121.破壊の杖争奪戦 大海の力
いらっしゃいませ!
では、ごゆっくりどうぞ
デストロイヤーゴーレムが出撃する数分前。ラスティーは疾風団頭領のジーンから直接情報を受け取り、出撃の号令を発する。
イモホップ砂漠のオアシスから空中戦艦スレイヤーフォートレスは待っていた様に発信準備が進められる。そこから更にヴレイズ、ケビン、キャメロンたちを兵員輸送機が飛び立つ。
そんな彼らを尻目に、ラスティーは物言わぬまま作戦司令室の卓上にあるバルバロン本土地図を睨んでいた。
そんな重たい空気の立ち込める部屋へエレン改めマリオンが入室する。
「発進するってさ。顔を見せなくていいの?」と、小首を傾げる。彼女の見せる目はエレンの優し気な瞳とは違い、少し厳しい尖った眼をしていた。
「あぁ、今、向かう」と、重たそうに腰を上げる。
「……ヴレイズには挨拶をしたの?」歩く彼の横に並び、問いかけるマリオン。
「急だったからな。号令を発して直ぐに行かせた。なぁに、あいつなら大丈夫だ」
「そうね。あのヒールウォーターがどこまで役に立つか……」彼女の言うヒールウォーターは、ヴレイズやアリシアと共同開発した精神安定と体力回復作用のある特別製の代物であった。
「キャメロンの隊の中にも魔法医クラスの水、風使いはいる。大丈夫だ。それから……」と、言いにくそうにラスティーが言葉を区切る。
「何?」彼の問いを予想した様な返事をする。
「エレンは、いつ戻るんだ? あまり催促はしたくないが……」
「気になる? 彼女の精神疲労は相当なモノ。いつ完治するかはアタイにもわからない。その間は不服だろうけど、アタイで我慢しな」と、目つきの悪い目で睨み付ける。
「わかった。この艦の船医は頼んだぞ」ラスティーはデッキへと向かった。
「へいへい。オタクも折れるなよ?」と、マリオンは苦笑しながら艦内医務室へと戻る。
その途中、アリシアが彼女の肩を叩いた。
「ちょっといい? 貴女はエレンの記憶があるのよね?」
「まぁ、だいたいは」
「あたしが渡した例の物について、覚えてる? 今、持ってる?」と、不安そうに問う。
「あぁ、これね」と、腰に下げたポーチの中から宝石を取り出す。この宝石は眩い光が閉じ込められ、ゆらゆらと光が揺れていた。「あんたらとの旅の記憶が閉じ込められているんだっけ?」
「そうそれ! よかった……」
「で、これがなに?」マリオンは自分の仕事を片手間に問うた。
「それ……もしこの戦いであたしが、いなくなったりしたら……それを壊して欲しいんだよね」と、むず痒そうに口にする。
「これを? エレンに断りなしにいいの? 大切な旅の記憶なんでしょ?」と、宝石の中を覗き込みながら問う。「てか、いなくなるってどういう意味よ」
「……この戦いは何が起こるかわからない。多分、魔王はあたしを放っては置かないと思う。殺されるか、闇に取り込まれるか……今のあたしでは多分手も足も出ないと思う。でも、今、あたしが皆の前からいなくなるわけにはいかないの。だから、保険としてそれを用意したの」と、宝石を指さす、
「ふぅん……何か手品が仕込んであるってワケ?」
「まぁ、そういう事。頼んだよ、マリオン」と、医務室から出ようとするアリシア。
そんな彼女の手を、マリオンはガシッと掴む。
「簡単に自分を投げ出す様な真似は、許さないよ。アリシア」
今度は温かみの籠った目を向けるマリオン。言葉も厳しい響きであったが、どこかエレンの言葉の様な優しさも籠っていた。
「わかってる……簡単には、ね」アリシアもその目に応え、頷いた。「でも、マリオン。その服装は勘弁してくれないかな?」と、胸元のばっくりと空いた服装を指さす。
「やぁだ」マリオンはプイっと顔を背けて仕事へと戻った。
ところ戻ってミッドオーシャン。デストロイヤーゴーレムはノインと、六魔道団の2人はリヴァイアとの戦闘の真っただ中であった。
「く……2人がかりでも押し切れないか!!」歯痒そうにスネイクスが後退する。彼女は大水流の連撃や弾丸の様な飛沫を防ぎ、何とか自分の起こす大嵐で圧倒しようとするも、巨大な渦潮で逆に圧倒され、ズタボロにされていた。回復魔法でなんとか傷と体力は回復していたが、精神的疲弊で弱っていた。
「あんた1人だったら、ひとたまりもないでしょうね。海上で水の賢者と戦うってだけでどんな実力者でも自殺行為よ」メラニーは強がるように口にしたが、リヴァイアとの実力差を見せ付けられ、彼女も参っていた。
