでも離さないか……」と、もう一度衝撃波を放ち、機体の内部を激しくシェイクする。それでもデストロイヤーゴーレムは手を離さなかった。
ウィルガルムはこうなる事を全て計算してこの機体を設計したため、肩から腕部にかけての力は粘り強く、たとえ未知の力が加わっても簡単には機能不全を起こさない様になっていた。
「よし、いくぞ!!」と、貴重な生身である左手の指で赤いボタンを押す。すると、また別のボタンが赤々と点灯し始める。
すると、しつこく殴られていた腹部のハッチが滑らかに開き、複雑な機構をもった砲台が現れる。それは5本の無属性砲が合わさった強大なアンチエレメンタルフュージョンカノンであった。その名も神殺し砲と彼は名付けていた。
「また性懲りもなく無属性か……効かんと言っているだろうが!!」ノインは苛立った様に怒鳴り、眼を青白く光らせ、先程の眩い光を口内へと収束させる。
「いけぇ!! 神殺し砲、発射ぁぁぁぁぁ!!!」
点灯したボタンを勢いよく押した瞬間、5つの砲台の紫光が瞬き、エネルギーが一つに収束する。その無属性は爆発的に膨張し、その場の海全体が紫色の光で覆われる。
「このエネルギーは?!」見た事がないのか、ノインは口内のエネルギー波を忘れて目を剥いて狼狽する。
次の瞬間、ノインの腹部へお返しと言わんばかりに神殺し砲の無属性波が放たれ、今迄ぶつけていたモノとは違う手応えの激音が鳴り響く。その衝撃で海は揺れて津波が激しく起こり、大海壁に当たってはまた新しい津波が起こり、その場は地獄の様に激しい災害に見舞われた。空は神殺し砲の衝撃波で破れた様に皹が入り、異次元にまでその激震が轟く。
ノインの肉体にも皹が入り、紫光に侵食され、腹部からバラバラと崩れていく。
「そんな、そんな馬鹿な!!」信じられないのか、更にノインは目を剥いて両手を凝視し、崩れつつある現実を受け止められずにいた。
「このまま破壊してやる、神聖存在め!!」と、押したボタンを更に強く押す。すると、神殺し砲は更に勢いを増し、アンチエレメンタルの奔流が撃ち出され、一気にノインの肉体を内側から崩壊させていく。
「ぐ、ぐぉあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」
ノインの方向と共にひび割れた肉体は爆散し、紫光と共に消え去る。そのまま神殺し砲は大海壁を突き破って遥か彼方まで飛んでいく。その衝撃で海は深く割れ、空は雲ひとつ残さず消し飛ばし、青空すらも皹を入れる。
その数瞬後、神殺し砲はエネルギーを放つのを止め、火炎の様なエネルギーの紫炎が噴き出る。デストロイヤーゴーレムはそこでやっと弱音を吐くように体勢を崩して黒煙を節々から吹きださせた。
「やった……やったぞ!! 神殺し砲が、神を殺したぁぁぁぁぁぁぁ!!!」
ウィルガルムは瞳に涙を薄らと浮かべ、左腕を高々に掲げた。
「おい嘘だろ!!! そんな馬鹿なぁぁぁ!!!」ゴッドブレスマウンテンの宮殿から特別な球体を通して観察していたシルベウスが目をひん剥いて仰天していた。
「シルベウス様! おち、おち、おちぃぃぃぃぃ!!!」『落ち着いてください』の言葉も出ない従者のミランダは腰を抜かして半べそを掻く。彼女は、神聖存在である彼らの存在そのものは絶対的なモノだと信じていた為、ショックは誰よりも大きかった。
「あいつら……破壊神の力に匹敵する技術を手にしやがったのか……ノインめ最初から本気を出せば!!」と、メロンパンを握り潰した後の手で頭を掻き毟る。
すると、背後の鏡から何者かの顔が映し出される。この鏡は別の場所にいる神聖存在と通信できる装置であった。
「シルベウス……そっちで何が起きているんだい?!」その者は冥界の監視者であるヘリウスであった。彼も大海で起きた異変と激震を感じ取っていた。
「ノインがやられた……」クリームでぐちゃぐちゃになった頭のまま真顔で彼に向き直る。
「ノインが?! 僕たち神聖存在がやられるのって……いつ以来だ?!」
「7回目の世界で俺が魔王に不覚をとって以来か……だが、あの時も肉体を完全破壊されたわけじゃないからなぁ……」
「本当……不覚だった……」
いつの間にかシルベウスの背後には霊体となったノインがふわりと現れ、弱った様に頭を掻いていた。
「ノイン……本当だよぉ……」シルベウスは大きくため息を吐き、ノインを呆れた様に見た。
「だったらお前も加勢に来いよ!! 天空の監視者だろ!! 地上の半分以上はお前の監視下だろ!!」ノインは鼻息荒く彼に詰め寄った。
「あんなのを相手に神聖存在が2人がかりは恰好悪すぎるだろうが!!」
「恰好良い悪いの問題かぁ!!?」と、2人はしばらく怒鳴り合い、唸った。
「霊体でも元気そうだね、ノイン……」表情を強張らせながら苦笑するヘリウス。
「こんな風になるのは何世界ぶりかしらね? いや、前例が無いわ」と、ノインは普段の姿である女体へ戻る。
「くそぉ……魔王にここまでいい様にされるとは……使いへ連絡だ!」と、シルベウスは光の神通力をアリシアの元へ飛ばした。
アリシアがスレイヤーフォートレス内で作戦に穴が無いかチェックしていると、突如頭痛にも似た異変に気が付き、異変の元を光魔法でキャッチする。
「もしもしもしもしぃ!!!!」彼女の脳内でシルベウスの大声が響く。
「うるさいなぁ!! 小声でも十分聞こえるのに!!」アリシアは頭を押さえながら怒鳴り、デッキと隅へと向かってしゃがみ込む。彼女の様子を見たラスティーは何かを察した様に笑い、目をミッドオーシャンの海図へ戻した。
「いいか、よく聞け、アリシア……大海の監視者、ノインが倒された……うっせぇな! 倒されたのは事実だろうがぁ!!」横からノインから『私は負けていない』と口を挟まれたシルベウスは未だに落ち着かずに声を荒げる。
「シルベウス様、落ち着いて……って何ぃ!? ノイン様が?」
「あぁ……魔王軍の新兵器にな……やはり魔王軍の中に異世界者がいるな……あんな代物は、この世界で出来上がるには早すぎる」と、ミランダから手渡されたメロンパンを齧り、一息つく。
「この事実って、あたしの仲間に伝えていいんですか?」アリシアは冷静に問いかける。
「いや、それはダメだ。我々、神聖存在は下界とは不干渉だ。もうじき海が荒れるだろうが……何とか誤魔化してくれ」
「わかりました……監視者ってのも辛いですねぇ」シルベウスらの過去と苦労話を聞いていた彼女は渋い顔を覗かせた。
「あぁ……しかし参った……海底神殿は一応、ノインの使者が守っているが、いつまで持つか……そっちはどうなんだ?」
「こっちは任せて下さいよ。うちの司令官、凄いんで」と、アリシアは笑みながらシルベウスとの交信を切り、溜息を吐く。すると背後から気配と煙の香りを感じ取り、振り向く。
「総司令、な? そこは大事にしてくれ」ラスティーはしたり顔で彼女の顔を覗き込み、今迄何を話し合っていたのか問おうと舌なめずりをしていた。
「あ、あははははははは……ラスティー……話せることと話せない事があるんだけど……」
「知っているのと知らないので、天地の差があるのはアリシアも知っているよな? 総司令である俺を信じられるだけの情報をくれないか?」と、鼻先まで顔を近づける。
「参ったよ……あたしらのすんごい総司令だもんね」アリシアは首を振りながら口にし、シルベウスに口止めされていた情報まで洗いざらい話した。
如何でしたか?
次回もお楽しみに