打って変わってリヴァイアは海中の中で座禅を組み、2人を押さえつけながらもノインの方へ注意を配っていた。やろうと思えば2人を海の藻屑にする事も可能ではあった。が、2人は腐っても、バルバロン国内の地域を治める実力者であったため、一応は生かしていた。
「……ノイン様」リヴァイアは海中からデストロイヤーゴーレムへ探りを入れていたが、自分の水魔法を弾かれ、歯痒く思っていた。
「ぐっく……やっぱウルスラも連れてきた方がよかったんじゃない? 海上を凍らせれば、ここまでリヴァイアのいい様にはならなかったでしょ?」スネイクスはうんざりした様に口にしながら大水流攻撃を風魔法でいなす。
「そんな事をしたらデストロイヤーゴーレムの航行の邪魔になるでしょうが! だから本土防衛に回ったのよ!!」
「そうだよねぇ……でも、あいつがいればなぁ……と思って」
「まぁ、その点は同意するよ。ったく、こうなったら!!」と、メラニーはリヴァイアを相手にインファイトを仕掛けようと海中へと勢いよく突入する。
「あぁ!! あんたがいないと私が海上の集中攻撃にさらされるでしょうが!! バカぁぁぁぁぁぁぁ!!!」と、彼女が思った通り、メラニーの方の水魔法弾幕が一気にスネイクスへと襲い掛かった。
メラニーは海中で座禅を組むリヴァイアを見つけ出し、高速に乗った鋭い拳を振るう。
が、リヴァイアは彼女へ目も顔も向けず、その腕を掴んで止める。
「折角、直接手を出さないでおいたのに。愚か者が!!」と、殴る手を見せない程の高速乱撃を放ち、メラニーの海中が真っ赤な血で染まる。
「っち……ちくしょうがぁ!!」と、急速で回復をさせながら海流を操り、リヴァイアへ襲わせる。
が、そんな技が通じるはずもなく、彼女はお返しと言わんばかりに大渦潮に水圧カッターを織り交ぜた代物をメラニーの周りに発生させる。
「ぐっ! こんなもの!!」と、自分の水魔法で止めようとするも、実力差がそのまま出る形となり、彼女は渦潮の中へ飲まれてしまう。しばらくすると海上がまさに血の海へと変わり、回復仕切れないまま半死半生となったメラニーがぷかりと浮かび上がる。手足はズタズタに引き裂かれ、腸が飛び出てほぼ死体の様になっていた。
彼女の身体を見つけたスネイクスが水魔法弾幕を掻い潜って助け出し、風の回復魔法で包み込む。
「ったく、無茶して!! 悔しいけど、ここは退くよ!!」と、物言わぬメラニーを背負ってスネイクスは海上護衛の軍艦へと向かって飛び去った。
「ったく、やっと退いたか。さて、こちらは……」と、彼女は再びデストロイヤーゴーレムとノインの戦う海原の壁の向こう側へと意識を向けた。
デストロイヤーゴーレムは口からアンチエレメンタルの破壊光線をノイン目掛けて放つ。その紫光の光線はノインの胸板に直撃したが、バチバチと言う激音が鳴り響き、周囲に凄まじい衝撃波が放たれ、大海原が大いに荒れ狂う。
「効かない、か……」ウィルガルムは額に一筋の汗を流し、声を震わせる。
「さっきよりも出力を上げたアンチエレメンタルか……この属性を人間がこうも器用に扱うとは思わなかったが……我々神聖存在には効かない。無駄な事はやめるんだ。その豪華な玩具を持ってとっとと帰るんだな。今帰れば、私も大人しく戻ろう。お前たちが人間同士で何をしようと、我々は手を出さない決まりなのでな。だが、神器に手を出すなら……わかるな?」ノインは片眉を上げ、余裕の笑みを作る。
「ここまでは計算通りだ。さて、ノインに本気を出される前に、やらせて貰うぞ!」と、ウィルガルムはコンソールを器用に叩き、デストロイヤーゴーレムの腕を前方へと突き出す。
「何をする気だ?」と、様子を見る様に構える。
デストロイヤーゴーレムは勢いよく前に出てノインに掴みかかり、両肩を掴む。
ノインは黙っているはずもなく、デストロイヤーゴーレムの腹部に拳を叩き込む。機体は激しく揺れ、つなぎ目からは小さく火花と蒸気が上がる。
「ぐ! 流石にキツイな……だが、お前なら持つはずだ!!」と、ウィルガルムは操縦桿を強く握りしめ、血走った目でモニターを睨み付ける。
「仕方ない。このまま破壊させて貰うぞ! 勿体ないがな」と、ノインはもう一発拳を腹部へめり込ませ、轟音を鳴り響かせた。
如何でしたか?
次回もお楽しみに
 




